陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
第十一話 陰の立役者は傍から見ると胡散臭い
シドがアレクシア王女によって斬り伏せられ、今頃血まみれのままでケロッとしているであろう頃。
俺はアレクシア王女に連れられて、学園にわざわざ来て下さっているアイリス王女の話を聞きに行っていた。
「そう言えば、アレクシア王女はアイリス王女からどの様な組織を結成するのか聞いていますか?」
「まだ詳しくは聞いていないわ」
「そうですか」
暇だから聞いてみたけど俺はアレクシア王女とは余り接点が無い。
一応入学前から顔は知っていたから挨拶はしに行ったけどアレクシア王女は全く俺の事は覚えていなかった。
当たり前だけどアレクシア王女は王族で挨拶しに来る奴なんて大勢いるだろからな、お互いに五歳以下の時に社交界で少し話をしただけの存在何て覚えている訳ない。
だからか知らないけど会話が余り続かない。
少しでも事前にどんな組織を結成するのか情報を集めておこうとしたんだけどな。
俺はアレクシア王女の少し斜め後ろを黙って付いて行く。
暫くお互いに無言のまま進んでアイリス王女の待つ部屋の前まで来たのだが。
「あなたがポチ……じゃなかったシドのアリバイを集めてくれたんだっけ?」
アレクシア王女は立ち止まってこちらに振り返ってから聞いてきた。
「まあ、そうですね。数少ない友人ですし、助けようとするのは当然かと」
「遅くなったけど、ありがとう」
「友人の為ですから、気にしないでください」
友人でもあるけど、一応所属している組織のボスだからなアイツ。
下に就く者の一人として助けるのは当然だし、何よりも組織のNo.2として動かないと下に示しがつかない。
「話は変わるけど。私、結構人を見る目があると思ってるの」
「それは凄いですね」
「欠点でその人を判断するようにしてるのだけれど、ゼノンはまるで欠点が無かった」
「そしたら案の定ヤバいクソ野郎だった訳ですね」
ゼノンが怪しいと前から思っていたのか、それは凄いな。
あんな最後だったが奴は教団の中でも地位はそれなりにあった。
つまり全く疑われる様な事はしていなかったはずだ。
それを見破る所まではいかなかったとは言え、疑う事が出来ただけでも十分凄い事だ。
「そう、それに対してポチは分かりやすい」
「それは確かに思いますね。アイツは欠点だらけだ、でもそこが面白い所でもあると思いますよ」
「ここからが本題なのだけれど、今からアイリス姉さまに会うけど……
「……」
おやおや。何だか急に雲行きが怪しくなってきたぞ?
急に、しかもこれから重要な事があるという時にこういう事を言われると普通に焦る。
話とか言って俺がジョーカーだとバレているから即刻死刑みたいな感じだったりするのか?
まさか、あの地下でボロとか出てなかったよな? いや、無いはずだ。
途中までゼータも居たし、剣とか使わなかったから戦い方で推測される事も無いはずだ。
「聞いた話によると貴方たった一日でポチのアリバイを一人で集めたそうじゃない」
「シドの命が掛かってましたからね。頑張っただけですよ。それに自分はこれでも財団の代表ですし、それなりの伝手はありますよ」
「主犯のゼノンが率いていたとは言え、騎士団が調査して出てこなかった情報を一人で入手したんでしょ?」
「もしかしなくても怪しまれてます?」
「あの『ディアボロス教団』とか言う組織が事前に準備していたはずなのに、どうして一応特待生かつ財団の代表とは言え普通の生徒が、たった一日で姉さまを動かせる程の情報を集められるのかしら。確かにアイリス姉さまは余り机仕事は得意じゃないけれどそれでもおかしいと思わない?」
ふむ、困った。姉のアイリス王女と違って妹のアレクシア王女は意外と頭が回る様だ。
至極当然の疑いをかけられている。正直反論の余地も無いと思う。
あの時は結構ムカついていたから適当にゴリ押しでやったのがいけなかったか。
「不思議ね。私から見ると貴方はゼノンと同じタイプに見えるわ」
「それは流石に心外ですよ、アレクシア王女」
「友好関係以外は欠点の見当たらない優等生で通っているし、今回の件で表には出ていないけど実績もある。おかしいわねゼノンにそっくりじゃない、今の貴方の状況。私から見るとそう見えるわよ」
「まさか、自分にも欠点はありますよ」
「そうね、そう言えば少し前までは
「ゴフッ」
「あら、ごめんなさい。気にしていたのね」
まさかまだ例の件を覚えてる人物が居るとは思わなかった。
しかも何かあった時に優秀な生徒の方が動きやすいと思って、周りからの評価の調整をしながら学生生活を送って来たけど、まさかそれが逆効果になるとはな。
まさか欠点で人を判断する様な捻くれた人物が、この世に居るとは思っていなかった。
しかも精度がかなり高いと来た。……予定が狂うな。最近は予定通りにいかない事が多い。
「もし仮に自分がゼノンと同じ様に自分を偽っている奴だとして、アレクシア王女はどうするんですか?」
「別にどうも出来ないわよ。貴方を呼んだのはアイリス姉さまであって私じゃないし」
「じゃあ何の為にこのような事を聞いたんですか? 場合によっては同僚になるかも知れないのに」
「ただ先に言っておかないといけないと思ったから」
「はぁ、そうですか」
いまいちよく分からない。警戒されてるのは分かるけど、それ以外がまるで分からない。
「何が言いたいのかって、いつまでもその胡散臭い仮面を着け続けるなって事よ」
「必要だからそう振舞っているのであって、好き好んでこうなっている訳ではないですけどね」
「ふーん、まあ話は済んだしそろそろ姉さまに会いましょうか」
「そうですね」
そこで会話は終了した。結局何が言いたかったんだこの王女様は。
そしてそのままアレクシア王女は扉をノックする。
中からアイリス王女の入室を促す声が聞こえたのを確認し、扉を開ける。
「ようこそアレクシア、そしてシュウ・ヤーク君。今日は突然の呼び出しに来てくれてありがとう」
余り大きくない部屋だが最低限の物は揃ってそうだ。
中心の机にはアイリス王女が座っていて、その近くにはヒゲ面のオッサンと青い髪色の青年が居た。
二人の男の人だが服装を見た感じ騎士団の人達かな。
……ゼノンがあれだけ派手にやらかしたのにも関わらず、騎士団から人を持ってきたのか。
アイリス王女の頭がよっぽどのアレなのか、それともこの二人がそれほど信用してもいい人物なのか。
この後の話で分かる事か。
「それで姉さま、話とは何ですか?」
「そうですね。その事について話したいのですが、まだ一人来ていないのです」
ん? まだ誰か来るのか? この場に居合わせる様な思い当たる人物は居ないのだが……。
そう思っていると、ノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
アイリス王女がそう言うと赤い目をした黒い髪の女性が入って来た。
正直何を言われるか分からないから、会いたくない人物ランキング上位に食い込む人物が部屋に入って来た。
そうシドのお姉さんであるクレア・カゲノーだ。
「遅れてしまったようですね、すみません」
「いえ、遅れた訳ではありませんよ」
「そうですか」
「これで全員揃いましたね」
成る程これで全員か、妙なメンバーだな。
王女が二人、元騎士団が二人、ブラコンが一人に、胡乱な奴が一人と。
……大丈夫かこの組織。出来上がる前から不安しかないんだけど。
「それでは本題に入らせて頂きます。先日妹のアレクシアが誘拐された事件は全員知っていると思います」
「私は当事者だし」
「私はシドの疑いを晴らそうとしたし」
「自分はシドのアリバイを集めましたし」
「えっ? アンタがシドを釈放させたの⁉」
やっべ知らなかったのかよ。これは面倒くさい事になりそうだ。
「その役割は私がするはずだったのに……」
「何の証拠も無く感情論で行くから無理なんですよ」
「何ですって⁉」
「落ち着いて下さい。事実を言っただけです」
「……アンタってこんなに生意気だったかしら?」
「人は変わる生き物ですよクレアさん」
これ以上続けると終わりどころが無くなりそうだったけど、一応落ち着いたみたい。
「二人共続けてもよろしいですか?」
若干困った顔をしているアイリス王女がそう言ってきた。普通に申し訳ない。
「すみませんでした、続けて頂いて大丈夫です」
「そうですか、それでは『ディアボロス教団』と『シャドウガーデン』。この二つの対立し合う組織が今回の事件に関わっていました」
二つとも俺がわざわざアイリス王女に話したからな。
全く理解していなかったら流石に困る。
「そして今回の主犯はゼノン・グリフィ。学園の剣術指南役だった男です。彼はディアボロス教団の信徒でした」
「ゼノン先生が? それは本当なのでしょうか?」
「ええ、本当ですよ。私にその事を話してから目の前で死んでいきました」
「アイツがシドを嵌めた奴だったのね」
アイリス王女が主犯を言い。アレクシア王女が当事者としてゼノンの最後を言う。
そして真実を知り、怒りに震えるブラコン。普通におっかないな。
「そしてシャドウガーデンも今は敵では無いと言うだけで、非常に危険な組織です。アレクシアから聞きましたがシャドウと名乗った男は途轍もない戦闘力を持っていたそうです」
「それ程の人物が居たのですか」
ここはシャドウを持ち上げておこう。こういう所で『一体奴は何者だったんだ』的な感じに持っていけると多分シドは喜ぶだろう。
「そしてもう一人名前が判明しているのがジョーカーと呼ばれていた男です」
――不味い。俺の事じゃん。
「あのジョーカーと言う男はディアボロス教団に実験台にされていた女の子を治療し、悪魔憑きを治せる技術も持ち合わせていました。シャドウガーデンは高い戦闘力もそうですが魔力制御の技術も極めて高い組織であると思われます」
「……悪魔憑きを治せる?」
何だかクレアさんが昔の真実に近づきそうだから話を進めて誤魔化そう。
「それで新しい組織をアイリス王女主体で創る事にしたという事でいいのでしょうか?」
「はい。私が信頼出来ると思い直接勧誘した者しか居ないので、まだまだ人員は足りていません。ですので信頼できますがまだ学生である三人にも協力して欲しいという事です」
「そうですか、でも自分が呼ばれた理由がいまいち分からないです。アレクシア王女はアイリス王女の妹ですし、クレアさんは特待生で高い実績もある上に既に騎士団見習いだったからというので分かるのですが」
「そうですね、シュウ君はまだ目立った戦闘の実績はありませんが、これまでの成績でそこは十分だと分かっています。それに私は主に先日の情報収集能力を買っています。その能力を我々の為に活かしてくれませんか?」
成る程――つまり計画通りという訳だ。
ジョーカーの時に言っておいた助言が効いたかな?
上手い事アイリス王女の近くに陣取り、教団から守りつつシャドウガーデンの印象を悪い方向に行かないように操作する為に、このポジションがどうしても欲しかった。
この学園に入学した目的の一つを早くも達成出来そうだ。事前にアルファから頼まれていた仕事の一つが片付きそうだな。
「そういう事でしたら是非協力させて頂きます。このシュウ・ヤーク組織の眼となり耳となりましょう」
何かアレクシア王女が半目で睨んでいたが、王国が変に教団側に傾かないのであれば敵対する気は無いってのは本当の事だから少しは気を許して欲しい。
それにアイリス王女をどうこうしようという気も全くない。むしろこのまま頑張って欲しいと思ってるレベルなんだけど。
滅茶苦茶怪しいのは自分でも思うけどさ。これでも頑張ってる方なんだけどな。
「ありがとうございます。私では少々そういった事柄は昔から合わないので、シュウ君やアレクシアの様なそういう方面に強い者が組織に居てくれるのは助かります」
確かにアイリス王女は戦闘に全振りで、隣のクレアさんの様に言い方を選ばなければ脳筋タイプみたいだからな。
でもアイリス王女が言うほどアレクシア王女がそういう事に強いとは思えないんだけどな。人を見る目はあると思うけど。
「そう言えば姉さま、私たちの組織の名前は決まっているのですか?」
「勿論、私の象徴である色からとって『紅の騎士団』と名付けました」
「紅の騎士団ですか」
実にアイリス王女らしい名前と言うか、名前だけでアイリス王女との関係が分かるな。
「それではこれからよろしくお願いします。共にこの国の為に戦いましょう」
この場に居た全員がアイリス王女の言葉に同意して返事をする。勿論俺も返事をする。
ただ俺が動くのはあくまでもシャドウガーデンの皆の為、優先順位はいつでもシャドウガーデンが最優先だ。
勿論さっきまでの会話はシャドウガーデンの七陰たちの会議室の所でリアルタイムで聞いて貰っている。
正直後で報告するのは面倒だったからな、今回は試験も兼ねて使ってみた。
後で報告があがってくるでしょう。愉しみだ。
ミツゴシ商会の建物の一室に珍しく七陰全員が集まっていた。
普段は任務の為に離れている事が多いゼータも、基本拠点に籠ったままのイータも珍しく集まっていた。
「……彼は上手い事王女様の懐に潜り込めた様ね」
「流石はジョーカー様です。私たちでは出来ない表の姿を上手く使いこなしていらっしゃいますね」
アルファが作戦が上手くいった事に安堵し、ガンマがそれに同意し自分たちの上司の立ち回りに感動する。
「しかしあの女の人を見る目は中々厄介なモノかも知れません、上手く誘導して使いこなせればいいですけど」
「このままジョーカー様の仕事に影響を与え、主様の周りをうろつく様でしたら我々が動くべきかも知れませんね」
「落ち着いてイプシロン。主やジョーカーが何も言わない限り勝手な行動は控えないと」
ベータがアレクシア王女を警戒し、イプシロンはしれっと抹消しようと企んで、ゼータがそれを諫める。
「……通信機……思ったより……音質が悪かった。……要改良」
イータは話を聞かずに通信機の出来に不満を漏らしていた。
「十分よイータ。私たちが聞こえていたら今は十分よ」
「……アルファ様は……分かってない」
「彼の期待に答えたいのは分かるけど、それ以上は予算の問題もあるわ」
「……またお金の話……聞き飽きた」
イータは不満を隠そうともせず通信機の調整を切り上げ一旦席に戻る。
「そう言えばゼータとイータ? 貴女達随分とジョーカーに余計な事をしてくれたわね?」
そうアルファは突然怒気を含んだ声で二人に話しかける。
他の七陰は巻き込まれない様にそっと渦中の二人から離れる。
「え? やだなぁアルファ様。私が何をしたって言うの」
「そうそう。冤罪は、よくない……」
まるで何もしていないとゼータとイータは言う。だが七陰第一席を誤魔化すことは出来なかった。
「
「「……」」
二人は一瞬で黙った。
「貴女達揃いも揃って同じように噂を、それも微妙に誤魔化しながら彼女が居ると言うから最終的にジョーカーに二人いる事になってたじゃない」
「何のことだか分からないよアルファ様」
「私は、そもそも……出歩いていない」
アルファは大きくため息をついた後、口を開いた。
「嘘をついても無駄よ二人共。こっちで既に調べは付いてるから」
「ああ、そうなんだ。痕跡とか一切残さなかった筈なんだけどな」
「……無念。スライムの、性能が……悪かったか……」
「そういう事をするのはいいけどせめて彼の任務に支障をきたさない様にね」
「「はい」」
「はぁ、後三人共。私たちも同じよ? シャドウに迷惑を掛けない事いいわね?」
物理的に距離を取っても結局巻き込まれた三人。完全なるとばっちりだった。
アルファによる今回の説教はこれで終わった。
「それで今後の方針だけど、緊急の案件が来ない限りこの王都に潜む『フェンリル派』をこのまま削っていく方針でいいわね」
「ええ、それでよろしいかと」
「ただ気がかりなのは騎士団の集めた押収品置き場に火事があったそうね」
「はい、恐らく教団の者が火を放ったものと思われます。新聞社でも情報自体は入ってきました。最も記事にはなりませんでしたが」
「そう、このまま予定通りには行かなさそうね。これから二人がどう動いても付いて行けるように備えないと」
「はい、まずは情報収集からですね」
アルファとガンマとベータは何事も無かったかのように今後の方針を話し合っていた。
最近はジョーカーは作戦は考えようとしない事が多いので、この三人が考える事が多くなったのだ。
アルファ達はこれはジョーカーが自分たちに与えた試練の様な物だと捉えていた。
実際はせっかく作戦を事前に考えても、誰かさんの影響で想定外の事が多く起きるのでジョーカーは考えるのを諦めただけだったりする。
普通に責任の放棄であり最低な上司である。
「そうね。イプシロン、ゼータ、イータ。私たちは次の仕事があるからもう行くわね」
三人は先に部屋を退出していった。
残った三人はまだ先ほどの通信の会話の内容について話したり、機械いじりに戻っていた。
「でもまさかあの王女様にあんな特徴というか特技があったなんてね、聞いてたこっちも心臓に悪かったね」
「そうね。でもジョーカー様なら、冷静だったでしょう」
「いやー、そうでもないと思うな」
「まさか。ゼータあなた少しジョーカー様の事軽く見すぎじゃない?」
「いやいや、私ほどジョーカーの事しっかり見てるのは居ないよ」
「そうだろうけど」
「そうだって」
ゼータとイプシロンは先ほどの通信の会話の、アレクシア王女との部分についての内容について話していたのだが、先ほどからずっとこの部屋に設置されていた通信機の受信機の前に居るイータが唸り始めた。
そして二人は説教が終わった途端に一旦切り上げていたはずの調整を再開していたイータに近づく。
「……やはり……受信側の小型化は……難しい」
「一体何処を目指しているのイータ?」
「……ジョーカーは……通信機の受信側は……耳に常に装着できる大きさが……いいと言っていた」
「耳にずっと付けていられる大きさ? それって周りから見た時の違和感が無いぐらいのって事?」
「確かジョーカーは耳の耳小骨とかそのあたりに埋め込む事が出来たら一番いいって言ってたっけ」
「……そう。……だから最終的には……普通に見ても……見えない大きさにする……予定」
「埋め込むってなんか怖いわね」
「あと私みたいな獣人には難しいかもとも言ってたね」
イータは自分が頼られたので全力で答えようとしているのだが、中々上手くいかない事に苛立ちをおぼえている様子だった。
「……マイクの方は……既に小型化に成功したから……今回持って行ってもらったけど」
そこで聞いていたアイリス王女のシャドウガーデンへの対応を思い出す三人。
「思っていたよりアイリス王女にジョーカー様の忠告が効いていたみたいね」
「あの時本人は助言のつもりで言ってたのかもしれないけど忠告でもなく脅迫に近いよね」
「……でもそれのおかげで……ジョーカーは懐に……潜り込めたみたいだけど」
「国を背負う立場として敵を増やす訳にはいかないでしょ」
「それに治療する場面もわざわざ見せたのでしょう? 余程でなければ次の機会に接触してくるはずね」
「その時に私たちが立ち会えるかは分からないけどね」
「そうね。私は演奏家シロンとしてリンドブルムやオリアナに赴かないと行けないし」
「私はまた遠出する事になりそうだから」
「……私は……そのあたりには……興味ない」
そしてそのまま話ながら三人は部屋から出ていく。
終始何一つ話さず、何も聞かず、ずっと爆睡を決めていたデルタを置いて。
「ボスが一人……ボスが二人……ボスがたくさんいるのですぅ~むにゃむにゃ」
数日後、夏が本格的に近づいて来た頃。僕とヒョロとジャガは三人揃って、実技の授業を受けていた。
「そう言えばシド、アレクシア王女とは何処までいったんだよ」
そんな感じに僕にヒョロがアレクシア王女と付き合っていた期間について聞いてくる。
「別れてからそれっきりだし、別に二人が期待してるような事は無かったよ」
本当は何故かもう少しこの関係を続けないかって持ちかけられたけど、普通にあの王女に付き合い続けるのは疲れる。
だから思いっきり断ってやったら殺されかけた。
「勿体無いですね、チューも出来なかったんですか?」
「やってないやってない」
ジャガも何か聞いてくるけどそんな事は一切やってない。
そんな事をしていたら僕は更にモブ道から逸れていた事だろうし。何よりそういう事は僕の役割じゃない。
そんな感じで実にモブらしい他愛のない会話をしながら実技の授業を受けていた。
惰性で剣を振るう何の実りも無い時間で、正直時間の無駄以外の何ものでもないけど、これもモブを極める為に必要な事なのだ。
「そろそろブシン祭の時期ですけど二人はもう選抜大会にエントリーしましたか?」
「当ったり前だろ! このアピールチャンスを逃す手は無いッ! カッコよく決めれば女子の二人や三人は簡単に連れ帰れるはずだ」
また生粋のモブが何か言ってる、その自信は何処から来るのやら。
「ムフフ、三人相手は大変そうですが夢がありますねぇ」
こっちも何か言ってる。この自信は何処から来てるのやら。
「そうだ、シド。お前エントリーしてなかったよな」
当たり前じゃないかこれまで完璧なモブ人生を極めてきたのに、そんな目立つイベント僕が参加するわけないじゃないか。
あ、でもシュウを勝手にエントリーさせるのは面白いかもね。何か勝手に主人公ロールをサボる事があるからね、しっかりと僕が誘導してあげないと。
「僕は出ないけ……」
「俺が代わりにシドとシュウのエントリーをしてやったから、感謝しろ――ゴバファアッ‼」
突然何者かに腹部を攻撃されたのかその場に崩れ落ちるヒョロ。
一体誰がこんな酷い事を! 僕は右拳を解きながらそう思った。
「ヒョロ君! 突然どうしたんですか⁉」
「大丈夫かいヒョロ。まるで腹部に加減を間違えたボディーフックを放たれたように倒れてどうしたんだ?」
「やけに詳細に言いますね、シド君」
「完全に気絶してるね、保健室に運ぼうか。そう言えばなんだけど、僕の分だけでも大会のエントリーの取り消しとか出来ないかな?」
「さぁ、どうでしょうね」
そしてそのまま僕たちはヒョロを保健室に運ぶために一旦許可をもらってから、授業から抜け出していた。
その途中で。
「あれ? 何か武装集団が校舎に」
「何だかアイリス王女にシュウ君も居ますね」
ついでにアレクシアも居たけど無視しておいた。
「そう言えばアイリス王女が新しく結成した『紅の騎士団』が何か学術学園の方に何かの調査依頼を出したそうですよ」
「そうなんだ」
何かイベントが始まりつつあるみたいだ。後でシュウに聞いておこう、僕はそう思った。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます!
遂に原作ノベルの一巻の内容も半分を超えたような超えていないような、そんな所まで来ました。
普段この作品を書くにあたって参考にしているのは原作ノベルとカゲマスにアニメなのですが、web版やコミカライズ版も参考にしてみるべきなのでしょうか?
それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。