陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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第十三話 陰の立役者は気を引き締めたい

 

 

 

 昨日の晩、シュウとニューって子と一緒にシャドウガーデンを名乗る不審者を片っ端から狩っていった。シュウは結構シャドウガーデンの外聞を気にしているみたいだから、いつに増して殺気立って不審者狩りをしていた。

 ご丁寧に死体まで回収して徹底的に痕跡を残さないって感じだった。陰の実力者の相棒というよりもただのプロの殺し屋って感じだった。

 

 そして今日、僕は一人学園の図書館の中を歩いていた。ヒョロとジャガは先ほどボロ雑巾になってしまったから僕一人になってしまった。今朝は僕にとって試練の日だったみたいだけど、午後からはあの二人の番だった。そういう事だろう。

 ガンマから貰ったチョコレートをどうしようかと考えながら歩いていた時、桃色の見慣れない少女と見慣れた男が一緒に居るのを見つけた。

 僕はその二人に近づいて行く。

 

「やあ、シュウ。遂に三股君に進化するの?」

はっ倒すぞお前

 

 学園の制服に身を包んだ暇そうなシュウが居た。授業をサボって何かしているみたいだし、次のイベントを把握しておきたいからシュウに聞いておこう。

 

「こんな所で何してるの?」

「前に言った仕事だよ、護衛のな」

「ふーん」

 

 シュウに護衛されるとか中々いい身分だね。ゼータとイータが見ていたら怨嗟のこもった眼で睨みつけそうだ。

 でも彼女は全くこの会話を聞いていないようだった。ずっと本を読んでいる。……そうだ。

 

「シュウ、これあげるよ」

「え、野郎から貰っても何も嬉しくないんだけど」

「そこの彼女にあげたらどうかなって事だよ」

「あーそういう事か」

 

 シュウはそう言いながら僕からチョコを受け取った。

 チョコも無事処理出来たし帰ろうかな。そう思っていたら。

 

「シド」

 

 シュウが呼んできたから振り返ると丁度口元にシュウが投げたと思われるチョコが飛んできた。僕は反射的に口に入れてしまう。しまった、今の動きはモブっぽくなかったな。

 

「せっかく彼女らが作ったんだ一個ぐらい食べてやれ」

 

 シュウがそう言ってる。僕だけを除け者にしてあんな事をしていたのはちょっぴり腹が立ったけど、口に入れたチョコはほんのり苦く、そして甘すぎず、僕にとっても美味しいチョコだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺はシドが立ち去った後そのままシェリーの近くで彼女が満足するまで待っていた。余りにも長い間本を読んでいたから、シェリーの方から話しかけてくるまでほぼ寝ていたかもしれない。

 昨日は結局遅くまで狩りをしていたからな、ちょっとイラつきを抑えれずに殺しまわってしまった。

 それとは別に心なしかシャドウよりも俺狙いの奴が多かった気がするが気のせいだろうか。何にせよそのせいで疲労が溜まっていた。

 

「シュウ君、一回帰りましょう。知りたい事や必要な本は集めたので」

 

 そう言いながらシェリーは見ているだけで心配になる量の本を抱えていた。既に足元がおぼつかない様子だ。

 

「その本全部持つよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 どうも頭がいい人って何処か抜けてるイメージがあるな、ガンマ然りイータ然り、目の前のシェリーもそうだ。

 

 そして研究室に俺たちは戻ったがシェリーは相変わらず解析を続けてくれている。

 基本的に護衛の仕事は暇だった。戦うべき人物が暇というのはいい事というのは分かっているが、明確な期限が決まっていない護衛の任務はどうしても少し退屈だと感じてしまう。

 シェリーが解析しているアーティファクトの構造とか含まれている魔力の性質のデータは取れたから、後は取ったデータをイータに回してこちらでも解析をしてもらう予定なんけど、どのタイミングで行こうか。

 ……お、そうだ。いい事思いついた。

 

「シェリー」

「は、はい。何でしょうシュウ君」

「一回休憩を取ろう。詰めすぎるといい結果が出ない事もある」

 

 俺はそう言いながら、さっきシドに貰ったチョコを皿に入れてシェリーの前に出す。

 

「あの……これは?」

 

 シェリーがそう言った時、誰かが研究室に入って来た。

 

 ……全く気配が読めなかった。

 

 どうせ大した奴らは来ないだろうと思っていたから油断していたというのもあるけど、今は普通の人であるルスラン副学園長が入って来るのに気が付けなかったのは気を抜きすぎだな。

 反省しないと。これから行く予定だったミツゴシは止めておいて、代わりに何か護衛とかの感覚を取り戻せそうな状況の場所に行くか。

 俺が心の中で一人反省会を開いていたら、代わりに副学園長がシェリーの疑問に答えてくれた。

 

「それはチョコレートだね、それもかなり高級なものだ。朝から並んでも買えない事があると聞いた事があるね」

「そ、そうなんですか? シュウ君が休憩にと出してくれたんです」

「ほう、彼が」

 

 そう言いながら副学園長がこちらを見てくる。

 副学園長がこういう事に関心があって驚いたな。初老の人はこういう事柄に対して余り知ろうとしないイメージが勝手にあったな。

 

「直接買った訳ではなく、頂いた物ですけどね」

「頂いた?」

「まあ、これでも自分は財団を経営してますからミツゴシの会長とは知り合いなんですよ」

「なるほど」

 

 納得がいったのかシェリーはチョコを一つ口の中に入れる。

 

「あ、甘い……美味しい!」

「それはよかった、作った人達も喜ぶと思いますよ」

 

 どうやらシェリーの口に合ったみたいだ。よかった。

 

「それで研究の方は順調かい?」

「まだ始まったばかりですが、分かった事があります。一つはこのアーティファクトには特殊な暗号が使われている事です」

「特徴的な暗号」

「はい、それも母が研究していた物に酷似しています」

「ルクレイアの……」

 

 部屋にしんみりとした空気が流れる。そう言えばシェリーのお母さんは既に亡くなっているんだっけか。その後、母親と知り合いだった副学園長に養子として迎えられたとか。

 心が温まるエピソードじゃないか。こんな悲劇が当たり前に転がってる世界でこういう出来事があるのは素直に感動する。

 

「何だか静かになってしまったね、シェリー研究を頑張るのもいいけど、たまには息抜きをするといいよ」

 

 副学園長は俺の方に視線を向けウインクしながらそう言い部屋から出ていった。成る程心身ともにケアをしろって事かな。丁度いい外出理由が出来たな。

 

「シェリー、ルスラン副学園長もああ言っていたし、チョコを食べ終えたら気分転換に一回街に出かけるか」

「外にですか?」

「外の空気を吸って身体の状態をリセットしに行こう」

「そうですね、行きましょう」

 

 そう言ってシェリーは残っていたチョコを爆速で食べ始めた。これは俺の分は残りそうにないな。

 

 

 

 その後俺たちは王都に来ていた。本当はミツゴシに連れて行ってシャドウガーデンの誰かにシェリーの接客をしてもらってる間に、そのまた誰かに取ったデータをクラウンに居るイータに届けてもらう予定だったけど、予想以上に俺が気配を探るのが腑抜けになってたから、一回人混みの多い所に行きリハビリをしようと考えていたのだが……。

 

(……めっちゃ視線を感じる)

 

 しかしここは人混みのある王都のメインストリート、辺りを軽く見渡しても人が大量に居て正直分かりにくい。しかも敵対的な感情を向けられていないのか、殺気とかと違い非常に分かりにくい。

 つまりこの視線を向けてきている相手はただ俺かシェリーを見ているだけという事だ。理由が分からないのが普通に怖い。

 ただ一人だけってのと、ある程度の方向と距離は分かってる。だけど姿が一向に見えない。まるで()()()()()()()()()()そんな感じがする。

 

 せっかくだし相手の気配を探る時の感覚を取り戻すのに使わせてもらおう。シェリーの相手をしつつ謎の相手の正体を探る、この程度も出来ないとシャドウガーデンの副リーダー失格だな。

 

「シュウ君聞いていますか?」

「えっ、ああ、ごめん聞いてなかった」

 

 早速シェリーの相手が出来ていなかった、シャドウガーデンの副リーダー失格だわ。周りに気を使いすぎたな。もっと器用に両方出来る様に感覚を戻さないと。

 そう思っていたら向けられている視線が増えた。今度は明らかに敵対的な視線だ。方角は……だいたい全方位か、多くない?

 

「何処に行きましょうか」

「そうだな……あそこはどうだ? 『まぐろなるど』」

「『まぐろなるど』」

 

 流石に無視できない量になったから一回シェリーを預かって貰おう。これは処理しないと不味い。流石に半分遊びながらリハビリしてる場合じゃない。

 

「シェリーはどのハンバーガーが食べたい?」

「私は初めて来たのでまずは普通の物からで」

「分かった、注文して取ってくるから先に席を取って待っててくれ」

「はい、任せて下さい」

 

 俺はシェリーに席を確保しておくように言ってから、自然な流れで離れる。

 こういう会話をしている間も包囲網が縮まってきている。

 

「悪いけどあの子の事をちょっと見ててくれ」

「えっ? あ、はい」

 

 店から出る前にしれっと見覚えのあるシャドウガーデンの子にシェリーを任せてから行く。まだ日も出ている時間帯から殺しを行わないといけないのか。気が滅入る。

 

 軽く一分ちょいで全員殺せそうだけどこの多い人通りだ視界から外れるタイミングを待ってるとそれ以上の時間が掛かってしまう。大体店の混み具合によるけどまぐろなるどは注文してから二分から三分の間くらいには最低でも商品を受け取れる。

 それ以上の時間が掛かるとシェリーから怪しまれるかもしれない。こんな事になるなら大人しくミツゴシに行っとけばよかった。

 そもそも護衛の任務に就いてるのに外に連れ出した挙句、一人で置き去りにしたことがバレると非常に不味い。最悪紅の騎士団をクビになるかもしれない。

 もう少し考えてから行動をするべきだったか、最近は考えるのが面倒だから色々任せる事が多かったけど、やっぱり自分でも何か考えたり行動しないとこういう時に鈍るな。

 

 そんな事を考えていたら敵対的な気配が一つ消えた。……ん? 消えた?

 俺は急いでその方角を確認するが何も見えない。そもそも人や建物が邪魔で見えない。目視での確認を諦めて魔力での探知に変えるが引っかからない。おかしい。

 そうやって探っているうちに更に一人二人と気配が消えていく。

 俺は想像以上に気配を探ったりするのが下手になってるのか?

 視界から外れた瞬間に移動するのは諦めて、路地裏に入り移動を開始する。

 まず近くに居た一人目を首を捩じり処理をする。その後二人ほど処理した時点で敵対的な気配が全滅した。マジか。

 

 だけど漸く殺しまわっていた犯人が誰か分かった。よく見ると壁が人型に盛り上がってるのが分かる。高度なカモフラージュ技術だ。触れている場所の質感と色をトレースしてスーツに反映させる、タコやイカを参考にして開発されていた新しいスーツだ。もう完成してるとは思わなかった。

 それに俺が直接魔力を与えて悪魔憑きを治したから、バレない様に波長を合わせて分からない様にするのは出来るだろう。

 でも外に出てるとは思わなかった。今晩一回直接尋ねる必要がありそうだな。

 

「そろそろ三分経ちそうだな、戻らないと不味いか」

 

 俺は急いでシェリーを置いてるまぐろなるどに戻った。

 

「悪い待たせたか」

「あれ? もう帰って来たんですか? もう少し時間が掛かると思っていました」

 

 戻ってみるとシェリーは本を読んでいた。読んでたら時間なんて直ぐに過ぎるか。

 俺はそう思いながらハンバーガーをシェリーに渡す。先ほど言っていた通りに普通のハンバーガーだ。

 

「これがハンバーガー」

「美味しいからそんなまじまじと見なくて大丈夫だって」

「そ、そうでしたね。シュウ君が勧めてくれたもので美味しくなかった物は無いですからね」

 

 うん、それは言いすぎだと思う。俺まだチョコしか紹介してないよ? 何だか心配になるな、こう人を疑わない所が。

 俺は目の前で美味しそうにハンバーガーを頬張るシェリーを見ながらそう思った。

 

「それにしてもこのハンバーガーという物は凄いですね。これなら研究しながらでも片手で食べれそうです」

「ハンバーガーもいいと思うけどもう少しいいものがあるからまた今度作って出すよ」

「本当ですか! 因みにどういう名前の料理何ですか?」

「サンドウィッチって言う料理なんだけど、一応まぐろなるどでも『まぐろなるどサンド』って言う商品であるよ。でも自分で簡単に作れるから」

「ここで一回食べてみようかな」

「息抜きに来たんだし好きにしていいよ」

「いいんですか? それじゃあ……」

 

 それからシェリーは色々と頼んで満足したようだ。いい気分転換になった様だ、俺は全く気が休まらなかったけど、改めて護衛の任務がどんな感じだったかを思い出せた。いい感じに気が引き締まった。これでもう油断も慢心も無い。

 店を出る時にお金は払おうとしたら定員たちに顔を青くしながら断られた。むしろ怪しまれるから払わして欲しかった。

 

「今日は十分楽しみました、ありがとうございます」

「それはよかった」

「これで明日からも頑張れそうです」

「また行きたくなったらいつでも言ってくれたら連れてくから」

「はい!」

 

 そしてそのままシェリーを寮までしっかりと送ってから俺も一回寮に帰る。そしてしっかり帰っているという事を知ってもらった後、こっそりと抜け出して、クラウン財団の研究所に行く。

 

 少し王都から離れた場所の森の中にある洋館に着いた。外見は普通の洋館で建物自体も普通だが、研究所の本体は全て地下に詰め込んだ。例の某製薬会社の研究施設を参考にして建ててもらった。ロマンがあっていいと思ってる。

 因みに俺はギミックとかは全く知らないから、地下の入り口は登録した魔力の波長で開く様になっている。知ってたら誰でも開けるガバガバセキュリティだけど多分問題ない。

 下の研究所の部分は真っ白の大理石を奮発して使っている。こういう施設はやっぱり白くないと。

 そして施設の照明はシンプルにろうそくや松明で明かりを確保している。

 本当は電気を生み出して近代的な物にしたかったけど、それをするにはそれなりの施設が必要になる。隠密性を重視した場合、発電所の様なものは建てれなかった。水力発電然り風力発電然り自然を利用するものは軒並み隠密性が無くて困る。

 

 そんな事は置いておいて、俺は施設の奥へと進んで行く。目的地はこの施設の最高責任者が居る研究室だ。

 俺は部屋の前に着くなりノックなしに部屋を開ける。

 

「おいイータ起きてるよな」

「んー起きてるよ……来ると思ってたから」

 

 昼間の視線の犯人はイータだった。最後の最後まで気が付かなかったけど。

 

「そう言えば完成していたんだな例のスーツ」

「……『オクトカムスーツ』。ジョーカーが、ヒントを沢山……くれたから出来た」

「大量にタコとかイカとか獲って来た甲斐があった」

 

 わざわざ真冬だったのに海で素潜りして獲って来たからな、目的のタコを見つけるまで何回も捕まえまくったから、傍から見たらクソ寒い中、謎にタコを獲りまくるただの変人にしか見えてなかっただろう。

 でもその甲斐あってスライムを使用しないスーツが出来上がった。隠密性を重視するとどうしても魔力を使用した際に残る魔力痕跡が厄介だった。

 そこで俺は考えた。だったら魔力を使わない装備を開発すればいいと。

 本当はステルス迷彩とかを作って貰いたかったけど、原理を説明できないから断念した。でも今回のオクトカムスーツは違う。実際にタコの体組織等を調べて貰ったらイータなら作れると思った。そしたら実際に作ってくれた。

 

「これで……例の計画に、一歩近づいた」

「計画ってそんな大した事じゃ無いけどな」

 

 いつか魔力を使わない諜報員が必要になるだろうから、という事でその時の為の物ってだけで壮大な計画は一切ない。これで潜入用の魔力を使わない装備が大体揃ったな。

 

「……後はコレ」

 

 そう言ってイータは俺が頼んだある物を渡してくる。

 

「これも完成してたのか」

「うん、要望が多かったから……大変だった上に、コストも……そこそこする」

「コストは仕方ないだろ、これだけの再現度だ」

「初めて、これを作り始めた時……凄く皆にバカにされた」

「見た目が見た目だから仕方ないだろ。一番バカにされたの俺だったし」

 

 散々馬鹿にされたけど究極の不意打ち兵器が出来上がった。でもそのバカバカしさがこれには必要なのだ。

 

「量産の目途は?」

「既に……出来てる」

「流石だ」

 

 後はこれの試験運用をして合格なら大量生産をして販売していこう。

 

「でも……どうやって……販売するの」

「どうやって普通にクラウンでする予定だけど」

「……コレを? 本当に?」

「…………あっ」

 

 俺は思いっきりクラウン財団の代表をしている訳で、学園の方でもそこそこ有名だ。その状態で死の商人みたいな事をするとイメージがとんでもなく下がってしまう。今まで積み上げてきた信頼とか諸々が無くなってしまう。

 つまりクラウン財団のシュウ・ヤークとしては販売できないという訳だ。バカじゃん。

 

「だから……前から、表の顔と裏の顔を……切り離した方がいいって……言ってたのに」

「返す言葉もねぇ」

 

 昔に面倒くさがってそのままにしてたツケが回って来た。くっそ、何処かその辺に適当に恩を売って、裏でそういう事をさせれるそんな都合のいい商会とか無いかな。無いか。

 

「まあ、この事は後で考えよう。まだ試験運用もしてないし」

「そう」

 

 俺はイータから向けられる冷めた目を見ない為に話を強制的に切った。

 

「そう言えば昼間に外に出てたのって性能を確かめる為か?」

「そう。……でもまさかジョーカーが……デートしてるとは、思わなかった」

「デートじゃ無いって、あれはただの仕事だって」

「……」

「息抜きに外に連れ出せっていう無言の圧力があったんだって」

「……誰から?」

「護衛対象の父親からだよ」

「……」

 

 何だか納得していない様な様子のイータ。俺は誤魔化す為にアーティファクトのデータをイータに渡す。

 

「あとコレ、取って来たアーティファクトの外観と魔力の波長のデータ」

「ん……ありがとう。こっちでも……解析……してみる」

 

 そう言って受け取るイータ。これで話を逸らせたと思っていたのだが。

 

「ジョーカーは……どうしてあんな……大通りに?」

「あれだよ、護衛中に気を抜いてたら護衛対象の……シェリーって名前なんだけど、その父親が入って来るまで気配に気が付かなかったからな、気を引き締める為に敢えて大通りを選んだんだ」

「ジョーカーが……気配に……気づけなかった?」

「そう、だいぶ気が抜けて鈍ってたみたいだったからな」

 

 今回で感覚は取り戻せたと思うけど。

 

「でも、私には……気づいてた。波長を……合わせて……隠れたのに」

「まあ、そりゃ何となくは気づくよ」

「そいつには、気づかなかった……のに?」

「何が言いたいんだよ」

 

 イータの言いたい事がいまいち分からない。

 

「私が……代わりに……倒した奴らの……気配は?」

「普通に分かってたけど」

「鈍ってるのは……ジョーカーの気配探知能力……じゃなくて……敵性判断能力……じゃない?」

「は?」

 

 どういう事だ? 敵性判断能力が鈍ってる?

 

「無意識に……そのシェリーって子の、父親が……()()()()()()()()()()()()……思ってるんじゃない?」

「……いや、そんな事は無い」

「……本当に?」

 

 俺はイータの問いから目を逸らす事しか出来なかった。

 このクソったれな世界で聞いた温かいエピソードなんだ。一つや二つそういう事があってもいいと思うのは間違いだろうか。それすらも疑わないといけないのだろうか。たまには人を信じたいと思うのは間違っているのか?

 

「どちらにせよ……ジョーカーが鈍ってるのは……気配探知能力じゃなくて……敵性判断能力……だと思う」

「……」

「ジョーカーは……自分で言ってた。『ディアボロス教団』は……何処にでも……潜んでいると」

 

 だから覚悟を決めておいた方がいい、そうイータは言っていた。

 

「それと……あの子はまだ……目を覚ましてない」

「……そうか」

 

 俺はイータからその報告を受けた後、そのまま部屋を出ようとすると服の裾を掴まれて引き留められた。

 

「ジョーカー……無理は……しない様に」

「大丈夫だ、さっきので気が引き締まったよ」

「……本当に?」

「ああ」

 

 そう言ったらイータに心配そうな顔をされた。

 

「アーティファクトの件、明日までには……調べとく。だから明日も……来て」

「分かった」

 

 そう言って今度こそイータの所から出ていく。あんまりやりたくなかったけどルスラン副学園長の事を調べるべきか、入学当初は何も出てこなかったからいいと思ってたけどそうもいかないみたいだ。

 気を引き締めていこう。自分が何をすべきかを思い出さないと。




 今回もここまで読んで頂きありがとうございます!

 週二回程の投稿を目指しているのですが、休日でないとまとめて書く事が出来ないので、段々とキツくなってきました。
 それとコミカライズ版を十二巻まで遂に買いました。思ったより性格に差があって驚きました。

 それでは次回もお楽しみにして頂けると幸いです。
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