陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
イータの手前、大丈夫だと言ったけど実は余り大丈夫じゃない。情けない事に正直今でも改めて調べるのは怖いと思っている。何も出てこない事を祈るばかりだ。
もしルスラン副学園長がディアボロス教団の一員で俺たちシャドウガーデンの敵だった場合、俺はシャドウガーデンの一員として、組織の二番手として彼を確実に殺さないといけない。
そうなるとシェリーはまた家族を失う事になる。それは余りにも可哀想だ、しかも時と場合によっては彼女の目の前で殺すことになるかもしれない。
果たして俺はその場でその決断を下せるだろうか、そんな悲しくて切ない残酷な決断を。母親の意志を継ぎひたむきに頑張る彼女のその養父を、自らの手で殺める事が出来るだろうか。
一番いいのは俺やイータの考えすぎで副学園長が無実な事だ。本当にそれが一番いい。
調べないといけないのは分かってる。でももしもの事を考えるとどうしても二の足を踏んでしまう。一体誰が好き好んで知り合いの唯一の家族を殺そうと思えるのか。
でもこういう時は決まって、初めて人を殺した時を思い出す。あの時は二の足を踏み見殺しにしてしまった。あの時の様な過ちを、二度目の過ちは犯せない。
……思い出せ、俺は何をするべきなのかを。
そして考えろ、俺はどうするべきなのかを。
結局この日の晩は一睡もできなかった。……悩んでいるだけなんて仕方ないのに何をしてるんだ俺は。
そして今日もシェリーの隣で彼女のしている事を見守る。一生懸命このアーティファクトの解析をしている。それに対して俺はどうだろうか。
彼女の頑張りを無視して自分が信頼しているイータに解析を頼んでしまった。これは彼女に対する裏切りや侮辱に当たるのではないだろうか。いくら組織や対教団の為とは言え彼女の頑張りを蔑ろにしていないか?
そして更に彼女の養父に教団員の疑いをかけている。確かにディアボロス教団は何処にでも潜んでいる。でも俺個人としては信じたいという気持ちがある。イータにも言われたが確かに敵としての認識をしておらず、無意識にフィルターから除外していたかもしれない。
だが一体誰が永遠と気を張って周りに居る人物を常に警戒できるか。正直しんどいというのが本音だ。
ならどうするか。先に一気に調べて人畜無害の一般人や特に危険ではない人物と要警戒の人物に分けておくだろう。周囲百メートル近くの範囲内の人物を常に把握し続けるのは難しい。
それが俺の、元々何者でも無かった人物の限界だった。必死に組織の為に役に立とうと足掻いていた時に身に着けた、他人の魔力の流れなども全て把握する気配探知はせいぜい周囲百メートル近くが限界なのだ。
任務中ならいざ知らず、学園などの大人数の魔剣士が居る様な、襲撃する事が自体が自殺行為な場所の中に居る時ぐらいはフィルターを通して探知していてもいいと思う。
……よし、言い訳はここまでにしよう。こんな事を考えていても無駄なだけだ。
しかしどのタイミングで調べ始めようか、現在俺はシェリーの護衛を任されている状況だ。昼間は無理だろう、シェリーの傍から離れる訳にはいかない。
では晩はどうだろうか、これならジョーカーとしても自由に動く事が出来る。しかしいざという時に紅の騎士団としての活動や協力が難しくなる。情報を持っているのに動けないという状況になりかねない。それでは意味が無い。
つまり俺に求められている仕事は、どうにかして昼間と夜間両方で両面で調べる必要性がある。紅の騎士団のシュウ・ヤークとしてとシャドウガーデンのジョーカーとしての両方でだ。同じ事を続けて調べるのは無駄かもしれないが、二つの顔を持つ者としてはこういう所で手を抜くわけにはいかない。これ以上の失態は出来ない。
それで問題は昼間に調査する際に誰に変わってもらうかだけど、選択肢はいくつかある。まず一つ目は後々どの様な代償がつくかは分からないけどアレクシア王女を頼るものだ。前にシャドウガーデンの名を騙る偽物は大方殺しつくしたから今は暇なはずだ。
二つ目はアーティファクトの護衛として居るグレンさんかマルコさんを頼るというものだ。多分これが一番安全だ。理由も話したら納得してくれると思う。
とにかく何とか交渉して一日だけ変わって貰おう、それしかない。
「シュウ君……このアーティファクトもしかしたらこれ単体では機能しないのかもしれません」
ぼんやりとこれからの予定を考えていたら、突然シェリーが話しかけてきた。
……アーティファクトが単体では機能しないだって?
「どういう意味だ? 組み合わせて使う物なのか?」
「まだ詳しい事は分かりませんがこれには組み合わせたり、何かを制御する機能があるようです」
「……つまり本体というかメインの物がある可能性があるのか」
「はい」
成る程一気にきな臭くなってきたな。もしかして教団は敢えてシェリーにアーティファクトの解析をさせて、装置を起動しようとしているのか。だとしたら相当危険な物なのかもしれない。押収品置き場の倉庫で火事があって、これだけ残ったのではなく、これだけを残してこちらが動くのを待ったという可能性が。
もしそうなら相当危険なアーティファクトな可能性がある。だとすると本体の方は教団が持っていると考えた方がよさそうだな。
「こっちにあるものでどんなアーティファクトか分かるか?」
「難しいかもしれませんが出来ると思います」
「流石だ、分かったらどんな物か教えてくれ。その情報を元に調べてみる」
思わぬ進展だ、正直シェリーがここまで優秀だとは思わなかった。失礼だけど今晩イータに聞くまで何も情報が得られないと思っていたからな、これでイータの所に行く前に何か少しでも調べられるだろうか。そう考えていたらシェリーが口を開いた。
「調べる時にシュウ君に危険は及ばないのですか? その……このアーティファクトは元々悪い人たちから押収した物だと聞いたのですが」
「大丈夫だよ、俺はその辺の奴らには負けないから」
「本当ですか?」
どうやら心配してくれている様だ。この姿でこの学園にいる間で今の所負けた事無いんだけど、シェリーはそんなこと知らないだろうから、ちょっと元気づける為に言っても大丈夫だろう。
「シェリー、今からいう事はここだけの、二人だけの秘密にして欲しいんだけど」
「はい、私とシュウ君だけの秘密ですね!」
何で嬉しそうにしてるんだ。これなら言わなくてもいいんじゃ……、いやここまで言ったんだ最後まで言おう。
「俺はミドガル王国最強と言われているアイリス王女にだって負けないと思ってる」
俺がそう言うとシェリーは桃色の目を大きく見開いては閉じてと何度も瞬きして心底驚いた表情をしていた。そしてその後少し安心したように笑った。
「アイリス王女にも負けない人が私の護衛に付いてくれているんですね。それは凄い事ですね」
「おおよそ殆どの奴からシェリーを守れるぞ」
「えへへ、頼もしいですね」
まあ多分元気づけるための冗談だとシェリーは受け取ってくれただろう。流石に本気にはしていないはず、というかしないだろ。こんな事を言っても冗談と思われる程アイリス王女はちゃんと強い。……表の世界ではと付くけどな。
裏の世界に行くとアイリス王女程の実力の者は割と居る。シャドウガーデンの七陰の皆はもっと強いし、ナンバーズの皆もアイリス王女以上の実力があると思う。この目でしっかり見たことないから分かんないけど。
そもそも技量の差や技術の差が大きいだろう。なまじ魔力という便利な物があるから強化して殴るだけで、強化して斬るだけで終わってしまう。
だからこの世界の戦闘技術は発展しなかった、シドはそう言っていた。俺もその考えは正しいと思う。
シドが地球の戦闘技術で使える部分を厳選して俺とアルファとベータに教えた、それを次に俺たち三人が、最終的に途中で俺は抜けてラムダが代わりにシャドウガーデンの皆に教えた。
因みに俺は抜けた後、ゼータやイータと後もう一人には少し違う戦い方も直接教えた。シドとは違い真っ直ぐな努力の果てに到達する戦い方じゃない。
本来は実力が無いものが使う弱者が強者に勝つ為の戦い方だ。これには誉れも誇りも何も無い、あるのはただの不意打ちや闇討ちのオンパレードだ。
シドが微妙そうな顔をしていたけど知らん。生き残る為には戦い方は拘るべきじゃないというのが俺の考えだ。ゼータとイータの二人には特に死んでほしくないから追加でこの戦い方も教えた。別に他の皆が死んでもいいという訳では無いけど、……俺にとってあの二人は特別だからな。
最後の一人は凄いしつこくせがまれたから渋々教えた。
……正直苦手なんだよな、色々な意味で怖いし。昔会った時はあんなんじゃ無かったのにな。
結局の所何が言いたいのかというと、いくら魔力を練って肉体を強化し武器を強化しても根底にある戦闘技術がお粗末なら意味は無い。それはどんな戦い方をしていても変わらない。
だからアイリス王女はこの世界のそこそこ止まりになってしまう。意識や心構えが変わるともう少し伸びそうだけど。
それはそれとして、デルタみたいにそんな事関係ないと言えるくらいの素の膂力があるなら話はまた変わるけどな。
「何だか安心してきました。ずっと不安がありましたけど、シュウ君の言葉で何も心配しなくてもいいんだって思えました」
俺が内心どんなことを考えてるのか知らないシェリーは本当に安心している様子だった。これで解析により集中してくれると思う。
「それはよかった、言った甲斐があったよ」
そしてシェリーはそのまま解析の作業に集中し始めた。俺は彼女の邪魔にならない様に黙って見守っていた。
そしてシェリーを寮まで送ってから、まずはグレンさんとマルコさんの所へ向かう、アーティファクトの解析はまだ済んでいないからアーティファクト関係の事はシュウとしては調べられないけど、一番合って欲しくない事実の確認というか調査は出来るのだ。
途中で覚えのある気配が固まっているのが分かった、目的地に固まっている様だな。正直想定外の人物が居るけど問題ないだろう。
「グレンさん、マルコさんいらっしゃいますか? シュウ・ヤークです」
俺は二人が居る筈の部屋にノックしながら二人に対して声を掛ける。勿論部屋に三人居るのは分かっているけど、分かって入るのはちょっとシュウ・ヤークの実力以上という事になってしまう。
「シュウか入っていいぞ」
中からグレンさんの了承の声が聞こえたのでドアを開けて中に入る。
するとその部屋にはグレンさんとマルコさんともう一人途中で気は付いていたけど想定外の人物が居た。
「シュウ君お久しぶりです。彼女の様子はどうでしたか」
「はい、一生懸命頑張ってくれています。アイリス王女」
そう、アイリス王女まで居るとは思わなかった。でもついでに報告が出来ると思えばこれはいい状況だな普通に。
「それで何か分かりましたか?」
「どうやらシェリーによるとあのアーティファクトはどうやら制御装置のようでして、本体は別にあるのではないかとの事でした」
「成る程」
「恐らくなのですが教団は敢えてこちらに解析させ、起動できる段階に入ってから再び奪取しに来る可能性があると思います」
「つまり我々はただ踊らされている可能性があると、そういう事ですか?」
「はい、まだ可能性があるというだけですが」
部屋に長い沈黙が訪れる。各々考えているのだろうどうやって対処していくのかを。俺も考えている、どうやって護衛の交代を進言するかを。
「シュウ君、そのアーティファクトがどの様な物なのかはそれ以上は分かっていないのですよね?」
「そうですね、まだもう少し掛かるかと」
「先手を打つのは難しそうですね」
まあまず教団相手に先手を打つのは難しい。それこそ無軌道に無計画に動くバカぐらいじゃないと出来ない。思い出すのはクレアさん奪還作戦の時だ、何も知らないはずなのにピンポイントで正解にたどり着くからな。本当はアイツが適当に動くだけで教団は壊滅するんじゃないかと思う事が時々ある。
「動くのはアーティファクトの正体が分かってからですね」
アイリス王女の言葉に俺たち三人共頷く。実際に分からないと動けないからな。
そして俺はアイリス王女に先に許可を貰っておかないといけない事を言っておかないと。
「そのアーティファクトの正体が分かった時に一日だけ護衛を変わって貰えないでしょうか」
「何か考えが?」
「教団員の尻尾が掴めるかもしれません」
「成る程、分かりました。許可しましょう」
「ありがとうございます」
「後でアレクシアに言っておきましょう。同性なら何かと気が楽でしょうし」
――マジか。グレンさんとマルコさんじゃなくてアレクシア王女が代わりを務めるのか。……まあいいか、自分で頼んだ訳じゃ無いから何も心配ないか。
というか同性云々はもっと先に考えておくべき事だったのではないだろうか。もう過ぎた事だからどうしようもないけど。
「後それと個人的に調べたい事がありまして」
「何でしょうか」
「シェリーの母親が殺された事件について調べておきたいのですが」
「何故今になってそれを?」
「ただの興味本位という事にしておいてくれませんか」
正直自分でもかなり許可なんて貰えないだろう理由を言っている自覚はある。でも現段階で話すべきじゃない、下手に動かれて取り逃がす事はあってはならない。だからこういう事に慣れていない他の人達には関わって欲しくない。犯人は十中八九ディアボロス教団の者だろうからな、しっかり尻尾を掴んでおきたい。
「……分かりました。ですが条件があります」
「条件は何でしょうか」
「全てが終わったら理由を正直に話してください、それだけです」
「アイリス様!?」
グレンさんが声を荒げながら驚いている、マルコさんも目を見開いている、俺も正直驚いている。本当にそれだけでいいのかと思う。
「自分で言っておいて何ですが、本当にそれだけでいいのですか?」
「ええ、私たちが居ると上手く動けないのでしょう? それなら私はシュウ君を信じて待ちましょう。全ての物事を私一人で解決できるとは今はもう思っていません、その為の『紅の騎士団』なのですから」
ここまで上手く事が運ばれると逆に怖くなってくる。後でとんでもないしっぺ返しが来るような、そんな気がしてならない。
それにしてもあの自信がありそうだったアイリス王女の考え方をここまで変えた奴は誰なんだ。ちょっとずつしか考え方を変えられないだろうから、時間が掛かると思ってたんだけど。
シュウがアイリス達と会っている頃、他にも会合をしている集団が居た。
「痩騎士さん、昨日は残念な結果だったな」
額にバンダナを巻いた男が一人の男に声を掛ける。しかし痩騎士と呼ばれた男は何も答えなかった。ただバンダナの男の言葉を聞いているだけだった。
「たった一人を殺すだけなのにチルドレン2ndを十人以上も失った」
「少々想定外の事が起きたからな」
「想定外で使い捨てられる身にもなって貰いたいもんだ」
痩騎士と呼ばれていた男は明らかに苛立ちを含んだ声色で話始めたが、バンダナの男は飄々と何事も無いように淡々と思った事を直ぐに口にする。
「あのシュウ・ヤークを引き剝がしたかったが邪魔が入ったな、しかも邪魔をした存在の正体も分からないと」
「魔力痕跡も残っていないし、目撃者も居ない。全員首をへし折られての即死だ。やった奴は只者じゃない」
「……シャドウガーデンだ。やったのは恐らくシャドウガーデンの連中だ」
痩騎士は忌々しく思っているのか低い声でそう呟く様にその名を口にした。
「シャドウガーデン? アイツらは基本は夜に行動するって話だからあの作戦も夜中にしていただろ」
「シャドウガーデンの一部は隠密性に非常に長けた者たちが居るという噂だ」
「噂?」
バンダナの男は怪訝そうな表情を浮かべる。目の前の男が噂に踊らされる様な者では無いと知っているからこその表情だった。
「噂なのは誰も会って生きていないからだ」
「ハッ、じゃあ何でその噂が流れているんだ? おかしいだろ」
「ああ、だから私も信じていなかった。だが恐らくこの噂も意図的に流されたものだろう」
「わざわざ流す理由なんてあるのかよ」
「この噂のおかげで我々は常に後ろを警戒しないといけない」
「……その作戦を考えた奴は相当性格が悪いな」
バンダナの男は思った事を口にした。
「予定していたよりも人員の消耗が激しい、補充をして来い」
「元々はアンタの落ち度だろ、自分で行ったらどうなんだ?」
バンダナの男がそう言った瞬間、首元に剣があった。勿論剣を抜きバンダナの男の首元に添えているのは痩騎士と呼ばれている男だ。
「おいおい、冗談だって。ちょっとした茶目っ気じゃないか」
「口の利き方と態度には気を付けろ、チルドレン1stの『反逆遊戯』のレックス」
「悪かったよ元ラウンズの痩騎士さん。それで
「ああ、さっさと行け」
レックスは不機嫌そうな顔でこの場を後にした。そして一人残された痩騎士は付近にあった箱を一刀両断した。恐らく八つ当たりだろう。
「シュウ・ヤークをシェリーから引き剝がす事も失敗し、紅の騎士団から追放する計画も台無しだ。シャドウガーデン……本当に目障りな連中だ」
だがそう言う痩騎士の顔はどことなく邪悪ではあるが希望を持ったような、そんな表情をしていた。
「だが奴らの命運もここまでだ、例の計画が始まればこれからはミドガル王国も敵になるのだ」
そう言いながら痩騎士は一人廃墟の中で高笑いをしていた。
俺は今晩もイータの所を訪ねていた。昨日の晩より精神状態はマシだ。
「んー、やっと……来た」
ドアを開けた瞬間イータが目を覚ましたらしい。イータが寝てたって事はもう解析が終わったって事か? 余りにも早すぎる。
「もう解析は終わったのか?」
イータは無言のままピースサインをしてくる、マジか。
「私に……かかれば、この程度の情報でも……解析出来る」
「それで何が分かったんだ」
「それを……伝える前に……言っておきたい事が……一つ」
かなり真剣な表情のイータ。どうやら俺も覚悟を決めないといけない案件かもしれない。
「このアーティファクトの、情報を伝えると……少なくともジョーカーは……最後には、傷つくと思う」
「……」
「時間が出来たから……ついでに調べておいた。多分ジョーカーは……二の足を踏むと……思ったから」
どうやらイータにはお見通しだったらしい。でも俺は今日一日で気持ちの整理はつけてきた。だから大丈夫だ。それに今日一日何もしなかったという事は無い。
「何もしなかった訳じゃないぞ、調べる為に事前に許可を取ってきたりしてきた」
「でも……まだ実際に……調べ始めた訳じゃない、そうでしょ?」
黙るしかなかった。全くもってその通りだからな。
「もう説教はいいだろそう言うのはアルファからのだけで十分だ。それよりも色々聞かせてくれないか」
「……分かった」
俺がそう言うとイータも覚悟を決めた様な表情になる。それ程の事なのか。
「このアーティファクトは……『強欲の瞳』という……名前。でもこれは……ただの制御装置、本体は……何処にあるか……分からない」
「『強欲の瞳』か、どんな効果があるんだ?」
「一定範囲内の……魔力を、吸収し……溜め込む事が出来る。そして……その溜めた魔力を……制御装置で、好きに使う事が……出来る。例えば……不治の病を治すとか」
「成る程、それで俺が傷つく可能性のある情報は何なんだ?」
「元々……このアーティファクトを、研究していた……人が居た。資料も……ほんの少しだけ……残っていた、だからここまで……早く調べれた」
「誰なんだ? それは」
「……ルクレイアって人」
「シェリーの母親か」
つまり今シェリーがしている事は母親と同じ事をしている訳だな。最後の結末まで同じにならない様に守ってあげれたらいいけど。
「という事はシェリーの母親が殺された事件を追えば『強欲の瞳』の本体に辿り着く事が出来るか」
「恐らく……でも」
「それ以上は言わなくていいよ、分かってる。それにこの事を調べる許可も既に貰ってる」
イータの言いたい事は分かってる。要警戒人物の中にある人物が入ってくる事は分かる。
「分かった、また辛くなったら……ここに来て。ここも……ジョーカーの……帰る場所だから」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって、大体イータの方が…………まあいいか」
いつもは幼く見えるイータが今回ばかりは年相応に見える。
「じゃあそろそろ行ってくる」
「……」
イータは黙って俺を見ていた。だけど部屋を出る直前ににイータが口を開いた。
「ジョーカーは……頑張ってる、それは私もゼータも……分かってるし……知ってる。だから……たまには自分の心に……正直に行動しても……いいと思う。普段の立場とか……役割とか……そう言うのは考えないで」
「今回はやけに饒舌だな」
「それは……自分でも、思った」
「まあ頭の片隅に置いておくよ」
今度こそイータと所から立ち去る。せっかく情報が入ったんだここからは調べ始めないとな。
そして俺は一人ジョーカーとして騎士団の施設に先に潜入していた。先にアイリス王女やグレンさんたちに話を通しているから、それを聞いて動く奴が居るはずだ。そいつを捕まえて色々吐いてもらう、つまりは調べるといった事を伝える所から敵を誘き出す作戦は始まっている。
教団が関わっているという自信はあるけど、本当はまだ確証は無い。でも必ず動く奴が居るそれだけは確信してる。だからじっと構えるこの資料室に確実に来るはずだから。どのくらいの時間を待ったか分からないでもその時は来た。
……外から感じる気配が間違いであって欲しい、徐々に近づいてくる気配が間違いであって欲しい。たまたま別の用事でこの建物を訪れているだけであって欲しい。そして俺は扉を開けて訪れた人物の顔を見た。
――――ああ、そうか。この世界はどうしようも無いほどクソなんだな。
本当に残念だ、そうだろう? ルスラン副学園長。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます!
気が付いたら多くの方に読んでいただけている様で本当にありがたいです。
評価や感想も頂きまして、次も頑張っていこうと思いながらいつも書いています。
次回も楽しみにして頂けると幸いです。
特に意味も理由も無い話なのですが、強欲の瞳って魔力を集めるのに最適ですよね。ある物の開放に必要な魔力とかを一気に集めれそうですよね。