陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
窓から差しこむ月明りだけがこの部屋の光源で、それ以外は暗い夜の闇によってハッキリとは見えない。その暗がりに漆黒のスライムで形成されたスライムスーツで溶け込んでいた。魔力探知が得意な奴でもそう易々とは見つけられないだろう。
雲が多いのか時々その月明りさえ無くなる事がある。その時は普通だったら本当に何も見えないぐらい暗くなる。俺は魔力で視力を強化して変質もさせてるから見えてるけど普通のここまで出来ない人なら何も見えない。
だから目の前をルスラン副学園長が通り過ぎてもあちらはこちらに気が付いていない。……正直このまま何も見なかった事にして帰りたいレベルでこの世界のクソさにウンザリしている。でもそんな事は出来ない。『強欲の瞳』の効果を考えると何に使うにしても学園で使うのが効率がいい。多くの魔剣士が集う場所だ、集まる魔力源はとても多いだろう。
それに魔力を奪い自分達は魔力を使えるという圧倒的な優位に立てば簡単に制圧が可能で、学園の建物の構造上防衛網を敷くのも簡単だと思う。おまけに籠城しておけば魔力を集めるという目的を達成出来るからだ。つまり本当に学園で使われると間違いなく大勢が死ぬことになるだろう。
そうなればディアボロス教団はまた力をつけるに違いない。そんな事はさせない。
だからこの目の前に居るルスランを捕まえないといけない。まだ何かの間違いとかそう言うのがあるかも知れないから、一回殺す事は置いておいて捕縛する方向で行こう。そうしよう。
そう決断してジョーカーの姿からシュウの姿に戻る。万が一ルスランが脅迫されてやって来たという無実の可能性があって、生き残る可能性があるならそう簡単に正体に近づかれる様な真似はするべきじゃない。これまでの苦労が水の泡だ。
実力でバレるという事は無いからそれなりの事をしても問題ない。何故ならジョーカーの姿の時の戦闘スタイルとシュウとしての戦闘スタイルはかなり違うからだ。
だからここは思い切ってかなり実力がある感じでいこう。どうするのかというとわざとらしく少しだけ音を立てて背後を取る。
そして手にはこれまたわざとらしく探していたであろう書類を持っておく。ここで待っている間に先に回収しておいた物だ。常にこちらが一歩先を行き、言葉は無くとも優位性がこちらにある事を示す。これだけで相手が余程の馬鹿じゃない限り実力差が分かる。
「――成る程、調査云々は既に罠だったという訳か」
「そういう事です」
俺がそう言うとルスランは振り返る。 あの優しそうな初老の男ルスラン・バーネット副学園長の姿は何処にも無かった。自分の心が冷えていく感じがする。でもまだ決まった訳じゃない、そういう風に脅されて来ている可能性があると最後まで信じていたい。
「一つ聞きたい事があるのですがいいでしょうか?」
「何かな? 今の私に答えられる事なら答えよう」
「貴方は自らの意志でここへ来たのですか? それとも誰かの指示によって無理やりこういう事をやらされているのですか?」
「君はどちらだと思う?」
「真面目な事を聞いているんです。質問に質問を返さないで下さい」
「はっはっはっ、済まない。では言い方を変えようか」
「……?」
何が言いたいんだルスランは? 一体どういうつもりで今話しているんだ? この場にこの状況に似つかわしくない様な態度と話し方で俺を混乱させたいのか? だけど次の質問は今の俺にはとても効く質問だった。
「
「それは……自らの意志でここへ来ていない方がいいでしょう。当たり前ですよ、そんな事。一体誰が好き好んで知り合いと……それも最近友人関係になった子の父親と対峙したいと思うんですか」
「それはそうだ、君が正しい。だからどうかその資料を私に渡して、ここから立ち去ってくれないか? それがお互いに傷つかない選択だ」
「それは出来ません。それはただ事実を見なかった事にして逃げる事ですから」
俺はつい先ほどまでそれを実行しようとしていたけど、そういう訳にはやっぱりいかない。そういう事をするのはもうあの五年前のあの時だけでいい。逃げたりするとどうなるかなんて嫌という程認識させられた。
「そうか……それは残念だ」
そう言うとルスランは剣を抜いてこちらに向けてくる。……ああ、そうか。もうそういう事なんだな。本当に残念なのはこっちの方だ。ルスラン・バーネット、お前はもう俺たちの敵なんだな。そういう事でいいんだな。
そう分かった瞬間加減とかする気が無くなった。今この場で一体全体どういう計画だったか知らないが、シャドウガーデンのジョーカーとしてその野望を打ち砕く。
一瞬で距離を詰めて、右手で頭を掴んでコイツの体内にある魔力を勝手に掌握して軽い暴走状態にし、意識を刈り取る。何かを喋る暇も与えない。身を裂くような激しい痛みと共に一回眠れ。
そのままスライムで覆ってルスランの姿を以前捕まえた教団員の姿に偽装する。そして縄で縛って捕らえたように見せる。そしてそのまま肩に担ぎながら資料室を出る。もうここには用事は無い。
そしてそのまま騎士団の施設から正面から堂々と出ていく。当たり前の様にここに居たのが当然だと、そういう風に出ていく。
「待て。貴様一体いつ我々の施設に入って来ていた! 答えろ!」
当然のように門番というか正面玄関に居た奴に止められた。
「今回は『紅の騎士団』の極秘任務でここに来ていただけだ」
「……そんな報告は聞いていない」
一瞬間があったな、ここにルスランが来る事と近々俺たちが調査に来る事を知っていたか?
という事はコイツもグルか? だったらもう少し手札を切らせてもらう。
「お前らを信用なんてしてる訳ないだろ? 前にあったゼノン・グリフィの件忘れた訳じゃ無いだろ。あんなのがこの騎士団に紛れ込んでいたんだ、警戒して抜き打ちで調査とか黙って調査ぐらいはするさ」
「しかしそれでは我々の存在意義が」
「そんなのもう無いだろ」
「き、貴様……」
おっと思わず本音が。でも実際に碌でもない奴が多数入り込んでるみたいだし一回潰して違うのを新しくこちらで新設した方がいい様な気がするな。
そうこう話している間に段々と人が集まって来た。一通り見渡してみるが短絡的な行動をしてくる奴は居ない様だった。潜り込んでいる教団員が出てきたら見せしめに〆ようと考えていたけど、迂闊には動けないか。
俺から手を出して問題になったら相手的には大丈夫だろうけど、相手の方から今動いたら普通の騎士団員の奴に見つかり潜んでいる意味がなくなるだろうからな。せっかくこの間の一斉調査を潜り抜けて潜み続けているだろうからな。ご苦労なこった、後で楽にしてやろう。
「まだ何か言いたい事がある奴は居るか?」
一応煽ってみるが誰も何も言わない。
「じゃあそういう事で」
俺は正面から堂々と騎士団の施設から出ていった。裏の姿というのもいいけど持つべきは社会的優位性のある姿だな。面倒事が無くなって快適に任務がこなせる。まあこれは切り替えて使うから最大限効力を発揮するのであってどちらか片方だけ持っていても難しい時があるけど。
後ろからついて来ていた連中を軽く数秒で撒いてからジョーカーの姿に変わり、一気に上空まで飛んでクラウンの研究施設にイータの所に行く。これからする事はイータの手を借りた方が速い。口の堅そうな奴から聞きたい事を聞くときは古今東西拷問や尋問に限る。まあ、今回は尋問で済ますけど。
研究施設の内部に入ってそこそこ大きい声でイータを呼ぶ。
「おーいイータ! あの尋問装置を準備してくれ!」
しかし施設内部は静まり帰っている。誰かが何かしている気配も感じない。返事が無いという事は寝ているか研究に没頭して何も聞こえていないかだな。
結局イータの部屋を直接訪れる事になった。いつも通りノックせずに部屋に入る。
「おい、イータ起きてるか? 手伝って欲しい事があるんだけど」
「――――」
「ああ今日は完全に寝てる日だったか。おーい起きてくれ」
そう言いながら身体を揺するが中々起きない。……ふむ、時間も無いし奥の手を使うか。俺はイータの耳に水滴の様に変化させたスライムを一滴落とす。寝耳に水って奴だ、実際結構効くらしい。前世の国語の先生がそう言っていた気がする。……何年前の話だっけな、転生前も含めるから二十年ぐらいか?
そんなしょうもない事を考えている間にイータが凄い不機嫌そうな顔で起きた。
「……せっかく寝てたのに、許せない」
「そう怒るなよ、揺すっても起きなかったそっちが悪い」
「誰の為の……研究で、寝てないと……思ってるの」
「また今度手伝ってやるから、今は機嫌直せって」
明らかに不服そうだったけど一応引き下がってくれるらしい。
「それで……その下っ端を、持って帰って来て……どうするつもり?」
「これは下っ端じゃないぞ」
そう言いながらスライムを戻してルスランの姿に戻す。
「……誰?」
あっそっか、イータはルスランの姿を知らないのか。
「コイツがルスラン・バーネットだ」
「……コイツが?」
イータが侮蔑の表情で見下ろしている。滅多に見せないというか初めて見た気がするなイータのこの表情は。結構付き合い長いと思ってたけどこういう表情するんだな、てっきりしないと思ってた。
「それで……持ってきてるという事は、敵という事で……いい?」
「そういう事だな」
俺がそう言った途端イータがスライムで剣を創ってそのまま突き刺そうとした。当然俺はそれを魔力制御を奪って止める、何の為に持って帰って来たと思ってんだ。
「待て待て殺すな」
「どうして? コイツは敵、だったら殺すべき」
「落ち着けって何か変だぞ? いつもの冷静さは何処に行ったんだよ」
何かルスランだって事を伝えた途端不機嫌さと殺気に怒りとかそういうのを隠そうともしないイータ。急変するから普通にビックリしたわ。
「今この場に……ゼータが居なくて、よかったね」
「何でゼータが出てくるんだよ」
「……多分ジョーカーでも……止められない。多分……一瞬で首が……飛んでた」
「いやいや、そもそもそんな事しないだろ」
「……どうかな」
そっぽ向きながらイータはそう言う。
「……じゃあコイツは、どうするの? 正直……近くに居るだけで……不快」
「そこまで言うか、取り合えず聞ける事を聞こうかなって思ってるけど」
「……じゃあアレを……使うと」
「……さっきの事があるから一応聞くけどどっちか分かってるよな?」
「勿論」
「じゃあどっちだ?」
「拷問」
「ちげーよ」
全然分かってないというか冷静じゃないし、隙を見つけて殺そうとしてるだろ絶対に。
「まだ何かの間違いの可能性があるかも知れないからな、殺すのは無しで」
「――ッチ」
「おい、今舌打ちしたか?」
「してない」
まだ何もしてないのに既に心配なんだけど。うっかりでルスランが殺されそうだ。
ひとまず部屋を移動してルスランを椅子の上に座らせてチューブを挿したり、電極を繋いでいく。ついでに自白剤も投与しておく。
そして俺自身も大量のコードを手に巻いていく。このコードは魔力を電力に変換するアーティファクトに繋がっている。大量に用意した電子機器を使うにはこうやって俺が電源になるしかない。膨大な魔力を持つ俺が。
血中に含まれる成分や心拍数に体温で相手の状態を把握して本当の事を言っているか確認する装置達だ。うろ覚えの心理学で判断するけど、これまでの実験でそこまで間違ってなかった事は確認済みだ。
これに関してはアルファには報告していない。前の人造人間計画みたいに徹底的に破壊されるかもしれないし。怖くて報告できない。
「イータ、そっちの準備はいいか?」
「……いつでもいい。……けど、本当に使うの?」
本当に尋問装置を使うのか聞いてきた、まあ話を聞くだけだからそこまで心配されるような事は無いと思うけど。
「話を聞くだけだから問題ない」
「……今回使うのは……改良しようとして……組み直して、それ以降の調整が……まだで、制御が難しいから……使わない方がいい」
勝手に弄ったのか。ある程度電子工学について教えたけどもう俺の手を殆ど離れてるんだよな。ガンマもそうだけど天才は聞いた後に発展させる力が凄い。
「魔力制御に関してはシャドウにも負けないから大丈夫だ」
「いや……ジョーカーの魔力制御は、見た目と……雰囲気に反して……知識の面が大きいから……心配」
「そんな事は無い」
そんな事は無い。俺は魔力の制御を理論立ててやっているだけで感覚でやっていないだけだ。理解して初めて使う事が出来る。前もって方程式を用意しておくような感じだ。どの状況でどういう流し方をするか、どういう出力でやるか、どういう質でやるかを変えているだけだ。
だから技術力が無いという事は無い。……多分。
「マスターは技術だけど……ジョーカーは……知識と質の力技で、解決してる面があるから、否定しても……私は分かってる」
「出力や形状維持したりするのは慣れてるからいける」
「……そこまで言うなら」
なんかマジで渋々了承したって感じなんだけど。本当に難しくなってるのか?
「じゃあ始めるぞ」
そう言いながらまた手で頭を掴んで魔力制御により今度は強制的に起こす。そしてそのままコードに魔力を流し始める。……何か思ったよりも抵抗があるな流すときにちょっと力を込める感じで送らないと流しにくい。
「うっ……ここは?」
「気分はどうだ?」
「君は……何者だ」
正体を知られる訳にはいかないので曇りガラス越しに話をしている。それとあわせて声帯も弄って元の声とはかけ離れた声で話しかけている。話し方もシュウの時じゃなくてジョーカーの時の話し方でいってるから、バレる心配は無い。
「時間も無いからな手早くいこう、十年ほど前お前はルクレイアという研究者を殺した。合ってるか?」
「知らないな」
計器を見ると嘘をついている時の反応だった。……成る程。
「何の為に殺したんだ?」
「知らないと言ってるだろう!」
そうルスランが言った途端電流が流される。叫び声を上げながら苦悶の表情を浮かべる。……あれ? 俺は確か尋問用をセットしたはずなんだけど何で拷問用の機能が使われてるんだ? 流石にイータに聞く。
「おい、話の聞くだけだって言っただろ、何でこの機能が動いてるんだ」
「……そういう事もある」
「ねぇよ」
確信犯だった。マジで隙を見て殺そうとしそうで怖いな。この装置というかこの設備は俺と誰かの二人でしか起動できないから、任務で遠く離れる事の多いゼータよりもイータに手伝ってもらう事の方が多い。だから信頼してたんだけど、今日はいつに増してイータが攻撃的だった。何故だ。
「こっちの設備で嘘をついてるかどうかは分かるんだ、余計な苦しみを味わいながらその少ない寿命を削りたくないなら本当の事を話し続けろ」
もう多分勝手に電流を流すだろうから、流すタイミングの誘導だけして後は任せよう。俺は不安だけどイータを信じる事にした。頼むから嘘を言ってる時だけにしてくれよ。
「もう一度聞く、何の為に殺したんだ?」
「はぁ、短くまとめると、私は一度ラウンズの座にまで上り詰めた事がある。だがその後病に罹ってね、その栄光は直ぐに終わってしまった。そこで私は病を治す方法を探した。そこで出会ったのが彼女だった」
計器に反応は無い。本当の事を言っている様だ。マジか。教団員でしかも元ラウンズだったのか。
「本当の事を言ってる様だな」
そう言うとまた電流が流される。何で? 後そんなに景気よく電流を流さないで欲しい。俺の魔力が思ったより早く削られるから。
「おい、今のは本当の事を話してたぞ。流す必要なかっただろ」
「……ディアボロス教団……滅ぶべし」
「いつもそんな事言って無かったし考えてなかっただろ」
もういいや。ルスランが死ぬかイータの怒りが収まるかどちらが先になるのやら。
「まだ続きがあるんだろ?」
「クソッ! 『強欲の瞳』を見つけた後、彼女に出資する事で学会から嫌われていた彼女に研究をしてもらった。だがある時あの女は『強欲の瞳』が危険だから国に保管してもらうと私に無断で国に申請をしていた」
「だから殺したのか」
「そうだ。身体の先端から中心へと順に突いていき、最後には心臓へ剣を突き立て捩じってやった。苦痛に顔を歪ませながら血を流し血を吐きながら死んでいく彼女を見ている時は心が満たされたよ」
成る程とんだド外道だな。反吐が出る。そう考えていたらまた電流が流される。うん今のは流していいな。
「うっ……だが私はまた振り出しに戻ってしまった。……手元に残ったのは解析も研究も出来ていない『強欲の瞳』だけだった。私は次に研究できる人物を探したよ。そしてその研究者は直ぐに見つかった」
「シェリー・バーネットの事か」
この事を知ってからシェリーをバーネット性で呼ぶのは気分が悪いな。
「そうだ。あの子は何も知らずに私を疑わずに私の為に尽くしてくれたよ。私が母親の仇だとは知らずにね。愚かで可愛い娘だったよ」
そう言い終えたルスランは既に死にそうな表情になっていた。そらそうよ。
「『強欲の瞳』をどうやって使うつもりだったんだ?」
「何故そこまで言う必要があぁあああッ! 分かった話す。だからそれを止めろ」
こうなる事は既に分かってるだろうに何で抵抗するのか。これが分からない。
「副学園長という身分を最大限活用し学園で使い魔力を回収した後、修復された制御装置を使って病を治し再び実力でラウンズの座に戻る予定だった。その学園での一連の出来事は貴様らシャドウガーデンの罪として知れ渡るように手配も進めていた」
「――は?」
今何て言った? さっきの一連の事を俺たちシャドウガーデンのやった事にするつもりだっただと? コイツ……コイツだけは許せないな。
思わず姿を隠していた曇りガラスをぶち抜いてルスランの胸ぐらを掴む。姿を隠すとかもうどうでもいい、シェリーとシェリーの母親にやった事も勿論許せない事だけど、今回のこれはトップレベルで許容出来ない事だ。
この世界での居場所がシャドウガーデンしか無い子達は沢山居る。それをその居場所さえも壊す様な真似は絶対に許す訳にはいかない。今すぐにでも殺してやりたくなってくる。
その作戦が上手くいっていたらシャドウガーデンはミドガル王国では犯罪者集団として名を馳せていたかもしれない。いや、ミドガル王国だけじゃない付近の国家も揃って同様に扱っていたかもしれない。
敵が増えて何を成し遂げても報われない事になっていただろう。そうなるとただでさえ悪魔憑き時代に迫害されてきた者たちで構成されているシャドウガーデンだ、互いに深い溝が出来てディアボロス教団を壊滅させても後の暮らしでまた辛い思いをする事になっていたかもしれない。どうであれお先真っ暗な展開が待っていただろう。俺の目が黒いうちはそういう事は絶対にさせない。
「数日前にシャドウガーデンの名前を騙る奴らが出てきたのもアンタの作戦だったのか」
「そうだ、気に入ってくれたかな? ジョーカー君いや、シュウ・ヤーク君」
今頃俺の正体がバレた所で問題ない。後で絶対に殺す。
「シェリーはどうするつもりだったんだ」
「用が済んだら処分するつもりだった」
「利用するだけ利用して最後にはサヨナラってか?」
「それが一番効率がいいと思わないかね?」
「……下衆が」
聞いてるだけで気分が悪くなる。胸糞悪いったらありゃしない。とっとと『強欲の瞳』を回収してコイツの計画を全て潰そう。それが一番だ。そう思って服とかを探ってみるが何も持っていない。
「『強欲の瞳』を探しているのかね?」
「そうだ、何処にある」
「ここには無い」
「――何?」
ここには無いだと? そんな事あるか? コイツは『強欲の瞳』を使って自分を治癒する作戦を立てていた、なら常に肌身離さず持ってるだろ普通。
「ジョーカー、君達はやり過ぎたのだよ」
「やり過ぎた?」
「そう、やり過ぎたんだ。君は教団員を殺しすぎた。あの日の晩、君はシャドウガーデンの名を偽っていた者たちをほぼ全て殺してしまった、おかげで人員がとても減った」
「それで? それの何処が問題なんだ」
「更に君とシェリーを襲わせに向かった連中も殺された、皆殺しだよ」
「だからその事の何が問題だったんだ」
「私は増員を要請せざるを得ない状況になった、ミドガル王国に拠点を構えているフェンリル派に求めたら本人が来たのだよ」
「フェンリル? 確かラウンズの第五席の奴の名前と一致するが」
いや、まさかそんな大物がわざわざ出てくるとは思えない。
「そう、そのフェンリルさ。彼は『強欲の瞳』を気に入ってね、私の作戦と残っていた人員と『強欲の瞳』本体など根こそぎ持って行ったのだよ」
「成る程」
ならもうコイツからこれ以上聞く事は無いな。コイツの処理はもうどうでもよくなった。コードとか持っていたものを全部外して装置を動かすのを止める。スライムスーツを起動してこれから行う掃除に備える。
「イータ」
「……何? もしかして……まだ勘違いの……可能性が、あるとか……寝ぼけた事は、言わない?」
「言わねぇよ、コイツの処理は好きにしていい」
多分こうした方が死ぬより苦痛を与えられる気がする。
「本当に?」
「ああ、これからやらないといけない事が出来たし。殺すなり解剖するなりバラすなり好きにしていい」
「……そう。やっぱり……傷ついた?」
「少しはな」
本当にこの世界は嫌になる事が多い。元の世界に帰れるなら帰りたい。元の平和な日本に。シャドウガーデンの皆も連れて、敵とか戦いとかそういうのを何も考えなくていい様なそんな場所で過ごしたい。
ごく普通の平和という幸せを味わって欲しい。あれが、あの平和がどれ程尊いものだったのか、失ってから初めて実感できる。
「少し本気出してくる、多分またここに来るのが少なくなると思う」
「……どのくらい……来ない?」
「少なくとも三日間は来ない。アイツが残したやつの処理をしないといけないし、紅の騎士団の方にもある程度説明しないといけないし」
「……やる事……いっぱい」
それにシェリーの方のフォローもしないと可哀想だ。真実を伝えるか伝えないべきか。どの道ルスランとは別れて貰うけど、どっちがマシなんだ。
「そうだ、ルスランの病気なんだけど」
「……ん?」
「急死しても怪しまれないやつだよな?」
「……多分そう」
大体の作戦というか計画は出来た。後はその準備だな。それをするよりも先にシャドウガーデンに擦り付けられそうになってるものを処理しないと。それに大量の金貨を持って行かないとな。アイツにも手伝ってもらおう。この世でアイツ程演技力が高い奴を俺は知らない。
「それじゃあ行ってくる」
「……待って……コレ」
そう言ってイータは俺に見覚えのある物を渡してきた。
「これはマイクと……イヤホンか」
「そう……ここまで、小型化出来た」
「助かる」
「……それと……少し屈んで」
俺は言われるがままに屈むと、イータは俺の頭の撫でてきた。……どういうつもりなんだ?
「何でこんな事するんだ?」
「ジョーカーは……頑張ってるから……褒めてあげようと」
「子供扱いするなって」
「……私の方が二歳年上、つまり……私の方が大人」
「そんなに変わらないだろ二歳何て、誤差みたいなもんだ……でも……ありがとう」
最後の呟きが聞こえたか聞こえなかったかイータの表情を見たら分かるだろうけど、俺は見なかった。そのまま背を向けて速足で立ち去って行く。恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。
でも元気が少し出た。俺はまだやれる、頑張っていける。
まず訪れたのはよみにち新聞とは無縁の新聞社、あそこはベータが気が付くはずだからスルーして大丈夫。何処がグルか分からないから片っ端から当たっていくしかない。今日の朝までには全ての準備を終えていなくてはならない。そうじゃないとフェンリルへの対策が間に合わなくなる。
大丈夫だ作戦は分かってる、何を使うつもりなのかも分かってる、何処で起こすつもりなのかも分かってる。だったら対処は出来る、必ず何をするにしても潰してやる。
そこからは本当に片っ端から出版社や新聞社を調べていった。誰にも気が付かれない様に痕跡一つ残さず、事前に用意されたシャドウガーデン記事だけ綺麗に消していった。余程用心深かったのかルスランはかなりの数を用意していた様だった。そのおかげで想定以上に時間が掛かった、最後までムカつく奴だ。やっぱり自分の手で始末した方がよかったか?
そう思い街を一望出来る場所で少ししゃがんで休む。流石に疲れてきた。昨日の朝からいや、それ以上前から随分と休んでないというか寝てない気がする。一体いつから寝てないっけ? ダメだそういう事を考えると眠たくなってくる。まだまだやる事があるというのに休んでる暇なんて無い。
後はシドの所に行って協力してもらおう、流石に一人で三役も出来ない。せめてルスランの方は協力して貰わないとキツイ。
そしてシドの寮に行って窓から勝手に入らさせてもらう。周りの奴らが起きると面倒だからな。
「シド」
「ん? あれシュウじゃん、元気無さそうだけどどうしたの?」
「手伝って欲しい事がある」
「悪いけど今僕は療養中なんだ、外に出る事は出来ないよ」
何で療養中なんだ。
「何があったんだよ」
「最近忙しそうにしてたから知らないだろうけど、僕は陰の実力者を極める為にモブロールを完璧にこなしていたんだよ」
またアホな事をしていたに違いない。
「そうか、具体的にはどうしたんだ?」
「まずブシン祭の予選大会で一回戦でローズ会長と対戦する事になったんだ」
「ほう、それで?」
「攻撃は敢えて避けずに受け、血しぶきを舞いながら吹っ飛ばされる僕ッ! 完璧なモブだったよ」
「そうか」
聞いてる限りだと一回戦で負けるモブ中のモブって感じだな。
「何度も吹っ飛ばされ何度も血反吐を吐き、もう最高なモブ式奥義の披露会だったと思う」
「……何度も?」
今気になる事を言ったな、何度もって。初めの一回でやられた訳じゃないのか?
「何回も攻撃を受けたのか?」
「そうだけど? モブ式奥義を披露したかったし」
「その為に何度も吹っ飛ばされ、何度も血反吐を吐くも立ち上がったのか?」
「うん、そうだけど」
あーうん、それはただの不屈の男なんだわ。何度やられても立ち上がってくるのはそれはもう陰の実力者とかモブとかじゃなくてただの主人公だよそれは。
本人が気が付いていない様だからそのまま無視しておくけど。
「そうか、ならどの道部屋から出られない訳だ」
「そうでもないけどね」
「とにかく俺の用事を手伝ってくれ」
「えー」
仕方ない、使わずに済むならいいと思っていたけど結局この目の前の男を動かすにはこれが一番早い。そう思い俺は懐から袋を出す。
「それは?」
「2500万ゼニー」
「成る程、話を聞こう」
「そうこないとな」
俺はシドに作戦と計画を伝えた。これから忙しくなりそうだ。これが全部終わったらちょっと旅行とかに行きたいな。リンドブルムとか温泉が有名だったし、そこで疲れを癒すのも悪くないかもしれない。
ここまでご覧くださりありがとうございます。
次回も見て下さると嬉しいです。