陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
俺は計画を伝えた後そのままシドを担いで運んでいた、正確には変装させたシドをだけど。
「ねえシュウ、こんな事する必要ってあるの? どう考えても割に合わないと思うけど」
そう教団員の恰好に変装させたシドが俺に問いかけてくる。
「あるからこうしてるんだろうが。待っててこれ以上後手に回りたくないってのと、多分事が起きたら下手したらヤバいぐらい人が死にそうだし、それに割に合わない事をするのは今更だしな」
「死ぬのって顔も名前も知らない人が殆ど何でしょ? どうでもよくない?」
俺はあんまりな事を言うシドと一回立ち止まって話をする。
「お前はそれでいいだろうけど俺はよくないからこうして何とかしようとしてる訳だ。それに何とか出来るのに何もしなかったってのは嫌だからな」
「そういうものなんだ」
「そういうものだ」
それに口には出さないけどこの間ルスランから聞いた話的に俺がやり過ぎたのが原因な所もあるから、そこの責任はしっかりとらないといけない。
先に済ますべき案件が何個かある上にその後本気で戦わないといけない危険な奴が居る。他の皆には任せられない様な明らかにヤバい奴だろう。このまだ準備が整っていない状況で表に引きずりだしてしまったのは俺だ。
どのタイミングで強欲の瞳が使われるのか聞けなかったし、現状使われるタイミングは未知数で相手の気分次第で変わるだろうと思っている。ただ何となくの予想は付いているけど。
恐らく使用してくるタイミングは四日後辺りだろうと思っている。その次の日からは三年は課外活動で学園から離れてしまう。より多くの魔力を確保したいならばその三年がまだ居る四日後までに何とかしたいだろうからな、それに今週は近々生徒会選挙の関係で講堂に多くの生徒が集まる機会もある。これを逃す手は無いだろう。
事前に対処したかったから、ああやってあの日の晩は罠っぽいものを張ったのに余計にややこしい事態になった上にフォローしないといけない相手や事柄が増えた。
当初の予定では強欲の瞳も回収し終えて何もかも終わらしているつもりだったけど、人生とは上手くいかないものらしい。
そして今回は多くの人の命が懸かっている。ゼノンの時はアレクシア王女とミリアの二人だけだった様なものだったけど今回は違う。それもこの学園に所属している多くの人間だ。顔も名前も一回調べたけど憶えていない人が殆どだ。それでも見殺しとかそういう事はしたくない。
今まで俺は多くの人間を、一応どれも悪人だと断言できる連中ばっかりだったけど、この手で殺してきた。それがこの世界で仲間や普通に平和に暮らす人を一人でも多く助けられると信じてそうして来た。
死ぬ事が辛く苦しく、何よりも恐ろしい事だと誰よりも俺は知っている。一回経験しているからな、もう二度とあんな経験はしたくない。だから助けれるなら助けたい、理由なんてそれだけだ。
「それに他人を簡単に人を見捨てないのはお前が望んだ主人公像ってのに多分合ってるだろ?」
「そうな様なそうじゃない様な」
「どっちなんだ……とにかく俺は自分のやりたいように動かしてもらう。文句は無いよな?」
「別にいいんじゃない? それで君が満足するなら」
満足か……こんな事で満足はしない。教団を完全に壊滅させないと安心出来ないし満足も出来ない。今まで生きてきて多くの人と関わって大切なものが増えた。失いたくないものとか手放したくないものとか色々と出来た。前世では無かった経験と体験だ。
やれと言われて世間のいう事に流されて生きていた前世とは違って今は多分能力も才能もある。だから今世では何か一つでも胸を張って成し遂げたと言える事をしたい。最低でも自分の居場所と慕ってくれている人達と、名前で呼び合えるぐらいの関係の人達ぐらいは守りたい。……こう考えると意外と多いな、思ったより俺も強欲だったらしい。
ただそんな考えは今は置いておいて、今対処しなくてはいけない案件の一つである『紅の騎士団』の所に向かっていた。罠っぽい物を張った時にアイリス王女と約束したし、伝えないといけない事はしっかり言わないといけない。
ただルスランが敵だった事はシェリーの為にも黙っておくつもりだ。ルスランは病気が悪化して急死した、そう言う路線でいく。それが彼女を、シェリーを一番傷つけないでルスランと別れさせる方法だと思う。あの歳だし普段から咳込んでいる事も多かった、病で急死というのは自然な流れで誰も疑わないだろう、割とありがちな話だ。
それにシェリーはそのルスランと一番近い所に居た、いつかそういう日が来る事も覚悟してくれていた筈だ、そこは彼女の普段の感じ方で変わってくるだろうけどそこはもう信じるしかない。
辛いだろうけど本当の事を知るよりは何倍もマシな筈だ。ルスラン本人から聞いた話は今のシェリーには辛すぎる話だ。このまま黙っているのが優しさだと思う。この先真実を知った時は正直に話せばいい。その頃には精神も成長して受け入れる事が出来る様になっているはずだ。
「じゃあ今朝話した内容を問いただされた時に答える。それだけでいいからな?」
「分かってるって」
最後にシドに確認をとってから紅の騎士団の他の人達が既に集まっている部屋の扉をノックする。
大丈夫だ、作戦は考えた、準備も進めている、多分これが最善の選択だった。後はそれを信じて覚悟を決めるだけだ。上手く事を運ぶことが出来たら多くの人を助けられる。全力で事に当たる、それだけだ。
「シュウ・ヤークです。入室してもいいでしょうか?」
「……どうぞ」
扉の先からアイリス王女の入室を促す声が聞こえたのを確認してから部屋に入る。
「昨日の晩確保した人物です。資料室を張っていたらコイツが来ました。恐らく教団の者かと」
「成る程、既に情報は聞き出したりしましたか?」
「多少は聞き出しましたがまだ言っていない事があるかもしれません」
本当は全てルスランから聞き出した上に連れてきたのはその手に入れた情報を教えたシドを変装させた奴なんだけど、ここで情報を吐いた風に見せないと色々面倒な事が後で起きるかもしれない。
それに紅の騎士団の実績も必要だ。ここで捕らえて情報も聞き出せたという実績が今のこの組織には必要なのだ。だからここで嘘を言うのは間違いじゃない、これからを考えると必要な事のはずだ。
「では残っているであろう情報を聞き出して行きましょうか。グレン頼んでもいいですか?」
「任せて下さい」
そう言ってシドはグレンさんに連れていかれた。ちゃんと普通に話してくれるだろうか、心配だ。
「そういえばシュウ君、何故あの様な作戦を取ったのですか?」
「えっ? ああ、ええと、そうですね」
急に聞かれたから驚いてしまった。アイリス王女は俺が何故ルクレイアさんの事件を追うと言ったのか気になっているみたいだ。至極真っ当な疑問だろう、俺も同じ立場ならそう思うし聞くだろう。
「そうですね、シェリーとルスランさんから聞いた事がきっかけで思いついた作戦でして」
「どの様な事を聞いたのですか?」
「解析している途中でシェリーが母親であるルクレイアさんが研究していたものと同じものがあると言っていたのでもしかしたら重要なヒントがあるかもと思ったのです」
これは半分嘘で半分本当の事だ。イータに指摘されたからもう一度色々と探りなおす必要があった事と、情報を辿れば本体に行きつくと思ったからだ。実際はとんでもない真実も出てきたけど。
少し聴力を強化してシドがキチンと話しているか聞いてみると随分と口が軽い感じになってベラベラと情報を話していた。
……いやいやこんな口が軽い奴が居る訳ないだろ何考えてるんだアイツは。
俺は早くもこの作戦が失敗に終わる未来が見えてきて不安になって来た。
「成る程、それで次の動きは決めているのですか?」
「それはこれから得られる情報次第です、まだ情報が少ないですから。下手に作戦やこれからの方針をたてても後から変えなければいけないというのは少し大変ですから考えていないです」
先ほどから嘘を交えて報告しているけど、まだ作戦をたてていないというのは本当だ。
あのフェンリルという奴の情報がかなり少ないからどう対処すればいいのか悩んでいる。今ある一番の火力を叩きこんで殺せるか分からないし、そもそも通じるか分からない。通じなかったり当たらなかったりすると丸々二年ほどの準備期間が無駄になる。
それにいま出来る攻撃回数はたったの一回だけだ。霧の龍と戦ってから準備し始めたシドの奥義とはまた趣向が違う当たれば必殺の一撃は準備に時間が掛かるのだ。アイツみたいに全てのリソースを魔力で構成されている訳ではないから、どうしても時間と手間がかかる。
「それで騎士団の方はどうでしたか?」
「そうですね個人的な主観での話になりますがそれでもいいでしょうか」
「大丈夫です」
「では、まだ教団の手の者が居る感じがします。アイリス王女達に言った事は情報が洩れる前提だったのですが、それでもその日のうちに仕掛けて来たあたりまだまだ油断ならない状況です。また抜き打ちで調査し排除を進めていくしかなさそうです」
これに関しては本当だ。思ったよりも来て欲しくなかった大物が来たけど、おかげで情報が大量に手に入った。知りたくなかった情報まで。
そう話しているうちに向こうの尋問が終わった様だ。物凄く口が軽い奴になっていたけど、本当に大丈夫だっただろうか。
「アイリス様、問題が」
戻って来たグレンさんが部屋に入ってすぐにそう言った。
「一体どういう問題があったのですか?」
「はっ、あの例のアーティファクトは強欲の瞳という物でして何やら学園で使用する計画らしく、本体はまだ出てきていない様です」
「その……強欲の瞳はどういう効果があるのですか」
「魔力を吸い上げ効果範囲内に居ては全く使えなくなる様で、対象は選べるらしくその状況下で襲撃されると下手をすると一方的にやられる可能性が」
「だとしたら四日以内に使われそうですね」
「どうしてそう思うのですか?」
「吸い上げた魔力を利用するなら人が多い方がいいはずです。そうなると三年が課外活動で外に出かける前にやる筈です。そうなると四日後までに行動をしてくると思います」
「成る程」
その報告と俺の予想を受けてアイリス王女は目を瞑って腕を組んで悩んでいる。
「……三人共このまま引き続き護衛をお願いします。私は近場で何かあった場合に備えて待機しておきます。それとこの事はアレクシアには内密に、あの子はこういう事に首を突っ込む子ですから」
「そうですね、アレクシア王女ならすぐに本体を探し出し始めそうですね」
「違いないですな」
俺とグレンさんはそれぞれアイリス王女のアレクシア王女に対する対応に納得した。本当にあの王女様なら突っ込んでいきそうで困る。
「聞き出したアイツはどうしますか?」
「独房に入れておきましょう」
そうして貰うと助かる、後でシドを回収するのも楽だしその後情報を話しすぎたという体で獄中死をさせても問題ないはずだ。
「それでは自分が連れていきます」
「分かりましたシュウ君、お願いします」
「それでは」
そう言って俺は隣の部屋に連れていかれていたシドを回収しに来た。
「もう何も知りまぜん! 許して下さい!」
「もう人は居ないからその芝居を止めてもいいぞ」
「あっシュウだったんだ」
ずっとこんな感じで言うから怪しまれないか心配だったわ。二度とコイツにはこういう事は頼まない様にしよう。そうじゃないといつか絶対にヤバい事になる。
「取り合えず一回独房に向かうぞ」
「また牢屋に入れられるの僕?」
「一瞬だけな、直ぐに本物と入れ替える」
「これが終わったらどうするの?」
「少なくともお前は明後日まで部屋に戻らないでくれ」
「何で?」
「今部屋に居ないのはクラウンで集中治療室に入ってるという書置きを置いておいたから」
「姉さん対策?」
「そう、こうでもしとかないとあのブラコンお化け探し回りそうだからな」
先にクラウンの子達にも面会出来ないとして追い払ってくれって伝えてるし、何かあってもイータが対応する手筈になってる。対策は完璧だ。
「準備がいいね」
「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」
「ははは」
「笑い事じゃねぇよ」
そしてそのまま独房には何も知らない一般教団員を入れて俺たちはそのまま立ち去って行く。シドは誰にも見られない様に何処かへ行った。
俺はそのままシェリーの所へ戻る事に。これからする事もかなり大変だ。
少し進んだ所で何か背後に気配を感じたので振り返るが何も変わったものは無かった。ただ白い霧の様なものが少しだけ漂っているだけだ。この今居る独房が並ぶ場所は換気の悪い地下でタバコを吹かしている看守も居る。何もおかしい所は無いはずだけど。
妙な気配だけが感じられる。見られている様なそんな感じのものが。
暫く観察したけど何も掴めなかった上に気配も感じられなくなった。何か絶好のタイミングを逃した気分だ。
俺は諦めてそのまま地下独房所を後にした。
そしてシェリーの研究室に戻って見守りながら少し休んでいた時だ。突然誰か知らないが部屋に入って来る。本当に誰だ。
「大変です! ルスラン副学園長がッ!」
「え? お義父さまがどうかしたのですか?」
「急に苦しみだして倒れました!」
身内だからシェリーにその事を伝えに来たのだろう。正しい判断だ。
そしてここからもまた辛い役割をこなさないといけない。何とかシドを誘導してルスランが自然と病気で急死した風に見せないといけない。……今更だけど自然と病気で急死ってなんだ、急死に自然も何もない気がするけど、でも多分これが一番シェリーの精神への負担が少ないはずだ。
「……倒れた? お義父さまが?」
「シェリー?」
思っていた反応と違い固まるシェリー、もっとこう急いで駆けつけようとすると思っていたけどまさかこうなる事を何も想定していなかった訳じゃないよな? 俺が見ていた中でも何回か咳込んでるルスランを心配して駆けよって背中を摩る光景は何度も見ている。だから当然こういう時が来るという事は分かっていると思っていたけど。
「お、お義父さまがどうしよう……どうしましょう」
「何よりも本人に会う事が一番大事じゃないかな?」
「そ、そうですが、そのまさかこんな事が起きるなんて。まだまだ先の事だと思っていたので」
そう言いながらその場で立ちすくむシェリー。
成る程、いつかこういう日が来るとは思っていたけどこんな直ぐに来るとは思っていなかったと、そういう事か。それは仕方が無い事だ。
「シェリー辛い事かも知れないけど本人に会いに行くべきだ」
「それは……今が最後の機会になるかもしれないからですか?」
「そうだ。だから会いに行った方がいい」
そうして貰わないと困るというのもあるけど、こういう事を乗り越えないと彼女は次に進むことは出来ないだろう。
今までの生活が全て偽りの物であったとしてもシェリー本人にとっては楽しい思い出もあっただろうから、それは楽しい思い出のままで悲しみは別れの悲しみだけで済ませてあげたい。裏切られていたという悲しみをわざわざ突きつける必要は無い。
そう思いながらこちらを見上げていたシェリーにそう言った。これはまぎれも無い本心も混ざっている。俺は前世では親より先に死んでしまうという最大の親不孝をしてしまった。まだ果たせていなかった約束とか返したい恩とか沢山あったのに全部何も告げれずに死んでこの世界に来てしまった。
だからこれから会うルスランは本人じゃ無いけど、シェリーにはその今までの思いを伝える機会をあげたい。前世では俺が出来なかった事を。
「研究の事は今は気にしなくていいよ。それよりも家族との時間を優先していいんだ」
「……はい、それではいってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
そう言って俺はシェリーを見送った。まだシェリーがルスランを置いてる部屋に着くまでは時間が掛かる。それまでにこの強欲の瞳の制御装置のコピーを作らないといけない。シェリーが頑張ってくれたおかげで調整はほとんど終わっている。後は推定Xデーまでにこちらで調整したものを用意できれば何とか対抗できるかもしれない。
スライムを制御装置に纏わせて一気にその回路や形状などその他諸々をそっくりそのまま形作っていく。急いでやらないといけない。ただこれが上手くいくとは思っていない。相手も相応の対策を講じているはずだ。だから何重にもプランを用意しておかなくてはいけない。
準備にやり過ぎは無い、足りないより必要なかったの方が圧倒的にいい。確実に勝つ為に何でもしないと俺では勝てる可能性がかなり低いはずだ。
……これでコピーは取れたから後はシェリーを何とかルスランと別れさせる事に集中しよう。日の出ている内はシェリーのフォローをして、日が沈んだらフェンリル対策にその辺を細工をしていくしかない。
そろそろ部屋に着くから移動しないと。
容態が急変してから一向に目が覚めないルスランを前にシェリーは悲しそうな表情をしてその手を握っている。本心から心配しているというのが少し離れた位置から見ていても分かる。ただそれは本物のルスランじゃなくて背丈が似ていた教団員の死体をそのままスライムで側を作ってルスランに見せているだけだ。
それに仮にもし本物だとしてもその手は母親を殺した男の手だ。そんな事を知らずに目を覚まして欲しいと願いながら手を握っている姿を見るのは痛々しい事この上ない。真実を知っている身からすると本当にこの光景が優しさだけで出来ていたらどんなによかったかと思う。
そう思いながら見ていると数日ぶりに会う気配が近づいてきていた。
「ジョーカー様」
「ニューか、悪いけど今はちょっと手が離せないから何も出来ないんだ」
「いえ、お話だけでも聞いて頂くだけで結構ですので」
「じゃあ先に聞くよ、集中し始めたら多分何も聞けないから」
突然学園にニューが来ていて少し驚いたけど、何回か来ていてシドと会っていたのは知ってるからどちらかというとこのタイミングで何かあったんじゃないかという心配の方が大きい。
「先日よりゼータ様はもとよりガンマ様以外の七陰の皆さまが王都を離れました」
「――は? えっマジ?」
俺が結構驚いて素っ頓狂な事を言ったからニューも驚いてるけど、このタイミングでそんな事言われた俺も結構驚いてる。
「イータも離れてるのか?」
「はい、イータ様もアレクサンドリアに取りに行くものがあるという事で一旦あちらに行かれました」
イータの奴クレアさん対策でクラウンの事頼んでおいたのに離れたのか。大丈夫か?
「……アルファとベータは?」
「アルファ様とベータ様はリンドブルムに先行調査に行かれました」
「イプシロンはまだオリアナだっけ?」
「はい」
「デルタは?」
「分かりません、デルタ様は自由に動くので」
「成る程そうか、それは困った」
「?」
ニューが不思議そうにしている。そう言えばこの事ってまだシャドウガーデンの本隊の方には伝えてなかったか。イータと話してたから伝えてるつもりだったけど、よく考えたら籠って研究をしている事が多いから向こうに話を持っていく可能性がかなり低かったな。
「あー、えっと、その。ちょっと大変な事になっていてな」
「はぁ」
「どうやら近々この学園でフェンリル本人が何かしてくるっぽいんだよ」
「えっ?」
「強欲の瞳っていうアーティファクトを使って学園で何やら企んでるという所までは掴んだけど、それを報告するの忘れてた」
「何を考えているのですか?」
「悪い」
呆れた表情でこちらを見てくるニュー。
言い訳も出来ないぐらいにアホな事やらかしていたな。
「その決行の日は予想などは既についてるのですか?」
「強欲の瞳を使用するならば四日以内に事が起きるだろうなって思ってる」
「四日以内ですか、誰も帰ってこれないですね」
「だろうな」
さてこの事態を解決するならば本格的に俺が何とかしないと、マジで一人で何とかしないと責任が取れない。
「この件だけど……俺が何とかする」
「お一人でですか?」
「ああ、この責任はちゃんと取る」
そうニューと話している内にシェリーを部屋に案内していた奴が漸く何処かへ行った。これでやっと本格的にルスランを病死させる作戦を実行できる。
「先ほどから何をなさっているのですか?」
「あの子の父親が教団の者でこれからフェンリルがやろうとしてる事はあの男が元々計画していたものでな、流石に可哀想だから何も知らせずに別れさせようと思ってな」
「つまりあそこで寝ているのは偽物? 一体誰が中に居るのですか?」
「中身はこの間夜に教団員を殺しまわっただろ? その時の死体をベースにしているんだよ」
「つまりこの距離でスライムを操作しているのですか?」
「ああ、中に仕込んだスライムを駆使して話している感じに見せてるんだよ。詳しい説明は省くけどそれなりに動かせて尚且つ人体の構造を把握してたら喋らせるぐらいニューにだって出来る筈だ」
「……そうは思えませんが」
面倒で疲れる方法だけど、これぐらいしか出来ないからこういう方法を取っている。これ以外の方法があったらって何度思った事か。
「取り合えず会話に集中するから少しの間話しかけないでくれ」
「分かりました」
そうして俺は遠く離れたスライムの操作に集中し始めた。
泣いて疲れて少し伏せていた時だった。握っていたお義父さまの手が少しだけ動いたのを感じ取って私は顔を勢いよく上げた。
「お義父さま、大丈夫ですか?」
「シェリーか、心配をかける」
「心配なんてそんな」
心配はしている、当たり前だ家族だから。
「具合はどうですか?」
「もう大丈夫だ、心配ない」
そういうお義父さまだが次の瞬間には咳込んでいた。それも血が混じったものが出てきていた。シュウ君の言う通り本当に長くないのかもしれない。
「アーティファクトの殆どの部分の解析が終わりました。調整も殆ど終わりました。だからその……結果が出るまでもう少しなんです!」
お義父さまは何も言わずいつもと変わらない温かい表情で私を見て、言葉の続きを待っている。
「だからお義父さまにも私がちゃんと一人前になれたという姿を生きて見て欲しいです」
「大丈夫だよシェリー。頑張っている姿は知っている、全力で何かを成し遂げようと頑張っている姿も知っているさ。ずっと見てきたからね」
「……お義父さま」
何故だろう、お義父さまと話している筈なのにその奥に彼のシュウ君の姿が見える気がする。温かい表情を向けてきている筈なのに何故か今までとは違う気がする。
今までのお義父さまはもっと何処か遠くを見て居た様な、優しい笑みの奥に何か隠されていたような気がする。私の事をずっと見てきてくれていた筈なのに今日のお義父さまが一番よく私を見てくれている様なそんな不思議な感じが。
「君はもう一人前だ、他の誰でもない私がそれを保証する」
「私が一人前?」
「そうだ、君の事は誰もが一人前の研究者と認める筈だ。多くの人が君の事を凄い人だと思ってるよ。もしより上を目指すならもっと外に目を向けなさい、新しい出会いがある筈だ。より多くの事を知りたいならもっと多くの人と話をしなさい、多くの人が君を、シェリーを助けてくれるはずだ」
「……外に目を向けて……多くの人と関わる」
「そして新しい人生を歩みなさい……私はもう長くないからね、それだけが心配だ。君がこれから一人になってしまわないかと」
そのお義父さまの言葉に言葉が出ない。覚悟なんてしていなかった、まだまだ一緒に居られると思っていた。だからもっと話をしていたかった。もっと話をしておけばよかった。でも今更そう思っても遅い、お義父さまは今日が峠だろうという事は医学に詳しくない私でも分かる。
溢れてくる涙を拭こうとしてハンカチを取り出そうとしてポケットに手を入れる。そして取り出したのは包み紙だった。
「あれ? ハンカチはこっちじゃ無かった」
そして反対側のポケットからハンカチを出して涙を拭う。
その時ふと思った、この包み紙はシュウ君と初めて外へ出かけた時にご馳走して貰ったまぐろなるどのハンバーガーの包み紙だ。
「……懐かしいなぁ」
思わずそう呟いた。あの頃はまだまだ平和だったとそう思って。
「それは?」
「これはシュウ君と出かけた際の思い出です」
「そ、そうか。思い出なら持っていてもおかしくないな」
何だか少し変な口調だった気がするけど。気のせいだろう。
「お義父さま、私決めました」
「何をだいシェリー?」
「今後お義父さまの様な方が病気に苦しまない様に治療出来るアーティファクトを研究して作ります。だから、その……これからも見ていてくれますか?」
少し驚いた表情をしていたお義父さまだったけど、直ぐに笑顔になり小指を出して指切りのしようとしてくれている。
「約束しよう、ずっと君の事を見守ると」
「はい、約束ですよ」
そうして私たちは指切りをして約束をした。
その日の晩、お義父さまは静かに息を引き取った。その表情はとても安らかなものだった。
ルスランが死んだ次の日学園を挙げてのルスラン副学園長の葬儀が一日かけて行われた。そして更に次の日埋葬まで終わった後俺は墓の前で立ったまま動かないシェリーの側による。雨が降っており、傘をさしているから表情が見えない。
「シェリー、惜しい人を亡くしたな」
「そうですね」
「大丈夫か?」
「悲しいですけどお義父さまと約束したので、前を向いて行こうと思っています」
「よければどんな約束をしたか聞させてくれないか?」
本当は全て知っているけど、シュウとしてキチンと聞いておきたかった。
「多くの人の治らないと言われていた病気を治せるようなそんなアーティファクトとかを作れるようになると、そう約束しました」
「……いい目標だ、心の底から応援するよ」
本当にいい目標だと思う、俺なんかよりよっぽどシェリーは強くなっている。特に精神面で成長している。
前を向いて次に何をするかを決めている、これほどいい状況があるだろうか。多分無いだろう。
「あのアーティファクトの研究が終わったらラワガスに留学しようと思います」
「ラワガスか、それは目標の為?」
「はい、多くの人と関わってもっと多くの事を知りたいので、前に来ていた留学のお誘いを受けようと思いまして」
「いいんじゃないかな」
「それで、その……」
シェリーが急に黙ってしまった。何か言いにくい事でもあるのだろうか。
「離れてもずっと私と友達で居てくれますか?」
友達……友達か。シェリーの為と思いつつ多くの嘘を彼女に付いている俺に、はたしてその様な存在になる資格はあるのだろうか。
ただ真っ直ぐにこちらを見てくるシェリーの期待は裏切れそうに無い。真実を隠して嘘もいっぱいついてる、そんなどうしようもない男でもこの子はいいのだろうか。
いや、これからまたこういう事に関わった時に次からは胸を張って堂々とハッキリと正しい事を出来たと言えるように俺も頑張ればいい。彼女もこの短期間で成長して変わったんだ、俺にも出来る筈だ。だからここではこう言おう。
「約束する、君がそう望むなら俺も友達でいるよ」
これからこういう普通の人達にも向き合えるようなそんな存在でありたい。まだ善性が自分の中に残っていると信じたい。
俺もこういう普通の暮らしをしようとする人達の為にこの世界をよくしたいと思っていた事を思い出す。また大切な、守るべきものが増えた。でも不思議と悪い気がしない、何故だか強くなった気がする。
多くの人達の思いや関りが増える毎にやらなきゃいけない事が増えていくし守らないといけないものも増えるから手が回らない様な気がしていたけど、不思議と何だって出来る気がする。
それに昔から言っていた、今はもう掠れて誰が言っていた言葉だったのかも忘れたけど『守るモノがある奴は強い』って言葉を思い出した。
これから希望を持って生きようとしている子が目の前に居る。だからフェンリルは必ず倒さないといけない。
だからしっかりと準備をしようか。確実に倒そう。
部屋に帰ってから隠し棚を開ける。ここには誰にも言えない様なものも何個も隠してある。ゼータはかなり鼻がいいから隠す手段をかなり考えさせられた。器具を用意するのに似た様な知識があるイータの目をかいくぐるのは苦労した。素材を集めるのに直接出かけたり足りないものを揃える時にはガンマやデルタに察されない様に気を配った。
それで用意した物はゼンマイ式で花火をバラシてそれにマグネシウム粉末を混ぜて作った簡易の閃光爆弾。
さっきのやつからマグネシウム粉末を入れなかった場合の物で、音と衝撃により相手の三半規管に直接ダメージを与えるコンカッションとも言われる手榴弾。
そして一時的に全身の筋力を強化して身体能力を向上させる霊薬に、魔力を大幅に増幅させるシンプルな霊薬、脳内の神経に作用して時間の流れを遅く感じさせる効果のある霊薬、魔力による治癒ではなく身体の代謝に作用して自然治癒力を高める霊薬なども持っていく。
これら全ての霊薬は効果は高いがそれと同時に高い毒性も秘めているもので非常に危険なものだ。
一つ飲んだら怒られるかもしれない、二つ飲んだら多分怒られない、三つ以上飲んだら怒られないだろう、何故なら死ぬから怒られないという事だ。
ただこれは何の対策もアフターケアも講じなかった場合の話で、事前に準備をしておけば中毒度にさえ注意したら何本でも飲んで大丈夫だ。後で必ず怒られる事になるだろう。生き残れるからな。
どうしようもなかった場合は最悪大動脈にスライムを流し込み血液を透析をしたら解決出来るものもある。神経の奴だけはどうする事も出来ないけど。
勝つ為には手段は選んでいられない。飲まないに越したことはないけれど、俺も魔力が使えなくなる可能性があるから今回はあらゆる手段を使って死ぬ気で戦う。勿論本当に死ぬ気は無いけれどそういう意気込みで臨む。
そして次の日。予想した決行してくるだろうという日になった。
俺はアーティファクトの護衛をしていたグレンさんとマルコさんと一緒にシェリーの護衛をしていた。
事前に二人共魔力が使えなくなるかもしれないという事は知っている。なので正面からぶつかるのではなく引きながら増援が来るのを待つという方針で動くという打ち合わせは終わっている。
何となく窓から外を見ると何故か白い霧に包まれていた。部屋にも霧が立ち込めてくる。どうやら予想していた日は合っていたようだ。
「シュウの思った通りの日程だったな」
「外れて欲しかったような、合っていてよかったと思うべきか分かりませんね」
「準備は出来ている、まだマシな筈だ」
そう言っていた時にふと首に違和感が生じる。少し重い様なそんな感じが。
「おいシュウその首のやつは何だ?」
そう言われてグレンさんの方を見るとグレンさんも何か首に付いている。それも数字が書かれているやつだ。何だか見覚えがあるような無い様な、その数字も段々と減っている。
どう考えてもこれは0になるとダメなタイプだろう。マルコさんも付いていたしシェリーにも付いていた。
「グレンさんにもつけられていますよ。それに数字が0になるとダメな気がしますね」
「俺もか。そうだな、でもシュウはそれは気にしなくてもよさそうだな。数字が減っていないからな」
おっと、それは不味い情報だ。本当の実力がバレてしまう。そんな事を考えていたらシェリーが突然慌てた声を上げた。
「あれ!? さっきまであったはずなのに、何処に!?」
「どうしたんだシェリー、首のやつは多分直ぐには外せないと思うけど」
「アーティファクトが何処にも無いんです!」
「何だって?」
それは非常に不味い事態だシャレにならない。正規の対抗手段が無くなるのは非常に不味い。そう考えていたら突然身体中に倦怠感がおこる。
一気に畳みかけてきたな。魔力の制御が非常に不安定になって来た。右手の形状とかは何とか保てるけど、それも今の状態と状況ではそれが限界だ。
「不味いな、数字が一気に減っていく。このままでは他の生徒たちが危険な状況になるぞ」
「どうしますかグレンさん」
「そうだなここから移動しようか、途中で生徒たちの安全を出来る限り確保しながら外を目指すぞ」
「はい」
「それしか無さそうですね」
そう言って時、窓からバンダナを巻いた男が飛び込んできた。いよいよ敵も本格的に動いてきたな。
「悪いけどアンタらはもう用済みらしいから殺しに来てやったぞ」
そうバンダナの男は言いながら剣先を向けてきた。
ここからは時間との勝負になりそうだ。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます。
そして投稿が大変遅くなりました。
今回は途中で切るのが出来なかったので13000文字を超えてしまいました。長すぎて申し訳ないです。
読みにくいのではないだろうかと心配しているのですが大丈夫でしょうか。
それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。