陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
シドと出会ってもう半年以上になる。俺たちは十歳を迎えていた。どうやら同い年だったらしい、気楽でいい。
同じの貴族階級の子供と言っても、実は爵位だけは俺の方が高かったりする。
シドはカゲノー男爵家で俺はヤーク伯爵家だからだ。だからと言って何か変わる訳では無いのだが。
だがどこの貴族も同じように礼儀作法やらなにやら色々覚える事が多くて大変だ。
そういった点でもシドとは話が合い、友好な関係を築くのにそう時間はかからなかった。この世界で唯一の転生者同士、仲良くいきたいしな。
概ね友人としてはいい奴だ。たまにある頭のおかしい言動にさえ眼を逸らせば何も問題ない。
そう……頭のおかしい言動さえ……気にしなければ。
「ヒャッハー!てめぇら金目の物を出せぇ!」
「な、なんだぁ? このチビ共は?」
「おらぁ! 金出せって言ってんだろぉ!」
こ れ だ よ。
俺たちはシドが開発したスライム装備の実験で廃村に来ていた。
スライム装備とは、魔法生物であるスライムを素材とした装備の名前だ。シドはスライムスーツって言っていたけど、形は変幻自在なんだからもうスーツに拘らずにスライム装備でいいだろう。
魔力を流すことによって形を自由に変えられる。とても便利なものだ。
勿論実験での実践対象はその辺のならず者たちだ。キャラバンか商隊の襲撃に成功したのか宴会をしていたようだ。
どう考えてもならず者達が悪なのだが、シドの言ってる台詞や言動がもう悪人のそれなのだ。陰の実力者とやらはどうしたんだよ。
しかもチビ共って言ってたから俺も同類だと思われてるし。
「……はぁ」
俺はシドとこの様な関係になってから何度目か分からないため息をついた。
ならず者たちがシドに切り刻まれているのを傍目に、犠牲になった人たちの遺体を埋葬して回る。
因みに俺は普通にスコップを持ってきてそれで穴を掘っている。
シドにスライムを貰ったけど、未だに魔力の制御が出来ていないので簡単な形状のスライムローブを作る事ぐらいしか出来ないのだ。
(うちのバカが貴方達の遺品を利用しますが許してほしい)
そんな事を考えながら慣れた手つきで素早く遺体を丁寧に埋めていく。……こんな作業慣れたくなかったなぁ。
「二分持たなかったねー」
そんな事を言われながら残っていたリーダー格の男は、シドにつま先から出されたスライムのピックによって頭を串刺しにされ死んだ。
ちょうど俺の作業も終わった。
「ふぅ、じゃあここからは戦利品獲得タイムだね!」
イヤッフゥー!とか言いながらシドは、スキップをしながらならず者達によって回収されたであろう馬車に向かっていく。
金貨や宝石に貴金属にしか手を付けていないようで、美術品等の捌くのが面倒くさそうな物は放置されていた。
「はぁ、これじゃあどっちが強盗か分からんな」
「仕方ないことだよシュウ。陰の実力者をするには費用が掛かるからね。あっそうだ、美術品とかはシュウの伯爵家としての伝手で捌けないかな? 出来るならやっといてよ、お金は幾らあっても困らないし」
「分かった分かった回収しとくよ、どの道俺はお前に今の所恩返しとか全く出来ていないからな。これくらいならやっておくよ」
「前も言ったけどそう言うの恩返しとかは別に気にしなくていいって」
本人は余り気にしていない様だけど、俺は結構シドに恩返しとか何か出来ないかと常に思ってる。
シドは今の所俺の生命線みたいな所があるからな。
だから本当はこういう行為をするのはあまり気が進まないが指示されたものは仕方ない。
犠牲になった方々には申し訳ないが、美術品の持てる分は回収させて貰おう。
まぁそうは言っても捌けるか分からないから、出来るようになるまで適当な場所に隠しておこう。
上手い事シドを誘導して、この世界から貴方達のような境遇の人を減らしていくから許してほしい。そう思いながら回収していく。
そんな事を思いながら他に回収するものが無いか探していると、布の掛かった物が見つかった。
中身が気になったので少し布を退けてみると、檻がありそこには名状し難い腐りかけのようなブヨブヨの肉塊があった。
「うおっ!」
普通に驚いた俺は思わず声を上げながら、後ろに飛び退く。
気を取り直して布を上げてもう一度確認すると、そこにはギョロリとした青い眼があり何か感情が籠もった眼でこちらを見ていた。
まじまじと観察するように見ていた俺を認識したのか、肉塊はビクッと反応をした後、逃げるように後ずさる。
この状態でも動けるのか。凄いな。
そんな感想を抱いていたら、獲るものを獲ったのかデカいスライム製の風呂敷を担いだシドが近づいてきた。めっちゃ回収するじゃん。
「何やってるのシュウ? そろそろ帰らない……って何これ?」
「さぁ? こいつらの荷物の中にあっただけだし分からん」
「あっ! これってあれじゃない? 悪魔憑きってやつ」
「これが悪魔憑きか……」
悪魔憑きってのは治らない事で有名な奇病だ。
身体がどんどん腐っていき、最終的には死んでしまう恐ろしい病気だ。
教会の連中が生きている悪魔憑きを引き取って、裏で浄化と言って虐殺しているという黒い噂がある。不幸の塊みたいな存在だな。
可哀想だからせめてこれ以上苦しませないように、楽にしてあげようと剣の柄を持ったら、いつの間にか風呂敷を置いてきていたシドに止められた。
「なんだよ、もうこれ以上苦しませる必要は無いだろ」
「いや、わざわざ殺す必要はないよ。何か気づく事はない?」
「何かって……いや、これは凄い魔力だな」
言われるまで全く気が付かなかったけど凄まじい魔力量だ。
でもこの魔力とこの状態になんの関係が?魔力操作に詳しくない俺には分からない。
「そう凄い魔力量だ、そしてこの魔力の波長に僕は覚えがある」
そう言いながらシドは俺の方を見てくる。
「な、何だよ。俺に何か分かるか期待されても困る」
「この波長に本当に覚えとか無い?」
波長?うーん?感じ取ろうとしたが何も分からない。
「ごめん、さっぱり分からない」
今もシドに自分の魔力の制御を頼っている俺は魔力に関しては、前世から修行していたらしいシドと周回遅れ以上の差がある。
魔力操作は逆立ちしてもシドに勝てない。現状シドに勝てる要素は前世の知識量ぐらいだ。
……この間魔力制御の才能自体はある筈って言われたけど、俺自身そうは思わない。
そもそも何を根拠に言ったのやら。
「うーん、分からないか。正解はねこれは『魔力暴走』の波長だよ」
「え? 『魔力暴走』? 前にシドがなりかけたとか言ってたやつとか俺が時々なるあれ?」
「そうそう」
「じゃあ悪魔憑きは実は病気でも何でも無くて、魔力暴走の結果こうなってるだけなのか?」
「さぁ? まだ母数が少ないから分からないけど、もしかしたらそうかもね」
「へぇ、俺の魔力暴走を完全に抑えれてないけど治せるのか?」
「うん、多分治せるよ。あとシュウのは何か色々と規格外というか、僕の魔力とは何か違うんだよねぇ」
「あ、やっぱり何か違うんだな」
「でもこれを調べるとシュウの魔力暴走を抑えるきっかけは掴めるかもね」
シドはそう言いながら檻を開けて、中の悪魔憑きを触って観察している。
俺はその光景を見ながら考えていた。
(シドが少し見ただけで魔力暴走と分かるなら、もっと大々的に知られていてもおかしくないはず。なのに知られていないという事は、もしかしたら悪魔憑きを回収してる協会の聖教とやらはかなりヤバい組織なのか? 真実を隠蔽する宗教団体に、実は裏で暗躍する謎の組織が絡んでいる。……有り得そうだな)
機会があればこの事についてシドと話そうと考えていた。
この世界もしかしたら俺たちが思っている以上に闇が深いかもしれないぞと。
もし本当にヤバい組織が存在したら、シドの陰の実力者ロールプレイには丁度いいはず。
恐らく喜んで戦いに行ってくれるだろうな。
一応後で本格的に調べ上げて報告しよう。
そうなると旗印というかそれに対抗する組織が必要かもしれない。どうにかして人員を集めて組織を結成する事も頭に入れておかないと。
シドにはそこのボスでもやって貰えば、イイ感じに陰の実力者を達成できて喜んでくれるか?
(後で組織名前とか活動方針とか考えないとな)
まあ、全部出来上がってからシドに報告でいいか。
そんな事を考えていると。
シドが悪魔憑きを持ち上げていた。……よくそのまま持てるな。
「シュウ、これ持って帰ろうよ」
「え? この場で治せないのか?」
「ちょっと難しいかな? 流石にお互いの家からここまで遠いし、前に見つけた中間あたりの廃村まで運ぶつもり」
「……あの辺りか」
「あそこならこれに実験しながら、シュウの事も診れるし」
「実験って中々酷い言い方だな。俺の為とは言えもう少し心がある言い方をだな」
一応俺の魔力暴走を抑える何かを掴めるかもしれないという事で、俺たちはこの悪魔憑きの子を持って帰る事にした。
それにしても近くでもう一度見てもこれが元々人間だったって言われても気づかないかもなぁ。
そしてお互いの領地の間ぐらいにあった廃村は今の俺たちの拠点となった。そこに悪魔憑きを運んできた。
一か月間俺は高頻度で悪魔憑きに何か魔力を流しているシドを訪ねた。
定期的に魔力暴走を抑えてもらうというのもあるけど、シンプルに魔力の制御を教えてもらったり、戦いの稽古をつけてもらったりしていた。
一応それ以外の日は以前気になった悪魔憑きを回収している協会について調べていた。
その時に聖女様と会って談笑したり、実際に運び込まれる悪魔憑きを目撃したり、よく分からない団体から追っかけまわされたりした。
特に最後の追いかけてきた団体はマジで怖かった。この世界に来て初めて死の恐怖を感じた。
ただ分かった事がある。それはただの最大の宗教団体という感じでは無かったという事だ。。
途中でよく分からない団体に邪魔された所を考えるに、後ろ暗い何かがあるに違いない。
おまけにもう一つ奇妙な団体の存在も知る事が出来た。
名前は『ディアボロス教団』というらしい。
情報の大半が古代文字で書かれていたから、名前しか分からなかった。
その場で必死に翻訳して調べたけど、時間が無かったから名前を知る事しか出来なかった。協会周りを調べた時に追いかけてきた団体よりも、闇の深い組織の様だった。
関係ある建物に潜入して調べている時、同じ部屋に誰も居なかったけど、部屋の外の周りの人間全員が俺を監視している様な奇妙な感覚にあった。思わずSAN値チェックをしないといけないかと思った。
この世界、相当ヤバいかもしれないという情報に現実味を帯びてきたと思う。
一応この事を本にというか紙に書いて適当に皮で挟んだメモ帳に記しておいた。
後でシドにもこの事を共有しておこうと思っている。
そんな事を考えながら俺はシドが今日も満足するまで悪魔憑きをいじるのを眺めていた時だった。
「――ッ! 来たッ!」
「はぁ? 何が――」
急にシドが叫びだしたからメモ帳を落としかけた。何が来たのか聞こうとした俺の視界に飛び込んできたのは、名状し難い醜い肉塊がみるみるうちに人型に戻っていく光景だった。
光りながら戻った姿は金髪美少女のエルフだった。すげぇ、当たり前だけど初めて前世含めて生でエルフを見た。凄い可愛い。でも何で裸なんだ?
日本に住んでいたら見かけないような美少女エルフに眼もくれずシドは何か――魔力の核心に至った――とか言ってるし。……こいつ性欲とか枯れてんのか?
とりあえずいつまでも裸だと寒いだろうから、俺は近くにあった布を掛けながらシドに聞く。
「どう? 何か分かったか?」
「色々分かった事はあるけど、やっぱりシュウの波長とは何か違うからまだ完全に抑えるのは無理そうだね」
「そうか。……それにしても本当に治す気あったんだな。知りたい事知れたら途中で辞めたりしないか心配だったけど」
「し、心外だなぁ。確かに始めは自分の身体じゃないから好き勝手出来ると思ってたけど、一応シュウの事もあったし最後には治すつもりだったよ」
「そうか、それは悪かったな。――でこの子はどうする?」
目下最大の問題はこの子をどうするかである。悪魔憑きは迫害され家族からも売られる。そんな存在だ。多分目が覚めても帰る場所なんて無いだろう。
俺はその事をこの一カ月間色々と調べまわっていたから知っていた。
「うーん、もう調べる事は大方したしもうここに居てもらってもしょうがないからねぇ、君の病気は治したから好きに帰っていいよーって感じかな」
「適当すぎるだろ。それに悪魔憑きになった存在に帰る場所なんて――」
何処にも無いと言おうしていた時にシドが被せてきた。
「あっシュウ、この子目が覚めそうだよ。……そうだ、いい事思いついた」
俺はこの時に猛烈に嫌な予感がした。今この時にシドを止めないと後々に厄介な事になると。
そんな予感がしたのだ。
「おいシド、話聞けって。悪魔憑きに帰る場所無いんだって」
「シュウも僕に合わせて、ここから『陰の実力者の物語』が始まるよ――」
シドは全く俺の話を聞いてなかった。
そしてそのままシドはそう言いながら、少女の前にあった木箱の上にカッコつけた座り方をした。
そして少女は目を覚ます。それを確認したシドはいつもより少し低めの声で喋り始めた。
因みに俺はどうすればいいのか分からなかったので、少女の斜め後ろでメモ帳を片手にシドの一人劇場を見守る事にした。
「――目が覚めたかい?」
「――っ、あれっ⁉ 私の身体が戻ってる!」
「君の身体を蝕んでいた呪いは解いた」
呪いって何の事なんだ? 俺が悪魔憑きや協会について調べた時はそう言った文献は見つけられなかったけどな。
重要そうな情報を調べる時間とか無かったからな。
「呪いって何の事?」
「呪いとは『魔人ディアボロス』の呪いだ、それが君にかけられていた呪いの正体だ」
驚いた。まさか『ディアボロス』の名前が出てくるとは。もしかして俺が知らない間にシドも調べていたのか?
「『魔人ディアボロス』ってお伽話の事じゃない?」
少女がそう疑問に思うのも仕方が無い事だ。
だが実際に『ディアボロス教団』という組織が存在している以上、『魔人ディアボロス』が実在してもおかしくない。
「あの話は本当にあった事だ。『魔人ディアボロス』と人間、エルフ、獣人の三人の英雄の話さ。倒された『魔人ディアボロス』は死の間際に英雄たちに呪いをかけた、それが真実だ」
「……そんな」
「そして君はその英雄の子孫だった訳だ。……だがいつしか歴史は捻じ曲げられ英雄の子孫は悪魔憑きとして蔑まれ殺されるようになった」
成る程、今繋がったな。恐らく『ディアボロス教団』の目的は『魔人ディアボロス』の復活かそのあたりだろう。
英雄の子孫である悪魔憑きは再び『魔人ディアボロス』を倒す可能性がある存在だ。
恐らく『ディアボロス教団』はその芽を予め摘む為に、歴史を変え悪魔憑きは侮蔑の対象へと変化させられたのだろう。
そして協会の連中も同じ組織なのだろうな。
俺はそう思ってメモ帳に今分かった事を書き足していった。
「一体だれがそんな事を、歴史を捻じ曲げたの……」
「知らない方がいい――それを知ると元の生活には戻れなくなる」
可愛そうにシドが今まで話していた内容は真実だろう、本当にこの世界はどうしようもないな。
「構わないわ、教えて!」
「えっ」
……何か今一瞬シドの凄い情けない声が聞こえた気がするけど気のせいだろうな。
そして少女は随分と覚悟が決まった感じだ。この子は多分凄く優秀な人だったんだろう。
そんな事を考えているとシドがこちらを見て、渡す者があるだろう見たいな顔をしてこちらを見ていた。
えっ、急に何? 手招きするような手で何だよ。……まさかこのメモ帳を渡せってか?
……多分そう言う事だろう。今までの感じ的に恐らくシドが知っている情報しか載っていないと思うけど。
俺はシドにメモ帳をフリスビーの要領で投げ渡した。
その時少女がえっ⁉ と言いながら後ろに居た俺を見てきた。今まで俺が居ることに気づいて無かったらしい。悲しいなぁ。
シドは俺の未完成のメモを見ながら、フッと笑い出した。
やっぱり知ってる情報しか無かったんだな。でもそこで笑う事は無くないか?
「……『ディアボロス教団』それが歴史を捻じ曲げた組織の名前だ」
「……『ディアボロス教団』」
少女は忌々しくだが決して名前を忘れないようにその名前を復唱した。……様に俺には見えた。
「そして我々の使命はディアボロス教団の野望を阻止する事だ」
……我々って事は俺も含まれている感じね。まぁ相棒を了承した時点でこうなるのは分かっていたことだろう。諦めよう。
今の所俺はシドの助けが無いと生きていけない状況な訳で、俺は何があろうとシドに協力していかないといけないのだ。
シドが世界の闇に陰の実力者として戦っていくというのなら、俺は最後まで支えていくつもりだ。
『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉もある。
つまり敵を知る事は大切という事だ。シドが矢面に立って戦うなら俺は組織の運営と敵の情報を集める事に専念しよう。
このままじゃ本当に足手まといな奴だ。諜報や潜入でせめて役に立ちたいからな。
今の俺は戦闘力はシドと比較するとクソ雑魚だからな。……自分で思ってて悲しくなってきた。
「我が名は『シャドウ』。陰に潜み陰を狩る者」
そう言い切るシド。スライムスーツを機動して黒コートを纏って。実に実力者の風格が出ている。
そして身体からは魔力を溢れ出させて強者の風格を出している。流石は陰の実力者、余念がない。
「シャドウ……。そこの後ろの彼は?」
俺がシド、いやシャドウに感心していたら。少女が俺を見て不思議そうにしていた。
今まで完全にアウェーだったのに急に引きずり込まれたんだけど。
「ああ、そこの男は我が相棒。名を…………『ジョーカー』という」
おい、今何か変な間があったぞ。俺の事何も考えていなかっただろ。
しかもジョーカーってちょっとカッコいいけど、トランプカードのイメージで道化とかそんなイメージがあるんだけど。
何とも言えない絶妙なコードネームを俺に付けてきやがった。
反論したら代わりにどんなコードネームを付けられるか分からないから反論出来ないし。
「そうそう、君を見つけたのはジョーカーだ。後で礼を言っておくがいい」
「そうなの? ありがとう。貴方が見つけてくれていなかったら今頃腐り果てていたわ」
「そ、そうか。あまり気にしないでくれ」
近距離で布しか羽織ってない美少女を見るのは恥ずかしくて、眼もちゃんと合わせられなかったし、会話も続けられなかった。
しかも無意識にカッコつけていつもよりちょっと低めの声が出てしまった。恥ずかしい。
「『英雄の子孫』よ、我らと共に闇に挑む覚悟はあるか?」
シャドウは少女に問う。自分たちと共にディアボロス教団に挑むのかと。
「……病、いえ呪いに侵された日に私は何もかも全て失いました。悪魔憑きとして腐り果てるしかなかった私を救ってくださったのは貴方達です」
彼女の目はもう覚悟が決まっていた。もう彼女は止まらないだろう。その果てに何が待っていても。
「貴方達が望むのであれば、私はこの命を掛けましょう。――そして咎人達には死の制裁を……」
凄いやる気だな。俺も彼女に負けていられないな。教団の実態をより深く探らないと相棒として失格だな。
「ジョーカー。彼女にスライムスーツを」
俺は頑張って魔力を操作し彼女にスライムの一部を分け与える。
スライムは瞬く間に簡易的な服の形になっていく。……この子俺より才能あるんじゃない?
俺なんか未だに服の形状すら保てないんだけど。
魔力操作に関してはコンマ一秒程で抜かれたんですけど。
頑張って他の分野で追い越されない様にしないと。
「立ち塞がる者には容赦はしない」
「そうだね、そんな感じ」
「『他の英雄の子孫』を探し出して保護をしないと」
「……えっ」
強大な組織と戦うんだそれ相応の人員が必要になるだろう。
「組織も拡張して拠点もしっかり整備しないと」
「はぁ」
今居る拠点(笑)はただの廃村だ。こんな所だと襲撃されても防衛網なんか全く敷けないだろうからな。
「その為には資金集めもしないと」
「……」
そう、先ほど言った事は全て膨大な資金が必要になってくるだろう。いつかはフロント企業とか用意しないといけないかも知れない。
凄いなこの子めっちゃ優秀だわ。
さっきは追い越されないようにとか考えていたけど、これはもう越されているな。間違いない。
それにしてもシドの奴段々と口数が減っていたな。何でだ?
「凄く優秀な子だなシド。いい拾い物じゃないか」
「そ、そうだね、とてもいい子だね」
そんな会話をした後シドは咳払いをした後。
「これから我々は『シャドウガーデン』という名の組織として行動していく」
『シャドウガーデン』いい名前じゃないか。普通にカッコいいな。
「そして君はこれからの名前はアルファだ」
……適当過ぎないか?シャドウガーデンの時のネーミングセンスは何処に行ったんだよ。
俺はそう思っていたが少女いやアルファを見ると何だか嬉しそうにしていたので、もういいか、と思った。
こうしてシャドウガーデンは三人で結成された。ディアボロス教団に牙向く唯一の組織の誕生だ。
数週間後俺はシドの所に向かっていた。アルファに負けないようにディアボロス教団についての情報をかき集めてきたのだ。
今度の情報には自信があった。何たってこの前はビビって途中で帰って来たけど、もっと古代文字を翻訳して多くの情報を得たし、それっぽい施設に潜入して、資料を拝借してきたのだ。
この前は小馬鹿にした様に笑われたが今回はしっかり集めてきた。今回は大丈夫だ。間違いない。
「なぁシド話があるんだがちょっといいか?」
「ん? ああ、シュウいいところにこれこの前の
そう言ってシドが渡してきたのは、俺がアルファと出会った日に渡した謎の組織があると調べていた、未完成の資料だ。……うん? 設定集?
「……なあシド、今もしかして設定集って言ったか?」
「言ったけどそれが?」
俺は十秒ぐらいその場で固まっていたと思う。
そして一つの仮説に辿り着いた。……出来ればこの仮説はあって欲しくないのだが。
「なぁシド、この前アルファに語ったアレって何なんだ?」
「ああ、アレ? 前から考えていた陰の実力者の演じる為の設定だけど」
「……せ、設定」
「それにしてもシュウも似た様な事を考えていたなんてビックリだね。僕は想像力は結構ある方だと思ってたんだけど」
俺はその後にシドの言っていた事の殆どを聞いていなかった。
余りにも衝撃の事実過ぎて脳の処理が追いつかなかったからだ。
……つまりあれかコイツがこの前語った話は全部嘘だったという事か。成る程ね。
コイツの運命力高すぎないか? それともコイツの持つ陰の実力者としての能力か何かか?
もう訳が分からない。
「いやぁ、途中までは設定を考えていたんだけど、ストックが無くなったからね助けてほしかったからシュウを見たら、設定集をくれたから丁度助かったよ」
スタイリッシュに投げ渡してくれた所とか、最高に陰の実力者の相棒感があってよかったよとか言ってる。
キ レ そ う。
俺は膝から崩れ落ちた。自分一人で勘違いをしてバカみたいにバカの為に頑張っていただけだった。
一応シドに俺が改めて調べてきた情報を資料も見せながら説明したけど、凄い凝った設定だねとか言って何一つ信じてもらえなかった。クソが。
俺は大声で叫んだ。
「クソオォォッ!!」
外で剣を振っていたアルファが何事かと見に来ていたけどどうでもいい。
もうこうなったらディアボロス教団だろうが何だろうが全て利用して、シドのいやシャドウの陰の実力者ロールプレイに全て利用してやる。
許さん……許さんぞディアボロス教団ッ……。必ず滅ぼしてやる。
前回の話を読んでくださった方々ありがとうございます。
お気に入り登録をして下さった方々もありがとうございます。お気に入り登録がこんなに嬉しい物とは思いませんでした。
そして今回もここまで読んで下さり本当にありがとうございます。