陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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第二十話 陰の立役者は事前に作戦を練りたい

 

 

 

 暑い日差しを手で遮りながら高い位置から照りつける眩しい太陽と青々とした雲一つない空を見上げて、この世界に転生してから十四度目の夏を身をもって感じていた。

 ただ暑いとは感じるものの元々居た日本と比べると随分とマシな気温だと感じ、今の正確な気温は分からないけど大体30℃を超えているかな?と思うぐらいだ。

 今思うと小学生の頃はまだクーラー無しでも窓を開けていれば涼しい風が入って来ていたのに、高校生の頃にはクーラー無しでは普通に死ねる気温だったなと思い出す。

 この辺りの出来事を思い出すと連鎖的にまたあの死ぬ時の感覚を思い出してしまう。頭を振り物理的にも精神的にも記憶から排除して、余計な事を考えない様にしながら目的地へと足を運ぶ。

 

 ミツゴシに寄る前に一度アレクサンドリアから持って帰って来た荷物を置きたかったので、自分の寮室に帰ろうと思い部屋の前まで着くとドアの郵便受けにたった一週間で郵便物がそれなりに入っており、これからしないといけないだろう郵便物の確認作業を思うと億劫になり自然とため息も出てくる。

 そして鍵を開けて中に入ると――

 

「やあ、シュウ一週間も何処に行っていたの? 結構探したんだけど」

 

 奥の窓が開いておりシドが勝手に入って来ていた。もういつも通りの光景というか慣れてしまって怒る気にもならない。ついでにため息も更に出てくる。

 

「お前と違って俺は忙しいんだ、誰かさんのおかげでやらないといけない事が山の様にあるからな」

「大変だね。それで何処に行ってたの?」

「ちょっとアレクサンドリアまで」

「へー」

 

 持って帰って来た物を置きながら、何処に行っていたのかを答える。でも目的などは言わない、どうせ信じないから必要ないだろ。

 

「そうそう、知らないかもしれないから伝えておくけど学園はもう夏休みに入ったよ」

「随分と早いな」

「前のテロリストの件で調査とか何とか、そう言った後処理で前倒しだってさ」

「成る程」

 

 置き終わったら次にミツゴシに行くための支度をしていく、恐らく時間的にそのまま紅の騎士団にも顔を出す事になりそうだからあっちの服装も持っていくとして、いやこれを下に着てから上からスライムで普通の服装を被せる様に着れば一々着替えなくても済みそうだな、そうするか。

 

「ところでこのさっきから置いてるこの金属群は何なの?」

「別にいいだろ、何だって」

「一つは確実にミスリルというのは分かるけど他は何? 硬いし重いし何なの?」

「正確な配分を憶えていなかったけど大体再現できた高硬度鋼だな。今度本格的にミスリルと合わせた武器を作ろうと思ってな」

「憶えていなかったって事は手探りでやっていったって事?」

「ああ、かなり大変だったけどそれなりの成果はあったと思ってる」

 

 本当は工具鋼とかその辺りの成分が洗練され用途に適した合金を作りたかったけど、只々硬い合金を作るのが今の俺の知識では精一杯だった。上手く配合が出来ていれば強度と耐衝撃性に耐摩耗性に優れた夢のような合金がこの異世界でも再現出来ている筈だったのだが。

 既に試作品は出来上がっているが些か知識不足により構造に自信が無い点やミスリルを使用している点と、前世では存在しなかった魔力を後で流す事によってどんな現象を引き起こすかが分からない点が不安な所だ。一応ある程度流しても問題ないのは確認済みだけど大量に流した時にどうなるかはまだ分かっていない。

 

「それで一回作ったのがその剣? ダマスカス鋼みたいな木目調というか断層みたいな見た目の刀身だね」

「魔力伝導性を高める為にミスリルを混ぜて溶かして更に混ぜていたら、気が付いたら完全に混ざっていないそんな刀身が出来上がった」

 

 そう言いながらシドは試作品の直剣を勝手に手に取り軽く振っている、部屋の中で振るうのは危ないからやめて欲しいがこういう事に詳しいのはシドの方だから敢えて何も言わずにそのまま使い心地を確かめてもらう。

 

「これは……アレだね。重いね」

「それは使ってる素材の関係上仕方ない事だな。でもまぁ重い方が武器としては威力が出るだろ。質量と速度で運動エネルギーつまりは破壊力や威力が生まれるからな、それに重量の問題は魔力による身体強化で解決可能だから敢えて度外視して作ってる」

「成る程ね、所でこれ貰っていい?」

「ダメに決まってるだろ」

「そりゃそうか」

 

 そう言いながらシドは俺に剣を返してくる。

 

「シュウには来ていないかもしれないけど、アルファが僕に暇なら聖地に来てって凄く簡素な手紙を送って来ていたんだけど、何があるか知らない?」

「催し物がある事だけは確かだな、最もお前が出たくなるタイプの物じゃなかったと思うけど」

「どんなイベントなの?」

「『女神の試練』って言うので、実力に合った古代の戦士を観客たちの前で倒すとかそういう感じのやつだったと思う」

「それは確かに出たくないね。間違っても」

「俺も出たくないな、最も事前に受付しないといけないらしいからやらなければいいだけだけどな」

 

 多分俺が出るとそこそこの古代の戦士を、シドが出るとそれはもうモブとして二度と活動出来ないレベルの相手が出てきそうだから、お互いに出ないに越した事は無いだろう。

 

「じゃあ観客として来てって事かな?」

「多分そうだろうけど、実際はどうだろうな」

 

 そんな会話が続いた後俺はシドを追い出してからそのまましっかりと窓もドアも戸締りをしてからミツゴシの方に向かった。まぁ多分しっかりと戸締りをしたところで無駄だろうけど。

 

 

 

 そしてミツゴシの立派な建物の前に着き少しだけ身だしなみチェックをしてから正面から入りそのまま受付の所へ向かう。

 見慣れたブラウンの髪色の店員に話しかける、下手にナンバーズ以外のメンバーに話しかけても連絡が行き届いていなかったら余計な手間を掛けさせてしまう事になるだろうし。

 

「クラウン財団のシュウ・ヤークですが、会長のルーナさんとお話をさせて頂きたいのですが」

「申し訳ございません、只今ルーナ会長は接客中でして。お部屋にご案内致しますのでそちらで少々お待ちいただけますでしょうか」

「大丈夫です、急に来たのはこちらですのでお気になさらず」

 

 どうやらガンマはガンマ自身が出ないといけないレベルの客が来ているから対応中だとの事だった。帰る時間を正確には伝えていなかったし、ミツゴシの経営の方が重要だろうからそのまま俺の事を気にせずに頑張って貰いたい。

 そして俺は店員として働いているニューに案内される形でミツゴシの応接室の方に行っていた。一般人が一人も居なく、尚且つ会話も聞かれないような位置に来た所でニューがシャドウガーデンの一員として再び口を開いた。

 

「申し訳ございませんジョーカー様、現在アイリス王女とアレクシア王女が来店しておりガンマ様が対応中でして」

「さっきも言ったけど本当に気にしてないから別に大丈夫。それよりもこれからの動きとか先に聞いていたりするか?」

「いえ、シャドウガーデン全体の方針は大まかには聞いていますが、ジョーカー様にどの様な事をして頂くかは聞いておりません」

「そうか、結局ガンマが来るまで待機か」

「私はガンマ様にご報告に行ってまいります」

 

 そう言ってニューが出ていったのを見送って俺はガンマが来るまでニューに案内して貰った部屋で一人で待つ事にした。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 部屋に入る前に既にニューに案内させたセレブ専用の部屋の中から王女達の会話が聞こえてくるのをガンマは聞き逃さなかった。敬愛する主であるシャドウと副リーダーのジョーカーの二人の為にも情報は聞き逃せないと思うのは、普段からシャドウガーデンの頭脳として動いているガンマにとっては当然の事であった。

 

「あなたはあくまで『女神の試練』の来賓として聖地に赴くのですから」

「分かっています。でも来賓が大司教と懇談するのは普通の事でしょう?」

 

 ガンマは部屋に入る前に自身の眼が少し細く鋭くなってしまったのを自覚した。二人の王女は愚かにも誰が聞いているのか分からない場所でこの様な重要な情報を話しているという事に憤りを憶えずにはいられなかった。

 だが同時に情報が得られた事には喜ばしく思っていた。

 

 しかし最も敬愛する主であるシャドウがベータの言っていた通りぽっと出の王女もといアレクシア王女とお付き合いをしていた事と、腹の探り合いや口が下手で組織のトップとしては及第点以下で、その事が原因でジョーカーに苦労を掛けているのではと感じざるを得ないアイリス王女への怒りの感情の方が勝り、結果その喜びの感情は直ぐに遥か彼方に消えてしまったが。

 

「それを足掛かりに汚職や孤児の失踪といった、黒い噂について調べたところで気ままな王女のする事だと思い誰も気に留めませんよ」

「確かに私より警戒されにくいですが……やっぱり貴女に監査の話をするんじゃなかったわ。これなら後でシュウ君に裏で探って貰った方がよかったかしら」

「彼はまだ財団の仕事で戻っていないのでしょう? だったら先にこちらで彼抜きでも動ける準備をしておいた方がいいと思います」

「……そうかしら?」

 

 そうかしら? じゃないとガンマは思い、思わず下唇を噛んでしまいそうになったがこれからあの王女二人に会う事を思い出し、シャドウガーデンへの忠誠心とシャドウへの思いという鋼の意志で感情を抑える事に成功する。

 結局この二人は我らの副リーダーであるジョーカーをただの一般工作員の様な扱いをしていくのだろうと思った。

 それも本人のあずかり知らぬ所で話が進んで行き結局は彼が一人で動いた方が速いと感じ誰にも話さずに、前回の様にたまに話す事も忘れたりしているが解決しようと動いてしまう可能性がある。

 それではまたあの極限環境でラウンズと戦うという暴挙に出て今度こそ死んでしまうかもしれないという未来を頭脳明晰なガンマは瞬時に予測を建てた。

 無いとは思っているがもしそうなるとゼータとイータの反応がどうなるのかはガンマをもってしても予想がつかなかった。

 

 ガンマは決してジョーカーが弱いなどとは微塵も思ってはいないが、ジョーカーはシャドウ程完璧な超人ではないと本人も言っている通り苦手な事や出来ない事はある上に、仲間や一般人にまで犠牲が出る事を極度に嫌っている傾向があるというのはシャドウガーデンの中では周知の事実であり、ガンマ自身もそこがジョーカーの美点であると同時に弱点でもあると見抜いていた。

 

 そこでガンマはこの二人から自然な流れで話を聞き出し少しでもこれからジョーカーがやらざるを得ない仕事を少しでも肩代わりをしようと心に決め、側に控えていた二人の従業員に扮したシャドウガーデンの構成員に扉を開ける様に無言で促す。

 

「失礼いたします」

 

 冷静で優雅でしかしそれでいてミツゴシ商会の会長として貫禄あるお辞儀をしながら入室する。

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、当商会の会長を務めております、ルーナと申します」

 

 対面の席に着きガンマは二人の感心を引き付けると同時に警戒心を解く為に、自信のある新作を試食してもらう事にした。

 

「こちらはまだ発売したばかりの『トリュフ』という商品でございます」

 

 ガンマがそう口にすると従業員達が手際よく二人の王女の前に新作を配膳する。それを確認したガンマは完璧な笑顔で口を開く。

 

「どうぞ召し上がってみて下さい」

 

 二人はそれぞれ、素直に味を楽しみ他の物があったら寮に送って欲しいと言うアレクシア王女と、緊張かそれとも完全に警戒しているのか、はたまたただこういう場に慣れていないだけなのか簡素な感想を言うだけのアイリス王女に分かれた。

 

「アレクシア……私たちは旅支度に来たのですよ、分かっていますか?」

「分かっています。それでもこの様に勧められたなら何か買うのが礼儀と言うものでは無いのですか姉さま」

「それは……まぁ……」

 

 ガンマはこの隙を見逃さずにごく自然な流れで行く場所が何処かを聞き出せると踏み質問を投げかけた。

 

「ご旅行でございますか?」

「ええ、聖地へね」

「それはそれは……ではこちらで必要そうなものを見繕わせます。何日ほど滞在されますか?」

「取り合えず二週間分をお願いできる?」

「かしこまりました」

 

 その後アレクシア王女とアイリス王女が普段使いのドレスやら下着やらでひと悶着があったが、これらの事柄は二人には報告の必要はないと思いガンマは普通にセレブへの対応の仕方に変えたのだった。

 その時だった、先に通常の業務に戻っていたはずのニューが再びこのセレブ専用の部屋に来たのは。そしてニューはガンマに近づいてはしゃいでいる二人の王女に聞こえない様に小声で報告をあげた。

 

「ジョーカー様がいらっしゃいました。現在は応接室でお待ち頂いています」

「ジョーカー様が? 分かったわ」

 

 ガンマも同様に口元を扇子で隠しながら小声でニューに答える。予想以上に早い到着に驚いたが冷静に考えればジョーカーはシャドウガーデンの中で一番速く移動が出来るので、人目に付かない状況であれば数日掛かるアレクサンドリアとミドガル王国の王都の移動に一日も掛からない事は当然の事であったと思い出す。

 それよりも待たせている状況にガンマは焦りを感じ始めていた。一刻も早くこの王女二人が買い物を済ませて帰ってくれないかと商業の会長にあるまじき考えがガンマの頭の中から出てき始めていた。

 

 そして二人が帰りそれを見送ったガンマは待たせてしまっているジョーカーの下へ急ぐために、他のナンバーズ達が止めるのも聞かずに走り出して――

 ――そして五歩目で盛大にこけた

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ニューが出て行ってから三十分程応接室待っていたら段々と廊下が騒がしくなってきてその音源と同じ位置にガンマの気配を感じる。……時々止まっているのは多分そういう事だろうなぁ。

 そしてドアを勢いよく開けて入って来たガンマの姿は想像通りに髪型は少し乱れて鼻血が出ていた。

 

「ガンマ、鼻血が出てるぞ」

 

 そう言いながら彼女の鼻血をハンカチで拭ってあげる。一体何回こけたらここまで乱れた感じになるのやら。

 

「お待たせして申し訳ございません、ジョーカー様」

「いいよ気にしていないから、それよりもこけない様に普通に来てくれた方が嬉しいかな」

「そ、そうでしたか」

 

 そして俺たちは席に着く、因みに髪は櫛だけ渡してノータッチの方向でいった。流石に髪は触るべきじゃないだろうと思ったからだ。

 何故なら俺はシドじゃない訳だしガンマも複雑な気持ちになるだろうからな、そこまでそういう恋愛的な感情に対しては鈍感ではないと思っている。

 

「ガンマお疲れ様、王女達の相手大変だっただろ?」

「ええ、ジョーカー様の心労が骨身に沁みました」

「骨身に沁みるってそこまでだったか」

 

 思った以上にガンマは大変な思いをしたようだった。

 

「そう言えばシドにはアルファから何か手紙があった様だったけど、俺宛に何か聞いていたりするか?」

「アルファ様からは特に伺っていませんね。ただ紅の騎士団の方で何かリンドブルムに来る様な案件があるなら事前に連絡して欲しいとは聞いております」

「成る程」

 

 ただ俺はまだ紅の騎士団の方には行ってないから今後どういう動きをするつもりなのか何も知らないんだけどな、取り合えずあっちにも行ってからアルファに報告しないといけないか判断しないとな。

 

「あの……ジョーカー様。私から少しご報告がございまして」

「どんな報告?」

「紅の騎士団でリンドブルムに行き聖教について調べるつもりだそうです」

 

 紅の騎士団で聖教について調べる時が来たのか……ん?何でその事をガンマが知っているんだ?

 わざわざガンマが報告しなくても待つ前にニューから先に報告が来てもおかしくないし、この状況になるのはついさっき手に入れた情報という事になると思うのだが……まさかな。

 

「何でその事をガンマが知っているんだ? 諜報活動をしているメンバーは今はオリアナ方面に集中している筈だったけど、まさかあの王女二人が売り場で話していたとかそんな事は無いよな?」

「その通りでございますジョーカー様、そして行くのはアレクシア王女の方だと思われます。更に口振りから察するに既に別の場所でも同様に会話が一度は行われている可能性もあります」

「……マジか」

 

 何考えてんだあの王女二人は情報が筒抜けじゃないか。ガンマの言った通りに俺たちの知らない間に他の場所でも言っていたら、思わぬ妨害がまたありそうでもう頭と胃が痛くなってくる。

 

「はぁ……取り合えずリンドブルムに俺が紅の騎士団として行くと仮定して、どういう方針で行くか先に考えておこうか」

「はい、それが一番いいかと思います」

「まずは調査するにあたって調べた内容の何処までの情報をあっちに渡してもいいかだな」

 

 紅の騎士団を利用するにはあっちもそれなりに実績と実力が必要になってくる、そこでどの情報を知ってもらい王国の中心部にまで知らせるかが問題になって来る。

 

「今分かっている範囲でリンドブルムには何があった?」

「そうですね、全て予想の範疇ですが教団のラウンズの不老不死の秘密に古代の三英雄の真実、聖剣に……ディアボロスの左腕だったかと」

「ディアボロスの左腕か、学園の地下にあった右腕は俺の余力が残っていなかったからシャドウが独断で処分してしまったからな」

 

 本当はあれはサンプルとして持ち帰りたかったけどあの時はもうそんな事を考えている余裕と気力が無かったから、粉微塵になって消えるのを見ているだけしか出来なかったからな。

 今回は出来る限り回収して細胞に何が含まれて何が影響して悪魔憑きもとい、致命的な魔力暴走を引き起こしてしまうのかを調べたい。

 

「ただこれらは全て聖域の中に隠されていると思われます」

「なら聖域の中まで連れていくかどうかが論点になるな」

「ええ、ただ私としてはどちらかと言うと反対ですね」

「その心は?」

「余りにも頼りなさ過ぎるという点と、些か実力不足で我々の活動に支障をきたさないかが心配という点です」

「納得出来る意見だな」

 

 いや本当にその通りだと思う。……が俺としては今後の展開的にどちらかと言うと知ってもらった方がいいと思っている。

 

「ガンマは連れていく事に反対みたいだけど俺はどちらかと言うと賛成だな」

「それはどうしてですか?」

「単純に事実を知ってもらって国王の重い腰を上げさせる要因の一つにでもなればいいなと思っている点と、発破をかける為だな」

「国王への圧力を高めるというのは分かりますが……発破と言うのは?」

 

 メンツは多分アレクシア王女だろうとの事だからこれを最大限に活用する他ない。あの精神性をしているアレクシア王女の事だから真実を知り何も出来なかった場合は、何かをしようと動き足掻き始めてくれるだろうからそうなる様に成長点として連れていき真実を知ってもらうのは悪くない考えだと思う。

 そして妹のアレクシア王女が成長し始めたら感化されてアイリス王女も成長せざるを得ない状況になる筈だ。そして最終的には俺が裏方に回り他の紅の騎士団が目立ってくれたら万々歳という訳だ。

 

「発破と言うのはアレクシア王女に対してだな、人間無力さを感じたり悔しい思いをしたら努力するだろう?」

「――ッ! 成る程そういう事ですか。最初は一人からという事ですね」

「そういう事だ」

 

 昔戦いで全然振るわなかったガンマなら発破を掛ける為と言うのはよく分かる事のはずだ。彼女は戦いで貢献できなかった事をバネに知識でつまり頭脳方面でシャドウに貢献するという道を見つけた。

 

「では聖域にも入って貰うという事はほぼ全ての情報が渡る可能性がありますがよろしいのですか?」

「まあ、大丈夫じゃないかな。どうせその内に情報は渡すだろうし国王への圧力は多分早い方がいい」

「分かりました、では先にアルファ様にその様に報告しておきます」

「いや、それはまだいい。まだ俺が紅の騎士団として動くと決まった訳じゃないし、もしそうならもう一回ここに来て報告してもらうよ」

「そうですか、ではその様に」

 

 もう何も話す事が無くなったと思ったので立ち上がる。――がまだ言っていない事があったのを思い出した。

 

「そうだ、あのミリアって子を憶えてるか? あの子をクラウンの方で引き受ける事になった」

「目が覚めたのですね、それはよかったです」

「ああ、本当によかったよ。目を覚ましてくれた事は」

「シャドウガーデンに来なかった理由はそういう事ですか?」

「まぁ気分はよくないだろし当然の事じゃないか? 寧ろ敵対的な感情を抱かなかった事を俺は褒めたいし尊重したい」

 

 シドに思いを寄せているガンマ達からしたら複雑な気持ちになると思うけど、そこは頑張って理解をしてあげて欲しいと俺は思う。

 

「そうですね、父親がディアボロス教団の一員だったとは言え彼も加入した理由が理由でしたから、彼女の残酷な運命を嘆きはしますが責める様な事はしません。我々はそういう集団では無いのですから」

「そうか、それはよかった」

 

 少なくともガンマは理解を示してくれたし他のメンバーもそう大差ない反応だろうと思う。

 

「それじゃあ方針は調査に行くメンバーには聖域内にもついてきて貰って手に入れた情報は余程の事じゃ無い限り渡す感じで」

「はい、またあちらでの動き方が分かりましたらご連絡をお願いします」

「分かった」

 

 そう言って立ち上がってガンマに最後に会釈してから退出し、そのままの流れでミツゴシからも出ていく。そして少し人気のない路地裏に入り外側に展開していたスライムの服装を格納して紅の騎士団の格好になり、そのままアイリス王女達が居るだろうと思われる場所へ向かう。

 

 一応魔力探知で本当に居るかを確認してから紅の騎士団の建物に入っていく。前までは他の部署の建物の一室を間借りしているだけだったこの組織も、先の学園襲撃を表側だけでも鎮圧し抑えたので実績が認められてまだまだ小さいが建物を手配されるぐらいにはなった様だ。

 ただ先の一件は表側しか関われていなかったというのは紅の騎士団は認識している。もっとも俺がフェンリルという名前のディアボロス教団の幹部が学園の下に潜んでおり、シャドウがこれを倒していったと伝えたから知っている訳だけど。

 ただその事を伝えた際のアレクシア王女の反応が何だか不思議そうにしていたので、案外彼女はシャドウのその戦い方を本気で目指しているんだなと感心した。

 確かに俺が倒したし止めの攻撃はシャドウらしくない見た目と音だっただろうからな。

 前のゼノンの時にアレクシア王女は一番近くでアホミック、もといアトミックを見ていたと聞いてるしシャドウらしくないと感じるのは自然な事だったな。

 まぁ感心している場合じゃ無かったとは思うけど、不思議そうにしていたという事は俺の報告を訝しんでいたという他ならない事であって、早い事対処すべき案件だとは思うけど何もアイデアが思い浮かばないのだから仕方が無い。

 

 それにしてもこの組織も随分と人が増えたように思われる。見慣れない団員と思わしき人物と既に何度もすれ違ったし、流石に一週間も開けたから人員も変わったのだろうか?また魔力の波長の覚えなおしをしないといけないのが面倒だ。

 そんな事を考えながらアイリス王女が居る部屋に着きノックの後了承を得てから入室する。

 

「アイリス王女、長らくお暇を頂きました」

「いえ、大事な事業の事ですし構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

 ゼータの言っていた通りに本当にあの適当な言い訳でアイリス王女は納得していたみたいだった。本当に大丈夫なのかこの王女様は。

 

「帰って来て早々に申し訳ないのですが一つ頼み事がありまして」

「何でしょうか」

 

 大体予想は付いているし事前にガンマからも聞いているから後はいい感じに話を合わせて、俺が動きやすい様に仕事の内容を少し誘導して変えさせてもらおう。

 

「アレクシアと共に聖地へ赴き聖教を探って頂けませんか? どうにもあの子だけでは心配なので」

「聖教ですか、黒い噂があるのは知っていますが」

「ええ、学園の襲撃の件もありますし思い切ってここで調べるというのも悪くは無いかと思ったので」

「……」

 

 反応に困る考え方だ、調べようとする事自体は悪い事じゃ無いけどこの考えに至る経緯が少し脳筋のそれが見え隠れしているのが不安になる。

 

「分かりました、ですが少しアレクシア王女とは別行動の方がより確率が上がると思うのですがいいでしょうか?」

「別行動ですか?」

「そうですね、分かりやすく言いますとアレクシア王女には囮になって頂こうかと」

「お、囮ですか!?」

 

 言い方が悪いがあの王女様が表に立っていい感じに引っ搔き回してくれたらその分俺は動きやすくなるし、裏でシャドウガーデンとの連携も取りやすくなる。

 

「すみません言い方が悪かったですね、共に行動して両方足止めをくらっては意味がありませんので、アレクシア王女には書状を持って正面から正式に監査をして貰い、自分は裏でその隙に情報を抜き取ってくるという方針で行きたいのですが」

 

 俺の話を聞いて腕を組み悩むアイリス王女、恐らく頭の中でアレクシア王女の安全性と任務の重要性を天秤に掛けて悩んでいるのだろう。

 

「分かりました、シュウ君の案で行きましょう。出発する前のアレクシアにも伝えておかないと」

「ありがとうございます、それでは自分も準備をするのでアレクシア王女には現地で合流とお伝えして頂けないでしょうか」

「現地でですね、そう伝えておきます」

 

 そして個人的に聞いておきたかった事をアイリス王女に投げかける。

 

「そう言えばアイリス王女、随分と人員が増えた様なのですが何かあったのでしょうか?」

「そうですね、シュウ君には話していませんでしたね」

 

 どうやら俺が居ない間に進んでいた話があるようだった。ただ居たとしても俺の立場じゃどうにも出来なかった可能性はあるけど。

 

「余り受け入れたくは無かったのですがこちらの建物を頂く代わりに譲って下さった組織から人員を少し受け入れざるを得なかったのです。その時はグレンもシュウ君も居なかった時で、期限がその日までだったので了承してしまいまして」

「……何ですって?」

「今思うと失策だったと自分でも思っています、仕事の斡旋も受け建物も頂けるとなると断り切れずに……ただあの時は妙に焦りを感じていまして」

 

 完全に詐欺の手段で釣られているじゃないか、おまけに妙に焦りを感じていたつまて事はアーティファクトを使用して交渉されていた可能性もあるなんて。ああ、クソ。

 じゃああのすれ違った新しい人員は敵の可能性もあるのか、という事はこの部屋での会話も聞き耳をたてられていた可能性もあるという訳だ。

 

「アイリス王女、今回の調査は思わぬ妨害が入るかもしれません。この事だけはアレクシア王女以外には聞こえない様に伝えておいてください」

 

 俺はアイリス王女に近づき小声でそう話しかける。

 

「やはり内通者が紛れている可能性がありますか、分かりました」

 

 これは結構面倒な事態になってしまったとアルファに伝えておかないといけないな。こういう事があるから事前に作戦を建てるのは苦手なんだ。

 そういう感情を何とかのみ込んで、その後一言二言アイリス王女と話してから部屋を出ていった。

 

 そして俺は建物から出た後沈み始めた太陽を背に再びミツゴシへと歩み始めた。その背後に視線を向けてきている数名の新入りの魔力の波長を憶えながら。

 多分今見てきている連中が教団の手先だと考えておいて問題なさそうだ。特に注意するべきはあの怪しさ満点の蛇の様な眼をした陰気な雰囲気の男だろうな、すれ違う際に向けてくる敵対心がほんの少しだけ漏れていた。あの時はただの対抗心かと勘違いしていたが今思うとフェンリル派の残党が恨みを押さえれずに漏れ出ていただけだったのだろう。

 少しでも変な動きを目の前でしたらその時をアイツらの命日にしてやろう。そう思いながら人目に付かなくなった途端に飛び上がった。

 

 

 

 そして今回は薄暗くなっていたのでミツゴシの屋上にある建物の通称陰の間に直接空から降り立ち、中に居たシャドウガーデンの子達にガンマが何処に居るか聞くと、呼んでくるので待っていて下さいと言われてしまった。

 そして数分もしないうちにガンマが今度は鼻血が出ていない姿でやって来た。

 

「どう動くかがお分かりになったという事でよろしいでしょうか」

「分かったけど、ちょっと複雑というか面倒な事になったかな」

 

 俺はガンマに紅の騎士団としてリンドブルムに行って聖教を調べる事になった事、一応アレクシア王女とは別行動で動けそうだという事、そしてせっかくの紅の騎士団が内通者が入り込んでしまった事を簡潔に伝えた。

 

「成る程、でしたら妨害がある前提で動く。つまり余りジョーカー様の助力が得られない可能性が高いという事をアルファ様にお伝えするという事でよろしいでしょうか?」

「そんな感じで頼む」

「分かりました」

 

 前回の学園襲撃の際には紅の騎士団として動く事が多かったから今回はシャドウガーデンの方で自由に動けると思っていたんだけどなぁ、やっぱり上手くいく事なんて少ないんだな。

 そしてガンマに伝え終わった後はそのままクラウンの方へ飛んで行って調査するにあたって持って行ったらいい物を取りに来た。

 今はイータが居ないからあれこれ聞いて新作を持って行けないけど、既に使い方まで知ってる物ならば勝手に持って行ってもいい、と言うかゼータも持って行っている物を取りに来たというのが本命だ。

 周辺の魔力回路を可視化するアーティファクトで、何処に流れ何を意味するか一目でわかる優れモノだ。イータが開発したアーティファクトの中でもかなり便利な物だ。

 何だかんだでこれさえあれば外での解析はかなり楽になる。他にもあれこれと持って行きながら寮に帰って二週間分程の荷物を支度してから一回寝て、朝からリンドブルムへ向けて出発した。




 今回もここまで読んで頂きありがとうございます!

 もうかれこれ三ヶ月ほど二次創作を書かせて頂いているのですが、いまだに陰実世界の魔力やミスリルがどのような設定なのかいまいち掴みきれていないところがありまして、多分気にしている方は少ないと思いますが。
 そのあたりが独自設定のタグに関係しているのですが、そこを全面に出していいものかと悩んでいる次第です。

 次回も楽しみにして頂けると幸いです。
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