陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
今回はしっかりと睡眠をとってから王都からリンドブルムに向けて朝から出発した、アレクシア王女も同じ日に出発したみたいだった。
アレクシア王女は馬車でゆっくりと四日程かけて行くらしいが俺は一人で飛んで行った。
シドと違ってそのまま飛んでいる訳では無くわざわざ翼を作って飛んでいるから上空に行くと遠近法で案外鳥が飛んでいるように見えて日中でも気にならないらしい。まさかこういう所で翼を作って飛んでいる恩恵があるとは思っていなかった。
リンドブルム付近の山林に降りてそこからは徒歩で移動する。山から歩くので少しは時間が掛かってしまうが、それでもここから歩いて向かう分を含めても昼過ぎぐらいには到着するだろうから、馬車や汽車で向かうよりかははるかに速い。
「こうやって見ると聖地は見かけだけは案外綺麗な所だな。流石は王国随一の観光地」
山の中腹辺りから街を見下ろす形で見た時にそういう感想が自然と出てきた。同じ宗教関連の街でもオルムと比べると随分とマシに感じる。いや、本当に。
昔にオルムに潜り込んだ事があったけど今思い出してもよく一人で教団とテンプラ―の二つを相手にして逃げ切れたなって思うな。
「さっさと仕事に掛かりますか」
まずは潜入場所の調査から始めよう、この中腹からも見える無駄に豪華な大聖堂が目標でそれはメインストリートに直接繋がっており正直こっそりと潜入するのは面倒そうな立地だ。
だけど昼間に観光客に紛れ込んで調査するにはあの賑わっている中なら随分と仕事がやりやすい。
何をするにも地形を把握していないと侵入経路を絞る事も出来なくなってしまう。
少しして賑わっているメインストリートまで降りて来て紛れ込んでいるが、思ったより人が多くて鬱陶しい。もうすぐ女神の試練が始まるからか、観光客と思われる人達が大勢いる。
俺もその大勢いる観光客の中の一人にしか見えない様にちょっとした変装はしている。
服装はガンマから時々送られてくるミツゴシの高級ブランド物では無く……まあこれに関しては普段から着ている事の方が少ないけど、その辺で売っていた物を買って来て目元だけはサングラスを掛けて夏の日差しが眩しいので着けている様に見せかけている。本当は目線を他人に悟らせない為だけど。
因みにサングラスは普段は掛けないようにしている。何故なら前に一回ちょっとカッコつけようと思って掛けた際にゼータにペトスを思い出すから辞めて欲しいと言われたからだ。
そんな事を言われたら掛ける気が無くなる、だって嫌われたくないし。
それにしても意外と警備がしっかりしている、よく訓練された人員を配置しているんだな。ただ彼らの目を見ていると普通に真面目に仕事をこなしているだけだというのが分かる。
彼らの目は濁っていなく、後ろに教団の影があるとか何も知らないで勤務しているのだろうな。
正面から見て得られる情報は大体分かったから後は魔力を使用して内側の構造を少しだけでも把握してみる。
物凄く希薄に練り普通の人ならば感知できない魔力を壁などに流してその流れを把握する事により、建物の構造を調べていく。
音と同じで物体を通した方が魔力は流れやすいというか空気中だと勝手に霧散してしまうので、こうやって武器を強化するみたいに流す事によって地形の把握をする事が出来なくも無い。
途中で幾つか出入り口の無い空間があったので潜入した際にはそういう所を重点的に調べる事にしよう。
そして粗方調べ終えた俺は宿泊している施設に帰って来て、調べた大聖堂の構造を紙に書き写して情報を整理していた。
「ふむ、夜間の警備は最近の噂の影響で高いままと考えた方がよさそうだな。……となるといつも通りに潜入場所は地上では無く地下から入った方がいいか」
魔力を流して調べた際に分かった事で一応地下からも潜入出来そうな場所は幾つかあった。中でも警備が薄い場所を選んで入らさせて貰おう。人も居なかったからだいぶ楽なはずだ。
ただドレイク大司教から直接話を聞くべきか否かで未だに悩んでいる。
あの恰幅のいいおっさんが何かをやらかした影響で紅の騎士団も動き始めている訳だしな、ただ直接話を聞くのはアレクシア王女に任せてやっぱり俺は裏で情報をぶっこ抜いてきた方がいいか。
そんな訳で事前に調べるものは調べたので後は友人たちのお土産でも買って時間を潰そう。たしか郵便物の中に何故か旅行に行くならヒョロとジャガからこういうお土産をよろしくといった紙が入っていた。
見た瞬間に破いて捨ててやろうかと思ったがこれも友人付き合いだろうと思い、仕方が無いので何か買ってやる事にしたのだが、果たして何がいい物か。
そう考えながら歩いているとふと視界にに入った看板が気になった。
「『二日後にナツメ・カフカ先生のサイン会の予定、是非興味がある方は是非当日来て下さい』か。成る程ね、どうやら順調に名前が売れている様だな」
ベータは上手い事ここに来る口実を作っていたらしい。それに看板の情報によると来賓として招かれているみたいで、期待の天才作家という触れ込みみたいだ。
まだ殆どがシドから聞いた話の物語が多いけどオリジナルのものも書いているという話は聞いた事がある。それがどんな話なのかは何故か七陰の皆にも聞いてみたけど誰も教えてくれなかった。
日本みたいに娯楽に溢れている訳では無いから見知った物語でも個人的にはベータが執筆した作品は結構楽しみにしている。文章も読みやすく読んでいるだけで頭の中に映像が浮かんでくる様に書けているのは凄いと思う。
せっかくなのであの二人にはベータが書いた本をあげよう。リンドブルムとは全く関係ないけど問題ないでしょ、知らんけど。
そしてその日の晩、俺は地下下水道から大聖堂の中に潜入していた。今回は確実に潜入すると分かっていたからそれ用の装備も一式揃えている、何気に開発してから自分自身が着るのは初めての『オクトカムスーツ』を着用している。
足回りには吸音構造を採用しており足音の鎮静化に成功している。これに俺の元々の足音を押さえる歩法を合わせる事により、もはや余程耳がいい獣人以外には聞こえない領域にまで達している。
そして高強度アラミド繊維で作られた表皮の特殊迷彩の内側の防具部分は戦闘時においてもそれなりの防御力があり、特に銃弾には強い。
しかしこの世界は銃よりも剣などの近接武器が主流なので銃弾に対する防御力はおまけ程度にしか考えていない。その上何だかんだでこの性能は防御力も消音効果もスライムスーツよりも低く正直に言うと迷彩効果以外はスライムスーツの方が圧倒的に上だ。
それでも何故これを開発したかと言うとスライムスーツは展開した時に微量の魔力痕跡を残してしまい一切の痕跡を残さずに潜入するという事が出来ない。
しかしこの装備は魔力を一切使用していない近代技術の結晶でありシャドウガーデンとクラウンの技術力の結晶でもある。つまりこれは魔力的痕跡を一切残さずに潜入できる装備という訳だ。
決して趣味で作りたかった訳では無い。無いったら無いのだ。
「ちゃんとバラクラバも被っていざ突入ってな」
下水道を抜けてそのまま大聖堂内にお邪魔させて貰う。
夜という事も相まって静かで少しでも物音を立てると空間中に響き渡るだろうという事が分かり、現に警備の人が歩いている音が響き渡っており、こちらに近づいてきていた。
これが殲滅の任務なら敵ならそのまま殺して関係ない人なら寝てもらう所だけど、あくまでも今回は潜入して情報を取って来る事が重要であって敵を殺したり無力化する事では無い。
最終的に教団は壊滅させるから手っ取り早く殺しまわってもよかったけどそういう事をすると、死体や人が少なくなったという痕跡が残ってしまう。それは潜入と諜報活動をする上では半人前もいい所だ。
これは現実で決して
慣れていない昔は見つかって這う這うの体で逃げ帰る事もあったけど、教団の関連施設への潜入回数が二桁にいかない頃にはもう見つかることは無かった。
だから警備の人が通り過ぎるのを待ってから移動を始め、誰も居なくなった廊下を歩いていく。灯りは必要ない、ゼータみたいに夜目が効くという訳では無いけど暗い空間に居ると段々と慣れてくるし、網膜の光を刺激として受け取る量を魔力で身体強化する応用で増やしてやる事によって暗闇でも見える様に出来る。
もっとも急激な光を受けると失明するかと思うレベルのダメージを負ってしまうのが難点だけど。
ずっと昔に真昼間に部屋を閉め切って練習していた時にゼータが訪ねてきた際に、開けられたドアから入って来た太陽の光に目をやられて暫くのたうち回った事もあった。
事前に調べた時に気になっていた場所に来たがぱっと見た所何も無いただの壁にしか見えないが、この場所の奥に空間があり恐らく重要な情報が隠されている場所だと予想できる。
「何かしらの入る為の仕掛けがあると思うんだけどな……おっこれか?」
見つけたのは他のレンガの壁とは違いレンガの下の部分だけが少しだけ滑らかになっており、更にその真下部分の廊下には粉状の物が散らばっている。という事はこれは動いて下の部分と擦れて剥がれた粉が落ちたという事だな。
そう思ってレンガを押してみる、すると思ったよりも軽く動いて奥へと入り込んだ。
「ビンゴ、これで隠し部屋の中に入れるな」
重々しい音を立てながら壁は動き出してレンガは生きているようにそれぞれが動き出して人が一人通れるほどの穴が壁に出来た。どうやら何かしらのアーティファクトを応用した隠し扉らしい。
しかし気になる事が一点だけあった。
「思ったよりも音が鳴ったけど大丈夫かこれ?」
一抹の不安を憶えながら俺は中に入って行くが遠くからやって来ている気配を感知して、明らかに異変を感じられていると思ったので任務の続行か一時撤退かを悩んだけどいい案が思いついたので続行する事にした。多分問題ないはずだ。
ここの開閉にアーティファクトを使っていたから、俺が魔力を使用しても痕跡は混ざる事によって残らない。そういう結論が出たのでスライムを飛ばして一時的に先ほどの扉を再現し、押し込むレンガの先にもちょっとだけ細工をして今だけは押しても何も起きないようにする。
そして俺自身は一回廊下に出て天井に張り付いて周囲と同化し駆けつけてきている人達を待つ事にした。
「先ほど音が聞こえたのはこの辺りだったと思うが」
「だとしたら不味いぞ、これ以上ドレイク大司教の失態が外部に漏れるとあの人の首が飛ばされるぞ」
「今はそんな心配よりも情報が持ち出されていないかの心配をしろ」
明らかに表側の人間が話す内容じゃない事を話ながら三人の男たちがやって来た。十中八九コイツらは裏側の人間で教団の関係者だろうな。じゃないとさっきの会話は出てこないはずだ。
「おかしいな扉が開けられた痕跡が無いぞ」
「なら中に潜んでいるかもしれない、一回開けて入るぞ」
「分かった」
予想通りに一回中を開けて調べてくれる様だ。これで漸く何も気にせずに中に入れる。
先ほどと同じように重々しい音を立てながら壁は動き入り口が表れた。まあ本当はスライムを操作してさっきの動きを再現しただけなんだけど。
「お前は外で見張っていろ、ネズミ一匹も通すな」
「任せろ、中は任せるぞ」
そう言って外に一人、中に二人と別れてしまった。どうせなら全員で中を調べてくれた方がよかったのに。
二人が入ったのを確認してから俺も漸く動き出す。天井をそのままヤモリみたいに這いまわって、入口の方に近づいていく。動いている間はオクトカムスーツの迷彩効果は切れてしまうから慎重に視界に入らないように動いていく。
そしてそのまま気配を消して音も無く後ろから勝手に壁や天井を這い回りながら入って行く。俺みたいなデカいヤモリを見逃すなんて何て無能な警備なんだ。
中に入ると先に入った二人は機密情報の検品をしている様だった。そのまままた壁に張り付いて同化して広げられている情報を盗み見ていく。
しかしその情報は既に知っている物が多くこんな手間をかけてまで手に入れようとする代物では無かった。完全に骨折り損のくたびれ儲けで隠れているからため息はつけないけど思わずしてしまいそうな気持ちになった。
大体こういう諜報活動はやっても新たな情報が絶対に手に入る訳では無いし、何なら今回のように既に知っていた情報を確認できただけマシと思っていないとやってられない事の方が多い。
中の二人が出ようとする前にとっととおさらばさせて貰おう、今回は特に変わった情報は無かったという訳で。そしてそのまま今回は通り過ぎる風のように入口に立っている教団員の隣を抜けてその場を後にする。
これなら少し時間を掛けてでもドレイク大司教の近くで張っておいてどんなボロを出してくれるか待っていた方がいいか?いや、それをしたところでさっきの教団員たちの会話的に先が長くなさそうだしな。
待てよ、今回手に入れる事が出来た情報はあの大司教と言う立場にありながら責任を取らされる事よりも、情報が大事だと言われていたと言う事態に陥っている事が重要だったのでは?
一応この事はアルファにも報告しておくか。
そう思っていた時だった。突然大聖堂の大広間の方から野太い汚らしいオッサンの叫び声が聞こえてきたのは。
何事かと思って少し急いで駆けつけると、大広間の中で転々と付いて灯りを灯しているランプの光に当てられて輝く金髪を靡かせて石像に話しかけているアルファが居た。
「よくこの状況で涼しい顔をしながら石像の方に話しかけれるな」
俺はバラクラバを外しながらアルファに話しかける。これをつけてると息苦しいんだよな。
「そうね、このドレイク大司教には生きている内に話したかったから、自然とオリヴィエの方に話しかけてしまったのかも知れないわ」
「そうか、この事態の下手人は何処に?」
「イプシロンが追ってくれてるわ」
「イプシロンも来てるのか」
七陰の三人も既に来ているとは中々に気合が入っているみたいだ。
「ベータ以外に他に来ているのは?」
「後はデルタを近くに既に待機させているわ」
「あのデルタが待機?」
「待機と言っても呼べば直ぐに来れる範囲に居させてるだけだわ」
「ああ……そう」
そしてそのまま言葉を交わすことなく俺たちは同時に動き始めた、近くに大勢の気配を感じたからだ。このまま見つかる事は無いにせよぞろぞろと居られたら鬱陶しい事この上ないからな、話すなら場所を変えるしかない。
そして大聖堂の屋根の上で再び合流した。
「お疲れ様、中に入り込んでいたみたいだけど何か情報は得られたかしら?」
「いや、知ってる情報しか無かったな」
「そう……じゃあやはり聖域の中しか残っていないのね」
「そうだな。新しい事を知りたいならどうにか聖域の中を調べるしかない、問題はどうやって入るかだけど」
「……貴方に頼むのはいいけどシュウ・ヤークに頼むのは難しいわね」
ジョーカーとしての俺に頼むのはいいけどシュウとしての俺には頼めないという事か?一体どういう方法なんだ?
「それってどういう事だ?」
「女神の試練で開く事が出来る可能性があるからという事よ」
「あぁ……それは……難しいな」
時々手を抜き忘れてそれなりの実力で相手を叩き潰してしまう事がある俺だけど、女神の試練ともなると大勢の前でそれも自分の実力に合わせられた相手と戦わないといけない訳だ。それは今後の活動をする上で支障をきたすどころの話じゃ無くなりそうだな。
「どの道もう参加するには間に合わないだろ」
「いえ、当日まで受付をしているわ」
「じゃあ一応出れる訳だ」
「でも出る訳にはいかないでしょう?」
「そこなんだよな」
どうしたものかと二人揃って悩んでいた時だった。俺はある作戦を思いついた。
「聖域って一定期間に一定時間だけ開く訳じゃ無くて外側から開ける事も出来るよな?」
「え、ええ。それは出来る筈だけど、そうじゃないと教団も中に入る事が出来ない筈だから」
「でも教団がどうやって開いてるかの情報はこの周辺には無かった」
「そうね、ここで調べれるか。それともドレイク大司教から聞けるかと思っていたのだけれど」
「だったら女神の試練の開催中にシステムの方を直接調べるか」
アルファが何を言っているんだと言う顔をしているが俺は気にせず思いついたことを話していく。
「女神の試練ってそもそもどういう催しだった?」
「それは聖域が開かれる年に一度の日に古代の戦士を聖域から呼び出して戦う行事……あ、貴方まさか」
「そのまさかだ。古代の戦士達は聖域の中から召喚されている。つまりその日だけはこちら側と繋がっている訳だ。ならそのシステムに干渉して強引に扉をこじ開けさせて貰おう」
「出来るの?」
「何事もやってみないと分からんさ」
そういう俺をアルファは黙って見てくるが、ため息を一回ついた後心配そうな表情で口を開いた。
「魔力の制御技術に置いて右に出るものは居ない貴方だから出来そうだけど、一応他の方法が無いか最後まで探しておくわ」
「そうだな自分で提案しておいて何だけど、出来るかどうか分からないしな」
「くれぐれも前みたいな無茶はしないで頂戴、貴方が居なくなるとゼータとイータが特に悲しむわ。勿論私たちもそう、だから――」
「心配すんなって、少なくとも皆を置いて何処かに行くつもりは無いし死ぬつもりも無い。今回だって聖域の扉を開けれるか試すだけだしな、そんな危険な作業じゃないだろ」
そう言って強引にアルファを安心させる、実際今回のこの作業は危険が伴う可能性は無いに等しいと思っているし。
そうして俺たちはそのまま幾つか簡単な打ち合わせをした後別れ、当日まで俺の仕事は無くなってしまった。
そして女神の試練開催の当日、俺は超ご立腹なアレクシア王女の愚痴を会場に着くまでの馬車の中で耳が痛くなるほど聞いていた。
「あのハゲ絶対に怪しいしどう考えてもおかしいと思わない?」
「まあ前の大司教が殺されたのにその調査を拒むと言うのは怪しいですね」
「それに何よ、調べたいならもう一度王都で許可書を貰ってきて下さいって。その間に証拠が全て消されるでしょうが!」
ずっとこの調子なのだ。いい加減機嫌を治して欲しい所だけど、気持ちも分からなくも無い。一応どさくさに紛れていくつかの情報を手に入れた事は伝えているのだがそれでもこの感じなのだ。
俺としては完全にお手上げ状態で同じ馬車に入った事を移動開始三十秒程で後悔した程だ。
「何も情報が得られていないという事じゃ無いからまだマシだけど、それにしても腹が立つわ」
「一応聖教の裏にディアボロス教団が潜んでいるという事が分かったのですからいいじゃないですか」
「よくないわよ! どうせこういう事はあのシャドウガーデンならとっくの昔に手に入れている情報だと思うし」
確かに聖教と教団の関係は二年前には知っていた情報だ。しかし実態はもっと複雑で面倒で大変だった。特にあのウィクトーリア周りの事は大変だった。
「どうしてそこまでシャドウガーデンに拘っているのですか? 我々も一歩ずつではありますが前進できていますしそこまで気にしなくてもいいのでは?」
「よくないわ。ミドガル王国は私たちの国なのよ? 幾ら敵では無いとはいえ部外者に守られているような状況ではダメなの」
「自らの意志と剣で守ってこそ意味があると?」
「そうよ、これはあまり動かない陛下に頼れないから私と姉さまで決めた事なの」
成る程しっかりと国の事を考えている者が後継者に居るとはミドガル王国の国王も運がいいというか何と言うか。これは発破を掛けようと思っていたけど要らないお世話だったらしい。
彼女たちは既に自ら思ってに立って戦う覚悟が出来ていたらしい、ならばその意思を汲んでシャドウガーデンとしても手を貸す事も出来そうだ。もう彼女たちは観客では無い。
徐々にだけど味方が増えてきてシャドウガーデンだけでディアボロス教団に対抗しなくてよくなってきた状況と、彼女たちの頑張りを同じ目線で見れる人達が出てきてくれた事に感動して少し涙ぐみそうになった。
「どうしてアンタが意味ありげに頷いてるのよ、そこは賛同する所でしょ」
「いえこの調子ならミドガル王国は安泰だろうなと思いまして」
「あっそう」
そこからは特に変わった会話は無くそのまま会場に到着した。そして来賓の客席までは一緒に来ていたが俺は入らずにアレクシア王女を見送った。
「貴方もここで見ないの?」
「いえこの間に何か見れないかと思いまして、アレクシア王女はここで観客の注目でも浴びておいて下さい」
「そ、そう。一言多い気がするけど分かったわ」
部屋の扉が閉まる瞬間ネルソン大司教代理がこちらを見ていたが、特に気にする事も無いただのハゲだったから無視しておいた。
そして会場の人気の無い所でイータの開発したアーティファクトを起動して女神の試練が始まる前後で会場でどの様な変化が起きるのかを調べていた。
調べたらその変化した所を重点的に調べる事によって聖域に関係するシステムを発見できるはずだ。後はそこから干渉する事で扉を強引にこじ開ける。
そしてそのままシャドウガーデンと愉快な仲間達で突入して、世界の真実とやらを調べさせて貰おう。これでミドガル王国は完全にディアボロス教団と対峙する証拠が揃うはずだ。
そして開催の挨拶がされたのか会場が騒がしくなり魔力の高まりも感じてき、アーティファクトも反応を示している。が示しているのは先ほど離れた来賓の方で早くも面倒な予感がして来た。
「これは……あれか。あそこに装置があるのか」
仕方が無いので一回誰かと合流して作戦を続行するか別の作戦に切り替えるのかを聞かないと。そう思っていたら来賓としては行っていなかったイプシロンの姿が目に入った。丁度いいや。
「イプシロン」
「あれジョーカー様? 何故こちらに? もっと深い所へ向かっているのかと」
「装置が来賓の付近にありそうだ」
「聖域の扉を開く装置がですか?」
「そう、だけどあそこの周辺は流石に人目に付くからな。ちょっと遠隔でやるなら時間が掛かりそうだ」
実際に今も干渉を続けているけど思ったよりも手ごわくて大変だ。
「私も協力します」
「辞めておいた方がいい、他の制御が乱れるぞ」
長袖の服装と手袋で隠しているけど俺も右手の色を肌色に保てていない。この右手の事を知っているのはゼータとアルファとイータだけだからイプシロンにも知られていない。
ゼータとアルファは当事者だから知っているとして、イータにもバレたしまったのは想定外だった。まさか不意打ちの血液採取でバレるとは思わなかった。
そりゃ右手に注射器を刺しても取れるのはスライムだけだからな、不思議に思われても仕方が無い。
そして人一倍スライムの制御技術に心血を注いでいるイプシロンだ、こういう事はしない方がいい。せっかくの努力の結晶が崩壊してしまう恐れがある。
「わ、分かりました。それでは私は代わりにアルファ様に相談してきます」
「頼んだ」
イプシロンと別れた後、出来る限り来賓の席に近い所で作業をしようと思って観客席に混ざって魔力制御に集中していた時だった。
「次ッ! ネルソン大司教代理からの推薦者で、紅の騎士団所属でミドガル魔剣士学園のシュウ・ヤークッ!」
聞き間違い出なければどうやら俺はあのクソったれのハゲに推薦と言う形で女神の試練に強制参加させられるらしい。
「私の推薦と言う形ではあるが勇敢なる挑戦者を拍手で迎えようではないか」
白々しくも一瞬こちらに目をやってあのハゲは両手を上に広げながら声を高らかに上げそう言っている。あのハゲ絶対に許せねぇ。
もうこうなったらどうしようもない、ここで降りるようなマネをしたらせっかく上がり始めた紅の騎士団の評価を落としてしまう事になりそうだ。
軽く観客席を見渡してシャドウガーデンのメンバーと目線を合わせるが全員首を横に振っていたので、諦めて従うしかないと思っている様だった。
急に参加させられたので、正規の入口では無く観客席から直接飛び降りてドーム状の空間内に入って行く。
嫌々だけどこういう所で人としての評価などが試されるので大真面目にやる事にする。
「古代の英雄よ……我が申し出に聖域より出でて答えたまえ」
大衆の前でクッソ恥ずかしい台詞を言いながら形だけでも堂々と仁王立ちをしておく。
実際はさっきの台詞で羞恥心が限界突破している事と、ここまで来て何の反応も無かったらどうしようという不安で頭がいっぱいだった。
後であのハゲにどうにか復讐をしてやろうと思いジッと来賓の方を見ていたから気が付いたがハゲが少し動いた後にあの辺りから魔力の反応がしておりあそこに何かがあると言う確信を得た。
そして中空に紋章の様なものが浮かび上がったと思ったら次の瞬間には古代文字が浮かび上がっていた。えーっと確かこの文字は何だっけか。
ああ、思い出した。この文字列はオリヴィエだ。
「……えっ? オリヴィエ?」
驚いて思わず素の声が出てしまったが次の瞬間にはもっと驚いていた。
俺の周囲から粒子の様な物が流れていったと思ったらその実体化しそうになっていたオリヴィエの体が変わっていき、つい二週間ほど前にあったあのリリの姿に変わっていた。
俺は思わず、乗っ取られとるがなオリヴィエさん!と口に出しそうになったがグッと堪えた。
誰から見ても俺の顔が心底げんなりした顔だったのは明白だろう。そしてシャドウガーデンのメンバーは俺の性格を察してか顔を青くしており、あのハゲに至っては何が起こったのか分からないのか慌てている。
対称にリリだけは何故か嬉しそうに尻尾を振って臨戦態勢に入っていた。
助けたはずの対象に憑りつかれていた上に何故か嬉々として攻撃されそうになっている件について。思わず俺は天を仰ぎながら口を開いた。
「……どうしてこうなった」
今回もここまで読んで頂きありがとうございます!
また投稿頻度が落ちてきてしまいすみません。頑張って週一投稿を目指したのですが三日坊主ならぬ三週坊主すら出来ませんでした。
きっちり週一や毎日投稿している方々は一体どうやって時間を確保しているのでしょうか。
お気に入り登録や感想ありがとうございます。皆様のお陰で書く事を続ける事が出来ています。
次回も楽しみにして頂けると幸いです。