陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

25 / 32
第二十三話 陰の立役者はタダでは帰らない

 

 

 

 アルファの案内で俺とナツメもといベータとアレクシア王女とローズ王女が扉の中へ入った所、白く眩い光が視界一杯に広がりそれが収まったかと思うと、薄暗い吹き抜けの空間に気が付いたら来ていた。

 

「これが聖域の中か」

「ええそうよ、着いてきなさい」

 

 アルファは俺たち四人に対してそう言った後、シャドウガーデンのメンバーに指示を出していきそれぞれ散開した。そして残ったのはアルファと俺とアレクシア王女とローズ王女とベータとネルソンと黒ずくめの恰好をして正体を隠しているデルタが残った。

 

「私にこんな事をして許されると思っているのか!? ここから出たら貴様らシャドウガーデンは犯罪者集団として王国に報告させてもらう」

「勝手にしなさい」

 

 アルファの冷たい視線が突き放すような言葉と共にネルソンへと注がれる。

 

 多分アレクシア王女も居るし余程の事が無ければ犯罪者集団として民衆に知れ渡ることは無いと思う……思いたいけど実際の所どうなるだろうな。

 もっともネルソンがこのまま無事に帰る事はない。何よりも俺自身が帰すつもりが無いからな、ここでしっかりと仕留めておきたい。

 

「それよりも、かつて英雄オリヴィエはこの地で魔人ディアボロスの左腕を封印したという伝承が残っているわ」

「それがどうした? 所詮はお伽噺に過ぎん。もしや本当にあると思って左腕を探しにここへ来たのか?」

 

 ネルソンが嘲笑うようにアルファへ言うがアルファは全く気にしていない様子だった。

 

「そうね、探すのも楽しそうだけど本命はディアボロス教団についての調査ね。それが終わったら探してみるのもいいかもしれないわ」

 

 ディアボロス教団という単語が出た瞬間ネルソンの顔は一気に表情が無くなる。アルファの言葉聞いたアレクシア王女は眉間にしわを寄せて不機嫌そうな表情に、ローズ王女は学園の一件を思い出したのか握りこぶしを作って少し震えている。

 

「……何の話だかさっぱり分からんな」

「答えられる訳が無いわよね、だから直接拝見させて貰いに来たの。歴史の闇に葬られたこの世界の真実を、始まりから全てを」

 

 そう言ったアルファは俺たちに背を向けて大きな石像に向かって歩いていく。歩くたびにこの隔絶され環境音が一切ない空間に清々しい程綺麗にヒールの音が鳴り響く。

 

「……英雄オリヴィエの像」

 

 アルファがそう呟いた時、近くに居たローズ王女が首を傾げて疑問を口にする。

 

「英雄オリヴィエですか? しかし男性だったと聞いておりますが」

 

 ローズ王女は一般人が知っている周知の事実を、模範的な疑問を口にしてくれた。

 

「ええ、その様に伝わっているけど真実は違う。教団によって都合が悪かったから捻じ曲げられた世界の真実の一つよ」

「……」

 

 ローズ王女は真剣に考えこむ様に黙ってしまった。

 そしてアルファは自分の仮面を外しながらオリヴィエの像の頬に触れる。

 

「おおよその事は分かっている、でもまだ確信は得ていない。何故英雄オリヴィエと私の顔が似ているのかも」

 

 その場に居た殆どが息をのんでその光景を見ていただろう。俺も事前に知らなかったら似た様な反応をしていた自信がある。何故ならアルファとオリヴィエの顔は瓜二つだったからだ。

 

「貴様はエルフの……しかし悪魔憑きになって死んだと」

 

 ネルソンのその言葉にアルファは鼻で笑う。

 それを見たネルソンは慌てて口を閉ざすがこの場に居た全員がその言葉を聞いていた。

 

「そろそろ次に進みましょうか……英雄オリヴィエ貴方なら応えてくれるわよね?」

 

 アルファがそう言いながら魔力を石像に流すとアルファの隣にオリヴィエが現れた。

 

「バカな……そんな事が」

 

 呆然とするネルソンを傍目にオリヴィエは背を向けて進んで行く。

 何故か一瞬こちらを一瞥していたように思えたけど多分気のせいだろう。うん。

 そして彼女の進む先に光の粒子が集まっていきやがてそれは光り輝く道となり空間全体に広がっていく。

 そして聖域の中に入った時のように光に包まれた後に浮遊感が……浮遊感が得られた筈だけど、何も感じないまま光が収まると周りには誰も居なく俺だけがポツンとただ一人取り残されただけだった。

 

「嘘だろおい、あの状況下で普通置いていかれるか?」

『普通じゃないのだろう、お前の場合』

 

 俺が一人残された事を不満に思い愚痴っていると斜め右後ろ辺りから声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だし何か物理的にも態度的にも上から言っている感じがしたから振り返りたくなかったが、観念して振り返るとそこには案の定リリが空中に漂うように居た。

 それも腕を組んでまるで何かに座っているかの様な姿勢で、そんな感じでこちらを見ていた。

 

「何でまた出てきてるんだよ」

『お前が困っていたみたいだからな』

 

 確かに困ってはいたがこの人に聞きたいとは思っていなかったし考えてもいなかった。

 

『他の者達と共に進めなかった理由に心当たりがある』

「へぇ、客観的に見てると分かるものか?」

『その様なところだ』

 

 手詰まり状態という訳では無いけど理由は知っておきたいからな、大人しく回答を聞いてみる事にしよう。

 

「それでその心当たりって何だ?」

『一つ目は私は誰だ? 二つ目は外でお前は何をしていた? この二つがヒントだ』

「ヒントって……私は誰だってそんな事……ああ、そういう事か」

 

 思えば至極真っ当な事だった。そりゃ魔人ディアボロスからしたら自分を倒した奴なんか近づいて欲しくないわな。つまりリリがくっついていたから俺だけ拒否されたって訳だな。

 オリヴィエはここの聖域の守護者的な立ち位置だからすんなりと行けるのだろうが、リリはこの場においては完全に独立した存在だ。拒否されても仕方が無いな。

 状況は理解した、納得はしていないが。

 

「二つ目はあれか? 聖域の事を調べすぎて嫌われたか?」

『恐らくそれも理由の一つに入るだろう』

 

 今回も面倒な事になってしまった。さっさと要件を終わらせてこの居心地の悪い空間から出たいという気持ちが湧いてきた。

 

「この場で悩んでいても仕方ないし強引に進んで行くか。このまま一人だけ何もせずにのこのこと帰る訳にもいかないし」

 

 その場で準備体操をして、そして魔力を練っていきそのまま床に手を付ける。

 

『何をするつもりだ?』

「まあ見てな、聖域の解析は既に大体は終わっていたからな。こういう事も出来る」

 

 そう言って床に付けた手から聖域全体に魔力を流していく。

 もう一々手順を踏んで進んで行くのが面倒に感じてきたからな、始めからフルスロットルでこの聖域を突っ切っていく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 一方その頃、先へ進んだアルファ達はシュウが来ていない事に直ぐには気が付いていなかった。何故なら来ているのが当然だと考えていたから確認すらしていなかったのだ。

 

 始めに気が付いたのは意外にもベータだった。

 このままアルファに指揮を任せるつもりなのか確認を取ろうとし探した際に、漸く気が付いたのだった。ここに来てから二十秒経った頃のタイミングだった。

 

(あれ? ジョーカー様がいらっしゃらない?)

 

 ベータは何か別の要件でジョーカーは別行動を取ったのかと考えたが、このタイミングで別行動をするのは不自然だと思い、何か予期せぬ事態が起こり来れなかったのだと判断した。

 そして瞬時に怪しまれないように偽装か何かをしないといけないと考えた。

 

「あのシュウ・ヤークさんがいらっしゃらないのですが、彼に何かあったのでしょうか?」

 

 ベータはアルファに向かってごく自然な流れで質問をした。

 

「確かに彼だけ居ないわね。はぐれるような要素は全く無かったと思うのだけれど」

 

 アルファ達が直ぐに気が付かない原因を意外な人物が指摘した。

 

「恐らくあの少年は聖域の主に拒まれたのだろう」

「聖域の主に拒まれた? ……成る程そういう事ね」

 

 そうネルソンが口を開き疑問に答えたのだった。そしてたった一言でアルファは状況を瞬時に把握した。

 

「ど、どういう事?」

 

 流石に同僚が訳の分からない空間ではぐれたとなると少しは心配になった様でアレクシアがアルファへ説明を求めた。

 

「女神の試練での彼の対戦相手は憶えているかしら」

「あの獣人の女性ですよね。彼女に何か関係が?」

 

 アレクシアの代わりにローズが答えた。

 

「英雄オリヴィエは男性では無く女性だった。では残りの英雄はどうだったと思う?」

「……全て女性だった?」

「正解。流石は紅の騎士団にも所属している王女様なだけあるわね」

 

 小馬鹿にした様に軽い拍手をしながら褒めてくるアルファに対して、アレクシアは一言多いと思っていたがグッと堪えた。

 

「つまりシュウ君はオリヴィエに匹敵するそれも魔人ディアボロスを倒したとされる英雄と戦ってその上で大した怪我も無く勝ったって事?」

「そうなるわね。非常に強力な人材だわ、是非私たちの組織に欲しいぐらいだけど」

「そうはさせないわ」

 

 アレクシアはシュウが本来の実力を隠していたと思われる事態に憤りを感じたが、その事について言及するのは後にすると決めてシャドウガーデンにヘッドハンティングされる事だけを防ごうとした。

 最も彼が本当に所属していると思っているのはシャドウガーデンだけで、他の紅の騎士団などはシャドウガーデンの為に潜入しているに過ぎないとしか考えていなかったりする。

 

「つまり彼にはあの古代の英雄がくっついているから嫌われたということですか?」

 

 若干目を輝かせながらベータがナツメとしてアルファに対して言った。

 因みにベータが目を輝かせているのは、本人たちには黙ってシュウとゼータとイータの関係を小説のネタにしており、面白そうなネタがまた出てきてくれたと思っているからである。

 

「言い方が少し俗っぽい気がするけど、そういう事だと思うわ」

 

 その場に居た全員が納得していた時だった。

 突然聖域全体が震えているのではないかと錯覚してしまう程の高濃度の魔力が聖域内に流れ出した。

 その後に空中に幾つもの黄緑色の幾何学模様が現れ、それは脈打つように広がっていきやがて空間の地面や壁が全て覆われてしまった。

 そして何か黒い影が壁の中を高速で横切っていくのが見えた。

 それはハッキリとは見えなかったが人影に見えたが、いくら何でも壁の中を人が移動できる訳が無いのでアレクシアは幻覚を見たのだと思い込むことにした。

 

「な、何よこれ?」

 

 アレクシアがこの奇妙で人が行った現象と思わず恐怖を含んだ感情で口にする。

 しかしそのアレクシアの疑問に対して誰も答えなかった。

 ローズは自身でも何が起きているのか把握出来ていなく、そしてローズ自身も驚愕と恐怖により思考停止状態に陥ってしまっていた。

 シャドウガーデンのメンバーは誰が何をしているのか瞬時に分かったので黙っていた。

 

(やり過ぎよジョーカー、王女二人が圧倒されてしまっているわ。貴方ならもっといい手段が取れるでしょうに)

 

 アルファはこの場に居ない下手人に対して、もっといい手段があったはずだと思った。

 もしこの場で直接ジョーカーがそういう事を言われていたら、困った表情でこう言っていただろう。

 

『いや、流石に買い被り過ぎだわ』

 

 もっとも本人はここに居なく、そんな事を思われているとは露程も思っていないのだが。

 

「あ、ありえん。一体誰が、どうやって? それに……あの方向は中心地」

「あら、ネルソン大司教代理。今何が聖域で起こっているのか分かっている様な口振りね。ここに詳しそうだから解説をお願いできるかしら?」

「……何の事だか」

 

 ここまで来て尚とぼけるネルソンにアルファはため息をつきたった一言。

 

「――デルタ」

 

 そう言いながらまるで何かを摘まむような動作をした。

 その次の瞬間、先ほどまでネルソンを捕らえたままジッとしていたデルタがおもむろにネルソンの頭髪を掴み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「よ、よせッ! 辞めさせろ! 分かった聞きたい事は答える! だから毛を毟るのは辞めさせてくれッ!」

 

 数回やられた段階でネルソンが先に屈し質問に答える事を条件に辞めさせるように懇願した。

 その懇願を見たアルファが片手を上げ制止の合図を出し、それを見たデルタは最後にもう一回と言わんばかりに辞める前に一回分余計に引き抜き、毛刈り行為を辞めた。

 

 ネルソンの頭髪は元々少なかったが月の模様の様に所々ごっそりと毛が無くなっていた。

 その悲惨な光景に思わず全員が目を背ける。決して見た目が面白おかしくなったから視界に入れたくないという訳では無い。

 そんな可哀想な事になったネルソンを連れて彼女たちは聖域の奥へとオリヴィエの案内に沿って進んで行った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 聖域の中の壁に潜り込んで進んで行ったら進めない場所まで来たので、そのまま破く様に強引に壁の中から出たら途端に重力の方向が変わってそのまま反応できずに顔から落ちてしまった。

 

「痛ぇ、急に重力の方向が変わりやがった」

『この程度も反応できないのか全く。それよりもここが最深部だ、どうやら先客が居るみたいだが』

 

 本当に一々小言が多い。そして意外な人物たちが先客だった。

 そうシドとアウロラだ。何処からやって来たのやら。豪華な剣を間に挟んで二人揃って仲良く座っていた。

 

「あれ? シュウじゃん、何で一人でここに?」

「それはこっちの台詞何だけど」

 

 纏っていたスライムを全て格納して片目を閉じた状態のシドと対峙する。

 一人でって事はリリは他の人には見えていないのか。

 

「それにしてもやっぱり上手くなったね、魔力の制御」

「そうは言ってもお前ももうすぐ使える様になるだろ?」

「まあね」

 

 そう言ってシドは閉じていた目を開く。その時にはもう両目とも赤い目に変わっていた。魔力が完全に使えている状態だ。

 

「うそ……どうして貴方達は当たり前のように魔力が使えているの? ここは聖域の中で誰も魔力が上手く使えないはずなのに」

「どうしてって言われても、吸われるなら吸われない程強固に練ればいいだけだよね?」

 

 アウロラの質問にシドが俺にも同意を求める形で聞いてくる。

 

「まあ使いたかったらそうするのが一番手っ取り早いけど、普通の人は出来ない事らしいぞ? 俺はもう少し違う形でやってるけど」

「強固に練る以外に何か方法はあるの?」

「吸われない波長に合わせるとか、変質させて魔力と認識させないとか、吸われる前提で本来使う分以上に多く放出するとかかな?」

 

 俺が出来そうな事を羅列していくとアウロラの表情は段々と引きつっていた。

 因みに今回は吸われない波長に事前に合わせているから普通に使う事が出来ている。聖域の事は外から可能な範囲なら調べて尽くしたからこういう事も分かっている。

 ……そういえばイプシロンにこの事を共有するの忘れていたな、大変な事になっていなければいいけど。

 

「こっちはゴリラで、そっちは変態なのね」

「おい、変態ってどういう事だ」

 

 かなり心外な評価をされた。しかも背後でリリが口を押さえながら笑いを堪えているし。

 

「あら、人の事をじっくりと時間を掛けて調べまわしたのに?」

「シュウそんな事をしていたの?」

「おい待て、誤解を招くような言い方はするな。直接調べた訳じゃ無いし間接的だっただろ。俺が調べたのは聖域であってアンタを調べた訳じゃ無い」

 

 俺がそう言ってアウロラに反論する。しかし彼女は眉尻を下げ困ったような表情をした。

 

「似た様なものでしょ」

「いやかなり違うだろ」

「何の話?」

「今はお前が知らなくてもいい話。また今度説明するから今は首を突っ込んで来ないでくれ」

 

 途中でシドが首を突っ込んできたが今は無視する。俺の名誉が懸かっている状況だ。多少優先度を下げてもいいだろ。

 

「今まで騎士様に守られた事なんて体験はした事が無かったけど、調べ上がられる事は何回もあったから思わず貴方が奥にまで入って来るのを拒んでしまったわ、ごめんなさいね」

「それが理由だったか、原因がコレじゃなかったのか」

 

 そう言いながら見えていないだろうけど後ろに居るリリを指で示す。

 

「一応彼女も要因の一つではあるけど、貴方に憑いてる間はまだ大丈夫そうだったから優先度は低かったわ」

「だってさ、大した事無いって」

『おい、調子に乗るなよ? もう一度倒されたいかって伝えろ』

 

 瞳孔が急に小さくなってそうアウロラに伝える様に言ってくるリリ。

 

「わざわざ彼を伝書バトに使わなくても私は貴女の事は見えているし、言葉も聞こえているわ」

『そうか』

 

 険悪な雰囲気になって来た。

 

「成る程、さっきから妙な魔力を感じると思ったらそこにもう一人誰か居たんだ。やっと見えたよ」

「ああシドも見えるのか、このおっかない猫の亡霊は多分学園の地下であった時に俺に憑りついていてな。小言が多いし嫌味も多いし見た目がこの見た目じゃ無かったなら当の昔にキレてる自信がある」

「へぇーお祓いとかしないの?」

「帰ったら真剣に考えようかなって思ってる」

『おい……本人が聞いてる前で堂々と話す内容じゃないだろ、人を悪霊扱いするな』

 

 いや、どう考えたって悪霊の類でしょうがアンタは。

 そう思ったが何も言わなかった。

 

「随分と仲がいいのね」

『この女の目は節穴か? どう見たらそう見えるんだ』

 

 アウロラの発言に割と辛辣な返しをするリリだったが、俺には何となく言いたい事が分かった気がした。

 

「案外傍からみたらそう言う風に見えるかもな、それも俺が知らない過去のアンタの姿とかを知ってる人物からしたら」

『そういうものなのか?』

「そういうもんさ」

 

 微妙に納得していない表情のリリだったが引き下がってくれた。

 毎回色々な人とあった時にこういう件をするのは面倒だから後で腹を割って線引きを決めさせて貰おう。こういう時は一々口を出してくるなって。

 

「そう言えば二人はここで何をしてたんだ?」

「ここから出ようと思っていたけど、魔力が使えるまで手詰まりで待っていたんだよ」

「成る程」

 

 じゃあもうここから出られる訳だ。そう思っていたがそう簡単な話では無かったようだった。

 

「ヴァイオレットさん、残念ながらこの剣は抜けなかったね」

「そうね、彼なら抜けるかしら」

「それが噂に聞く聖剣とやらか。だとしたら俺じゃ抜けないと思うけど、アルファとかなら抜けるんじゃないか?」

「確かに抜けそうな感じあるよねアルファには」

 

 あんなにオリヴィエと顔がそっくりだから、あれで英雄の子孫ではありませんって言われたらマジで驚く自信がある。

 

『英雄の子孫か、エルフ限定なのかこれは』

「さぁ? 試すにしてもアンタ実態が無いから無理だろ?」

『いや、案はある』

 

 そう言うとリリは俺の中に急に入って来た。

 体の中に何か異物というかとにかく全身に悪寒を感じる何とも言い難い感覚に襲われる。

 

「おい! こういう事をする時は何か一言言ってからやるのが筋ってもんだろ!」

『そうするとお前は受け入れないだろ? 無駄な問答の時間は使いたくない。そろそろ奴らがやって来る』

 

 そうリリが俺の頭の中で言った時。シドが扉の様な場所を見ながら急に喋り始めた。

 

「何だかまた誰かが来そうだね」

 

 その後直ぐに何だか入口付近で最後に見た時よりも悲惨な髪になってしまったネルソンと無機質で何も感情が籠っていないような曇ったガラスの様な瞳をしたオリヴィエが入って来た。

 確かにこれは時間が無いかもしれないな。そう思ったから俺はリリへの抵抗を辞めて波長を合わせ始める。

 

『ん? 漸く受け入れる気になったか』

「時間が無さそうだからな」

『賢明な判断だ』

 

 問題はこの状態でどっちを相手にするかという事だ。ネルソンとオリヴィエを相手にするのか、大人しく剣を引っこ抜いて決められた手順通りに脱出するのか。

 

「そう言えばまだ聞いていなかったけど、ヴァイオレットさんは消えたいの?」

「今のタイミングでそれ聞く事か!?」

 

 突然シドが何か聞き始めたから思わず俺がシドに声を荒げてしまう。

 

「シュウは一回黙ってて。で、どうなのヴァイオレットさん」

「正確には消えるのではなくて永遠から解放されるというのが正しいわ。ここは私の記憶の牢獄、長すぎて疲れちゃったわ」

「そう……分かった」

 

 この会話を聞いてアウロラの表情を見て俺がするべきことは何だ?何が正解なんだ?そう考えていた時だった。

 

『今まで通りに自分のやりたい正しさに従ったらどうだ。今までだってそうして来たのだろう? 腹が立った相手は全力で叩きのめし、助けたいと思った相手には自分が出来る限りの事をして助けて来ただろ、今回も同じ様にすればいいだろう』

「そうするとアンタの昔の敵を助ける事になるし、最悪の場合例の魔女が復活する可能性だって捨てきれないかも知れないんだぞ?」

『そう思うのであればあの女に味方するのは辞めればいいだけだ』

 

 確かにそうだけど、あんな表情を見たら何とかしてやりたくなってくる。それにシドはもうやる気満々な様子だし。

 

「人はそうそう変わらないって事だな」

 

 俺がそう言い決意を固めるとリリは何だか微笑んでいたような気がした。実際は中に入っているから表情は一切見えないけど、それでも何か温かいものが感じられた気がした。

 

「シド。俺があのハゲとエルフの人を相手にしておくから、お前は最後まで彼女を騎士様としてエスコートして望みを叶えてやってくれ」

「え? 今ならシュウでもあの聖剣を抜けるんじゃないの?」

「おいおい、あんな無駄に豪華な聖剣が必要なのか? 俺の知ってるシャドウならそんな物必要無い筈だ。いつも見たいに圧倒的な技術で進めるだろ」

「――ッフ。煽りとしては落第レベルの言葉だが……いいだろう。敢えてその言葉に乗ってやろう」

 

 おい、一々一言多いわ。自分でも下手な煽りだなって自覚はあるっての。

 

『本当に酷い煽りだな。言い慣れていないのか?』

「悪かったな言い慣れていなくて。正面から行くよりも裏から仕掛けたり、事前に仕込んでから襲うとかそう言う戦法が多かったからこういう事には慣れていないんだよ!」

『そうか』

 

 さて気を取り直してハゲと対面する。

 

「さてどうやってここまで来たのか知らないがシュウ・ヤーク、貴様にはここで死んでもらう」

「いや、死ぬのはお前だけだネルソン」

 

 俺は右手で顔を一瞬だけ隠して瞬時に仮面を展開し、全身も一気にスライムスーツで覆う。

 

「ま、まさか貴様シャドウガーデンかッ! 男の構成員という事は……」

「俺がジョーカーだ、憶える必要は無いけどな」

 

 そう名乗ると一瞬ネルソンは引きつった顔をしたが、直ぐに余裕そな笑みを浮かべてきた。

 

「まあいい、あのシュウ・ヤークがジョーカーだったなど些細な問題に過ぎん。想定以上の大物が釣れた事も問題あるまい。何せこっちにはオリヴィエが居るのだからなぁ!」

「大した自信だな、そう思わないか?」

『無理も無いだろう、あのオリヴィエだ。こうなるのも分かるだろう』

「それもそうか」

「さっきから何を一人でごちゃごちゃと、行けオリヴィエッ! 奴を殺せ!」

 

 そうネルソンが言った時オリヴィエが物凄い勢いでこちらとの距離を縮めてくる。

 ある理由により随分と余裕があるのでちょっと後ろを見るとこちらを振り返っていたアウロラが何処か慌てている様子なのが分かる。

 対照的にシドは一切こちらを見ていない、アウロラが何かシドに俺が危ないだのと言っているがシドは――

 

「大丈夫だよ。ジョーカーは僕の相棒だからね、僕以外に負ける事は無いよ」

 

 ――と、まあ嬉しい事を言ってくれるもんだ。

 そんなシドの信頼に答えないとな。

 そしてそのまま向かってきたオリヴィエの攻撃を難なく躱してそのまま首元に手を触れて、そのままネルソンの支配から解放しついでに魔力も頂いておく。

 驚いた表情のオリヴィエだったがそのまま光の粒子になって消えていった。

 

「ば、馬鹿な。何が起こった? それにその装備よく見たらスライムか? 何故魔力が使えている、ここは聖域の最深部だぞ」

「じゃあその聖域の吸収能力が大した事無かったって話だろ」

「あり得るか! そんな事ッ!」

 

 ネルソンが顔を真っ赤にしてキレている。禿げあがった頭だから頭部の殆どが赤くなってるおかげで本当に茹蛸みたいになってるな。

 

「オリヴィエを一人如何にかしただけでいい気になるなよ」

 

 そうネルソンが言った後、聖域の壁という壁から無数のオリヴィエが出てきた。パッと見ただけでも百人は優に超えてそうだな。

 

『流石にこれは不味い状況ではないか?』

「何だやけに弱気だな、らしくないじゃないか」

『幾ら我々獣人と同じ感覚を疑似的に会得しているとは言え目は二つ、耳も二つ、感知できる範囲と対応できる人数は必ずしも一緒とは限らない。この数は流石に厳しいぞ』

「いやいや、それがそうでもない。別にこの大人数を全て大真面目に対応する気なんて流石に無い」

 

 そう言いながら聖域内にタコ糸程の太さに調整したスライムを縦横無尽に張り巡らせる。

 

「そんな細い糸で何が出来る、行けオリヴィエ達よ!」

 

 ネルソンがそう言うがどのオリヴィエも俺に向かってこないしシド達の方にも行かない。

 誰も一歩も動こうとしなかった。

 

「何故だ、何故動かん」

「老眼か近眼でもその歳になってなってしまったか? よく目を凝らしてオリヴィエの周囲を見てみろよ」

「細い糸があるだけだろう! それがどうした」

 

 何だ見えていたのか、てっきり見えていないのかと思っていたけど。

 

「あの糸はな、触れるだけでオリヴィエ達は魔力に戻ってしまうからな、だからオリヴィエ達はお前の指示を受けても動けないんだよ」

「何だと?」

「これ以上仲間に似た人を好き勝手に扱うのは辞めて貰おうか」

 

 そう言いながら俺は一歩ずつネルソンに歩いて近づいていく。

 

「認めんぞ、私はナイツ・オブ・ラウンズ第十一席の『強欲』のネルソンだ。簡単にやらr「お前もラウンズの一人なのか。じゃあ丁度いいや、弱いしイータへの生きた土産になってくれ」――は?」

 

 間抜け面を晒すネルソンの顎に一撃を入れ脳震盪により前後不覚にし、そのままスライムを呼吸器官に潜り込ませて酸欠状態にして気絶させる。

 

「案外楽に終わったな」

 

 ネルソンを簀巻きにしてそのまま引きずっていく。

 

「おーい二人共こっちは終わったぞ」

「やっと終わったんだ、もう扉を開ける準備は整ってるよ」

 

 そこには綺麗に断ち切られた鎖とそんな鎖の断面を信じられないものを見たという表情で見ているアウロラが居た。

 シドと合流する時に何となく聖剣を引っ張ってみたが若干の抵抗を感じながらも抜く事が出来た。

 エルフの英雄限定じゃ無かったんだな。それに判定は魔力の波長辺りで感知してるっぽいな。

 

「おお抜けたんだ」

「ああ、俺単体じゃ無理だろうけどな」

 

 俺がそう言った後にリリが漸く身体から出ていった。

 

『お前の中だが案外悪くなかった。また今度居座らせろ』

「それは辞めろ」

 

 そんな会話があったがその後扉を三人で開いてそのまま急に動き出した左腕をシドと俺の二人で撃退して聖域の核は破壊され、この聖域は形を保てなくなり崩壊し俺たちは光に包まれながら何処かへ飛ばされた。

 

 そして気が付いた時には外で寝転がっていた。

 

『おい、起きろ。何時までここに居るつもりだ? 早くあのもう一人の小僧を探せ』

「相変わらず人使いが荒い事」

 

 リリに急かされたので魔力探知で探し当てるとそこにはアウロラに膝枕され何か話しているみたいだった。いつもならシドのロマンス的な事を後でからかってやろうと思う所だけど、今回はそうは思わなかった。

 何故なら話しているアウロラがシドに触れようとして透けてしまい悲しそうな顔をしていたからだ。流石にこんな状況をからかう気にはならない。

 でも俺もゼータかイータにあんな感じ膝枕とかやって貰えたらいいのになとちょっと考えてしまった。

 そう思っている内にアウロラは消えてしまった。

 

「結局、彼女の願いは叶えられたのか?」

「どうだろ、まだ願いがあったみたいだし、楽しい思い出をくれたお礼はいつか果たさないとね」

「そうか」

 

 俺たちは少しだけ他愛も無い会話をしてからそれぞれ別々の方向に歩いて行った。

 朝日がリンドブルムの地を照らし始めた夜明けの綺麗な澄んだ空気感が少し心地よかった。

 

 

 

 

 

 そして俺は連絡を入れてある人物を待っていた。

 

「遅くなったかしら」

「いや? そうでもないぞ」

 

 少し待ち始めてからアルファがやって来た。

 

「それで……回収した物は?」

「新鮮な生きたラウンズと聖域内にあった聖剣と最後に……()()()()()()()()()()()()()

「流石ね」

「このままだと目立つから代わりにイータの所に届けておいてくれ」

 

 長い木箱が幾つかと試験管に入れ更にジュラルミンケースのようなケースに厳重に入れてあるから普通の人に紛れて持ち帰るのはちょっと厳しいので、持って帰ってもらう為にアルファを呼んだ。

 

「持って帰るのは任せて、それで貴方はこれからどうするの?」

「一回アレクシア王女と会って色々情報交換とかしてから、紅の騎士団の方に顔を出してから流石に一回実家にも顔を出そうかなって考えてる」

「ゼータの弟に会って来るの?」

「暫く俺かゼータが会わないと悲しそうな顔をするらしいからな、この間母上からそう言う手紙が来ていたし、そう言う理由で一回顔を出しておくかって」

「成る程」

 

 その後は適当にゼータかイータに会って来ようかなって感じだな。まあこれは言わなくてもいいだろうし。

 まあその後はその時に考えればいいだろ。

 

 

 

 ――俺はこの時にそう考えていた。まさかものの数日後にラワガスの方面に行く事になるとはこの時は微塵も思っていなかったし考えてもいなかった。




 ここまで読んで下さり誠にありがとうございます。
 そして最後の投稿日から23日も開けてしまい申し訳ございませんでした!

 四月と五月がそれぞれ二話ずつしか投稿できていませんでしたので、せめて六月は四話程投稿できればと思っている次第です。
 まだ出来るかは分かりませんが目標にして頑張ってみます。

 そして今回でリンドブルム編は終了です。前の学園襲撃編が物凄く長引いてしまったので、そちらの反省で今回は少しコンパクトに収めれたかなと思っています。

 それでは次回も読んで下さると幸いです。



 ※ちょっとした次回予告的なもの※
 ブシン祭編に入る前に少しだけ幕間的な章を挟みます。
 カゲマスをやっている方々なら既にお気づきかも知れませんがあの話をします。


 追記
 5/31に発表されたカゲマスの外典の雰囲気を視てあっやべっと思っています。暢気に次回予告なんてしてる場合じゃないですね。
 次の話を投稿する前に一回聖域編の後半部分を書き直さないといけないかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。