陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
そして前回の後書きで呟いた件ですが、もう少し様子を見てから書き直すか判断する事にしました。続報が楽しみな様な怖い様なといった心境です。
そしてお気に入り登録などありがとうございます、とても励みになっています。
それでは前書きが長くなりましたが本文をどうぞ、予定では三話でこの章は終わる予定です。
第二十四話 陰の立役者は機密を探したい
実家に帰る道中朝の清々しい空気を吸いながら徒歩で街道を歩く。
普通は馬車とか使って送迎してもらうというのが一般的らしいが、ただ余り好きじゃないというのと事前に連絡しておかないといけないというのが面倒だから基本的に自分の足で移動する事にしているのだが……。
「つ、疲れた」
今回ばかりは馬車の送迎を使った方が良かったかもしれない、紅の騎士団への報告が思ったより長引いてしまった影響で何だかどっと疲れてしまった。
妙にアレクシア王女が突っかかって来るもんだからそれを落ち着かせるのに苦労した。
余りにも詰めるから途中でアイリス王女にも一回落ち着く様に言われていたし、まあ今回は紅の騎士団としての仕事は殆ど達成出来たのではないかと思っている。
何だかんだで聖教の裏にディアボロス教団が居るという事と、アレクシア王女曰く主にデルタが請け負ったらしいけどシャドウガーデンに対してネルソンはラウンズ第十一席として戦ったらしく、正体はこっちでも掴んだ事になっている。
それにオリヴィエの案内により聖域内でディアボロス教団が過去に行ってきた非道な行いを知る事が出来たらしい、俺は置いて行かれたから見ていないけど。
その後ネルソンを見た者は居ないという事からアレクシア王女は聖域から出ていった後にシャドウガーデンの別動隊によって捕まったか殺されたのではないかと思っているらしい。
大体合っているから末恐ろしいものだ、このままアレクシア王女には直感で動いて貰った方がいいのではと思わず言いかけた。
その後二人のみで話したい事があるとか何とかで早々に帰れる事になったけど何だか落ち着かない気分だ。
そんな感じで報告をした後に色々とやりたい事があったから、最後に部屋から出ていく前に今度は自分から言い出して紅の騎士団から一週間程の休暇を貰って一度実家に顔を出しに来ていた。
そして現在に至るという訳だな。うん。
「おかえりシュウにいちゃん」
「ああリオただいま。元気にしていたか?」
「うん」
家に帰って扉を開けた途端に元気に出迎えてくれたのは
リリにリリムにリオってあの家系は皆『リ』から名前が始まる縛りでもやっているのだろうか?それこそリリの直系の子孫であるという証明の為にとか。……まあどうだっていいか。
耳がいいのか俺が帰った時は決まって真っ先に出待ちをしている。
聞いた所によるとゼータの時も出待ちをしているらしく、数年前から勝手に俺の実家にも顔を出すようになったイータには来ないそうだ。
ゼータはリリムねえちゃん呼びでイータはイータさん呼びらしい、一回呼び方を改めさせようとしている所を見たことがあるがキッパリと断られて、イータの変わりにくい表情が引きつっていたのはとても印象に残っている。
何でも姉とは呼びたくないらしい。本能か何かでやっぱりゼータの事に気が付いているのだろうか?不思議だ。
ただ俺自身は三年も経ったけど未だに兄呼びってのには何だか慣れず変な感じがする。
理由は至ってシンプルなものだ。
関係は至って良好で仲のいい兄弟だったと自負している、それに兄が居たから色々なゲームに触れる機会があった。
頭も良かったし色々な事を知っていた、そんな兄に何処か憧れていた感情でもあったのか同じ分野に進もうとしていた訳だけど、あの日変な奴の事故に巻き込まれたせいで死んでしまったから無駄に終わったと思っていた。
ただこっちでは一般的には科学分野はまだ未発達で、俺みたいな奴が学んできていた知識なんかでも喜んで聞いてくれる物好きなエルフ……つまりイータがいたから腐らずにやってこれたというのも少なからずある。
昔は俺が兄貴から教えて貰っていたけど今度は自分がイータに教えるという立場になっていた。
最後に直接会った時は何だか聞いた事も無い研究機関に所属が決まってこれから仕送りが増えるけど会える機会が減るかも知れないとかそんな会話を最後にしていたような……。
「今頃何をしているんだろうな」
「どうしたの?」
「いや、何でも無い。久しぶりに何かしたい事はあるか? 今日は一日中一緒に遊んでやれるぞ」
「ほんとう? じゃあやりたいこといっぱいあったんだ。えーっとね」
ぼんやりと過去のそれも前世の事を考えていたけど、もうどうにもならない事だから考えない様にしよう。
どうせ行き来なんて出来る筈も無いしこの世界に生まれてもう十五年近く経っている、六歳も離れていた兄貴なんてもう四十手前辺りのオッサンになっているだろう。
……時間の流れというのは残酷だな。
そのまま余計な事を考えない様にする為に一日中リオの遊び相手をした。子供の体力ってのは無限に感じる、戦闘や訓練に学園の授業とはまた違った疲労が襲い掛かって来る。
俺自身もいつもとは違う慣れない疲労を感じ情けない事に何もしないでいた。
リオが疲れて晩御飯を食べた後直ぐに寝てしまったので、実家の無駄に広い食堂でテーブルに突っ伏していた所に声を掛けられる。
「お疲れシュウ、リオの相手は大変だろう?」
「確かに疲れますけど、たまにはこういう事もいいと思いますよ父上」
父上がワインとワイングラスを持って話しかけてきた。
「飲むか?」
「頂きます」
使用人が誰も居ないので互いに注ぎ合って軽く乾杯しながら飲む。
「いい香りのワインですね。何処で生産されたものですか?」
「さぁ分からないな」
「分からない?」
分からないってどういう事だ?
「これはイータちゃんが我々にと送ってくれたものだ」
「ああイータがですか。成る程」
ゼータは何かに付けて俺に直接何かしてくるがイータは今回みたいに実家に対して何かをしている感じがする。
何だかイータには数年前から外堀から埋められている気がするなぁ。一体誰の入れ知恵なんだか。
「所でシュウ」
「何でしょうか父上」
「お前は結局の所二人とはどういう関係で行くつもりだ?」
実家に帰って来る度に聞かれるからもう聞き慣れてしまったなと思いながら天井を見上げて考えに耽る。
前までは誤魔化して逃げたりしていたけど、シャドウガーデンとして本格的にディアボロス教団と戦い始めて、特にフェンリルと戦った時に死にかけて以降はいつまで生きていられるかが分からなくなってきたからもう少し逃げずに真面目に答えるべきなのかなと思った。
「……どうなんでしょうね、時々自分でも分からないんですよ」
「分からないのか」
正直俺だって鈍い訳じゃ無いから何だかんだで二人の向けてきている感情には恥ずかしい勘違いで無いのであれば一応気が付いている。
その上でディアボロス教団との戦いが本格化しつつあるってのもあったし、それ以前も準備とか何だかんだでそんな事に現を抜かす余裕は無いと思っていたから暗黙のルールみたいな感じで直接そういう会話は俺たちの間ではしてこなかった。
だけどフェンリルに辛勝し七陰全員にこっぴどく怒られた時、二人の表情に心配と怒りの感情に混じった恐怖の表情を見て少しは話したりするべき時が来たのかなって思った。
もっとも誰かに殺されるつもりもシド以外の奴に負けるつもりも無いけれど絶対という事は無い。
殺し殺されの世界に生きているから、多分その内に遠い未来か近い未来に多くの人間を殺してきた報いを受ける事になるんじゃないかなって思っている。
ただそうなる前に自分の気持ちの整理ぐらいは付けておいた方がいいのかもしれない。
「今はまだ三人共若いが最近の情勢を聞いていると仮初の平和でさえもう長く無いのかもしれないと思ってな、少しお節介だったかもしれないが向き合って話した方がいいと人生経験が長い身として忠告しておこう。何か取り返しのつかない事態にならない内にな」
「素直に忠告を受け取り機会を見つけて二人と話してみます」
実際に父上の方が前世を足した俺の年齢よりも上だから人生経験が長いってのは間違っておらず、転生あるあるかもしれない前世の年齢を足したら父親と同じくらいの年齢とかそういう事はうちでは無い。
何せそろそろ還暦を迎えそうという年齢の父上だ、もっともこの世界に還暦という概念があるかどうか知らないけど。
ただ今日は本当に疲れたから色々やる事は明日からにして今日は寝よう。
そう思って久しぶりに実家のベットで寝る事にした。
そして沢山の金豹族と思われる人達が枕元に立っている夢を見て飛び起きる事になった。
クラウンが保有する建物のイータの研究室にてシャドウガーデンから届いた聖地リンドブルムの聖域に関するレポートを読んでいるイータが居た。
「……聖域の調査レポートNo.004『ディアボロスの雫』……。ディアボロス細胞によって作られた赤い液状の薬……。その液体を摂取した者は、莫大な力と不老の肉体を得る事が出来……。『ディアボロスの雫』には副作用こそないものの、定期的な摂取の制約に一度に生産できる数にも……限りがある。……全部知ってる内容……つまらない。そう思わない? 一人の科学者として……既に知っている事の答え合わせは……つまらないと」
イータはレポートに一通り目を通し用済みと言わんばかりに適当に机の上に置いた後に、椅子に縛られて何やら怪しげなコードの類を様々な場所に繋がれたネルソンへ問いかける。
「一応仮定や仮説、真偽の有無を得られたという点が得られるならばわしは無駄とは思わんが」
「そう」
タイプの違う研究職同士が集っているが考え方ややり方はまるで違うようだった。
「それにしても我々の技術や知識を盗んだ分際で何が科学者だ。方腹が痛いわ」
ネルソンがそう言った途端にイータは元々表情が乏しいが更に無表情になった状態で詰め寄りスライムの手で頭を鷲掴む。
「それは違う、私の知識はお前たちから得た知識じゃない。私の知識はジョーカーが教えてくれたものと、一緒に調べて研究して実証して得た知識。お前たちと違って誰かを連れてきて研究を強いてその技術や知識だけを取り上げてきた訳じゃ無い……一緒にするな」
いつになく語気鋭くネルソンの言葉に反論するイータ。余程気に障ったのか機嫌がいい訳では無かったが明らかに悪くなっているのは誰が見ても分かる状態だった。
「それに……お前たちはそうやって力を付けたつもりになっているから……所詮はこの程度。実際に……この聖域に関するレポートについてきた資料を見ると……この『ディアボロスの雫』は最近のものだと……分かる。現代の技術力や……蓄積された知識がある筈なのに……、他人を利用してきたお前たちだから……発展する事が出来ない」
「うぐぐ、貴様……言わせておけば。わしがそれを研究しそこまで辿り着くのにどれ程の時間と労力があったと思っている」
「知らない、興味ない」
ネルソンの苦労話をイータは取り付く島もない様に聞き流す。実際に他人の苦労話などイータは興味が無いし聞いていると時間の無駄と思っている。
しかしそんな態度をされて黙っているネルソンでは無かった。彼は顔を真っ赤にして反論する。
「現段階で一番『ディアボロスの雫』の完成品に近づいているのはわしだ! 決してお前たちぽっと出のシャドウガーデン等では無い! いいのか? そのままの態度で」
何処か強気な態度のネルソンに対してイータは至って冷静だった。
「別に問題ない。『ディアボロスの雫』程度の……効果しかない未完成品には……興味が無い」
「何だと?」
イータは椅子に座って改めて資料を確認する。
「私が任されたのは……ラウンズが何処まで不死性に近いのかという事を……調べる事、つまり雫を再現しろとは……言われていないし……再現しようとも……思っていない。そして……その調査は既に……終わっている。昨日採った細胞のサンプルで……効果のある薬品や毒物は分かっている。つまりお前は……既に用済み」
「なら何故わしを生かしている」
その質問にイータはいつもの無表情から少しだけ口に笑みを浮かべる。
「別に……何となく。もう興味が無くなったから……また必要になるまで……置いておくつもり」
「な、何を言っている。貴様わしを……人を何だと思っているのだ」
あんまりなイータの扱いに思わず戸惑いを隠せないネルソン。しかしそんなネルソンにイータは追い打ちをかける。
「……生きたラウンズというサンプル。ただ……言わせてもらうと、お前たちは悪魔憑きを……実験体と言ってた、つまり……順番が回って来たというだけの事」
「クソッ! 何故わしがこんな目に遭わなければならんのだ! この様な生き地獄を味わうなど!」
自分の置かれた状況に思わず泣き言をいうネルソン。そんなネルソンにイータとは違う人物から原因を言われる。
「それはそうなる程の悪行を重ねてきたからじゃない?」
そう言いながらゼータがイータの研究室の扉に背を持たせかける状態で立っていた。
「ん? ゼータ? 何でここに?」
「追加の資料を持ってきただけだけど。それとイータの声、扉が開いたままだから外まで聞こえていたよ? 随分と荒れてるね」
イータの事を余り知らない人物から見ると表情や言葉使いに違和感はないと思われるが、付き合いの長いゼータから見たらイータは荒れている様に見えた。
「別に……荒れてない」
「そうかな?」
「そう、ゼータの気のせい」
そういうイータから手に持っていた資料を取り上げて内容を軽く見ていくゼータ。
「ああ成る程、『ディアボロスの雫』が思ったよりも参考にならなさそうだから荒れてたんだ」
「……」
図星だったのか黙ってしまうイータ。ゼータは届いていた資料を一目見ただけでイータがどういう気持ちでネルソンと話をしていたのかを把握した。
「先ほどは興味が無いとか言っていたでは無いか、あれは嘘か!? やはり我々の知識や技術を盗もうとしているでは無いか」
「違う、不老不死は……どうでもいい。私は……私はただ……たった一人の人間だけでいいから……エルフと同じ寿命まで……一緒に生きて居て欲しいだけ……ただ……それだけ」
「私は獣人と同じぐらいでいいけどね。種族ごとの寿命の差って残酷だよね」
その二人の言葉を聞いてネルソンは付け入る隙に見えたのか頭と眼光を光らせる。
「フッ、ならばわしを解放してみてはどうか? 手を貸してやってもいいぞ。大方思い人か何かに長生きして欲しいのだろう」
「「いや、要らない」」
しかしそんなネルソンの考えを一蹴する二人、それも同時に。
「何故だ!? そいつには長生きして欲しいのだろう? 普通は手段を選ばず技術や知識を貪欲に求めるものだろう。そういう科学者も大勢見てきた、何故お前たちは頷かない!」
「そういう事をして……嫌われたりしたら……意味が無い。……それに」
「それに?」
今までの会話とは違い真っ直ぐ何かを見据えてハッキリと自身の思いをイータは口にする。
「お前たちのやり方は他人を犠牲にするやり方。そんな三流科学者のような真似は私はしない」
その堂々としたイータの発言を聞いたゼータは思わず――
(えっ? でも平然とガーデンの皆で実験するよね? 特にジョーカーとベータに)
――と思ったがイータの名誉とこれからの関係性などを考えて喉元まで出掛かった言葉を必死に飲み込んだ。
「馬鹿々々しい、そんな考えで科学は発展せん。それはあらゆる歴史が証明しているではないか。それを知らない貴様らでは無いのだろう」
「……知ってる。特に戦争などでは……急速に発展する……という事も。だから……私は違う道を選ぶ。ジョーカーが見ている道を……出来れば進んで行きたい」
「だよね、私たちは堂々と隣で居たいからね」
そう言う会話をしている研究室に更に人物が増える。
「中々うれしい事言ってくれるじゃないか二人共」
既に扉が開いていたからかそれともイータとの間柄では不必要と考えているからか許諾も無しにシュウが入って来た。
心なしかその表情は若干嬉しそうであった。
「ジョーカー!? いつの間に来ていたの? 全く気が付けなかった」
普段から潜入や隠密系の任務に就いているゼータは自分が気が付けなかった事が気になるのかどのタイミングで来ていたのかを尋ねる。
「まあ、ついさっきだな。うん」
「……どの辺りから聞いていたの?」
正確なタイミングが分からないからなのか、自分の発言がどの辺りから聞かれていたのか気になるのか、若干気まずそうかつ恥ずかしそうに顔を赤らめたイータがシュウに問う。
「俺と同じ道を進んで行きたいって所辺りからだな。本当についさっき着いたばかりだからな」
「……そう」
それだけ言ってイータは椅子に座ってそのまま顔を合わせない様に明後日の方向を向いてそのまま何か届いていた資料を見始めた。
しかしその資料は上下逆さまの状態で尚且つエルフ特有の尖った耳は先端まで真っ赤になってしまっているので、どういう理由でシュウと顔を合わせようとしないのかは明白であった。
その光景を見てシュウは深くは追求せず、ゼータは少しだけ呆れた表情をしていた。
「あっそうだ、『ディアボロスの雫』の追加情報がありそうな場所をこの間見つけたんだ。すっかり報告をするのを忘れていたよ」
「何?」
「へぇ、どの辺りだ?」
ゼータの発言にネルソンは心当たりがあるのか冷汗を流しながら情報の続きを聞こうとし、シュウはそのままゼータに続きを言うように促す。
「学術都市ラワガス付近だったかな」
「そんなところに任務何てあったか?」
「えっ!? まあ個人的に気になる事があったから確認するついでに」
「……本当か?」
シュウの追及を顔を逸らすことで避けようとするゼータだったが、既にバツが悪そうな表情をしてしまっている時点で何か嘘を言っている事はバレているだろう。
「ま、まさかあそこか?」
そんな中ネルソンは場所に心当たりがあるのか一人悩んでいた。
しかしこの場にはそんな独り言の様な事を聞き逃すような難聴系は居らず三人共ネルソンの方向を見る。
「心当たりがあるようだな?」
「もしわしが考えている場所であるならば止めておけ、あそこは我々でさえ放棄せざるを得なかった場所だ」
「……放棄? どうして?」
「それは言わんぞ、貴様らは敵だ。わざわざ敵へ簡単に重要な情報を渡す馬鹿では無い」
ネルソンの言葉を聞いて三人は向かい合う。
「ああ言っているけどどうする? 中々な情報があると私の直感が言ってるけど」
「そうだな、俺もあると思う。それにネルソンは研究職のラウンズの一人だ、この手の情報を掴んでいてもおかしくなさそうだ」
「……うん。雫の詳細が分かれば……ラウンズを直接倒す以外の選択肢も……見えてくるかもしれない」
三人の意見は調べる必要性ありという判断になった。
「じゃあ早速準備をして部隊を編成して調べるか。案内を頼めるかゼータ」
「勿論、そうだね連れていくなら誰が――」
ゼータが情報収集に必要そうなメンバーを頭の中で考え始めた時だった。
「……待って」
「どうした? またいつもみたいに何か追加でとって来て欲しいものとかあるのか?」
いつもはイータはこういう時は決まって自分は行かずに拠点で帰りと土産を待っているのでシュウもそうだと思い今回は何が必要になるのかを聞いたのだが……。
「今回は……私も直接行く」
「えっ? イータが直接?」
思わずゼータは驚いた、しかしそんなゼータの反応が気になったのかイータは不満そうな表情になる。
「何か……文句ある?」
そんなイータの反応にシュウとゼータは互いに顔を合わせる。
「いや、無い。ただ珍しいなって思ったけどな」
このままでは面倒臭い事になりそうなイータの気配を察知してシュウは正直に思った事を口にする。
「……そう」
「じゃあ準備を済ませたら出発しようか。イータも俺も居るなら他のメンバーは必要ないだろ」
「そうだね」
そう言って三人は手早く準備を進めていく、椅子に固定されたネルソンを放置して。
やがて準備を終えた三人は研究室を後にする。
「馬鹿め、お前たちなぞ二度と戻って来るな。そのままラワガスの迷宮に呑まれて永遠に彷徨うがいい」
そんなネルソンの呪詛の様な呟きは三人には聞こえていなかった。
数日かけて俺たち三人はラワガス付近に到着した。
「ゼータ、施設はまだか?」
「もうすぐだから頑張って」
「……頑張れ~」
「……はぁ」
途中で疲れたと言い始めたイータを背負い移動しているお陰で余計な体力を使ってしまっている感じがする。
そしてそのまま海沿いを歩いていくと研究施設のようなものの入口に辿り着いた。
「ここが例の場所だけど……既にジョーカーは疲れている感じだね。大丈夫?」
「問題ない。それよりもイータ早く降りろもう着いただろ」
「え~、後三十分」
「長ぇよ」
ぐうたら魂を隠す気も無いイータを強制的に降ろして改めて入口を見る。
「これは……何か爆発が起きた……痕跡?」
「前に私だけでここに来た時からこの状態だった。何でこんな状態なのかは分からなかったけど、ネルソンが言っていた事を真に受けるならば放棄する際に破壊したのかもね。前と様子が変わっていないといいけど、取り合えず中に入る?」
「そうだな中に入らないと何も分からなさそうだしな」
そう言って俺は先頭を進んで行く。
「ジョーカー、一応気を付けてね。分かってはいると思うけど」
「分かってるって」
そうやって暗い天然の洞窟の様な通路を魔力を光源にしながら奥へと進んで行く。
「外壁が……削れてる。削れてる方向から見るに……爆発の影響……みたい」
そのイータの発言を聞いて周囲を見渡すと吹き飛ばされた資料や焼け焦げて何が書かれていたのか分からない物もあった。
「この燃えた資料は既に知ってる情報や必要のないものだったらいいけど、重要そうな知りたい情報までこの状況になっていたら流石に困るな」
「そうだね」
そう言いながら散策につつ更に通路を奥へと進んで行くと開けた場所に出た。
そして事前に知っていたであろうゼータと違って俺とイータは少しだけ驚いてしまった。何故ならその目線の先には巨大な紋様で出来た独特な扉があったからだ。
「これは……巨大な……扉?」
「驚いた? 二人共」
「まあちょっと驚いたな。こんな代物がこんな場所にもあるなんて、という驚きだけど」
「もう少し……近くで……見たい」
そう言ってイータは扉に近づいていく。
「なあゼータ、俺はつい最近これに似た様なものをリンドブルムで見たんだけど」
「うん、多分合ってると思うよ。聖域が関係している場所と思っていいと思う」
「やっぱりか」
俺とゼータはこの扉が聖域が関わって居そうだという考えを共有していた。
「特殊な扉……今のままじゃ……開きそうに無い」
「それにしても奇妙だよね、周辺は爆発の影響で滅茶苦茶になっているのに、この扉は何事も無かったかのように無傷のまま」
ゼータの発言で俺も何か感じる事があったからイータの隣に立って扉を調べていく。
「確かに馬鹿みたいに強力な防御効果のある魔力を感じるな。便利そうだからこの波長も覚えておくか」
「そこまでして……守る必要の物が……この奥に?」
「もう少し周りを調べてみよう、何か分かるかも知れないし」
ゼータがそう言ったのを皮切りに三人共一旦扉を調べるのを中断して周囲を散策し始めていると。
「二人共……ここを見て、装置がある」
「本当だ、アーティファクトに見えるけど」
「何かに反応する装置みたいだな。状況的に扉の施錠機構か何かじゃないか?」
今の状態では何も出来ないので見つけたアーティファクトのような装置は後回しにして更に散策を続けていると。
「この床……おかしい」
「床?」
「踏めば……押し込める、スイッチみたいに」
「罠かも知れないから俺が押すよ、その間二人は――「――えいっ」――おい、まだ押すなって!」
慌てるゼータと若干キレ気味の俺と何でも無い様な態度のイータの前に魔力が集まって先ほどまであった扉とはまた違ったものが現れた。
「うわっ、何か出てきた。隠し扉みたいだけど」
「もしかしたら初めにあった扉の解除の方法はこの中に記されているかもな」
「じゃあ……入ってみよう」
一人で先に入ろうとするイータの肩を掴んで引き留める。
「……何? 珍しく……怖気づいた?」
「いや、ここに入るには準備が必要そうだ」
「そうだね、ここまで手の込んだ仕掛けを見る限り相当重要なものがここにあるのは間違いないと思う、それに……」
そう言ってゼータは俺の方向を見てくる。俺はそれに頷く。
「この雰囲気は聖域にそれに近い。紋様も似ている点が幾つかあるしな、入れば魔力は使いにくくなるだろうからな」
「……ジョーカーなら大丈夫じゃ」
「いやリンドブルムの聖域とは波長が違うからな合わせるのは時間がかかりそうだ」
「……そう」
イータはそう言って次の指示を待ち始めた。
「じゃあこういう魔力が使えない時の為に用意しておいた装備に替えるか」
「そうだね」
「……うん」
そう言って俺たちは装備を替えた。
そして準備を終えて突入した扉の先は何処か見覚えのある場所だった。
今回もここまで読んで下さり誠にありがとうございます!
一先ず六月の投稿一回目です、後三回今月中に投稿出来るように頑張ってみます。
最近思うようになったのですが一話当たりの文章量多いでしょうか?他の方々の作品を読ませて頂く際に感じたのですがこのままの文章量でいいでしょうか?
それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。