陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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第二十六話 陰の立役者は秘密を明かしたい

 

 

 

 扉が開いた先は真っ暗な空間で一寸先も見えない程だった。

 しかし地に足は付いている感覚があり、とても奇妙な空間に踏み入れようとしている感覚を全身で感じた。

 入ったら最後何か条件を満たすまでここから出る事が出来ないんじゃないかと、隣に居る二人を見て不安になって来た。

 

「ん……本当に……開いた」

「あれだけ苦労したんだから開いて貰わないと。じゃあ二人共中に――」

 

 ゼータが中に入ろうと俺とイータに呼びかけようとしたその時、全身に突き刺さるような鋭い威圧感が奥から放たれ、思わず足を止め瞬時に剣を創って臨戦態勢に入ってしまった。

 

「い、今のは何? 幻覚にしては……鮮明だったけど」

「私も……感じた。威圧感……みたいな」

「どうやらラワガスは碌でも無い物を残して一人別世界旅行に行ったみたいだな」

 

 今すぐに敵と対峙する訳では無さそうなので構えを解き武器をスライムに戻して、さっきの威圧感で若干鼓動が早まったので落ち着く為に軽く深呼吸をする。

 

「どうする? 進むか? それとも引き返すか?」

 

 そう一息ついてから先程展開した仮面も解き二人に向かって平静を装いながら問いかける。

 

「うん、私も今ならまだ引き返せるんじゃないかなって……」

 

 ゼータは退く事を提案してきたがそれでも若干の抵抗があるみたいだ。

 

「い、いや……行こう。せっかくここまで……来たんだし。何も得ずに帰るのは……流石に勿体無い」

 

 しかしイータは好奇心を押さえられないみたいだった。

 このまま強制的に連れて帰っても知らない間にふらっと居なくなってここまでまた一人で来てしまいそうな危うさを今のイータからは感じられた。

 それを考えると今この場で三人で中に進んで調べた方がまだ何があっても対処出来ると俺は判断した。

 それを言わずにただゼータの方を見ると言わんとしている事が分かったのか、諦めた様な表情になり肩をすくめていた。

 

「分かった、それじゃあ進むか。悪いなゼータも、もう少しだけ付き合ってくれ」

「はいはい」

 

 そして進んだ大扉の先は、広い研究室でその部屋の中心にはまだ生きていると思われる龍が入っていた。

 そしてその龍と思われる生命体は強固なガラスに覆われた培養器のような場所で培養液で満たされた所で目を閉じて眠っていた。

 そしてすくんだ足と覚束ない足取りでガラスの壁に近づいていくゼータ。

 そんなゼータに肩を貸す形で支えに行く。

 

「ゼータ、無理すんな。誰だってこんなの恐怖を感じる」

「誰でもってジョーカーも?」

「まあ、肝の据わってるシャドウ以外の人なら誰だってそうだ」

 

 俺はアイツが演技の為に恐怖した姿しか見たことが無い、素のアイツが何かにおびえていた事なんてこの五年以上アイツに付き合ってきてただの一度も無かった。

 

「はぁ……雫についてもう少し調べるだけだったのに、最奥まで進んで見つけたのがこれって……悪夢か何かとしか思えないね」

「本当にそうだな。仮にもしこの目の前の生物が魔物だったら殺す事が出来るが、龍だった場合話が変わって来るな」

 

 既にここまで来るのに少し体力を使っていた事や目の前の正体不明の龍の様な何かを前にして俺もゼータもすこし頭が回らなくなっていた。

 しかしそんな中普段と変わらず、いやいつも以上に自身の内から溢れ出てきているであろう好奇心を抑えれていない人物がいた。

 

「凄い」

 

 そう言いながらまるで引き寄せられるようにガラスの壁に近づいていく。その龍の様な何かを見るイータの表情は魅入られている様な、眼も爛々としている様に見える程で危険な状態にあるんじゃないかと思わせるには十分だった。

 

「イータ、余り近づきすぎるなよ?」

「……ん」

 

 生返事しか帰ってこないので流石にヤバそうだと思いイータの方に行こうとしたのだが。

 

「ジョーカー、これ」

 

 ゼータが先程の最後の資料庫で見つけたラワガスの日記と同じ装丁の資料を拾っていた。

 イータの様子が気になったが流石に何かを勝手に操作する事は無いだろうと信じて、ゼータからその資料を貰い受けて、開いてみると予想通りラワガスの日記だった。

 そしてそこにはラワガスがこの第十二魔界の王である『ニーズヘッグ』を捕らえるまでの経緯などが事細かに記されていた。

 文章の内容から察するにラワガスはもうこの世界から別の場所に移動したと考えるべきだろう。

 

「『別次元の世界』? 人工的な干渉? 何の話?」

 

 ゼータと共に読み進めていたが所々理解が及ばなかった場所があるらしく、ゼータは俺に対して不安げな表情で疑問をぶつけてきた。

 理論は分からない。でも別次元の世界というものが存在するという事実は、自分でも驚く程にあっさりと受け入れる事が出来ていた。

 多分これは一度死んで異世界転生というものを経験しているからだろうなと思う。

 一度死んで俺は確実に世界を移動して新たな生を得ている。それは間違いない。

 しかし疑問に思うのが何らかの外部的影響を受けて転生していたのだろうか?いや、今はそんな事は問題じゃないか、別次元の世界の話をゼータに少しだけでもしておこう。

 

「今俺たちが居るこの世界以外にも、観測できていない世界が複数あるという考えに基づいたやつだろうな。俺も詳しくは無いけど、多元宇宙論とかマルチバースとかそんな言い方があったと思う。それで……今の世界の外側の宇宙というか宇宙の外側というか――」

「星々と宇宙の話の宇宙じゃないんだよね?」

「それとはまた別の話で、感覚で言うなら複数の泡があるとしてその内の一つが今俺たちが居る世界で他の泡の中にはまた違う世界があるって感じ。俺もこれぐらいしか知らないんだ、ごめん」

 

 俺が説明を打ち切るとゼータは納得がいった様ないっていない様な中途半端な表情をしていたが、やがてイータの様子を見てくると言ってイータの方へ歩いて行った。

 別次元の世界はあるんだろうという確証はあっても、それを証明する術は俺は持っていないし観測も出来ない以上あれ以上の説明は無理だった。

 地の果てまで氷の世界、生物の住めない毒の世界、燃え盛る炎の世界、光も色も無い虚無の世界、巨大な魔物の居る世界、ラワガスが観測出来た世界に地球の様な世界は書かれていなかった。

 もし書かれていて観測されていたら俺がまだ向こうで生まれる前の時代を見ていたのだろうか?まあどうでもいいか。

 少しでも帰れる可能性があるのかなって思ったけど、そんな事はなさそうだった。

 

「並行世界やもしもの可能性がある世界とは多分また別の話なんだろうな……」

「何か言った?」

 

 俺が一人で呟いた言葉が少しだけ聞こえたのかゼータが振り返って来た。

 

「いや、何でもない。ただの確証のない独り言だから――」

 

 そうゼータの方を見ながら言っていた時、あるものと目が合ってしまった。

 先ほどまで寝ていたはずのニーズヘッグが目を開けてこちらをしっかりと見てきていた。

 そして俺が突然固まった事に疑問に思ったのかゼータも俺が見ている方向を見る。

 

「――えっ? 嘘……何でコイツ起きているの」

 

 驚くゼータ、そんなゼータにイータが寄って来る。

 

「突然何もしてないのに……起きた」

「本当だろうな?」

 

 先ほどまで目を離してしまっていたからイータが何をしていたのか全く分かっていないけど、思えば初めの扉前の床のスイッチの件もあるので俺はほぼイータが何かをしたとほぼ確信していた。

 半目で若干睨むような視線を送りながらイータに真偽を問う。

 

「適当にボタンを、押していたら……気が付いたら目が開いていた」

「十中八九それが原因だろ」

「そんな事より……動くよ……コイツ」

 

 試験管の様な場所で魔力の鎖に繋がれていたニーズヘッグだったが、やがてゆっくりと動き出した。そしてその魔力の鎖は消えてなくなり分厚いガラスの壁を何事も無いように内側から破って出てきた。

 その際にガラスの破片が周囲に飛び散り辺りに広がり、中に入っていた培養液も少し離れていた俺たちの足元にまで流れてきた。

 その後久しぶりの自由を満喫しているのか、それとも身体の具合を確かめているのか大きな翼を広げたり動かしたり、四肢を動かしまるで準備運動をしている様にも見えた。

 

「どうする? このままだと何処かに行きそうだけど!」

「倒すしかないだろ、幸いラワガスの手記によると別の世界の生き物って事だ。運がよかったらこの世界の龍と違って殺せるかも知れない」

「別の世界? 気になるけど……先にコイツを……何とかしないと」

 

 ゼータもイータも二人共コイツを何とかしないとと思ってくれているみたいだ。

 

「あの昔イータが言ってたマドリーの方で会った人造龍のマラクみたいにバックドアか何か用意されていたりは……しないか。日記の内容を読んだ限りラワガスはそういう性格じゃない気がするしな」

「うん……多分用意何てしてない。私だって……用意しないし」

「贈り物とか何とか言うならもっとまともなモノを用意しておけってんだ」

 

 寝ぼけているのか妙に緩慢な動きで爪を俺たちに振り下ろしてきたニーズヘッグ。

 それをイータを抱えて避けるがその振り下ろされた後の地面はえぐられており、スライムスーツを着ていてもまともに当たればひとたまりもなさそうだった。

 

「威力は凄いな、動きはまだ遅いけど」

 

 そのままもう片方の前足の爪を振り下ろそうとしていたが、初めの一撃目で別方向に避けていたゼータが攻撃するが、甲高い音と共に簡単に弾かれていた。

 

「やっぱり硬い、私じゃあ簡単には攻撃が通らないみたい」

 

 そう言ってゼータはまた離れて行った、こういう時はヒットアンドアウェイで安全に戦う方がいい。

 しかしニーズヘッグの攻撃対象はまだ近くに居る俺たちでは無く、攻撃して来たゼータに変わっていた。

 

「獣みたいな思考回路だな、それはそれでやりようがあって助かるけど」

 

 そう言いながらスライムを伸ばしてよそ見をしているニーズヘッグのボロボロの翼を根元から斬り落とす。かなり外皮が硬くそれなりに抵抗を感じたが何てことは無い。

 斬る際に火花が飛び散った所の見るにニーズヘッグは相当硬いみたいだ。

 だが相応の魔力を込める事により突破できた。ただ流石に無視できないと判断したのかすごい勢いで迫って来た。

 そうやって引き付けた後、しつこく追いかけてきながら何回も振り下ろされる爪を躱しながら徐々に下がる。

 

 そして両前足で攻撃してきた瞬間、肩に担いでいたイータを一旦上に投げて一気に距離を詰める。

 そしてニーズヘッグの胸部に渾身の身体強化をした蹴りを放つ。胸の甲殻にひびが入り毒々しい色の血液と思われる体液が噴出する。

 受け身を取る何て事を知らないであろうニーズヘッグは勢いよく後方に吹っ飛んで行き壁に衝突した。

 そしてその衝撃により施設の外壁は崩れニーズヘッグはその崩落してきた瓦礫の下敷きとなり土煙の中に埋もれた。

 

 それを確認した後上に投げていたイータをキャッチする。

 腕の中に納まった後グーで肩辺りを殴られた、余程途中で放り投げたのが気にくわなかったらしい。

 

「悪かったよ投げて」

「もう少し……女性の扱い方を学ぶべき」

「はいはい、気を付けるよ」

 

 そんな会話をイータとしながら視線は瓦礫の方に固定していた。あの程度の攻撃でくたばる訳が無いと思っているが、直ぐに出てこずここまで何の動きも無いのは不気味に感じる。

 まさか翼は斬り落とされるわ、蹴り飛ばされるわ、何年か分からないぐらい閉じ込められるわで瓦礫の下で不貞寝でもしているのだろうか?アイツの名前ニーズヘッグだし。

 

「どう? 手応えあった?」

「いや、微妙だな」

 

 別方向に回避していたゼータが合流してきて早々に聞いてくる。

 

「ただ思ったより倒せそうとは感じたな」

 

 そう自分を鼓舞する様に嘯く。

 

「頼もしいね」

 

 俺の心情を知ってか微笑みながらゼータは言ってくる。

 このまま終わるとは微塵も思っていないしゼータもそうだろう。現に俺に聞きながらもその視線は瓦礫の方を注意深く見ていた。

 今度は文句を言われない様にそっとイータを降ろして少し息を整えてから集中して魔力を練る。

 

「やるんだ、ここで」

「ああ」

 

 短く返事をし集中する。

 

「私たちに出来る事はある?」

「色々ぶっ壊れるかも知れないから先に情報を回収しておいてくれ」

 

 俺がそう言うとこれからどういう戦い方をするのか合点がいったのか二人は、若干逃げるように離れて行く。

 さっきの蹴りはまだ本調子じゃ無かったから上手く決まったというのが大きいだろうから、次はそう簡単にはやらせてはくれないだろう。

 そう考えていると不気味なまでに沈黙していたニーズヘッグから膨大な量の魔力を感じ始めた。

 まるで暴風が吹いているのかと錯覚するほどの濃く力強い魔力の本流だった。

 頬に一筋の汗が流れるのが分かる、少し身体が震えている。

 

「これが武者震いとかだったらよかったんだけどな」

 

 自分の魔力を最大限に練り上げて普段の黄緑色の魔力から青白い色に変わった時、瓦礫が弾け飛んで中から翼も傷も治り完全復活しているニーズヘッグが現れる。

 クラウチングスタートの態勢を取ってからニーズヘッグが動き始めたのに合わせて動き出す。

 

 戦いで重要な事は相手を正しく理解する事だとかなり昔にシドがそう言っていた。相手の動きを観察し適切な対応をしていけばおのずと勝ち筋が見えてくると。

 だからまずはニーズヘッグがどれ程強いのか見極める事にした。

 

 完全に治った両翼を広げ空中を滑る様に高速で飛び回る機動力、一つ一つが完全に別の動きをしている六つの目、そして見るからに先程よりも硬くなっていそうな甲殻、盛り上がった分厚い筋肉に鋭い爪、そして口元から溢れ出てきている可視化できる程濃密な魔力。

 恐らくあの口は魔力をブレスとして何時でも放てる状態だと思われる。

 そして接敵した瞬間、始めの動きとは見違える程の速さで振り下ろされる爪。

 獣の様な思考回路をしていると思っていたニーズヘッグだが存外繊細な動きが出来る様で、飛びながら身体を捻って回避したけど仮面に爪が掠っていった。

 ギリギリを責めていたとは言えまさか攻撃を当てられるとは想像していなかったので正直驚いた。

 そのまま腹の下に潜り込んでから翼を変形させて槍の様な形状にし、甲殻の無い腹部を下から突き刺しにかかるが、少し貫通した所で筋肉か何かに阻まれ内部までは到達出来なかった。

 

「これはもうさっきとは別個体なんじゃないか? 色々変わり過ぎだろ」

 

 思わず文句が口から出てくる。

 尻尾による追撃を警戒しながら通り抜けるとニーズヘッグの口がこっちを向いて開いていた。

 ああこれは不味いと思った瞬間には、全身が馬鹿みたいな量の魔力に包まれて、馬鹿みたいな威力によって後方に吹き飛ばされた。

 そのまま外壁に勢いよく激突して、今度は俺が崩れた外壁の瓦礫の下に埋もれる事になった。

 幸い瞬時に魔力を防御に回したので怪我はしていないが、それはそれとして単純な質量の差とかそういう理由で吹っ飛ばされはする。

 シドのアトミックよりも威力が遥かに低いのでまだ耐えられるけど、十数回もくらったら流石に攻撃に回す魔力が足りなくなるかもしれない。

 翼で上に乗っていた瓦礫を吹き飛ばして再び飛び始める。

 

「だいたいくらったらヤバい攻撃は分かった」

 

 ニーズヘッグの身体能力、攻撃能力、思考回路は大方把握出来た。後はそれを軸に作戦を立てて倒すだけという事だ。考えるのは簡単だけど実行するのは大変だ。

 そう考えながら迫りくるブレスを空中を飛びながら回避する。

 右手にスライムで槍を創って円形の広い研究室をグルグルと周りながら飛び、速度を溜めていく。

 そしてフェンリルに投げ飛ばした時と同じ速度に達した時、少し態勢が悪かったがニーズヘッグの首を狙って槍を投げつける。

 本当はこの技は硬い金属の装甲とかを貫通させる為に考えたけど、結果として回避不可な攻撃として重宝している。弱点はあるけどそんな事を知っている奴なんて居ないはずだ。流石のシドも興味の対象外だろうから知らないでしょ。うん。

 そして槍は首に命中しそのまま引きちぎる様にニーズヘッグの首を落とす事に成功した。

 首はそのまま重力に従い下に落ちて、切り口というか千切れた箇所からは毒々しい色の血が流れだし首からも頭側からもとめどなく流れ血だまりを形成していた。

 

「まあこんなもんでしょ」

 

 予想よりも簡単に決着がついたので安心して一息をつく。

 自分の投擲に絶対的な自信があり、尚且つ首が千切れたら生物は生きていられないという固定観念があったから、魔力を練るのも辞めてニーズヘッグからも完全に視線を外していた。

 

 それがいけなかった。

 突然巨大な手で全身を握られてしまう。

 

「――クッ、な……にッ!?」

 

 握り潰されそうになりながらも何とか後ろを振り返るとそこには信じられないような光景があった。

 首も無いのにそのまま胴体だけで動き、斬り落とした頭は爛々とした眼でこちらを睨んでおり、頭部が切り離されていても物理的な要因以外で繋がっているとしか思えない光景だった。

 

「本ッ……当に魔物っていうのは面倒だなッ!」

 

 文句を言いながら両腕にありったけの身体強化を施してニーズヘッグの手から逃れようとするが、全くびくともせず、今以上に潰される事は無いが脱出も叶わないという膠着状態に陥っていた。

 恐らく身体強化込みならニーズヘッグよりも力は上な自信はあるが、如何せん握られた時の態勢が悪く上手く力が入らなかった。

 腕を胸の前で曲げている状態ならまだやりようはあったけど、棒立ち状態で抜け出そうと足掻いても難しい。

 

「クソッ」

 

 この膠着状態で不利なのは圧倒的に俺の方で、抵抗しているだけで疲労が急激に溜まって先に体力が尽きるのは確実に俺だ。

 落ち着いて状況を整理して打開策を考えよう。

 ……いや冷静に考えると、普通にスライムで強引にやればいいじゃないか。何ですぐに思いつかなかったんだ。

 そう思いスライムで切断しにかかるが、スライムの刃が全く通らなかった。

 

「さっきより硬くないか?」

 

 徐々に防御力が上がっているというか、時間が経つごとにニーズヘッグが強くなっていっている気がする。ただ単純に俺の集中力切れという線もあるけど。

 それにしてもコイツは死なないのかそれとも『死』という概念が無いのか、首を斬り落としても、夥しい量の血が流れても死なないのは流石におかしい。

 肉体全てを消し飛ばすか何かをしないと延々と動き続けるんじゃ無いだろな。だとしたらこの量を一気に消し飛ばすなら相当な溜めが必要になって来る。

 果たしてこの状態のニーズヘッグを前にしてそんな時間はあるだろうか。いや、無くても作らなくてはならない。

 何にせよ、この膠着状態から逃れないと何も始まらない。

 

 一か八かで体内の魔力の半分を一気に外へ放出し、隙を作るしかない。

 そう思いまるで自爆するように体外へ自分の魔力を一気に放出する。

 外に出た魔力は霧散してしまうが、全てのエネルギーは熱に変わる。それは魔力であっても変わらない。

 モノは熱されると膨張するそれは空気も同じで、膨張した空気は衝撃となる。

 つまり俺とニーズヘッグの手の間に放出された魔力によって出来る凄まじい衝撃が発生する。

 ある程度はニーズヘッグの方向に衝撃は行くと思うが全てでは無い、衝撃とは基本的に球状に広がっていくものである。

 何が言いたいのかというと、こんな事をすれば俺にも凄まじいほどのダメージが入ってしまうという訳である。

 

「――――ッ!!」

 

 全身の骨が軋み悲鳴を上げて激痛が奔る。

 衝撃はスライムスーツでも全ては防げない、殆ど軽減出来ているとはいえそれでも痛い物は痛い。

 だがその甲斐あってニーズヘッグの拘束は緩み、その間に這う這うの体で逃れる事が出来た。

 地面を転がりながら距離を取り態勢を整える。

 ニーズヘッグを見てみると俺を器用にも掴んでいた奴の右前足は、あらぬ方向に指が曲がったりなどして悲惨な事になっていた。

 はっ、ざまあみろ。

 それを確認した後後ろに下がりまたニーズヘッグが迫って来るかと思ったが、先程は距離がかなり近かったから捕まっただけで、今の状態だと流石にそこまで動く事は叶わない様だった。

 今度こそ油断しない様にニーズヘッグから視線を話さずに、通信機に電源を入れてゼータとイータの二人に連絡を取る。

 

「二人共今どの辺りに居る?」

 

 そう聞いた後、少ししてから先にイータから返事が帰って来た。

 

「ジョーカーの後ろ側、何だか、後処理に苦戦してる様に……見えるけど」

「予想以上にしぶといんだよコイツ、後サンプルは今回は諦めろ」

「……え」

 

 絶望感溢れるイータの声が最後に聞こえたが、一生動き続けそうな奴のサンプルなんて残せるはずがない。

 

「私は多分前の方かな? 何か不都合でもある?」

「多分そっちまで衝撃が行くかも知れないから退避してくれ」

「――え」

 

 困惑したゼータの声が聞こえたが、肉片一つでも残っていると厄介な事になりそうだから、今からやる事は仕方が無い事だ。

 

 集中して残り少ない魔力を練り上げて高出力状態にする。黄緑色から青白い色に変わり大気が次第に震えあがる。

 後ろからイータがゆっくりとやって来て右肩に手を乗せて、少し足りなかった分の魔力を分けてくれる。

 

「一体何をするつもりなのって……うわっ、まさかアレをするの?」

 

 退避してこっちに帰って来たゼータが開口一番に言ってくる。

 そして仕方が無いという表情をした後、イータ同様に左肩に手を置いて魔力を分けてくれる。

 

「助かる、二人共」

 

 二人に感謝を述べた後右手にスライムで槍では無く剣を、それもただの直剣を創り上げる。

 

「いいよ別に、疲れるけどジョーカーの奥義の一つを久しぶりに見れるなら」

「ジョーカーの青白い魔力、私は好き。まだまだ不可解な点が多くて、興味が……尽きない」

 

 二人のその言葉を聞いた後、片時も視線を外していなかったけどニーズヘッグをしっかりと正面に見据え剣を構える。

 そしてその高出力に練った魔力を剣に流し込めていく。

 徐々に剣は青白く輝きだしその周囲には魔力の粒子が集っていく。

 その光景を見たニーズヘッグは血反吐を吐きながら頭部だけで威嚇をするが、首から下は本能が危機を察知したのか逃れるように後退り始める。

 頭と身体で違った反応を見せるニーズヘッグを見た俺たちは何とも言えない表情をした。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ジョーカーは剣の柄を両腕にしっかりと力を入れて握りしめ、その青白く光り輝く剣を上に掲げる。

 更に輝きが増していき繊細で綿密な魔力の線が螺旋を描き力を集約させていく。

 眩く輝く魔力の線の束は集い次第に一筋の束となり、研究室全体を照らして陰湿な空間を清潔な空間と見間違う程に染め上げていく。

 剣に幾何学模様が刻まれていき、風が吹き荒れ始める。

 

「――綺麗」

 

 ゼータは見惚れるようにその光景を見ていた。魔力が描く輝く光景もそうだが、自分の中にも流れる同じ魔力を感じて心が温まる。

 

「色が変わる魔力、私でも出来る?」

 

 イータはこの光景を目にして好奇心を刺激されていた。繊細で綿密に練られた魔力もそうだが、自分にも少し流れている魔力でも再現できるのかを考えていた。

 

 ジョーカーの極限まで高まった魔力は、仮面の奥のその双眸を普段の赤色から青白い色へと変化させていた。

 その青白い双眸はニーズヘッグを正面に捉え逃さない。

 

 そして限界まで輝き魔力を集約させた剣を今一度渾身の力で握りしめ、左足を前に出し踏み込みこれから来る衝撃に備える。

 ジョーカーは剣をニーズヘッグに向けて振り下ろし、その青白く輝く魔力の束は遂に解き放たれる。

 その放たれた衝撃によりジョーカーのフードが捲れ上がり、ゼータとイータも飛ばされまいと必死に衝撃から身を守る。

 

 閃光がを奔る。閃光が唸る。

 解き放たれた魔力は光となって熱と衝撃で地を裂き、赤熱させニーズヘッグに向け突き進む。

 渦巻き迸る青白い魔力の奔流はニーズヘッグの全てを包み込み、その身を吞み込んでいく。

 第十二魔界の王は自身を構成する細胞一つ一つが消えていき、徐々に身体が消えていくのを理解し、生まれて初めて死への恐怖により声にならない絶叫を張り上げる。

 

 そして突き進む全てを悉く焼き尽くす魔力の奔流が晴れた時、その時には既にニーズヘッグの身体は分子一つ分も残らずこの世から消え去っていた。

 

 ジョーカーはその攻撃を放ち終えた後片膝を着いて崩れ落ちる。

 その息遣いは荒く、相当体力を消耗したと誰が見ても分かる程だった。呼吸を整える為か仮面を外していた。

 

「――どう、なった? ニーズヘッグは?」

 

 息も絶え絶えで下を向いたまま顔を上げる事すら出来ないジョーカーは、二人に聞く事でしか周りを把握する手段が無かった。

 

「大丈夫、ちゃんと倒せてる」

「魔力の感知にも反応が無い、多分この世界から……文字通り消えたと思う。勿体無いけど」

 

 二人の報告を受けて安心したように倒れ伏すジョーカー。その顔は安心した顔つきで、とても研究施設に外まで通ずる横穴を開けた顔とは思えないものだった。

 何処か別の場所が開いているのか、少し強い海風が研究所内に吹き荒れ、様々な用紙や資料が風に煽られて舞い踊る。

 そして誰も気が付かない内に一枚のメモ――ラワガスが最後にこの世界に残したメモは誰に見られる訳でも無く、風に流されそのまま空中を漂いやがて海の方へと飛んで行った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 研究所で少しだけ休憩した後、ミドガルの方に帰る前に少しだけラワガスでゆっくりと休憩をしていた。

 休憩とは名ばかりで俺が一人で戦っている間に二人が集めた情報を整理したりする事がメインで、暢気に観光とかそういう事をしている余裕も時間も無かった。元々する気は無かったけど。

 ただ集めた資料を見ていくともしかしたらシャドウガーデンの技術でも頑張れば別世界を行き来できるのではないかという仮説が出てきた。

 途端に地球へ帰れるかもしれないという可能性が出てきて、動機がしてしまった。

 

 帰りたい訳では無い、もうこっちの生活に馴染んでしまったというのもあるけど、容姿もそうだけどやって来た事を思うと元の家族にどんな顔をして会えばいいのか分からない。

 どの道このクソ目付きの悪い元の顔と違いすぎる顔で行くのは論外だけど。

 離れた所でいいから元気にしているかだけ見てみたいという気持ちはある。もう今ではそれだけで満足できる。

 何故なら既にこっちの世界で色々大切なものが出来てしまっている。あっちでは既に死んだ身、前世の俺は既に死んだ。

 今を生きているのは『シュウ・ヤーク』だ。既に死んだ『   』では無いのだ。

 

 そんな事を考えていてふと疑問に思った。

 果たして俺が地球に帰りたいと本気で思った時、二人は着いてきてくれるのだろうかと。

 必死に隠してきたけど、二人に対する思いはかなりある。

 だから聞きたくなってしまった。

 

「二人は俺が何処に行っても着いてきてくれたりする「「うん」」――返事が早いな。悩んだりとかしないのか」

 

 被せるように二人から爆速の返事が来て逆に困惑してしまった。

 

「だってジョーカーは私たちを置いて何処にも行かないでしょ?」

「ゼータの言う通り」

「ああ、そう」

 

 今の精神状態だと二人の信頼を裏切りそうだけどなと思い、俯きながら罪悪感とも何とも言えない気持ちを抱えているとゼータが左隣に腰を下ろした。

 

「ただ、わざわざ聞くって事は何かあるんじゃない?」

 

 ゼータの言う通り突然切り出したのには実際色々ある。

 もうここまで分かられているなら何も言わなくてもいい気がするが、そんな考えも見透かされているのかいつの間にか左手の上に手を重ねて逃げにくくしており、アイスパープルの双眸は俺を真ん中で捉えていた。

 そんな視線から逃れようと眼だけを逸らすとすぐ眼の前にいつの間にかイータが陣取っていた。

 そんな自ら詰みの状況にしてしまっていた現実に深呼吸をして自分の気持ちを整理する。

 父上と話したけどいい加減解決したい問題だから、今じゃない気がするけどいつ死ぬか分からないなら思い立ったが吉日というやつだろう。

 前世云々の話は一旦置いておいて、二人との関係に決着を付けよう。

 

「色々あったし、シャドウガーデンの立場上こういう事を言うのはダメな気がしていたんだけど――――()()()()()()()()()()()()()()()()()

「正式に、二股宣言」

 

 茶化すようにイータが言ってくる。何かいつも見たいに言い返したいが実際にそう言ってるから何も言い返せない。

 

「分かってた事じゃない? ジョーカーは優柔不断な所が昔からあるんだし、今更でしょ?」

「それでも……選ぶかなって」

「ないない」

 

 ゼータの怒涛の追い打ちで完全に打ちのめされる。そんな認識だったんかい。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか二人の追撃は止まらなかった。

 

「どっちつかずで最後まで悩む事が多くて――」

「挙句の果てに、一人でやって苦しむ」

「主の圧倒的な強さに憧れてるのか知らないけど」

「ジョーカーはジョーカーで、マスターはマスター。得意不得意は……それぞれ別」

 

 二人が寄って集って交互に攻撃をしてきて何か泣きたくなってくる。

 

「側から見てて甘いなって思う対応は何回も見て来たし」

「本気で怒るのは、自分の事より……仲間の事」

「でもちょっと芯はブレる事が多い」

「後……変な拘りを持ちがち」

 

 それでもと二人は続けて

 

「そんな甘いジョーカーの事を慕っているし着いて行きたいって思う人は多いよ」

「クラウンのメンバーが、いい例」

「勿論シャドウガーデンの皆もね」

「実際、マスターよりジョーカーの方が……来る機会が多かった」

 

 うん。そこまで知ったうえで着いてきてくれるとは思っていなかった。

 

「そうか」

「でもさっきの()()()()は三点ね」

「何点満点中?」

「百点満点中」

 

 それを聞いて後ろに倒れた。当たり前かぁ。

 

「もっとハッキリと『二人共好きだッ!』みたいな感じで言ってくれたらもう少し点数をあげてもよかったけど」

「変に予防線を、張るような言い方が……減点対象」

「ディアボロス教団との戦いとか全部終わったら、もう一回やり直させてくれ」

 

 俺の情けない申し出に二人は揃って笑う。

 

「なら早く肩を付けないとね」

「最近、他の派閥が……ミドガルに入って来たとか」

「じゃあそろそろ残党とかあの『十三の夜剣』も片づけないと」

「そう言えば居たな、『十三の夜剣』なんて奴ら」

 

 なんか多いし名のある貴族だし手を出しにくくて、更に有罪を無罪に仕立て上げるから昔は面倒に思ったけど、殺して綺麗に回収すればただの行方不明になるから問題ないって結論に達したから、それ以降泳がせていたんだっけ。

 

「表舞台はブシン祭で盛り上がるだろうし浮かれるだろうから、いつも見たいにどさくさに紛れて後ろからやるのにいい時期かもしれないな」

「確かに、でも流石に多いから少し呼び戻したりして人員を増やす?」

「気乗りはしないけどウィクトーリアを呼んだ方が早そうだ。後はアルファに頼んでナンバーズを一人借りよう」

 

 そして今後の予定を立てながらこの日は終えた。

 次の日にミドガルへ向けて帰った。ブシン祭なんて出るつもり無いから多少遅くなってもいいでしょ。




 今回もここまで読んで下さりありがとうございます。

 今回は意外にも票が入っている四つ目の『まだあっていいから一万二千文字以上で』に合わせて本文が12440文字でした。決して気が付いたらこんな文字数になっていたという訳では無いです。ハイ。
 すみません、本当は気が付いたらこうなっていました。でも参考にして頂けたらなと思っています。

 そしてお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます!
 お気に入り登録や高評価、感想など頂けると心の中で小躍りするぐらい嬉しいので多くいただけると嬉しいです、書く時のモチベーションにも繋がります。

 次回は頑張って7/1までに投稿し、7/2には投稿開始半年という事で何か出来たらなと思っています。まだどちらも現状一文字も書けていませんが。

 それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。



 ※追記
 活動報告にて半年記念についてご意見を募集しております。
 よろしければ何かコメントなど頂けたらと思っています。
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