陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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 日が昇っていなかったら実質前の日(白目)
 すみません、ちょっと影の地に行っていたらこんな事になってしまいました。申し訳ないです。

 そしてアンケートにご協力して下さった方々ありがとうございます。
 結果は五千から六千文字前後が1票、七千から八千文字前後が3票、九千から一万文字前後が29票、一万二千文字以上が15票という結果でした。
 以上によりこれからは九千から一万文字前後を目安に書いていきたいと考えています。

 そして今回は少し特殊な回となっています。これから先出無さそうな話を幾つか出させて頂きました。注意点として時系列などは滅茶苦茶です。


陰の小話集

 

 

 

『在りし日の稽古』

 

 

 ――これはまだシャドウガーデンが三人だった頃の話。

 

 

 俺の前にはシドが居て、少し横に離れ倒れた木の幹の上にアルファが俺とシドを見ながら可愛らしく座っている。

 木の剣をそれぞれ持って夜の森の中向かい合っていた。

 一歩進んで俺は剣を振り、それをシドが捌く。簡単に捌かれるが元々そういう『マス』と呼ばれる実戦形式の稽古らしい。

 お互いに攻撃は相手に当てずに、技や返し、流れを確認するやつらしい。元々シドは前世で空手やボクシングに剣道、総合格闘技など様々な事を戦う術を習得しているからこういう事に非常に詳しい。

 

「じゃあ次は僕の番だね」

 

 シドはそう言って剣を振るう、それを俺は捌く。それを繰り返していく。

 魔力は全く使わず、動きも遅い。上手く魔力が使えない俺に合わせてシドも全く魔力を使わずに相手をしてくれる。

 普段なら身体に馴染ませる為に少しは使う筈だ。それをしないのはシドの気遣いだろう。

 打ち合って分かる事がある、シドの剣はいい剣だと。

 数年前まで戦いの良し悪しも分からなかった俺でもそう思うという事は、元から分かる人にはもっといい剣だと思われるのだろうな。

 基本に忠実で、基礎がしっかりとしている。派手さは無いけどそれがこの剣のいい所なのだと思う。派手さが無いのはシドの努力の結晶であり、無駄が排除され、研ぎ澄まされたその様は、今まで一歩一歩基礎を積み上げてきた証拠なのだろう。

 少し見惚れる様にその剣を見ていると遅い攻撃なのに捌き損ねて、そのままこつんと頭に綺麗に入ってしまう。

 

「何やってるのさ」

「ごめん、ちょっと剣筋を観察しすぎてた」

 

 素直に折角つけてくれていた稽古に集中出来ていなかった事を言う。

 理由はどうであれ強くはなっておきたいと思っているので、シドが稽古をつけてくれるのは非常にありがたい事なのに、相応の態度を取れていなった事に申し訳なく思っていると。

 

「少し休憩したら? 僕と違って超ショートスリーパーって訳じゃないんでしょ?」

「うん、まあ。ちょっと休憩するわ」

 

 そう言ってアルファの隣に座って稽古を一旦休憩する。

 シドと違って睡眠をしっかりと取らないといけないのだが基本こうやって三人集まるのは夜で、昼間は普通に家で過ごすかたまにアルファの様子を見に来るとかで、寝ている時間が無いから結果一週間の睡眠時間が十時間を切る事がざらにあり、今のように集中力が続かない事も多々ある。

 それでも二人と一緒に居る時間は好きなのでこうやってちょっと無理をしてでも来たくなる。

 頭では寝た方がいいとかちょっとぐらい会うのを我慢すればいいと分かっていても自然と足が向かう事が多い。

 もう前世を含めるといい歳になのかもしれないけど、もしかしたら俺の場合精神が肉体に引っ張られているのかも知れない。

 そんな事を考えていたら月明りに照らされて綺麗に輝く金髪を風に靡かせながらこっちを見てきているアルファと目があった。

 

「どうした? さっきの一撃でたんこぶでも出来てるのか?」

 

 原因を勝手に予想して頭を触って出来てるか確かめるが出来ていなさそうだった。

 

「いえ、眼の下の隈が凄い事になってると思って」

「成る程ね」

 

 道理でクソ眠いと思った。

 

「悪いけどシド、俺はちょっと仮眠を取るわ。後はアルファと打ち合ってくれ」

「分かった、じゃあやろうかアルファ」

「ええ、お願い」

 

 アルファが俺がさっき置いた木の剣を拾ってシドの前に向かう。

 それを見ながら座っていた木の幹の上で横になる。仮眠とか言いながら割と本気で寝るつもりだった。盗賊とかならず者が出る森の中だけど、あの二人が居るならむしろ実家よりも安心して寝れる。

 そして俺たちがやっていた事と同じ事してその剣がぶつかり合う語気味いい音を聞きながら、半目でその光景を眺めていたがやがて夢の世界に旅立っていた。

 

 しばらくして。

 

「――――て」

 

 何か身体が揺さぶられるような感覚と声を掛けられている様な気がする。

 

「――きて、起きてってば」

 

 シドの声によって起こされたので起き上がるが、まだ空は暗く夜明けまでは時間が掛かりそうだと思った。

 月の移動具合から察するに三時間ほど寝れていたっぽい気がする。

 

「何かあったのか?」

「もう少しで帰らないとバレそうだから帰らないといけないけど、最後にシュウとアルファが戦う所を見ておきたいと思って」

「ふーん、成る程」

 

 事情が分かったので起き上がって、地面に置いていた愛用の槍を蹴り上げて、それを手にした後肩の上に担いでそのままアルファから少し離れた正面に陣取る。

 

「剣ではやらないんだ」

「俺の主武装は槍だからな、それに――」

 

 槍の穂先をアルファの方に向ける。

 

「剣の相手はシドで十分だろ、だったら俺は槍で相手させて貰おうかなって」

 

 あと口にはしなかったが剣で戦うと高確率でアルファに負けてしまう。魔力が十分に使えるか否かでその個人の戦闘力は大幅に変わる。

 そこそこ使える剣ではやっぱり分が悪く、一番得意な槍なら身体強化が全くできない俺でも五分五分ぐらいには持っていける。

 

 シドが審判で俺は槍を両手で構え姿勢を低くし何時でも先手を取れるようにし、アルファはその手にスライムで出来た直剣を持ち正面に構える。

 

「じゃあ始めッ――!」

 

 そして今日の〆の稽古が始まった。

 その日の結果はまあ得意な武器を使ったからといって勝率は五分五分な訳で、今回は背後を取られ剣を突き付けられ手をあげ降参するのは俺の方だった。

 でも三十分は互角に打ち合ったから自分に及第点をあげたい気分だった。

 

 

 

『初めての下剋上』

 

 

 ――これはデルタがシャドウガーデンに加入してから二日ほど経った頃の話。

 

 

 皆が居る小屋に来る途中、王都でそれぞれ欲しがっていた物を買って持ってきていた。

 昨日あたりにシドがまたメンバー増えたって言っていたなと思いながら、ガンマに生地とかを渡していると急に後ろから突き刺すような視線を感じたので不思議に思っていると。

 

「お前がこの群れでボスの次に強い奴です?」

 

 振り返ると黒髪の獣人の少女に急に声を掛けられた。名前は確かデルタだったっけ?

 今日は三人……じゃなくて一人増えたから四人なのか、皆の為に街で買って来たものを届けに来ただけで直ぐに実家に帰る予定だったのだが、何だか面倒そうな雰囲気になって来た。

 

「まあ、一応そうだけど」

 

 今では殆どアルファに勝てるようになったいたがそれでも負ける事は数回あった。

 ただ彼女が俺を立ててくれているから二番目に強い奴、というか組織の二番手という立ち位置になっている。

 経緯はどうであれ結果はそうなっているのでそう答えると――。

 

「今からデルタと戦うのです。デルタがこの群れのナンバーツーになってやるのです」

「はあ」

 

 余りにも急な話だから生返事しか出てこなかった。

 そんなちょっと暢気な俺の代わりにガンマが俺の前に出てきてデルタと俺の間に立った。その表情はまさに怒っていますと言った感じだった。

 

「ちょっとデルタ、余りにも失礼過ぎるわよ!」

「うるさいのです! 弱っちいガンマは引っ込んでろなのです」

 

 そう言ってデルタはガンマを突き飛ばす。

 

「へぶっ」

 

 余りにも急な展開だった為に反応できなかった、何て乱暴な子なんだ。ガンマが立ち上がるのに手を貸しながら俺はそう思った。

 今の短いやり取りで気が付いたが、ガンマも抵抗して魔力を込めていたように見えたが、いとも簡単に退けた所を見るにこのデルタって子は相当パワーがあると見た。

 そしてこのデルタからのガンマの扱い、何となく状況を理解したぞ。多分俺の考えている通りなら俺が万が一負けるなら本当に面倒な事になる。

 

「分かった、その勝負受けよう」

「話の分かる奴なのです! じゃあ早速――」

「でも今日は無理だ」

「えぇーー!」

 

 必ず勝たないといけないからな普通に準備がしたい、まあそれはそれとして今日は外せない用事があるから帰らないといけないんだけど。

 

「三日後また来るからその時に受けてやるよ」

「ふん、分かったのです」

 

 受けると言った瞬間は嬉しそうだったがお預けを言い渡した後は頗る機嫌が悪そうだった。

 そのまま機嫌が悪い感じで皆の小屋に入っていった。

 

「あの、大丈夫ですかジョーカー様?」

「ん?」

「デルタは見た通りの子でして、かなり力のある子で」

「ああ何となく分かってる、しかもアレだろ? 獣人の掟をそのまま持ってきてる感じなんだろ?」

「はい、そうなんです」

 

 それでまずはガンマを倒して勝ったからもう指図は受けないと言う感じだろうな。

 

「アルファには挑んでいないのか?」

「いえ、初日に挑んで負けていました」

 

 当たり前かと思いながら顎に手を当てながら思案していると気が付いた事があった。

 

「ならそれよりも強い事になっている筈の俺に挑んて来てるんだ?」

「もしかしたらデルタはジョーカー様が魔力を纏わないので強さを測り損ねているのでは? そして勝てばナンバーツーの立場が手に入りアルファ様にも大きな顔を出来るとか考えているのでは無いでしょうか?」

「意外と策士だなあのデルタって子は」

「恐らく偶然そうなっているだけかも知れませんが」

 

 仮にガンマの予想通りなら本当に不味い事になる。

 このシャドウガーデンのナンバーツーの立場を蹴落とされると面倒な事この上ない事になるだろう。多分そうなりかけてもシドからの助け船は期待できそうに無い。

 ならば確実に勝てる方法を取ろう、それしかない。

 

「まあ三日後までには必ず勝てる算段を用意しとくよ、だから安心しておいていいぞ」

「分かりました」

 

 ガンマが信頼した眼で見てきているがその内ドン引きした表情に変わる事だろう。

 

 そして三日後、デルタからの下剋上を受けると約束した日になった。

 俺は既に現地入り、まあ小屋に来て珍しく四人の為に朝ご飯を作っていた。暢気な奴と思われるかもしれないがこれは既に勝つ為の作戦が始まっているのだ。

 

「珍しいですね、ジョーカー様が私たちの為に朝ご飯をお作りになって下さるなんて」

 

 色々仕込みの作業があるので手伝って貰わずにテーブルに先に座って貰っているベータがそんな事を言いだした。

 

「たまにはこういう事をしてもいいだろ?」

「私は何かよからぬことを考えている顔に見えるわ」

 

 何も考えていない様に装ってベータに返事をしたがアルファは訝し気にこちらを見てきていた。

 ただガンマだけは緊張した顔つきで黙って座っていた。もしかしたらデルタの挑戦を俺が受ける事になったのを気にしているのかもしれない。

 

「もうすぐ出来上がるからデルタを誰か呼んできてくれ」

「私が行くわ」

 

 そう言ってアルファが立ち上がってデルタを呼びに行ったのを確認して、こっそりとポケットに忍ばせているモノを確認しそれを手元に移動させておく。

 単純な手品みたいなものだけど案外こういう技術は馬鹿に出来ない、教団の施設に潜入して隠したり隠れたり様々な分野でも役に立つ。

 そんな事を周りに知られない様に平気な顔でそのまま朝食を配っていく。

 いつまでも不安そうな顔をしているガンマに近づいて小声で声を掛ける。

 

「大丈夫だガンマ、シャドウガーデンのナンバーツーは伊達じゃないってのを見せてやるから」

 

 そう言ってやると少しだけ安心した表情で座って待っていた。

 全員が揃ったところで食べ始める。

 

「デルタは牛乳とか好きか?」

「よく飲むのです」

「そうか、じゃあ注いでやるよ」

 

 そう言って先程から温めておいた牛乳をコップに注いであげる。

 それをデルタは美味しそうに一気飲みしたのを確認して次の一手を繰り出す。

 

「ああ、そうだ今日の下剋上を受ける話だけどあの木の向こう側で戦うか」

 

 俺はそう言いながら窓の外を指さす、それにつられて全員が窓の外を向いた隙にデルタのコップに下剤をサーッっと入れてそのまま牛乳を注いで溶かす。

 事前に牛乳を温めておいたのは純粋にそうした方が溶解度の関係上溶けやすいというのと、温かいものは勝手に攪拌してくれるからわざわざ混ぜなくてもいいという理由もある。

 

「ん? 何だか変な匂いがする気がするのです」

「気のせいじゃないか?」

 

 適当に返事をして誤魔化しておく。

 そして全員が食べ終わった後、宣言通りにデルタの相手をする。先程言った木の傍に移動して構える。

 お腹の辺りをさすって違和感を感じ始めているであろうデルタを見ながら飄々とした感じでこの日の為に持ってきたパイクを担ぐ。

 デルタの戦い方は既に聞いてある、爪による超接近戦タイプだ。リーチは正義だし、何よりこれから行う戦い方ではパイクが適していると判断した。

 

「準備はいいか? 先に言っておくけど今日を逃したら暫くこういう事に付き合えないからな」

 

 とデルタが体調不良を理由に逃げない様に追い詰めていく。実際にここまでしなくてもいい気がするけど、事このデルタに関してだけは上下関係を明確にしておいた方がいい気がするから、心を鬼にして外道で卑劣な戦法を取る事にした。

 

「やってやるのです」

 

 闘争心に火がついたのか先ほどまで調子が悪そうにしていたのだが、それを感じさえない力強さを全身から発していた。

 後から聞いたのだがデルタは悪魔憑きの状態でも数日放浪していたらしく、この程度の下剤など恐らく効果が無かったと思われる。シンプルに飲ませたのが可哀想なだけだった。

 

 そしてアルファの合図で戦い始めた時、()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり俺は思いっきり逃走を始めたのだ。

 

「待つのですッ!」

 

 それを途轍もない速さで追いかけてくるデルタ。

 

「デルタは一番狩りが得意なのです! そんなデルタから逃げれるとおもってるですか」

 

 そのまま後ろ1m程の距離まで近づかれた時、腰のポケットに入れていたナイフを地面に投げつけ、事前に仕込んでいた紐を斬り罠を作動させる。

 左右から丸太の振り子がやって来てもう少しで攻撃が届きそうだったデルタは避ける事を強いられて距離が開いてしまう。

 その隙に俺はまた距離を稼いで次の罠の地点に誘導していく。

 遠くに準備した投射物の先端にトマトを付けたクロスボウの罠、シンプルな落とし穴、そして本当に可哀想だから使う気が無かった肥し玉の罠などをデルタにお見舞いしていった。

 それを繰り返していくと鬱憤が溜まって来たのか、段々と行動が荒くなってきたデルタ。

 まるで人を射殺さんとばかりに睨みつけてきており、始めの方にあった冷静さや口数の多さは見る影も無くただ唸りながら追いかけてくる獣になってしまっていた。

 その様子を冷汗をかきながら見ていると、デルタの右の爪の一振りで木が三本程一気になぎ倒された。その倒された木も宙を待っていたので凄まじい威力だったことが伺える。

 流石に怒らせ過ぎたかと思い真面目に開いてをするように立ち止まる。

 そのまま鞭のようにしならせながらパイクをデルタに向かって振るうがいとも簡単に避けられる。想定よりも戦闘センスが高すぎて思わず乾いた笑いが込み上げてくる。

 

「あー、これはちょっと見誤ったな」

 

 パイクの連撃を突破して突撃をして来たデルタに向かって言う。

 

「これでデルタの勝ちッ!」

 

 そう言いながら攻撃してきたデルタの一撃をパイクを盾替わりにして難を逃れ、一瞬だけ魔力を使って身体強化を施す。

 その瞬間全身に激しい痛みを感じるがそれを堪えて思いっきりデルタに足払いをして宙に浮かせる。

 

「へ?」

 

 デルタから見たら先ほどまで強くなさそうだった奴が急に自分より多い魔力を使いだしたと思ったら、速い動きで足払いをして来たら驚くのも無理は無いだろう。

 俺はそのまま宙に浮いた状態で横に回転している途中のデルタの顎に横向きにアッパーを叩き込み軽い脳震盪を起こさせてダウンさせる。

 

「きゅう……」

 

 眼を回して気絶するデルタの傍で魔力を使った影響により一気に消耗したので俺もその場で仰向けに倒れてしまう。

 

「随分と無茶をしたわね」

「こうでもしないと納得しないだろ、多分」

「最後まであのやり方ならよかったでしょうけど、最後に貴方の本当の実力を見せたから余計に食って掛かると思うわ」

「……マジか」

 

 なんてこったい、失策だったか。

 これでより魔力の制御技術を早い事身に付けないといけない理由が増えてしまった。

 こうしてデルタの初めての俺に対する下剋上は終わった。しかしアルファの言う通り後日再戦を所望してくるデルタだったがのらりくらりと躱す事しか出来なかった。

 今度は普通に戦って負けそうだと思ったからだ、結局その再戦が叶ったのは俺がゼータを助けた後つまり魔力の制御が出来るようになってからだった。

 よってデルタが俺に勝てる見込みはもう無くなってしまっていた。

 

 始めのやり方が納得いっていないとか今でも挑まれるが、俺も若干後ろめたさが残っているのでたまには相手をしてあげてストレスが溜まり過ぎない様にするとかで、気を使って今でも下剋上を受けている関係はこうして生まれたのだった。

 

 

 

『治らない理由』

 

 

 

 ある日イータの研究室に入ってゼータと一緒に次に使う毒の製作をしていた時だった。

 

「そう言えば、ジョーカーは何で、腕をいつまでも……治さないの」

 

 本当に不思議そうにイータが聞いてきた。

 

「確かに、それは私も気になってた」

 

 ゼータも便乗して答えを求めてきた。

 

「治せるならとっくに治してるっての、つまり信じられないだろうけどこれは治らない」

 

 そう二人に向かってハッキリと告げるとイータは続きを聞くためか、完全に研究の手を止めて両手で頬杖をして聞く態勢に入っていて、ゼータは気まずそうに視線を逸らしていた。

 まあ俺だって覚悟のうえでやった事だしそんなに気に病まなくていいとは言っているけど。

 

「でも、身体の傷は……治ってる」

 

 イータは身体の傷が治っていると思っているらしいが正確には違う。

 

「別にまだ完治してないぞ」

 

 そう言いながら上の服を全て脱いで一旦上半身をさらけ出して常にしていた魔力制御を解く。

 一瞬二人が少し顔を赤らめていたが、直ぐに青ざめた表情になっていった。

 何故なら魔力制御を解いた事によりみるみるうちにスライムで薄く覆っていた古傷が浮かんできて、至る所に裂傷の後が見えるようになったからだ。

 

「成る程、隠してたわけ」

「何でその古傷は治って無いの? フェンリルと戦った時の傷は完治してたけど」

 

 もっともな疑問を言ってくるゼータ、ただこれは俺の特殊な環境と状況の影響が強い。

 

「俺が昔魔力制御の技術がデルタ以下だったという話は二人にしたことあったっけ?」

「マスターに、魔力暴走を、抑えて貰っていた時の事なら……聞いた」

「俺の魔力はまだその時は身体に馴染んでいなくて、身体を認識できていなかったんだよ」

「と言うと?」

 

 ここからは憶測の話になるのだが、正直な話俺は他の人と性質が少し違うが本当の原因はもっと違う所だった。

 俺はこの世界に転生して膨大な量の魔力を手に入れたが、平凡な地球生まれの俺にはその超常的な力を心から受け入れていなかったというのと、家系的に魔力との相性が若干悪かったというのがある。

 元々シドは魔力を求めていたが俺はそんなことは無かった。それが魔力を受け入れるのに時間が掛かり、更には死にかけるまでちゃんと使う事すらままならなかった。

 

「俺の魔力が俺の身体を認識したときには既にこの状態だった訳で、治そうにもこれが元の状態と認識してるから無理だって事」

「ん、大体……分かった」

 

 成長して大きくなった分の身体は認識して更に自然治癒により埋まった傷も認識してくれているが、傷跡自体は治せなかった。

 今では右手に色々仕込めるから便利だなって思っているから別にいいんだけど。

 そう思いながらまた上野服を着る。着た後の二人の表情が少し残念がっていたが見なかった事にした。

 

 

 

 

『必殺技談義』

 

 

――これは何時でもない何でもない日常の話。

 

 

「そういえばさ」

 

 椅子に座ってスライムに魔力を流して何かをしているシドが急に話しかけてきた。

 俺は報告書を読んでいたが一旦やめてシドの方を向く。

 

「シュウは自分の技に名前とか付けないの? 言ったりしている所見ないけど」

 

 僕のアトミックとか見たいにさと後に付け加えながら聞いてくる。

 

「あー、技名ねぇ」

 

 何とも言えない表情になって言葉に詰まってしまう。

 

「いや、一応考えてはいるよ? 俺だって男だしそういうのに憧れが無いわけじゃ無いし。ただわざわざ叫んだり言ったりしないだけで」

「何で?」

「これから殺すだろう相手に言っても仕方が無いし、俺の場合言ったら対処が可能な場合があるからな。防がれたりしたら嫌じゃん」

「成る程ね」

 

 暫く無言が続く。

 

「で、技名はどんな奴を考えたの?」

 

 コ、コイツわざわざ言いたくないから話が自然に流れるように仕向けていたのに戻して来やがった。

 

「言う必要があるか?」

「ある、僕ばっかり知られているのは何だか不公平だ」

「知らんがな」

 

 そう言って軽くそして冷たく突き放すと。

 

「あーそんな事言っていいんだ。ゼータとイータに無い事無い事言いつけてやろっと」

マ ジ で 辞 め ろ

 

 お前マジでそんな事されたら後で二人から何されるか分からないんだから、それに無い事無い事って全部嘘って事じゃんねぇか!ふざけんな。

 

「嫌だったら考えた技名ぐらい言ってよ、別に減るものじゃないし」

 

 本当に言うだけならいいかと思って観念して右手からタングステン合金弾頭を取り出す。

 

「これを上から投げ落とすやつは『雷霆(ケラウノス)』、横から投げるやつは『極槍(ドゥリンダナ)』って感じで区別してるけど」

「横から投げて雷呼びはおかしいもんね、それにギリシャ系の名前で統一してるんだ。 分かるよその拘り」

「別にいいわ、こんな所で理解されても困る。もっと前から違う所で共感して欲しかったわ」

 

 過去の出来事を振り返るまでも無く口から出てきた素直な感想だった。

 

「じゃああの剣のやつは?」

「……えっ」

「えっ?」

 

 言いたくない技名でダントツなやつを聞かれて思わず固まってしまう、それに釣られてシドも固まってるけどどうでもいい。

 

「あれは……いいじゃん別に。世の中知らなくてもいい事があるって」

「じゃあ二人にシュウがシェリーと出かけてたって言っとくね」

「だから辞めろ下さい、そんな事実は無いんだからマジで辞めろお願いしやがれ」

「言葉が変になってるよ」

「誰のせいだと思ってるんだ」

 

 思わず椅子から立ち上がってシドに詰め寄る。

 

「ただ言うだけじゃん」

 

 それが嫌だから言って無いのにコイツは……最近は少し人の気持ちが分かる様になったと思ったらこれだよ。期待した俺が馬鹿だった。

 

 顔を逸らしながら小声で聞こえない様にいう

 

「…………」

「何て?」

「ゼ、『ゼクスカリバー』」

 

 諸々考えた結果こういう技名に落ち着いた。別に頭から出さないといけない縛りは無い。出せるけど。

 そしてこの技名を聞いたシドの反応は。

 

「エクスカリバーじゃ無いんだ」

 

 とだけだった。そりゃお前は元ネタとか知ら無さそうだもんなッ!

 それから俺は恥ずかしさやら何やら色々な感情でいっぱいになり、膝から崩れ落ちて暫くはその体勢のまま動くことは無かった。




 今回もここまで読んでいただきありがとうございます。

 六月に四話投稿出来ませんでした。申し訳ございません。
 七月は四話投稿出来るように頑張っていきます。

 そしてそしてお気に入り登録などありがとうございます。毎度励みになっています。

 それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。



 次回は多分7/2中には投稿できると思います。多分。
 何事も無ければイータの番外編を書くつもりです。
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