陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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第三話 陰の立役者は組織のNo.2として頑張りたい

 

 

 

 あの日アルファと出会いシャドウガーデンが結成されてから、もう早くも三年が経っていた。

 俺とシドそれに同い年だったアルファも揃って十三歳を迎えていた。

 

 三年も経ってシャドウガーデンのメンバーも初めの三人から増えて今では九人まで増えた。

 でも俺とアルファが積極的に探していたがまだこの人数だ。もっと探索範囲を広げたらもっと多くの悪魔憑きを救えるかもしれない。

 

 シドはメンバーが増えた事については、余り嬉しそうに無かったな。まぁ悪魔憑きの数=不幸の数みたいな感じだったりするし、流石にシドも思うところがあるのだろう。

 まさか捨て犬や捨て猫を拾ってくるみたいに拾ってきたとかそんな酷い事は考えていないだろう。

 

 シャドウガーデンはシドと俺そして他の七人、いや『七陰』の七人の合計九人で構成されている。

 因みに七陰というのはシドがつけたアルファ達七人の呼び方だ。……ちょっとカッコいいと思った。

 

 三年という年月は人を大きく成長させる。特に子供時代ならその変化は顕著で、身体的にも精神的にも技術的な事も大きく成長する。

 

 三年前の俺ではアルファに模擬戦闘で勝率は五分五分ぐらいだった。もしかしたら負けていた事の方が多かったかもしれない。

 でも魔力の扱いがそこそこ上手いアルファに対して、ほぼ使えていなかった俺が半々に持っていけるのは結構すごいと思う。……自分では。

 まあ、負けた時は決まってシドに訓練を付けて貰っていた。

 もう今ではアルファに負ける事は無くなったが、当時は結構危なかったな。

 

 そうそう、一回危うく組織のNo.2の立ち位置から蹴落とされそうになったけど、普段は余りやらない様にしていた卑劣な戦闘スタイルで乗り切った。

 挑んできた相手のおつむが残念で非常に助かった。でもどうやら納得がいっていないようで、今でも下剋上をしてくる。

 正直疲れるから勘弁してほしいというのが本音だ。

 でもそれ以降卑劣な戦闘スタイルが俺の十八番になってしまった。

 

 魔力制御に関してだが俺もシドと同様に漸く魔力制御の核心に至った。

 正確には核心に至ったというか自分の魔力の性質に気づいたというか……まぁ細かい事はどうでもいいか。

 ただシドと違って悪魔憑きを治療中の時ではなく、敵と戦闘中に死に際に覚醒する感じで核心に至ったから全くその場で喜ぶことが出来なかったけど。

 でもこれで漸く自分で自分の魔力を制御出来るようになったのだ。……普通は当たり前に出来る筈なんだけどなぁ。

 魔力制御の核心に至ったという事は、俺もシドと同じ様に悪魔憑きを治す事が出来るようになったのだ。

 ……これで少しはこの世界の不幸を減らせるかもしれない。

 因みに俺が治した悪魔憑きの人数はまだ二人だ。二人ともシャドウガーデンに在籍してくれている。

 何が言いたいかというと俺も結構魔力制御が上手くなったという事だ。

 具体的に言うとシドが俺の急成長に驚くぐらいだ。このまま頑張れば将来はシドを超える事が出来るかもしれない。

 

「まぁ、現状は我らがリーダー殿には一回も勝ててないんだが」

 

 いい加減ずっと負けっぱなしというのも腹が立つが、あの前世から修行を積んでいたとかいう化け物みたいな強さを誇るシドには本当に一度も摸擬戦闘で勝ったことがない。

 教団について調べるついでに各地の戦闘技術とかを勉強して、見たことが無い様な技を混ぜても笑いながら直ぐに対応してくるし。何なんだアイツは。

 

 まぁ? でも? 俺はシドが出来ない事で出来る事は何個かあるし、移動とか動きの速さなら俺の方が上だったりするし。

 でもいくら動きが速くても、置き攻撃とか感覚で普通に叩き落とされるから、一回も勝てていないのだ。おかしくない?

 

 何だか考えていたら悲しくなってきたな。日課の魔力の制御の訓練をしながら俺は寝ることにした。

 

 

 

 ぐっすりと眠っていたが――ふと、自分の部屋に誰かが入ってきた気配がしたから起き上がる。 

 

「あら? 起きたのね。せっかくだから起こしてあげようと思ったのだけれど、残念ね」

 

 起きたらアルファが俺の部屋に上がりこんでいた。窓が開いているから窓から入って来たみたいだ。

 何が面白いのか、アルファはクスクスと笑っている。

 

 いや、何の断りもなく他人の部屋に入るのはどうかと思うんですよ。

 一回死んだとはいえ、肉体は思春期真っただ中な十三歳なわけでして。

 男は皆獣だって言うし俺には性欲とか普通にあるから、突然来られると焦る。

 そして俺はちょっと動揺しながらどうしてここに来たのかを聞いた。

 

「こんな夜更けに来るなんて何かあったのか?」

 

 こんな時間にしかもスライムスーツを着て、ここに来ているという事は何かあったに違いないと思った。

 

「シャドウのお姉さんであるクレアさんが攫われたわ」

 

 え? 結構マジな案件じゃん。

 何回かシドの家に遊びに行って、その時にクレアさんとは何度も会っている。

 

 それで俺はクレアさんと摸擬戦を何回かして全部勝ってきた。

 それで何回も剣の稽古を一緒にやったりした。そしてその後クレアさんは平凡な人間を演じているシドに稽古を付けるのだ。でも俺の剣の師匠は父上とシドだ。

 つまりここで俺がクレアさんに、クレアさんがシドに、シドが俺にという変な循環機構が出来上がるのだ。……何なんだろうね。

 

 そういう事で全く関わり合いが無いという事では無いので、普通に心配になる。

 

「一体どこの誰が攫ったんだ? クレアさんは簡単に捕まるような人じゃ無かったはずだけど」

「恐らく教団が関わっていると思われるわ」

「……教団か。でも教団が何故クレアさんを? ……いや、もしかして『英雄の子孫』の疑いがかけられたか?」

 

 教団が関わっているならあの人が攫われても納得だな。

 クレアさんは年齢のわりに普通に強いけど教団の連中は手練れが多い。不意打ちをされたら今のクレアさんでは反応できないだろうな。

 

 でも英雄の子孫の疑いがかけられたのはマジで分からんな。でも教団が攫う理由なんてそれぐらいしかないし。

 クレアさんに悪魔憑きの兆候があって治したってのは、シドから前に聞いた事があったけど、その話が漏れるわけないしなぁ。

 家系とか先祖とか調べれば案外分かったりするのか?

 

「流石ね、私もジョーカーと同じ考えだわ。ほぼ確定だろうけど教団はクレアさんに悪魔憑き疑いを持っているはず。だから――」

「だからまだ生きているはずという事か」

「そう。でも今夜助けないと命の保証は無いわ」

「じゃあ、今から助けに向かうか。連れていかれた場所の見当はついてるのか」

「えぇ。いくつか候補は絞ってあるわ。一旦みんな集まっているはずだから集合場所に行きましょう」

「ああ、行こうか」

 

 そう言って俺は窓に身を乗り出しながら、スライムスーツを起動し身を包む。

 

「ナビゲートを頼めるか? 多分俺が抱えて飛んだ方が速い」

「そうね。お願いするわ」

 

 俺はアルファを抱えてスライムで翼を創る。そして音も無く飛んで行き、そのまま夜の闇に紛れていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺たちはアルファが言っていた集合場所に着いた。……あれ? シドの姿が無いんだけど?

 

「ベータ貴方がシャドウを呼びに言ったはずだけど、シャドウの姿が無いのはどういう状況?」

「あ、はい。シャドウ様は我々が見つけていたアジト以外の隠しアジトを発見なされて先行されました。余程クレア様の事が心配だったのでしょう。シャドウ様が瞬時に見抜いた隠しアジトの場所はここです」

 

 今あの待てが出来ないバカが先に行った事と行った先を分かりやすく言ってくれたのは『ベータ』だ。

 アルファの次にシャドウガーデンに加入した銀髪のエルフの子で、俺たちと同い年らしい。

 非常に情報整理能力も記憶力も高く、俺が集めてきた教団の情報とか整理を任せると間違いが無い。

 誰かさんが非常に恨めしそうに見ていたが、年齢のわりに発育がいい。シャドウにお熱な子だ。

 何事もそつなくこなしてくれるから、雑に仕事を放り投げて任せてしまう事がある。

 ちょっとシャドウに対して盲目的な所があるけどとても頼りになる優秀な子だ。

 

「えぇ、主様はいつも我々の先を行かれます」

 

 そう残念そうに悔しそうに言うのは『ガンマ』だ。

 ベータの次にシャドウガーデンに加入した同じく青みのある黒髪のエルフの子だ。ガンマは俺たちより年上だったはず。

 ガンマは非常に極端な子で、簡単に言うと凄く頭はいいが運動神経は壊滅的だ。

 シドが陰の叡智とか言いながらうろ覚えの適当な現代の知識を少ない情報で、答えまで辿り着く事が出来る。

 だがその反動か何も無い所で転んでしまうほど運動音痴だ。

 欠点もあるがそれ以上に優秀な子だ。

 

「デルタも早くボスと一緒に狩りに行きたいのです!」

 

 早くシドと敵を倒したいと言うのは『デルタ』だ。

 ガンマの次にシャドウガーデンに加入した黒髪の狼の獣人の子だ。デルタは俺たちと同い年だったと思う。

 デルタもガンマと同様に極端な子だ。戦闘センスは七陰のなかでもトップと言ってもいいレベルだ。

 だがデルタは致命的に頭が悪い。物覚えもよくないし余り考えないから、いつまでもアルファに勝てない。

 でもデルタの加入がもう少し早かったら俺はちょっとヤバかったかもしれない。

 でもデルタは上下関係をしっかり決めると後はそれに従う。だからデルタはシドと俺とアルファの言う事しか聞かない。野生の獣みたいな思考回路だが、それでも優秀な子である事には変わりない。

 

「主様の叡智なら瞬時にアジトの場所を把握するのは当然の事です」

 

 そう何故かドヤ顔で言うのは『イプシロン』だ。

 デルタの次にシャドウガーデンに加入した水色の髪のエルフの子だ。確か俺たちより年上だった気がする。

 イプシロンは魔力制御が非常に上手い。そして途轍もない努力家だ。常に綿密な魔力制御を行っているのだ。正直その美意識の高さは尊敬する。

 俺が魔力制御が出来るようになって遊んでいた時に、イプシロンのトップシークレットを知ってしまった時はどうしようかと思った。必死に謝って許して貰ったけど今でも非常に気まずい。

 プライドは高いみたいだけど、相手より努力して上回ろうとするタイプの子だから、基本はいい子なんだよな。多分俺やアルファともう一人の次に悪魔憑きを治せる可能性があると思う。

 これからに期待している優秀な子だ。

 

「ジョーカーも見たら直ぐに分かったんじゃない?」

 

 そう俺の事を買い被ってくるのは『ゼータ』だ。

 イプシロンの次にシャドウガーデンに加入した白金色の髪の猫の獣人だ。俺たちより二歳年上だ。

 俺が初めて治療した悪魔憑きで、ゼータを助けた時は本当に大変だった。今でもその時に負った傷とか色々残ってるし。

 ゼータに関しては何か俺が治したからか、シドにではなく俺に忠誠を誓っている感じがする。

 ……組織内の派閥争いとかしたくないから、勘弁して欲しいというのが本音だ。

 ゼータは俺が直接教えたことが多いメンバーだ。特に諜報や潜入などについて教えたから、シャドウガーデンの中でも情報収集や隠密行動は一番得意だろう。

 家族の事で塞ぎこんでる様子だったから、何かにつけて色々な所に連れて行った。おかげで少しは明るくなったと思う。

 またそれとは別に俺が教団の情報収集を行う時にも、一緒に行動する事もあった。一番息を合わしやすいというのもあるからな。多分俺が合わせられているだけだろうけど。

 自惚れでなければゼータは俺の事を慕ってくれていると思う。……多分。

 弟子みたいな自慢出来るような優秀な子だ。

 

「……うーん」

 

 ゼータに同意しているのか眠たくて唸っているだけなのか分からないのが『イータ』だ。

 ゼータの次にシャドウガーデンに加入したワインレッドの髪色のエルフの子だ。 俺たちより二歳年上って聞いた。

 俺が治療した悪魔憑きの二人目だ。

 イータは技術開発や研究などを主に行う子だが、ちょっとサイコパスの気がある。今から将来が心配だ。

 数回実験台にされたことがあるし、ほかのメンバーも同様に被害にあっているらしいし。

 前世で学んだ事ちょっと教えたら物凄く食いついてきてビックリした記憶がある。

 ある計画を実行する為とは言え、現代の技術を覚えている範囲を教えたのはまずかったかもしれないと最近は思っている。

 勉強してた科学系の専門知識とか、得意げにゲームで得た知識を話すんじゃなくて他の事を教えるべきだったかなぁ。

 イータの研究費は今の所俺が頑張って伯爵家の伝手で捌いた美術品だ。

 正直こんな直ぐに使い道が来るとは思わなかった。でも嬉しそうにするイータの顔を見るとつい財布の紐が緩んでしまう。

 最近は俺の事を財布と思い込んでいないか心配になる事がある。

 知識が増えるととんでもない事になるであろう末恐ろしい存在だが、非常に優秀な子だ。

 

 本当に皆優秀な子達だ。……もしかして俺要らない奴なんじゃないかな?

 改めてシャドウガーデンの皆の優秀さを振り返ると俺にダメージが入るんだけど。

 ……取り合えず気を取り直して、聞く事を聞いておかないと。

 

「現時点で分かってる敵の情報は?」

 

 取り合えずシドは後でシメるとして敵の情報が無ければ俺は作戦を立てられない。我らがリーダー殿と違い俺は凡人なのでね何も見ずに最適解とか選べない。

 俺はあそこまで運命に愛されていないからな、確実に堅実に事を運ぶように心がけている。

 

「敵の規模なのだけれどどうやら幹部クラスが居るらしいわ」

「幹部クラス? それってあれかラウンズ入りが内定してるやつとかじゃないよな?」

 

 幹部クラスと聞いて数年前の悪夢が蘇る。ゼータの方を見ると少しこわばった表情をしていた。

 ……まぁ無理もないか。

 

「安心して、あの時の奴クラスでは無いわ。それでもこの付近を任されているはずだから相当な実力の持ち主のはず」

「そうか。なら捕らえて情報を聞き出した方がいいかもな……」

「どうしたのジョーカー?」

 

 突然固まった俺を不思議に思ってアルファが聞いてくる。

 

「なぁ、シャドウが先に行ったんだよな?」

「えぇ、そうだけど――あっ」

 

 どうやらアルファも気づいたようだ。シャドウは全てを破壊する。何もかもだ。

 シドは自分で言っていたわりに教団の存在を信じていないから、その場のノリで思いついた陰の実力者ロールで適当に敵を殺していく。だからアイツが暴れた後は何も残らない。

 ただアルファはシャドウは何もかも知っているから、一番単純で速い手段である証拠隠滅も兼ねた殺しをしていると思っている様だけど。

 多少の認識のズレはあるけど、俺とアルファはシャドウが、証拠とか情報とか何も残さないという認識は共通している。

 

 そんな固まる俺たちの耳に聞こえてくる爆発音。どうやらシャドウが動き始めてしまったようだ。

 俺は急いで戦闘準備を整えると同時に声をかける。

 

「ガンマッ! 作戦は考えてるか⁉」

「えっ⁉ あ、はい既に案はありますジョーカー様」

「よし、じゃあそれで行こう」

「あの? 内容もお聞きになられていないのにいいのですか?」

「問題ない。俺は(自分より優秀な)ガンマを信じている、だから大丈夫だ」

「――ッはい! それでは作戦を説明します――」

 

 俺たちはガンマの作戦を聞きながら敵のアジトに突撃していく。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「小娘が……手間をかけさせおって」

 

 男は気絶させた少女『クレア・カゲノー』を見ながら吐き捨てるように悪態をつく。

 クレアはディアボロス教団に捕まり地下牢で鎖に繋がれて、男――オルバに気絶させられていた。

 

 オルバはクレアから流れ出た血を回収しようと手を伸ばすが、その時兵士が地下牢に駆け込んできた。

 

「大変ですオルバ様! 侵入者です!」

「何ッ!」

 

 地下牢は一気に混乱に包まれる。秘密裏に活動していたはずなのに、アジトが特定されただけではなく、既に乗り込まれているというのは非常事態だった。

 

「敵の数は少数ですが、全員圧倒的な強さです! 我々では太刀打ちできません!」

「くッ! お前達はは下がっていろ、念の為機密文章の抹消の準備をしておけ!」

「オ、オルバ様⁉」

 

 部下たちが混乱している様だが立ち止まっている暇は無い。

 侵入者は恐らく相当な強者達だ。ここはこのアジトを任されている自分が出るしかないとオルバは思い駆けていく。

 

「なッ! これはッ⁉」

 

 オルバが辿り着いた先には死屍累々な凄惨な現場があった。

 部下たちは無残にも殺されてどれが誰の部位なのか分からない状態だった。

 その部下たちの死体で出来た血だまりに立つ八人の子供たち。

 

(――この子供たちが侵入者だというのか)

 

 オルバは瞬時に剣を鞘から抜き戦闘態勢に入る。

 全員が黒のスーツに身を包み、正体を隠す為か仮面を付けている。

 一人こちらに今にも飛び掛かりそうだったが、一人が前に出てそれを手で制する。

 大人しく下がった所を見るに、この前に出てきた子供がリーダーなのだろう。唯一顔を全て覆う仮面を付けフードも被っている。

 

「……貴様ら何者だ」

 

 オルバはいつでも攻撃できる態勢を保ちながら正体を探る。

 

 ――将来教団に立ち塞がる存在ならここで芽を摘まねばならない。

 

 オルバはそんな事を考えていると前に出てきていた子供が返事をした。

 

「――我らは『シャドウガーデン』。陰に潜み陰を狩る者」

 

 前に出てきた子供が話した。声から推測するに恐らく性別は男。

 立ち方に呼吸、風格から既に強者であると分かる。もしかすると自分より強いかもしれない。

 だがオルバは戦わなくてはならないのだ、生き残る為、教団の為、何よりも愛する娘の為に。

 

「貴様ら此処が何処なのか、分かって来ているのか?」

「ああ、知っているとも『()()()()()()()()』のアジトだろ?」

「何ッ⁉」

 

 相手を探るつもりで聞いたが思わぬ名前が出てきて激しく動揺してしまう。

 表も裏の人間も知ろうとしても知る事が出来ないはずの、自分が所属している組織の名前が出てきたのだ。

 

「我々は全て知っているぞ。『()()()()()()()()』に『()()()()()()()()()』、『()()()()()』そして『()()()()』の真実も」

 

 少年は丁寧に指で数えながら言ってくる。明らかにこちらを下に見ている態度だった。

 

「き、貴様らどこまで知っている……どうやってそれを知った?」

 

 組織の名前も、秘密も全て知っていた。

 オルバは確信した、自分の出せるものを全て使い全力でこの敵を排除しなくてはならないと。

 将来教団に立ち塞がる? 何て甘い考えだ! 将来なんて先の話ではない今だ。もう既にこの組織は教団に牙を向ける、その牙がもうあるのだ。

 今すぐこの芽を摘まないと教団は多大なる被害が出るだろう。――いや既に出ているのかもしれない。

 今までの人生で磨き上げていた剣術を全て注ぎ込んだ一撃でリーダー格の少年を狙う。

 狙うは首だ。どこか余裕を感じさせる少年に渾身の一閃を放つ。

 

(――獲ったッ!)

 

 そう思った瞬間少年の身体がブレて消える。オルバの渾身の一撃は空を斬るだけで終わった。

 

(は、速すぎる……目で追う事も出来んとは……)

 

 何処に行ったか確認するために辺りを見ようとした瞬間、胴部に強烈な痛みが奔る。

 傷は浅いが胸の部分が斬られていた。

 

(斬られたのか⁉ いつの間に⁉)

 

「これで実力差は分かっただろう? 投降するなら悪いようにはしない」

「ほざけ小僧ッ! 誰が投降などッ!」

 

 オルバは勝機を探る為に愚直なまでに剣を畳みかける様に振るう。

 相手の癖を暴き、その隙を突いて攻撃を叩きこむ。そう考えていたのだが。

 全ての攻撃が紙一重で躱される。

 隙を見つけたと思ってもそれは敢えて用意された隙で、まるで嘲笑うかの様に攻撃をしても躱される。

 

(……まるで当たる気がしない)

 

 オルバは既に気づいていた。少年がこちらを殺すつもりが無い事に。だがそれは情報を聞き出す為だろう。

 だから少年は余裕の態度を崩さない。こちらの心を折りに来ているのだ。

 無用な攻撃をせずにこちらを捕えようとしているのだ。

 

「舐めるなよ小僧。その余裕、その態度。全てその仮面ごと剝いでやる」

 

 オルバはそう言いながら懐から瓶を取り出し赤い錠剤を一つ嚙み砕く。その瞬間オルバの魔力は自身の限界を超える程増える。

 

「ここからが本番だ」

 

 オルバはそう言って少年に斬りかかるが、また空を斬るだけで終わってしまう。

 

「そういう事なら少し痛い目を見てもらうけど」

 

 少年の声だけが辺りから聞こえてくる。だが見渡しても以前変わりなく姿を捉える事が出来ない。

 そして今度は胴部だけではなく、身体中に痛みが奔る。

 先ほどより多く斬り刻まれたのだ。錠剤を飲んだにも関わらず、少年の姿を捉える事が出来ないだけで無く、いつでも殺せると行動で示してくる。

 

「――ぐッ! ガァッ!」

 

 オルバの全身から血が滴り落ち、片膝をついて動きを止めてしまう。

 

 ――ダメだ、勝てない――

 

 そんな考えがオルバの頭に出てくる。

 オルバの心は少年の手によって完全に折られてしまった。

 だがオルバは投降という手段を取らなかった。

 全力で天井と地面を斬り刻み煙と破片をいくつも辺りにまき散らしながら、秘密の逃走経路への道を斬り開く。

 

 選んだのは逃亡だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ッチ……逃げたか」

 

 土煙が晴れた頃、そこには瓦礫に埋もれかけた穴があるだけだった。

 身体中に着いた土埃をはたきながらアルファが近づいてくる。

 

「どうするのジョーカー? 追いかけるの?」

「ああ、追いかけるさ。どうせ直ぐに追いつく」

 

 さてどこまで行ったのか魔力探知をしてっと……思ったより先に進んでいるなって。

 

……まずい

「何がまずいの?」

「逃げた先に丁度シャドウが居る」

「えっ」

 

 ベータやガンマにデルタもイプシロンも流石シャドウ様とか言って感動してるけど、アルファと聞き耳を立てていたっぽいゼータは微妙な表情をしている。

 イータは既に船を漕ぎ始めていた。

 

「悪いアルファ。クレアさんの救出と残党処理と、アジトに残っている情報を集めておいてくれ」

「分かったわ」

 

 俺はこの場をアルファに任せて瓦礫を斬り刻み穴を猛スピードで降りていく。

 

 

 

 俺が追いついた時に丁度幹部らしき男は、ドヤ顔のシドによって上下に両断されてしまったところだった。

 

 俺は膝から崩れ落ちた。




 気が付いたらお気に入り登録数が二桁に行き、感想もいただきました。本当にありがとうございます!まだまだこれからも頑張ってみようと思います。

 本当は七陰がシドの元を離れるシーンまで書きたかったのですが、思ったより文章量が多くなってしまったので、次回に回すことにしました。

 今回もここまで読んで下さり本当にありがとうございます!
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