陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
第二十七話 陰の立役者は計画を進めたい
ラワガスから帰って来て数日経ったある晩、日が沈んで尚賑わいを見せる王都の人混みに紛れながらゆっくりとその大通りを歩いていく。
服装はガンマから貰ったミツゴシ製の夏仕様のスーツ一式を身に纏っている。夏なので暑いがミツゴシの技術力を総動員し作られたスーツなので、まだ暑さはマシに感じるし袖をまくるだけでも十分快適だった。
巷でも好評で売り上げに繋がっているとか何とか、そんな話を耳にしたことがある。
目的地付近の路地が近づいてきたのでそのまま細く迷路のような地形になっている道を迷わずに進んで行く。
暫く歩いていると落ち着いた雰囲気の扉が見えてきた。その扉にはミツゴシのブランドロゴと細やかなレリーフとが施されており誰かさんの仕事ぶりが伺える。
扉を開けるとか細いが綺麗な音色の鐘の音が鳴り響く。
店内は間接照明を採用しており直接光源が目に入らない事から落ち着いた雰囲気を演出しており、名実ともに隠れ家的高級バーという事を表していた。
バーカウンターの方に目をやると光量を抑えた証明が点在しており、それはまるで夜空の星空の様な美しさを感じさせるものだった。
床の石材もテーブルの木材もどれも高級品でミツゴシの本気が伺える。
シド専用のセーフハウスに置かれている家具類や美術品も相当なモノだったが、直ぐに目に入るものだけでもこちらの方が高級品を揃えているようだった。
……何かあった時の被害金額を考えるだけで頭が痛くなってくるレベルのモノばかりが揃っている。
「お待ちしておりましたお客様」
「ああ」
オッドアイの黒髪エルフのオメガが礼儀正しく一礼をして迎えに来てくれた。
他の客が居て不自然に思われない為にも事前に貰っていた会員証を、ジャケットの内ポケットから出すがやんわりと返された。何で?
「シュウ・ヤーク様は顔パスですので会員証の提示は不要です。それに今夜は部外者は居ませんのでいつもの偽装は不要でございます」
「成る程」
俺はそのまま内ポケットに無駄に金ぴかで『会員番号002シュウ・ヤーク』と書かれたモノをしまった。
「本日はVIPルームとカウンターどちらになさいますか?」
「カウンターで」
「承知致しました。ご案内致します」
そこまで長居するつもりは無いのでカウンターにした。そのまま案内される形でカウンターの席に着くとバーテンダーとして男装の麗人であるカイが居た。
しかしカイの指先というか何だか全体的に震えている気がする、そこまで緊張される憶えは無いんだけどと思ったが、そう言えばカイが入って来た当初同じ槍使いとしてアルファに頼まれて一戦交えた事があったなと思い出した。
あの時は一回シャドウガーデンの力を見せて欲しいと頼まれたから、それなりに本気で戦ったからその時にトラウマでも植え付けてしまったのだろうか?
「ご、ご注文は」
「ギムレットで、コーディアルライムでは無く果汁の方で」
「かしこまりました」
甘いのは好みでは無いので果汁の方で注文させて貰った。こっちの方が酸味があっていい。
本当はカクテルとかあんまり好みじゃ無いけどこういうバーでは頼むのが基本だと思うので頼むことにした。本当はワインの方が好きなんだけど。特に白ワイン。
「ギムレット何て飲むのね、貴方の事だからワインでも頼むかと思ったわ」
後ろから声を掛けらえたのでそのまま振り返るとそこにはシンプルな黒いドレスを着たアルファが居た。
そのままアルファは俺の隣に座って来た。
「こういう場ではカクテルを頼むのがマナーみたいな感じじゃないのか?」
「そういう事を気にするのね」
ちょっとクスクスと小さく笑いながら小馬鹿にしたような表情で言ってくる。誰かさんと同じ様に酒に弱いと思われているような気がしたので、少しだけ眉間に皺が寄り不機嫌になる。
カイがそんな俺たちを見て冷汗を流している。
「そういうアルファは何を頼むんだ?」
「そうね、私はマンハッタンをお願い」
「かしこまりました」
マンハッタンか、確かウイスキーベースの奴だったっけ?
先に俺のギムレットが出されたが一応アルファのマンハッタンが出来上がるまで待ち、出て来た所で飲み始めた。
スッキリとした味わいと程よい酸味が悪くないと思った。
「ど、どうでしょうか?」
「普通に美味しいな、これならカクテルも悪くないと思うぐらいには」
「そうですか」
明らかにカイはホッとした表情になって震えも止まっていた。
お互いに少しだけ酒を嗜んでから話始める。
「それで貴方は何をするつもり? 昼にシャドウも陰の間に立ち寄ってガンマに何か頼んだようだったけど」
「シドが?」
「ええ、詳しくはまだ聞いていないけれど」
アイツも何かするつもりなのか、こっちに余計な事を持ってこなければいいけど。
「俺はそろそろ『十三の夜剣』を片付けようと思ってな」
「『十三の夜剣』を? 貴方が随分と前に脅威では無くなったから放置すると言って居た気がするけれど、一体どういう風の吹き回し?」
「いや何。ミドガルの教団の連中を一掃しここを盤石なモノにして、次の所に戦力を回せるようにしたいから」
「そうね」
確かに脅威では無かったが今ではフェンリルを片付けた影響で他の派閥がここに入り込み始めているらしく、それを匿ったりと普通に厄介な動きを見せ始めているという情報も入って来ている。
それを知らないアルファでは無い筈。つまりさっきの事以外の理由が聞きたいのだろうか。
そう思いながらアルファの表情を見ると教団の話をしているのにも関わらずどこか嬉しそうな雰囲気があった。
「……何か言いたげな表情だな」
「いえ、別に。私は漸く貴方が色々な事に腹を括ったようで嬉しいの」
「どっちから聞いたんだ?」
恐らくラワガスで二人に言った事が原因だろう、というかそれ以外考えられない。
「二人から直接聞いて、他の七陰でもその話で盛り上がったわ」
「オイこら、人の色事を話のネタにするな」
「因みにベータとデルタがゼータのみを、イプシロンがイータのみを、私とガンマは二人共を選ぶって予想していたわ。おかげさまで賭けは私とガンマが勝ったわ」
「おまけに賭け事の対象にしてるし」
大きくため息をつきながら俺は頭を抱えた、別に酒に酔って頭が痛くなった訳ではない。
目の前に居るカイと後ろで控えているオメガのおかげでナンバーズ達にもこの話は広がってしまうだろうと思って頭が痛くなってきた。
カイは大丈夫かもしれないが、オメガは普通に話のネタとして嬉々として使いそうだ。まあ別にいいけど。
「まあうん。そういう訳だから早い事戦いに決着を付けようかって話。今までも本気で取り組んでいたけど、改めてそう決意して今回の作戦を実行しようって事」
「それだけを伝える為に私を呼んだわけではないでしょ」
「本題は少しだけの人員を借りたい」
今回はブシン祭の盛り上がりの裏でひっそりと連中に消えてもらう予定だから、少し隠密かつ迅速に作戦を遂行する必要がある。
正直ゼータとウィクトーリアだけでは流石に人手が足りない。
そういう訳でこうやってアルファに相談している訳だ。俺以上にシャドウガーデンのメンバーについて熟知している筈だから聞いた方が早い。
「そうね、二人共行けるかしら?」
「「えっ!?」」
カイとオメガが驚いた表情をしている。
まさか自分達が振られるとは思ってもいなかったのだと思う。
「難しいなら断ってくれても別にいいけど」
一応二人に対してフォローはしておく。誰にだって合わない仕事の一つや二つはあるだろうから。
最悪俺たち三人で頑張れば何とかなる可能性の方が高いし、ゼータが一応抱えている事になっている諜報部隊に帰還してもらって手伝って貰えば何とかはなる。
それをすると情報が入って来るのが一旦止まってしまうのが難点ではあるけど。
「その……我々自身は大丈夫なのですが」
「シャドウ様も何か為される様子で、そちらへの対応の為待機とのガンマ様から指示もありまして」
「成る程、シャドウ関係で動くに動けないのか」
確かにシドが動いたら大きく事態が進展するから、それに備えて待機するというガンマの判断は間違いじゃない。
それを考えるとナンバーズ達を借りるのは辞めた方がいいかも知れない。かと言ってさっきの諜報部隊を帰還させるのも悪手であることには変わりない。
よし、諦めて二人には一緒に
そうならない様に最大限手は打つが。
「分かった、じゃあこっちで何とかする」
「何とかって何人で実行するつもり?」
「俺含めて三人で」
そう言った時の三人の顔は盛大に引きつっていた。
アルファとの密会を終えて一旦帰路についていたが、周囲に誰も居ない事を確認してから通信機を取り出してゼータに連絡を始める。
「あーゼータ聞こえてるか?」
『聞こえてるよ』
「例の作戦に着いてなんだけど」
『うん』
少し深呼吸してからハッキリと言う。
「三人でやる事になった」
『え?』
戸惑いの声が通信機から聞こえてくる。
『えっと……冗談だと思いたいんだけれど』
「残念ながら冗談ではない。一緒に地獄に落ちてくれ」
『うわぁ、今までの人生で一番嬉しくない誘い』
冗談ぽっく言っているゼータだが、多分これはもうそういう感じで行かないと受け入れたくないののだろう。俺もその気持ちはよく分かる。
「ウィクトーリアにも伝えておいてくれ」
『了解』
そう言ってゼータは端末を切ったみたいだった。
「さてと、今から準備でも始めますか」
流石に二人に余りにも負担をかけすぎない為にここで頑張っておこう。
そう思いながら『十三の夜剣』のメンバーの名簿を取り出して住居などを確認して回った。
そして二日経った。
何と紅の騎士団でブシン祭に出る事になってしまった。でもアイリス王女から出て欲しい理由を聞いた時に協力しようという気になったので後悔はしていない。
理由としては自分だけでなく他の騎士団の人達もこれだけできると世間に知ってもらいたいからだという。
その為自分は今年出て優勝すれば二連覇という偉業を成し遂げれるにも関わらず出場しないと決めたそうだ。アレクシア王女は一応出るみたい。
他に出るのはグレンさんにマルコさん、そしてクレアさんと他余り話した事の無い二人のメンバーが出場するらしい。
そういう事で今は朝から特訓という事でアレクシア王女と軽く打ち合っていた。
互いに動きを確認し合いながら少し前に話した内容で話始める。
「そう言えばこの間シュウ君が持ってきた『十三の夜剣』という組織の情報だけど、アレ私たちじゃ立場的に手出しが難しいという話になったわよね」
「そうですね、王国の中枢部まで入り込んでいるので下手に手を出したらこちらが解体されかねないですからね」
「そこで私は『シャドウガーデン』を頼るほうがいいと思うのだけれど、どうかしら?」
「名案ですね、連絡を取れればという条件が付きますが」
そう言いながら弾くのではなく受け流す様に攻撃に対処する。
「シュウ君こそ『シャドウガーデン』に伝手とか無いの?」
「ある訳ないでしょう。神出鬼没で今の所敵か味方か分からない連中ですからね、本格的に協力出来たら心強いだろうなとは思いますけど」
「それには私も同感だわ、仲良くって訳じゃ無いにせよ如何にかして連携でも取れればとは思っているわ。あの戦闘力や組織全体の強さは正直凄いと思う」
まあ、その組織のナンバーツーが目の前に居る訳なんだけど。
そういう考えを持ってくれているというだけでも個人的にはやって来てよかったと思える。
「私もあの剣の様に」
そう言いながらアレクシア王女は構えてからその剣を振って来た。
その時、一瞬だけ自分でも信じられないが
「――ッ!?」
アレクシア王女の戸惑いの声の様なものが聞こえてくる。
その後方にはアレクシア王女が先ほどまで使っていた剣が宙を回りながら落ちて地面に刺さった。
自分の状態を見ると攻撃を弾いた後の構えのまま固まっていた。
まさかシドの剣と一瞬でも思ってしまって反射的に弾いたのか?
「そ、そんなに真剣に弾かなくてもよかったと思わない?」
戸惑いを隠せない状態でアレクシア王女がそう言って来た。
「そう、ですよね……自分でもそう思います」
正直に答えてから。
「ただアレクシア王女の剣筋を脅威に感じてしまったのか、練習なのに本気になってしまったようです」
「つまり?」
「ゆっくりなのに間合いに入られる事に恐怖してしまったと言った所ですかね?」
あまり要領を得ない答えになってしまったが、俺自身何であそこまで反応してしまったのか分からなかったからこう答えるしかなかった。
「私の剣も少しは近づけたのかしら」
「何と比べているのかは知りませんが、少なくとも自分よりは綺麗な剣だと思いますよ」
「そうねシュウ君の剣は独特よね」
オブラートに包んで独特と表現してきたな。別に気にしないから正直に言ってくれて構わないんだけどな。
「因みにどういう所が卑怯だとか卑劣だとか思いますか?」
俺の方から馬鹿正直に聞くとアレクシア王女はちょっと困った表情をしながら答えた。
「そうね、まず敢えて片手で持ってもう片方の手でも普通に殴ってくる所とか警戒しないといけない要素が多くなってくるのは面倒ね」
「まあ確かに警戒する要素が多いでいくと足技もあるのでそっちも警戒しないといけませんけどね」
「それもあったわね、後は純粋に突きが多いのも厄介ね」
突きが多いのはそれはこの戦法では無く俺の癖だな。本気で戦う場合には槍を使うからどうしても突きが増える。でも剣というのは場合によっては斬るよりも突く方が威力は出る。
何事も力の加わり方では線よりも点の方が効率がいい。つまりそういう事だ。
「因みに足技ってどういう技があるの?」
「足技ですか? えぇとそれはですね――」
そうやって互いの動きの確認からいつの間にか凡人の剣に卑劣の剣を交える事になってしまった。俺としてはアレクシア王女にはもっと純粋な剣が似合うと思うんだけど。
遠くから訓練の様子を見ていたアイリス王女が注いできていた視線が妙に鋭かった気がした。
訓練が終わってアレクシアは一息ついていた時だった。
「アレクシア、ちょっといい?」
「何でしょうかお姉さま」
アイリスが声を掛けてきた。
「先程のシュウ君の反応なのですが」
「先程ってあの私の一撃を強く弾いたアレですか? あれは本人も言っていましてけれど、よく分からないと言っていましたよ?」
それを聞いてアイリスは少し悩んだ様子をしてから話始めた。
「離れた所から見ていた感想なのですが、あれは恐らく条件反射のようなものだったと思います」
「条件反射?」
「つまりシュウ君はあのアレクシアの剣筋を知っているかもしれないという事です」
自分の剣筋を知っている?アレクシアは少し疑問に思ったが自分が真似を、目指している剣を思い少ししてからある仮説に至った。
「ま、まさかシュウ君は」
「そう、
真剣な表情でそう言ったアイリスの言葉に思わずこけそうになったアレクシア。
「……それは以前から分かっていた事ですよ、お姉さま」
「そ、そう?」
はあと大きくため息をついて自分の仮説を胸の奥にしまい込んだアレクシア。
普通は貴族でも十五歳で財団を抱えているのはおかしい事だ。おまけにこの王都だけでなく周囲の国家にも鉄道網や運搬に土木業などで活躍していると聞く。
仮にもしただただシュウが優秀でこういう事に長けているのならば不思議では無い。
しかしあの女神の試練で見せた実力は些か異常だったとアレクシアは思った。
シュウが実は自分が今しがた思った通りの人物だとして、今の所自身の正体を黙っている事以外に何か不都合はあっただろうか。
いや、無かったはずだと。少なくとも自分が進むべき道の助言はしてくれたし、何だかんだでシドも助けてくれていた。
そして姉にも悪くない影響を与えていると思われる。
つまり正体がどうであれ、本人は敵か味方か分からない連中と言っていたが味方になろうとしてくれていると思われるのだ。
「まあそれはそれでムカつくけど」
「えっ?」
「お姉さまは関係ないです、ただシュウ君にムカついただけですから」
思えばあの女神の試練の際に見せた古代の英雄にも勝つ実力を思えば、正体に納得がいく。
予想ではあるがシャドウガーデンは必ず大きな出来事の際に動きを見せてきた。どの様に関わって来るのかは謎だが今回のブシン祭にも関わって来るかも知れないとアレクシアは思った。
ならばその時にシュウの目的や正体が分かればいいと思った。
「ところでお姉さま、仮にもし知り合いがシャドウガーデンの一員だったとしたらどうしますか?」
「そうね、一度しっかりと話し合いたいというのが今の所の考えです」
「話し合ってどうするつもりですか」
「以前聞いたディアボロス教団を滅ぼす為の存在という事に偽りは無いのかとか、悪魔憑きを治してどうしているのかとか色々聞きたい事はありますよ」
アイリスは落ち着いた様子で淡々と聞いてみたりしたい事を言った。
「それが誰であろうとですか?」
アレクシアの言いたい事を理解したのかアイリスは真剣な表情で答える。
「ええ、誰であろうと」
互いに口にはハッキリとしなかったが、目付きの悪い胡乱な騎士団一員である一人の姿が頭の中にあった。
朝から訓練をして終えた後、クラウンの会議室に向かっていた。
これから『十三の夜剣』に対する作戦を二人に伝えないといけないからだ。
あと面と向かって人員を借りれなかった事を謝りたい。
そういう事を考えながら扉を開けると既に二人共揃っていた。
「借りれなかったのは残念だったね」
「それに関してはすまないと思ってる」
そしてウィクトーリアの方に顔を向けると恭しく一礼をして来た。
「お久しぶりですジョーカー様、このウィクトーリア貴方様の剣となる為に戻ってきました。是非とも死んでもお役に立ちますのでご指示を」
「うん、そういうのは別にいいって前から言って無かったか?」
「それでも私はこうしなければならない罪深き存在ですので」
こういう反応をするから面と向かって会いたくなかったんだよなぁ。
「じゃあ早速作戦を話していくけどいいか?」
「勿論」
「大丈夫です」
説明の為に色々と持ってきたものを並べながら説明を始める。
「まず今回はブシン祭という表で目立つイベントを隠れ蓑に『十三の夜剣』の連中を手早く排除するのが目的だ。それも二度と復帰できない様に徹底的に叩きのめす」
二人の方を見ると異論はない様子だった。
「そこで今回はいつも通り誉れとか誇りとかそう言うのは、そこらの犬にでも喰わせて暗殺していく。そこで使用するのはこの毒だ」
そう言って先程出した蜂蜜色の果汁の様なものが入った瓶を持ち上げる。
「それって私が回収したやつ?」
「そう、ゼータが持って帰って来たサンプルを見て使えると思ったから、あの村から文字通り根こそぎ持ってきた」
「成る程、ですからアレクサンドリアで食べてはダメだという果実園が出来上がっていたのですね」
「そういう事」
以前ゼータが見つけて俺に連絡を入れてくれた奴で、ゼータとしては適当な量を回収してから他は燃やすつもりだったらしい。
もったいないのでそれを止めて回収したという訳だ。
意外と即効性の高い毒で数秒で話せなくなり呼吸も出来なくなる。まさに今回の仕事ではうってつけの果実だった訳だ。
集めた情報によると連中が開催するパーティーが近々開催されるのだが、そこでは好きに飲み食いするらしい。そこでこの毒をワインに混入させプレゼントをする予定だ。
ついでにミツゴシの商売敵となっているワイン業者の奴に入れるつもりだ。
この相手が普通の所なら俺も手出しせずに正々堂々とガンマが叩き潰す様を見守るつもりだったが、どうやらここも教団が運営するものみたいなので資金源を潰すついでに壊滅させる。
教団の顔色を伺う影響でその関係グループの食材などで固めている事も把握済みだ。
それぞれの一家も碌でもない所というのも裏取りも済んでいる。後は仕上げに殺すだけでオッケーという所まで持ってきた。
「まあそういう訳だから、蓋を開けてみればこの毒を入れるだけの簡単なお仕事だったという訳」
「成る程。でも問題点があるんじゃないの? こういう事に限って」
鋭い指摘をしてくるゼータ、伊達にこういう仕事を長く一緒にやって来ただけある。しかし今回は今の所問題が無い。
「今の所問題らしい問題は無いぞ」
「へぇ珍しいね」
「珍しいのですか?」
「珍しいよ」
大体こういう事をしていると変なタイミングでハプニングが起きるからな、今回は何事も無く進んでいて気分がいい。
何か重要な事を忘れている気がするけれど、多分直ぐに思い出さないという事は何てことない事なのだろう。
「そういう訳だけど何か質問はあるか?」
「ジョーカーもブシン祭に出るって聞いたけど両立出来るの?」
「別に直ぐに済む話だからな問題ないだろ、それに負けるような相手なんて早々出場してくる訳ないし」
「ではシュウ・ヤークとして出場なさるという事でいいのでしょうか?」
「紅の騎士団から出向要請が来たからな、そのつもりだけど」
二人揃って成る程と言った感じだ。
そう思っていると突然通信機から呼び出しが来た。出てみると相手はイータだった。
『……ジョーカー、何かマスターが……変装用の装備を借りたいって、言ってるみたいなんだけど……貸してもいい?』
「うん? まあ、別にいいけど壊すなよって事だけは伝えといてくれ」
『んー、分かった』
それだけでイータから一方的に切られた。
「変装用の装備ってアイツ何をするつもりなんだ?」
「さぁ? 主の事は私はさっぱり分からないから何も言えないかな」
「私もシャドウ様については余り存じ上げませんので。あっ、でもジョーカー様の事でしたらある程度は分かりますよ」
「別にそんな事聞いてないけどな」
ここまで直接相談とか無いって事は今回シドは俺抜きで何かをするつもりなんだろう。初めて巻き込まれずに済みそうだ。
思わず機嫌がよくなりほおが緩むのが分かる。
「何だか嬉しそう」
「そらそうだ、厄介ごとに巻き込まれずに済みそうだからな」
「そういう事を言ってる時が一番危ないんじゃなかったっけ?」
「ゼータ、そういう事を言うと本当になるから言わないでくれ」
今日は何の心配も無くぐっすりと眠れそうだ。
「じゃあ何か変更点があったら追って連絡するから、二人共忙しくなる前にやりたい事を済ませとけよ。俺は今からそうするから」
俺はそう言って会議室から出て行く。
仕事というか任務が始まると碌に寝れなかったり食事も楽しめないからな、今日はどっかで食べてぐっすり寝る、そうしよう。
そう考えて二人と別れてから暫くするとゼータが隣に着いてきた。
「何処に行くの?」
「ちょっと今日は外食してから直ぐに寝るつもり」
「じゃあ私と食べに行かない?」
「別にいいけど」
流されるようにそのままゼータに案内されて高級レストランみたいな所に連れて行かれた。
更にそのまま個室にまで案内されて座る事になった。
「やけに準備がいいな」
「話し終わって直ぐに予約したからね」
「忙しくなる前にやりたい事済ませって言ったんだけど」
「今こうして二人で食事を楽しむ、これが私のやりたい事」
「……そうか」
そう言われるとそうかとしか言えなくなる。
結局悩んだ末にラワガスで言う事を言っても俺たちの関係はそこまで変わらなかった。強いて言うなら二人共何だか今まで以上にフランクになった気がするという程度で、大した変化は今の所無い。
ミツゴシグループの経営する高級レストランというだけあって出てくるもの全てが美味しい。
今思えば前世を含めてこういう食べ物を食べた経験が無くて、二重の意味で美味しい思いをしているなと思う。
そうしてゼータに注がれるがままにそこそこのワインを楽しみながら、出てくる料理に舌鼓を打ちながら過ごしていった。
そのままほろ酔い気分で終わるつもりが、自分は飲まないくせに永遠とゼータが注いでくるので飲んでいたら限界が来て眠気と気持ち悪さに包まれながらそのまま意識を失った。
ただ最後に記憶しているのは酔っぱらって気を失う寸前に凄くいい笑顔だったゼータの顔だった。
酒で気を失うの何回目なんだ。いい加減学習しろよと自分に突っ込んだが多分次も似たような事をしでかすと思う。
そして泥の中に居るような感覚の中で気持ち悪さを払いのけ意識を強制的に起こす。
ベットから起き上がって周囲を見渡すとそこは見慣れた自分の部屋だった。殺風景で何の面白みも無い部屋。
そしてふと人肌の温度を感じて隣を見ると見覚えしかない白金色のケモ耳が掛け布団から出ていた。
恐る恐るめくってみると何だか何も着てなそうなゼータが居た。
「いやいや、いやいやいや。流石に無いだろ」
記憶は無いが酔った相手にゼータは流石にこういう事をするようなタイプでは無かった筈だ。
いや今までこういう事が無かったから、こういうのに関しては本当は知らないんだけど。
自信はあるけどこの前の出来事で内心の変化があったとか?それでも無いだろう。
でもあったらあったらで反応に困る。
そう一人で考えを巡らしていると隣から吹き出すような笑い声が聞こえてきた。
その瞬間俺は全てを理解した――やられたと。
何が面白いのか潜り込んだままずっと堪える様に笑っているゼータのはみ出ている耳を無言で持つ。
「ちょっと耳はダメだって、悪かったって。ベータからこういうの聞いて一回試してみたかっただけだって!」
まだ若干笑いながら謝って来るゼータの耳を仕方なく離して椅子に座ってまず一言いいたい事を言う。
「この手の悪戯はマジで辞めてくれ、心臓に悪い」
まさかこの年齢かつ異世界で朝チュンとやらを味合わされるとは思ってもみなかった。
冷静になって見てみれば俺の服装は一切変わっていなかったので、恐らくまず俺が違和感を覚えた隣を確認すると信じたうえでの悪戯だったのだろうと思う。
それに起き上がったゼータはスライムスーツを着ていた。ただし少しめくっただけならば勘違いを起こしそうな場所までしか纏っていなかったが、本当に無駄に器用な奴だ。一体誰に似たんだか。
「で? これが済ませて置きたかった事か?」
「悪かったって、この間七陰の皆と話して折角だからちょっと試してみたかったんだよね」
「一気に心労が増えたわ」
機嫌がよさそうなゼータとは対照的に俺はげっそりとしていた。
「じゃあ私は他の済ましたい用事があるからこれで」
そう言いながらゼータは出口に向かって行ったが。
「あれ? 主? どうしてここに?」
「それはこっちの台詞何だけど、どうしてゼータがここに? しかも朝から?」
何だか面倒臭そうな事が起きそうだから急いでドアの下に行く。
「何か勘違いをしそうだから言っておくけど、何も無かったからな!」
「そういう事をいう方がそれっぽいよシュウ」
冷静にシドに真っ当な事を言われた。解せぬ。
そしてそのままゼータを見送ってシドを中に招き入れる。
「何かあるから来たんだろ? 要件は?」
「それを言う前に先にこれ」
そういうシドは俺に何か資料、誰かのプロフィールを渡してくる。
「何これ?」
「何ってシュウがこの人に変装して、僕と一緒にブシン祭に出る。その為の資料だよ」
「は?」
早くも様々な計画が崩れる音が聞こえてきた。
今回もここまで読んで下さりありがとうございます。
そしてお気に入り登録などありがとうございます!
今回からブシン祭などがある所が始まります。
ただのブシン祭で済まないのがシュウの人生、いい事も悪い事も纏めて来る。
それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。