陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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 夏風邪をひいたり色々立て込んだりして書けないでいたら、前の投稿から一カ月以上経っていました。すみません。
 読む方も書く方も体調には気を付けてください。
 それでは本編をどうぞ。


第二十八話 陰の立役者の仕事は増える

 

 

 

 軽い頭痛と眩暈がしたので頭を抑えながら、目の前に居るふざけた存在に目をやる。

 何回聞いても現実は変わらないと理解しつつももう一度確認する。

 

「で、何で俺がお前と一緒に、それもわざわざ変装までしてブシン祭に出ないとダメなんだ? 先に言うけどシュウとして既に出るという事は決まってるんだ。一人二役とかやってられんわ」

「まあまあ、そう言わないで取り合えず聞いてよ」

 

 軽くため息をついてから席にシドに座る様に促して、俺はそのまま来客用のお茶の準備をする。滅多に入れない紅茶を入れながら視線は座っているシドにやる。

 

「ハッキリと言っておくけど、中途半端な理由とか納得いかない理由だったらそのまま直ぐに叩きだすからな」

「酷くない? まあ仕方ないか。理由なんだけど僕は今回のブシン祭で『謎の実力者が大会に登場!』で『オイオイオイ死ぬわアイツ』からの『いや、何かアイツ強いぞ!?』最後に『アイツは一体何者なんだ!』ってのをやりたいんだよね」

「そうか、頑張れよ」

 

 そう言いながら入れてやった紅茶を出してやる。

 

「ありがとう」

 

 シドはそう言いながら紅茶を飲む、しかしその表情は微妙そうな表情だった。

 多分比較対象がイプシロンが入れてくれる紅茶だからだろう。俺自身紅茶は基本飲まないから入れるのも上手くないしそもそもいい紅茶の茶葉も持っていない。

 

「今話したのはお前が大会に出たい理由だろ? 俺が居なくてもよくないか?」

「少し前まで僕一人でやるつもりだったからこういう理由なんだけど、この間シュウと一緒にやったらもっと楽しくなるんじゃないかなって思って」

 

 その言葉を聞いて俺はシドの後ろの襟元を掴んでそのまま持ち上げる。

 楽しくなりそうという理由だけで振り回される身にもなってみろってんだ。このまま投げ出してやろうか。

 恐らく今の俺の額には青筋が浮かんでいる気がする。下瞼も痙攣して動いているし傍から見てもキレかけているのは分かる筈だけど、シドは何とも思っていない表情で続ける。

 

「でも、ふと思ったんだ。シュウぐらいしか最後に僕の前に立ちはだかれる人は居ないって」

「お前の実力を引き出せるに足る人物が、って事か?」

「そうそう」

「そうか? 少なくとも俺は一回もお前に勝ったことは無いけど」

「姿を隠したら本気で戦ってくれるでしょ? 元々僕たちは初めて会った時以来、一度も本気で戦った事無いじゃないか」

 

 その言葉に少し思う所があって掴んでいた手を離してシドを解放する。

 今までシドとは戦った事は何度もあったがそれは全て訓練とか摸擬戦とかその範疇であって、一度もそれも殺す気とかで戦ったことは無い。

 

「本気って……俺が本気を出すときは相手を殺す時だけだからな。俺がお前相手に本気になる事は無いぞ、何を期待していたのか知らんが」

「僕は何時でもどんな理由でもシュウが本気でかかってきてもいいけどね。気が向いたら僕の案に乗ってよ」

 

 そう言い残して紅茶を一気に飲み干したシドは、俺が後ろの襟を掴んだ影響で乱れた服装を整えてからじゃあと一言残して部屋から立ち去って行った。

 一人残された俺は言葉として言い表せない複雑な気持ちを抱えながら、元々今日やるつもりだった事をする為に準備をしていく。

 事前にシャドウガーデンの諜報部隊に協力してもらって調査し作成した資料を鞄に詰め込んで、シドにとって俺はどういう存在なのだろうとそう考えながら部屋を出て行く。

 行く先は紅の騎士団の本部だ。

 

 

 

 場所は紅の騎士団の本部の一室。

 そこにはアイリス王女とアレクシア王女と俺というメンバーと数人の団員。

 因みにグレンさんとマルコさんとクレアさんはまた別室で違うメンバーをひっ捕らえている。人数自体はあっちの方が多いがこちらに連れてきた団員はちょっと手強い。

 蛇の様な目と不健康そうな青白い肌で不気味な印象を受ける長身の男ハブを中心した、推定元フェンリルの部下達を集めた。

 

「アイリス王女様、先程も申し上げましたがその資料は事実無根の虚偽です。そこの男が我々を陥れる為に用意した捏造された証拠です」

 

 朝の一件で虫の居所が悪かったというのもあったので、嫌がらせをする事にした。

 

「……三十四歳男性元鉄道会社駅員、黒ずくめの男達に脅迫されアレクシア王女誘拐事件の際に偽の証言をしたと供述、家族を人質に取られて仕方が無かったと涙ながらに顛末を告白。二十八歳女性騎士団員事務担当、事件の数日前から誘拐され偽の記事の作成を強要されたと言っていました。これは学園襲撃の時の物らしいですね。表には出なかったそうですが事前にテロリストをシャドウガーデンに仕立て上げるつもりだったみたいですね」

 

 集めた資料を淡々と読み上げて集めた教団員に圧をかけて行く。

 

「待って下さいアイリス王女様、私もシュウ・ヤークが裏でディアボロス教団の存在を捏造している証拠を――」

――結構です。貴方達の戯言は聞き飽きました

「ざ、戯言」

 

 燃えるような赤い瞳に怒気を含ませながらアイリス王女はハッキリとハブの言おうとしていた事を止めた。

 

「私が何時までも交渉事などに弱いと思わないで頂きたい。ディアボロス教団は実在しシャドウガーデンと対立しており、貴方達教団員は魔人の復活、更にはこのまま世界を支配し続ける算段なのも分かっています」

「我々はただこの国の未来を思い行動しているのです。シャドウガーデンこそが諸悪の根源、ミドガル王国の敵なのです」

 

 ハブのその言葉を聞いたアイリス王女は何故か俺の方に目をやって来る。

 もしかして度重なるボロで疑われてんのかなぁ。だとしたらそろそろ手を打った方がいいのか?

 

「私もまだシャドウガーデンを信じている訳ではありませんが、少なくとも指導者の一人はこの国に対して敵意を抱いているようには見えませんでした」

「それは奴らが油断を――」

「手を組むなら教団よりよっぽどいい」

 

 その言葉を聞いたハブは下を俯いたまま動かなくなった。

 漸く諦めたかなと思ったが、集めた奴らから魔力が高まっているのを感知したので違う意味で諦めたのかと気が付いた。

 次の瞬間ハブの後ろに控えていた男が剣を瞬間的に抜刀してアイリス王女に斬りかかったので、剣がアイリス王女の下に到達する前に剣を蹴り上げて天井に突き刺す。

 

「――なっ!」

 

 斬りかかった男が反応されるとは思っていなかったのか驚いて硬直していた。まあもし俺が止めなくてもアイリス王女なら難なく対処していたと思うけど。

 俺はそれを冷めた目で見守りながらアイリス王女に問いかける。

 

「どうしますか? もう言い逃れ出来ない程敵意を表していますが」

「そうですね、ここで終わりにしましょう」

 

 アイリス王女からのゴーサインが出たので俺もアレクシア王女もアイリス王女も抜刀して目の前の敵を見据える。

 

「ハブ、ここは我々が引き受けますので貴方は撤退し態勢を整えて下さい」

「分かりました、任せますよ」

 

 そういう会話をして何だか逃げようとしていたので普通に斬りかかる。

 

「ぐあっ」

 

 一番逃がしたら厄介そうなハブを狙ったが他の奴らが身を挺して庇って来たので届かない。

 後で言い訳を考えるのが面倒だけど少しだけ本気で殺しに行こう。そう思い先程斬った奴を掴んでそのままハブに投げつける。

 

「何っ!」

 

 驚いて少し止まっているハブは後に回して近くに居た奴の首を撫でるように斬り落とし、吹き出した血を少し魔力を通して剣に纏わせて、そのまま横に振り他の奴らの目もとに飛ばす。

 後を任せたかったので合図も兼ねてと後ろを伺うと明らかにアレクシア王女の方はドン引きしていたが、意図をくみ取ったのか好機と判断して血の目つぶしを喰らった連中を斬り伏せて行く。

 周りの連中を王女達に任せて俺は這う這うの体で逃げて行くハブを追いかける。

 足がもつれていたのか全く進めていないハブに追いつくのは2秒も掛からなかった。観念したのか振り返ったハブは俺を見るなり叫びだした。

 

「クソッ、貴様さえ居なければ! 貴様さえ居なければッ!」

 

 自棄になったのか逃げる事も口調を丁寧にするのも辞め、剣を抜いて突っ込んできた。

 冷静さを欠いて乱れた剣筋を難なく避け、後ろに回りそのまま心臓を突き刺し殺す。

 

「がふっ」

 

 ストレス発散も兼ねて剣を抜くのに足蹴にしながら抜くと、地に伏したハブは血を吹きながら手を伸ばしていたがやがて力なく手が下がりその後動かなくなった

 

「はぁ、やっと終わったか」

 

 随分とあっけない幕切れに内心イラつきながら剣を収めて。周囲を警戒する。

 見渡して居ると廊下のずっと先に一人明らかに怪しい人物が居た。その人物は何か口を動かしたと思ったらそのまま立ち去って行った。

 頭の中で口の動きを思い返して何を言っていたのか探り、文章を構築した。

 

「誰なのか知らないけど『図書室で待っている』だと? 随分と余裕があるみたいだな」

 

 何の目的なのか分からないが行くしかなさそうだった。

 そしてその後クレアさん達とも合流し、始末したやつの顔を見て残っていたフェンリル派と照合していく。

 『暗黒微笑』に『闇蜘蛛』とエトセトラエトセトラ、聞いていた限りだと『細柳』が居ないな。

 まさかこれだけ大々的にやって取り逃すとは思わなかった。

 

「お疲れさまでした、これで漸く紅の騎士団は王国での立ち位置も盤石になったでしょう。後は民衆からの支持があれば完璧です」

 

 逃がした奴が何処に居るのか考えている中、アイリス王女は今回の件を上に報告し紅の騎士団の地位向上に努める算段らしい。

 上の方に行ってもらえるとこっちも動きやすくなるからありがたい。

 その後それぞれ報告などを済ませた別れた後、直ぐにゼータに連絡する。

 辺りはもう薄暗くなっており夜になりつつあった。

 

「ゼータ。聞こえるか? 『細柳』を取り逃した」

『取り逃した? 本当に?』

「ああ、始末したネズミ共の中に居なかった」

『成る程、何か変わった事は無かった?』

「変わった事か」

 

 そう言われて思い出すのは、廊下の先の人物。

 明らかに怪しい風貌で尚且つ俺に対して呼び出し。それも声を上げずに口の動きを読み解く様に、いや口の動きだけで読み解けると知った上でやっていたように思える。

 

「気になった事があった。確認の為に学園の図書室に今から行ってくる」

『私も行った方がいい?』

「いや、一人で何とかなる。それよりも紅の騎士団で俺の正体がバレかかってそうだから、実際にそうなのか確認しておいて欲しい」

『了解』

「悪いな仕事を増やして」

『別にいいよ、ジョーカーに頼られるのはいい事だから』

「そうか、ありがとう」

 

 情けないが自分で探りを入れたり確認するのは怪しまれるし難しいので任せる方が効率がいい。もうすぐ十三の夜剣を排除する行動も進めないといけないのに、どうしてこうやる事がどんどんと増えるのだろうか。

 もはやそういう呪いの類か何かというのを疑いながら道を進み、暫くして学園の図書室に到着した。

 学園の図書室、夏休みという事もあると思うが既に日が落ちて余程のことが無い限り学生は残っていないだろう時間。そういう事もあり誰一人いない図書室に入る。

 外側から気配を探ったけど中には誰も居なかった。

 だけど、これ見よがしに魔力の痕跡が図書室の奥の扉に続いていた。まるでこの先で待っていると言わんばかりに。

 

「挑発かそれとも挑戦か……どっちにしろ面倒事の雰囲気しか感じないな」

 

 これはもうシュウ・ヤーク=ジョーカーと知っている奴の動きだろうと判断し、スライムを展開してシャドウガーデンの恰好になり扉まで進んで行き、ドアノブに手をかけ捻るが鍵は開いていない様でガチャガチャと鍵のかかった音が鳴り響くだけだった。

 

 ……いや、開いてないんかい。

 

 仕方が無いのでスライムを鍵穴に入れて鍵を開けた。

 扉の先は古い本棚があり雰囲気から察するにこれ自体がアーティファクトの様だった。

 直接触れて調べてみると合言葉で開く扉の役割をしているものだと分かったけど、合言葉なんて知らないのでそのまま強引にハックし扉を開けた。

 開いた先は明らかに世に出回っていない本が保管されており、ここが噂に聞いていた禁書庫なんだなと理解するのにそう時間は掛からなかった。まあ……そんな事よりも……

 

「それで貴方が呼んでいた、という事で間違いないですか? 司書長」

「ええ間違いありませんよ、シャドウガーデンのジョーカー。それともシュウ・ヤーク君とお呼びした方がよろしかったですか?」

「どちらでもいいですよ」

 

 細長い顔に落ち窪んだ目、そして枯れ枝の様な印象を受ける司書長がそこに居た。いや司書長というよりも『細柳』の方が正しいのか。

 この禁書庫には魔力を阻害する仕組みでもあったのか、図書室の外側からでは人が居るのが分からなかった。

 

「それで? 態々この逃げ場のない場所で待ち構えてどうしたんですか? これならお仲間と一緒に最期の抵抗に参加した方が勝機はあったのでは?」

「彼らとは既に目的も目標も違います。私があの作戦に参加する意味は無かったもので」

「へぇ」

 

 そう言って司書長は後ろに回していた手を前にする。それぞれの手には大振りの鉈が握られており決して友好的な話をする雰囲気ではなさそうだった。

 

「武器を出したという事はそういう事で?」

「ええ、お願いします」

 

 お願いしますとういう言葉に違和感を感じたものの、とてもご老体とは思えないほどの速度で接近しその鉈を流れるような動きで使いこなし斬りつけてきた。

 そのまま脳死で反撃して殺してもよかったけど、どうにも行動に違和感があり喉に小骨が引っ掛かったような気分の悪さを解消したい気持ちが起こる。

 まず昼間の行動、仲間を殺されるのを見逃しここに来るように誘う。これは別に罠を張っておけばおかしくは無い行動だ。でも実際にここに来て分かったけど罠の類は一切無く、まるで正々堂々と一騎打ちをしたかったように感じる程。

 そして不意打ちとか何もせずただ倒そうと攻め続ける。これもおかしくないが、何だか若干今まで相手にして来た敵と違いいまいち覇気に欠ける。

 

 だがそんな疑問も、いい加減終わらせようと剣を展開し鉈を叩き落とした時の司書長の表情を見て合点がいった。

 全てを諦めたかのような表情に一瞬見えたがこれは救いを待っている表情だ。諸事情により一度似た様な表情を見た事がある。

 だから胸ぐらを掴んで壁に投げつけるだけで剣で斬りつけるような事はしなかった。

 

「な、何故止めを刺さないのですか」

「悪いですけど俺は酷い奴なんですよ。生き延びようと必死な敵は殺して、逆に殺して欲しそうな敵は殺さない様にしていましてね」

「成る程、気が付かれた……という事ですか」

 

 司書長は観念したのか項垂れながらもあちらから聞かずとも訳を話し始めた。

 

「私は昔騎士団に所属していました。不正を暴き悪人を捕える当たり前の事ですが昔の騎士団ではまだ出来ていた事なんです。ですが――」

「教団の釣り針に掛かったんですね」

「ええ、若く愚直だった私は愚かにも聖教の司祭が不正を行っていると信じ協会に乗り込みました。しかしそれは仕込まれた罠で目障りな正義の味方を気取る者を狩る為に用意されたフェンリルの策だった」

 

 そして司書長は袖をまくり上げその古傷を見せてきた。

 

「私の剣はこの時に折られてしまった。それからはフェンリルの補佐をしながら教団の非人道的な計画に手を貸していた。しかしゼノンの計画が頓挫したとき私は思った、遂に裁かれる時が来たのだと。だがフェンリルは最奥地まで貴方の妨害をする事を禁じ我々はただ黙って従い潜んでいた」

「だけどフェンリルは死んだ」

「そう、貴方の手により打ち倒された。そこからは私は自ら命を立とうと何度も試みたが出来なかった」

「それで俺に殺されようとしたのですか」

 

 成る程ね。大体経緯は分かった。

 

「後悔をしているのですか? 教団に属しその悪行を自ら行った事を」

「そうですね、今更妻にあの世で再会できるとは思っていませんがせめて罰を受けるべきだと思っています」

 

 その言葉を聞いた俺は立ち上がり叩き落とした司書長の鉈を持ってきて、それを目の前で砕く。

 今の光景を目を見開いて凝視していた司書長の前に破片を投げ捨てる。

 

「これでディアボロス教団の『細柳』は死んだ、今の貴方はただのミドガル魔剣士学園の司書長だ。この事実を知るものはそう居ない」

「ま、待ってくれ! 何故殺さない! 私は教団員の者だ、シャドウガーデンなら殺すのが基本だろう!?」

 

 言わずとも分かると思ったけれどそうでも無かったらしい。

 

「後悔しているなら生きて罪を償ってもらう。少なくとも俺は死んで罪を償えるとは思っていない、本当に後悔しているのならば生きて殺した人以上の人を救え。少なくとも昔の貴方は確かに正義の道を進んでいたんですよね?」

「しかし……」

「俺に罰を求めたのが間違いだったと思って生きて下さい。少なくとも学園で教える立場なら今までの経験を活かして次の世代を育てれますよね。それで世界を少しでもよくしていきませんか、貴方の心のあり方的にはまだ間に合うと思いますよ」

「分かりました。だけどもし……もし私が再び悪の道に走った場合は……」

「その時は全力で殺してあげますよ」

 

 そう言って俺はその場を後にした。

 立場的には不味かったかも知れないけれど、多分あの落ち窪んだ尚濁った瞳の奥に宿っていた輝きを見るにあの人は問題なさそうだ。

 

 その日の晩ゼータからの報告が来た。

 どうやら俺の正体は何だかんだで疑われているらしく、報告の際のゼータの呆れ混じりの冷めた目付きがどうにもトラウマになりそうだった。そして――

 

「それでどうして『細柳』を生かしたの? 監視もしないといけないし仕事が増えただけに見えるけど」

「短期的に見れば確かに負担が増えるけれど、ずっと後になればこの判断は正しかったと思える筈だ」

「ウィクトーリアみたいに?」

「ま、そんな感じだな。使える人は使っていこうの精神で」

 

 結局の所司書長には償いの機会をただ与えただけじゃない。何だかんだでこっちの役にも立ってもらう前提でこういう方針にした。

 人生経験の差というものは存在する。俺やシドにシャドウガーデンの皆は基本的に若い。それ故に思いつかない案や策もあるだろうし、目の付け所も変わってくる。

 そういう訳なので今後はシャドウガーデンの下請けとして共にこの世界をよくしていこうという訳だ。

 

「ジョーカーは基本優しい事が多いけど、それは表面上の事も多いよね」

「この世界でやっていくには優しさだけじゃ足りないからな、こういう考えも持っておかないと」

「確かにね、いつかこういう事をしないでいい世界にしないと。そういう事だから、じゃあ」

 

 そう言ってゼータはまた違う任務に戻っていった。

 一人残された俺は報告の事を考えていた。

 流石に自分の不注意からきた失態なので何とか自分で処理しないと。そう思っていたけどその日の晩はいいアイデアが思いつかなかった。

 そして次の日つまりブシン祭前日、紅の騎士団で最後の訓練を行っていた。

 今日はアイリス王女が相手をして下さるらしい。何でも打ち合ってみたいとか何とか。

 そして周りにギャラリーというか他の人達が動きを止めて俺たちの戦いを見ていた。

 

 始めに仕掛けて来たのはアイリス王女だった。

 全身に魔力による身体強化をしてまるで弾丸の様な速度で突っ込んできてその勢いを上乗せした攻撃を放ってくる。

 それを間一髪と言った感じに避け追撃を避けるため左右にステップを踏みながら回避して、アイリス王女が攻撃の為に構えて瞬間に剣による突きを放ち流れを乱す。

 

「成る程、シュウ君の戦い方が何となく分かりました」

「大衆向けでは無いですよね、自分でも思いますが」

「そうですね、でも私は嫌いでは無いですよ」

 

 ちょっと意外な事を言われたので驚いたがその隙にアイリス王女はまた攻撃をして来た。

 王都ブシン流には無かったはずの緩急をつけた読みにくい攻撃を混ぜてきたが、正直言ってこの程度反応できるが何だか正体がバレかかってるというのを考えると、間一髪でも避け続けるのは不自然かと思い、滅多にしない剣で受けるというのをやっていく。

 滅多にしない動き、それが刺激になったのかどうなのか分からないけれど疑いを晴らす方法が思いついてしまった。

 その後はアイリス王女に華を持たせる為に負けておいて、明日に備える為という事で解散となった。

 その足でミツゴシの方に向かいガンマを尋ねる。

 

「悪いガンマ、緊急で調べて欲しい事が」

「何なりと」

「ブシン祭開催中にミドガルから捜索を出しても間に合わない距離に、腕のそこそこ立つ人物に心当たりは無いか」

「名簿を用意致しますので少々お時間を下さい」

「助かる」

 

 そう言ってガンマが立ち去って数分後、幾つかの人物名簿を持って来た。

 

「存命されている人物限定という認識でよろしかったでしょうか」

「流石はガンマだな、そこまで汲み取ってくれていたか」

 

 そう今回化けるにあたって最後はジョーカーとして姿を晒すから、死んでる人だと要らぬ誤解を与えかねないので生きている人に変装する。そして仮に疑われても調べるのに時間が掛かる様に備えておく。これで完璧なはず。

 それで名簿を見て行くと変装しやすそうな人物を見つけた。

 

「よし、この『ノルドー・オノガスキー』にするか。黒い甲冑で全身を覆っているからその時点でやりやすい」

「北方の傭兵ですね、今は馬で半月ほどの町で宴会をしているそうです」

 

 通信網を構築したおかげでこういう連絡が直ぐに出来るようになったのは非常によかった。

 

「差し支えなければどういった理由でこのような事を為されるのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「え? ああ、いや。ちょっと色々ミスったからその後始末の為ってところかな」

「……あっ成る程、そういう事ですね。一部仕方が無かった面もあったのではと私としては思いますが」

「いや、基本的に俺の不注意である事に変わり無いから、これ以上は自分一人で何とかするさ」

 

 ちょっと言っただけでガンマは何故こんな事をするのかを理解したらしい。流石はシャドウガーデンの頭脳担当。

 結局のところシドの誘いに乗る形になったのが癪だけど、こればっかりは仕方が無い。だけど今までとは違うのはシドに使われるのではなく、俺がシドの案を利用するだけなのだ。

 これは個人的には大きな違いだと思っている。後は一応シドのアホにも言っておくか。

 

 

 

「という訳でお前の案に乗ってやる事にした」

「うん、何だか穏やかじゃない雰囲気だけど分かった」

 

 直ぐにシドの所に伝えた。

 用意してあったものを見た感じ随分と質素な装備で揃えられていた。この感じだと弱そうな感じの路線で本当に行くつもりなんだな。

 つまり本気を出すつもりの無いシドに公式戦で黒星を付けられる可能性があるって事か?俺は最後に姿を晒すつもりだからあんまり加減をしないつもりだから、上手くいけば可能性がある気がして来た。

 何だか急にブシン祭が楽しみになって来たな。

 

「何だかやる気に溢れているね」

「ああ、お前を一泡吹かせれる気がしてな」

「へぇ~出来るの?」

 

 煽る様にシドはそう言って来た。

 

「舐めプ野郎には負けねぇよ」

 

 よし決めた。このブシン祭での目標はシドをボコす事にしよう。

 それが出来たらもう満足だ。




 今回もここまで読んで頂きありがとうございます。
 そしてお気に入り登録に評価などもありがとうございます!

 次回から本格的に色々と始まると思います。
 そしてまた暫く投稿期間が開いてしまいそうです。諸々落ち着くのが十月の上旬なので中旬以降にまた投稿できると思います。

 それでは次回も楽しみにして頂けると幸いです。
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