陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
「あれ? ジョーカー? 何をそんな目の前で全てを台無しにされたみたいな表情をしてるの?」
その通りだからだよバカ!
「あ! もしかしてさっきの男の人ジョーカーが先に戦っていた感じ? いやぁ横取りしちゃって悪いね」
「いや、そうだけどそうじゃないというか……もう、いいや」
俺は諦めた。これ以上邪魔されないためにシドには先に帰ってもらおう。
「クレアさんは七陰のみんなに頼んでおいたから、多分大丈夫なはずだ」
「あ、そうなんだ」
「俺はまだここに用事があるから残るから先に帰っといてくれ」
「用事? ふーん、まぁいいや今日は満足したし。先に帰るね」
じゃあねーと言いながらシドは俺の後ろの男を一瞬見ていたが、機嫌よく帰っていった。姉の所に寄る素振りも無く。
……コイツ実の姉の事なのに何でこんなに興味なさげなんだ? 今に始まった事じゃないけど。
「……流石に気づいてたっぽいな。アイツの目はかいくぐれないか」
俺はここにきてから
「すまない。苦しいだろうがアンタも相当な悪事をしてきたんだろう? これはその罪と思って受け入れてくれ」
「ゴフッ! ……わざわざこの様に生かしてまで……聞きたい事は何だ」
血を吐きながら男は返事をする。
俺はシドに両断された男から話を聞くために少しだけ治療をしていた。
だいたいいつもは台無しにされる事が多いが今回は奇跡的に何とか間に合ったようだ。
「そうですね、まず貴方程の方が何故ディアボロス教団なんかに加担してしまったのか。オルバ子爵。よければ話を聞かせて頂けませんか?」
上で戦った時は薄暗くてよく分からなかったけど、よく見たらこの人、近衛にも居た上ブシン祭にも出場していた相当強かったオルバ子爵だった。
昔父上に王都に連れて行って貰った時にブシン祭で見たことがある。
「……私には娘が居る。この世で最も愛している娘だ、だがある時娘が悪魔憑きになってしまった。……私は娘を治すために治療法を探した」
なるほど、オルバ子爵も悪魔憑きになってしまった娘の為に行動した人だったのか。
大抵の家族や付近の住民は悪魔憑きになってしまった者を蔑み、協会に売り飛ばしたりするものなのに、この人は根は優しい人だったのだろう。
……何でそう言った優しい人程不幸な目に合うのだろう。ゼータの両親の時も同じだ。
俺はいつも間に合わない。オルバ子爵ももっと俺たちが探していたらこの様な出会いでは無かったのかもしれない。
自然と拳に力が入る。
「私が探した末に出会ったのがディアボロス教団だ。彼らは娘を治す対価として私に悪魔憑きの疑いのある子供達を攫うように命じてきた。……娘の為だ従うしかなかった」
「そうですか、そういう事だったのですね」
奴らは弱みに付け込み闇に引きずり込む。こうしてオルバ子爵も道を間違えてしまったのだろう。
また一つディアボロス教団を滅ぼす理由が増えたな。
「……とても言いにくいのですがオルバ子爵。貴方に言わなくてはならない事があります」
「何だ」
「悪魔憑きは治せます。上で出会った七人を覚えていますか? 彼女らは元々は全員悪魔憑きだったのです」
俺の言葉を聞いたオルバ子爵は驚きと絶望と怒りを混ぜ合わせた様な表情をしている。
「ま、まさか。それは本当なのか⁉ それでは私が行ってきた行いは……何だったのだ! 彼女たちを攫っていた意味は何だったのだ!」
瀕死の状態なのにオルバ子爵は声を荒げる。せっかくスライムを使って血がこれ以上流出しないようにしているのにちょっと漏れてきた。……どうやら延命処置に限界が近づいている様だ。
まだ話を聞きたいから死に急がないで欲しい。
「俺たちは悪魔憑きを治す事が出来る。そしていつの日か必ず教団の息の根を止める。だから知っている事を話して下さいませんか?」
「そうか……だからあの少年は闇に何処までも潜ると、そう言う事だったのか」
「おい、一人で納得してないで質問に答えてくれ。もう時間が無いんだ」
思わず言葉を選ばずに急かしてしまう。だって時間が無いから。呼吸も浅くなってきたし、まだ何も情報を聞けてないし。
焦る俺の心境を知らずにオルバ子爵は口を開く。
「……これを」
「これは短剣?」
オルバ子爵は懐から一本の青い宝石の入った短剣を俺に渡してきた。
何か重要な情報が隠されているのか?
「これを……娘の……ミリアに。娘を……頼む」
「娘さん? 一体どこで治療を?」
「それは分からない。治療をすると言って連れていかれた。……散々悪事を働いてきた身で自分勝手なのは分かるが、娘も助けてくれないか……頼む」
情報をくれるのかと思ったら娘の忘れ形見を渡して、娘さんの事を助けて欲しいと言われた。
情報じゃないんかい。
……まぁいいけど。今まで散々な目にあって来ただろうし、最後くらいは希望を持って死んでもらう。
「任せて下さい。必ず助けて見せます」
「あぁ……頼む」
そう言ってオルバ子爵は息絶えた。
その死に顔は少しだけ穏やかな表情だった。
後でちゃんと埋葬しておいてあげよう。――彼も教団の被害者だったのだ。
こうして今回のクレアさん誘拐事件は幕を閉じたのだった。
クレアさんは誘拐された日の一週間後には王都のミドガル魔剣士学園に旅立って行った。
タフな人だ。腕の怪我も次の日にはほとんど治っていたし。
そして俺はシドより先に朝早く、アルファ達から先のアジトで得た情報の報告を受けていた。
色々な情報があったけど簡単に要点だけまとめると。
まず、昔に魔人ディアボロスと戦った英雄は全員女性だった。だからディアボロスの呪いもとい悪魔憑きは女性にしか発現しない。
次に悪魔憑きが発症しやすいのはエルフが一番で次に獣人そして最後に人間だという。
これには出生率と寿命が関係しているという。血の薄まり方が違うからだと。
……凄いな俺と違ってちゃんとみんな情報を集めてこれている。俺なんか知れたのはただオルバ子爵も被害者だった事だけで、さらに娘の事を託されただけだったのに。
やっぱりみんな優秀過ぎない?
そして七陰のみんなは、他のディアボロス教団に適合者とか言われて捕まったりしている悪魔憑きの救出の為世界に散らばる必要があるという。
正直かなり危険な道のりだろう。
この三年間みんなと共に生活をして来て、全員がかけがえのない存在になってしまった。
だから教団と全面的に戦う前に言っておかなくてはならないことがある。
「……みんなに言わなくてはならない事がある。これから教団との全面対決をしなくてはならないその前に」
みんな真剣な表情で話を聞いてくれている。
「今ならまだ普通の生活に戻れる。まだ真の闇には触れていない今なら。命を落としたり、一生もの怪我をする前に」
最初は二人で始めたごっこ遊びが三人になった時に組織となり、その組織に自分たちで誘っておいて今更偽善者ぶっているのはどうかと自分でも思う。
組織を作った時にはアルファも居たけど、シドのホラ話を補強してしまったのは俺だ。
この罪は重いだろう。
だから嫌われてでも彼女たちが肉体的にも精神的にも傷付く前に、手を引いてもらって平和に生きる道を選んで欲しいと思っている。
シドは未だに彼女たちの事を遊びに付き合ってくれているノリのいい友人程度にしか思っていない。
その事を知る前に、俺やシドがボロを出す前に、何より怪我とかをする前に今まで教えた知識で平和に暮らして欲しいというのが本音だ。
……でも多分みんな何だかんだで付いて来てしまうのだろう。
そんな事を考えていたらアルファが一人前に出てきた。……あれ? 何か凄い怒ってる?
次の瞬間俺はアルファに頬をビンタされた。魔力も込められたいい一撃だ。……めっちゃ痛い。
「ふざけないで」
痛みと頭への衝撃と何故ビンタされたか分からなくて、固まってる俺にアルファは怒気の籠った声でそう言ってきた。
「確かに私たちは貴方達よりまだ頼りないでしょうけど、それでも命を懸けて使命を果たす。そうあの時に誓ったでしょ? それをまだ触れていない真実があるだとか命を落として欲しくないとか危険だとかそんな理由で……私たちを何だと思っているの? そんなに頼りないかしら私たちは。答えてジョーカー」
思っていたよりアルファ達は覚悟が決まっていたようだ。
格好つかないから余り言いたくないけど、この覚悟には本当に思っている事を言うべきだろう。
「……正直に言うとみんなにはずっと助けられてきたし、これからも協力してくれると助かると思っている。それにみんなの事は俺より優秀だと思う事も多々ある」
「じゃあどうして?」
「ただみんなを失うのが怖い。――それだけだ。教団が強大な組織である事は分かっただろう。だからここで手を引いてもいいんだ。いや、そうして欲しい」
そう結局は自分の親しい人が傷ついて欲しくないという独りよがりな理由なのだ。
前世の時から変わっていない甘い考えだとは自分でも思っている。
今でこそ何とか誤魔化しているけど、俺は元々何処にでも居る普通の感性を持っていた学生なのだ。
俺はシドとは違う。初めにアルファを巻き込んでしまったあの日からずっと後悔している。
「そう、それが貴方の考えなのね」
アルファはそう言って黙った。アルファの後ろの他のメンバーに目をやる。
ベータは言われた事がショックだったのか涙目になっていた。
ガンマは自分の力不足を感じたのか悔しそうな表情を浮かべていた。
デルタはよく分かっていないようでただ困惑している様子だ。
イプシロンもショックだったのか下唇噛んで悔しそうにしている。
ゼータは物凄い表情で睨んできている。……めっちゃ怖い。
イータもいつもの眠たそうな表情ではなく不満そうな顔だ。
「悪いけど私たちは貴方達に何を言われても降りるつもりも逃げ出したりする気も無いわ」
後ろのメンバーも頷いている。本当に同じ意見な様だ。
「そうか、これからはより危険が待っているぞ」
「ええ、分かっているわ」
「……助けられない事も多くなる」
「いつまでも貴方達に守られるだけの私たちでは無いわ」
「……そうか」
「納得していないようね、
「確かめる?」
一体何を確かめるつもりだと思っていたが、アルファに突然剣で斬られかけた事で全て分かった。
「そうか、そういうつもりか。ならば手加減はしない」
「そう、ありがとう。それじゃあ私たちも
「えっ」
ちょっと待って欲しい。全員で? アルファは今そう言ったよな?
動揺していた俺に突撃をしてくるデルタ。……今掠りかけただけでちょっと怪我したんだけど。
とても味方に放っていい威力じゃない。
デルタの突撃が始まりの合図だったのか本当に全員でかかってきた。
「なるほど、ならばこちらも本気でやらせてもらおう――
俺は久しぶりに全力の戦闘態勢に入り、向かってくる七陰全員と戦い始めた。
この勝負負ける訳にはいかない――。
――夕方、俺たちはシドの家の屋根の上に集まっていた。
アルファ達は朝俺に報告した内容をシドにも同様に伝えていた。
因みにみんなボロボロの状態だ。勿論俺もそうだ。
もっとも俺は戦いが終わった後に卑怯だとか何だとか言われて囲んで皆にタコ殴りにされた時にボロボロにされたけど。
つまりさっきの戦闘の結果は俺の勝ちだった。
組織のNo.2としてそうそう簡単に負ける訳にはいかないからな。
「シャドウ、私たちは貴方達の元を離れる時が来たわ」
「――え?」
凄く間抜けな表情のシドを見ながら俺はアルファ達の話を聞く。
俺はみんなが世界各地で活動を続ける事を了承したのだ。もう彼女たちは十分に強いそう分かったから。でも本当にヤバい状況になったら直ぐに呼ぶように伝えておいた。それが条件だ。
どうやら話が終わった様でアルファ達が名残惜しそうに立ち去っていく。
……でも一定期間は誰か一人居てくれるらしいしそこまで名残惜しくは無いと思うんだけど。
そんな事を考えていたらシドがこっちに来た。
「ねぇシュウ。みんなを止めなくて本当によかったの?」
珍しいな。コイツが人の事を気にするなんて。
「大丈夫だよ。ちゃんと事前に話し合ったし、みんなの覚悟も聞いた。流石にこれ以上止めると彼女たちを侮辱するようなものだ」
「ふーん、話し合った結果、そのビンタされた後とかボロボロになってるの?」
「え? ああ、これは……まぁそうだな。そんな感じだ」
シドは今の説明で納得したのか何処か遠くを見つめている。
「でも、残念だね」
「何が?」
「彼女たちも結局は夢から覚めてしまったようだからね。元の僕たち二人に戻ったね」
……マジかコイツ。あのアルファ達の説明を聞いて尚、教団の事を信じていないのか。
流石にあれだけの情報があったら今度こそ信じると思っていたのに。
もういいか。もうシドはそういう奴として諦めるしかなさそうだ。
「そうだな」
だから俺も適当に返事をしておく。
「そうだ、シドに言っておかないといけない事がある」
「ん? 何?」
「俺も暫く舞台を整える時間が欲しい」
「え? シュウも? それは困るな」
何でだよ。シドが納得しやすいようにわざわざ舞台を整えるって言い方したのに、何で俺の時は渋るんだよ。
「あれだよ、お前の陰の実力者ごっこには資金が必要だからな、ちょっと王都の方でシャドウガーデンのフロント企業みたいな財団を作ろうと思ってるんだ」
「ふむ」
「時々帰ってくるからさ。それに先にお前のロールプレイに合う主人公みたいな人物も探したいし」
「なるほど、陰の実力者は普段は忍ばなければならない、だから優秀な相棒が裏で派手に稼ぐと」
本当はガンマの補助とイータへの仕送りの為に資金源が欲しいってだけなんだけど。
納得してくれるならもうそう言う認識でいいや。
「ああ、うん。もうそれでいいよ。そういう認識で。それで俺も行っていいんだよな?」
「500万ゼニー」
「は? 500万ゼニー ? 何の事だ」
「だーかーら、毎月500万ゼニーを僕に送る事が条件ね」
「ぶっ飛ばすぞテメェ」
コイツ本当にムカつくなぁ!
「おい、表に出ろ。今日こそお前に勝ってやる」
「ふっ、いいよ。でも僕に負けたら毎月500万ゼニーの仕送り決定だからね」
「上等じゃねえか。やってやるよ」
今回もここまで読んで頂き本当にありがとうございます!
今の所奇跡的に毎日投稿出来ていますが、たまたま出来ているだけですのでそのうち投稿速度が落ちてくると思います。
次回も楽しみにして頂けると幸いです。