陰の立役者と呼ばれて 作:一般構成員
「……はぁ、どうしよう」
俺は曇天の空を見上げながら、王都の街中で一人呟く。
先日俺はシドとの一騎打ちでものの見事に敗北し、シドの元を離れて準備期間を貰う事の条件に月500万ゼニーという前世では平均年収ぐらいの金額を条件に出されたのだ。月収じゃない年収だ。マジでおかしい。
……元々アイツの為の準備期間なのに何で条件出されてるんだ? どう考えてもおかしい。
そして現在は既に月の始めから一週間は経っている状況だ。つまり俺はあと三週間程で500万ゼニーを集めなくてはならない。……無理では?
「まともな手段じゃあ期間内に集められないな」
まともじゃない手段と言えばならず者から盗品を回収して売る、盗品商擬きをやるとか?
いや、月に一回は送らないといけないから短期的ならいいかもしれないが、長期的に考えると難しい。
それにあのバカと同じ手段でお金を集めるというのは腹が立つ。よって却下だ。
うーん、ダメだ全くいいアイデアが思いつかん。一人で考えていてもしょうがないな。
「とりあえずガンマの所に行ってみるか」
俺は最近商会に取り次いでいると聞いているガンマの所を訪ねる事にした。
事お金に関してはガンマに聞くのが一番だと思っている。
シドからあやふやな経済の知識を聞いてそれを正解まで導ける頭脳を持っているガンマだ、何か助言の一つでも貰えるでしょう。
(確か名前はルーナ商会だったか?)
そんな事を考えながら歩いていく。
「ここか」
王都にある呉服屋か服飾企業かよく分からないが、とにかくノスタルジックな雰囲気のある店の前に来ていた。
魔力探知を応用しガンマの気配を探ると何やら取り込み中の様だ。
「邪魔しちゃ悪いから適当な所で待つか」
数時間後ガンマが店から出てきたところに話しかける。
「上手く言ってそうだなガンマ。進捗はどうだ?」
「ジ、ジョーカー様⁉ どうしてこちらに……。え、えぇ。進捗はそうですね概ね予定通りに進んでいます」
「そうか、少し知恵を貸して欲しいのだが、今時間はあるか?」
「ジョーカー様が私に? 分かりました。時間であればいくらでもお作りします」
「悪いな忙しい時に来て。流石に外で話す内容では無いから適当な店に入るか、個室のある所に」
「悪いなんてそんな、私は気にしていません」
俺はガンマを連れて適当な店に入る。
適当に飲み物などを頼み軽く飲食しながら話始める。
「それでお話とは一体……?」
「ああ、情けない話だがシャドウに今月から月500万ゼニー稼いできてくれと言われてな」
「500万ゼニー⁉ 一体そんな大金何にお使いになられるのでしょう?」
「さ、さぁ? シャドウにはシャドウのか、考えがあるんだろう」
流石に陰の実力者ごっこの為の資金だとは言えない。言ったら最後シャドウガーデンは内部崩壊しそうだ。
「それで長期的にも必要だからガンマの様に商会とかを立ち上げるかと思ってな」
「なるほど、それで私に……ですが、その……」
何故か妙に歯切れの悪いガンマ。
「ん? どうした? 何かあるなら言ってくれ」
「でしたら、既に簡単に取り入れる様な商会は残っていなかったかと」
「……なるほど」
これは思ったよりも時間のかかる仕事になりそうだな。
「で、ですが! これらの情報を集めたのはアルファ様やベータにゼータが集めたものなので、本人たちに聞けば、何かまだ分かるかもしれません」
「ありがとう助かったよガンマ、商会の件頑張ってくれ」
「いえ、余りお役に立てずに申し訳ございません」
「そんな事は無いって、凄く助かった。ありがとう」
そう言いながら俺は立ち上がり先に二人分のお代を支払って先に帰る。
後ろでガンマが慌てて居た様な気がするが……まあいいだろう。
一度拠点である廃村にアルファに会う為に帰ってきた。
そしたら廃村の広場でデルタが日向ぼっこをしていた。
「デルタ、アルファはここに居るか?」
「むん? あ、サブボス。おはようなのです」
「ああ、おはよう。で、アルファはここに居るのか?」
「アルファ様なら居たと思うのです」
「そうかありがとう、日向ぼっこの邪魔をして悪かったな」
そう言いながら一番よく使う小屋を目指す。
……暢気な奴だな。話終えたら直ぐにウトウトしていたからほっといたら寝るだろうな。
あの雰囲気でシャドウガーデンでも随一の戦闘力を持っているのだ。人は見かけによらないよな。
とりあえず小屋に入ってアルファを探す。
「おーい、アルファ。居るか?」
声をかけると奥からアルファが出てきた。
「何? 貴方が訪ねてくるなんて緊急事態か何かでもあった?」
「いや、個人的に助けて欲しい案件があってなそれで」
「そう、どんな案件なの?」
そうアルファは椅子に座って話を聞く態勢に入ってくれる。
俺も対面の椅子に座って話始める。
「シャドウに今月から月500万ゼニー稼いで来いって言われてな」
「……500万ゼニー?」
「……ああ」
「本当に?」
「…………ああ」
「大変そうね」
「そんなレベルじゃない」
「そうね」
アルファも大変さを分かってくれたようだ。
……何だか若干笑っている気がするが、まぁ気のせいだろう。
「さっきガンマと同じ様な路線でやっていこうと思って聞きに行ったんだけど、もうそういう事に使えそうな商会に心当たりは無いって言われてな。それでここに来た訳」
「なるほど、でも私もどちらかと言うとガンマと一緒に行動したり指示を出すことの方が多かったから、情報の整理はベータに任せていたわ」
「つまり次はベータを訪ねろと?」
「そういう事になるわね」
見事にたらい回しにされてないか? 俺。
「……はぁ。ベータは王都の方に居るのか?」
「そうね、今は出版社に掛け合っているはずだから。今ベータが使っているセーフハウスはここよ」
そう言ってアルファは地図を渡してくれる。ありがたい。
俺はアルファから貰った地図を頼りに再び王都へ戻る事に。
今ベータが滞在していると聞いたセーフハウスの前まで来た。
もう面倒だから窓から入ってもいいが、そういう事をすると皆怒ってくるんだよな。……自分たちはやって来るのに。
特にベータやイプシロンは怒ってくるからな、ちゃんと事前に決められた合図のノックをする。
少し待つと扉が開けられた。
「ジョーカー様? 何かご用が……いえ、先に中へどうぞ」
急かすように中へ入れてくれるベータ。
シドいやシャドウの事をよく見ているからなのか、こういう裏の組織がよくやりそうな言動は一番ベータが上手い気がする。
いや、上手いって表現は失礼だな。シドと違い彼女たちも本当に教団と戦う為に準備をしているからな。それを俳優を褒めるような言い方をするのはよくないだろう。
「それでジョーカー様、何かご要件があるのでしょうか?」
「ガンマの計画の際に調べた時の情報を知りたくてな」
「候補にあがった商会の情報ですか?」
「そう、それだ」
「探しますので少しお待ちください」
そう言いながらベータは離れて探しに行った。
その間暇なのでベータが執筆中のものをこっそり確認してみる。
えーっと、『シンデレーラ』? 物凄く既視感のあるタイトルだ。
これってあれか昔シドがうなされてたベータに聞かせてた話のやつか。よくここまで覚えてるな。
ベータの記憶力と文章化の技術はやはり凄いな。でも今の所元ネタそのままっぽいから、いつかオリジナルのものを読んでみたいな。
そう思いうんうんと頷いていると。
「ジョーカー様? 勝手に読まないでください! まだ完成していないのですから!」
しまった。いつの間にか戻ってきていたベータに怒られてしまった。
「悪かったよ、それでこれがその時の資料?」
「はい、ですが……これを何の為にお使いになられるのですか?」
「あー、シャドウに今月から月500万ゼニー稼いで来てくれと頼まれてな」
「なるほど、シャドウ様から直々に……500万ゼニー?」
「そう、今月から月500万ゼニー」
「えーっと……」
流石のベータもシドからの無茶ぶりに微妙な表情だ。
そりゃそうだ。もう少し準備期間があるならまだしも、今月からこれだ。
「だ、大丈夫ですよ。ジョーカー様なら何とか出来ますよ」
「どうだか」
そう言いながらベータから貰った資料に目を通すが、ほとんどの場所がダメそうだ。
これを見るとルーナ商会が奇跡的に残っていたという印象を受ける。
「どうでしょうか? やはり余りいい所は残っていないですよね」
「そうだな。これならもう一度自分の足で探した方がいいか?」
「それならゼータに手伝って貰ってはいかがでしょうか? この情報を集めた時も手伝ってもらいましたし」
「ゼータか。でも何処に行ってるか知らないから探すのが面倒なんだよな」
「うぅ、確かにそうですね。すみません、お役に立てず」
「いや、気にしなくていいよ。この資料のおかげで回る場所が減ったしな、助かった。小説の件頑張ってくれ、応援してる」
「はい、ありがとうございます」
ベータとの挨拶もそこそこにセーフハウスを出る。そのまま適当な所を回ってから大通りに戻る。
「次はゼータを探さないといけないのか……」
最初にガンマから教えてもらった情報的にはこの件に関わったのは残っているのはゼータだけなんだが、ゼータはよく任務で遠くに行っている事が多い。
つまり探すのは大変だという事だ。
「ゼータを探すのは面倒なんだよなぁ」
そんな事を呟きながら大通りを歩いていると、
「一体誰を探すのが面倒って?」
左を見ると悪戯が成功して嬉しそうなゼータが居た。
「……街中で歩いてるときに急に手を握ってくるな。心臓に悪い」
「うん悪かった、でもこれくらいはしたっていいはず」
「は? 何で? 俺何かしたか?」
「別に。でも分からないならそれでいい」
「はぁ、そうか」
少し不満げだが何でこういう表情をするのかよく分からない。
でもまさか向こうからこっちに来てくれるとは思っていなかった。探す手間が省けたな。
本気でゼータを探すとなると一週間ぐらい普通にかかるからな。
そのまま手を握られたまま、道行く大勢の人達の視界や視線から外れたタイミングで、一気に音も無く合間を縫うように路地裏に移動した。
ゼータと行動している時ぐらいしか出来ない移動だ。
「そっちから来てくれたという事は事情は知っているという事でいいんだな?」
「うん、アルファから聞いた」
「アルファが先に手を回してくれていたのか」
「連絡がきた。それで……これ」
そう言ってゼータはようやく手を離して数枚の紙束を渡してくる。……思ったより少ないな。
「これってベータの所に無かった分の情報か?」
「そう」
「そうか」
「うん」
そんな会話をしながら情報に目を通していたのだが……。
何か『サンザイ財団』とか『キンケツ財閥』とかがおススメって書いてあるんだけど。
これ大丈夫か?名前的に明らかに資金が無さそうなんだが。
「なぁ、このおススメって書いてある『サンザイ財団』とか『キンケツ財閥』に資金は残っているのか?」
「いや、全然」
「じゃあ何でおススメって書いてあるんだよ」
「乗っ取るだけかなって思った」
「違うわ、アルファから聞いていたんじゃないのか?」
「うん、主からジョーカーが月500万ゼニーのノルマを課せられたって聞いた」
「知ってるじゃん」
「うん、知ってる。でも当時集めた情報で本当に直ぐに乗っ取れるのはそこぐらい」
「そういう事ね」
「そういう事。だから今からもう一度丁度よさそうな所を探しに行かない?」
「……結局こうなるのか」
結局俺たちは乗っ取り改修するのに丁度いい商会か財団か何かを探すことに。
……何故か嬉しそうなゼータを連れて薄暗くなってきた王都の街中を移動し始めた。
何件か周ったが目ぼしい場所は無かった。暇になって来たのでゼータの近況を聞くことに。
「そう言えばゼータは今これ以外で何の任務に就いてるんだ?」
「これ以外だと、シャドウガーデンの新しい拠点になる場所を探してる」
「新しい場所? そう言えばアルファの所を訪ねた時、ちょっと人が多いと思っていたけどそういう事か」
「そう、人数が増えてきたから溢れる前に探しておくという感じ」
「なるほどな」
そこで俺は個人的にゼータに気になった事いや、聞いておきたい事を聞くこ事に。
「そういえばゼータ」
「なにジョーカー?」
「最近うちに居る弟に会いに来てるか?」
「……最後に会ったのは二週間前ぐらいかな」
「もう少し会いに来てもいいぞ? その方があの子も喜ぶだろうし。唯一残った家族なんだから」
実はゼータの弟はヤーク家で養子として匿っている。
初めはゼータと一緒にシャドウガーデンの拠点の廃村に連れて行ったんだが色々大変だった。
デルタが俺とゼータとゼータの弟を見た瞬間
とか言い出すからもう面倒な事になった。その時はデルタにその辺に転がっていた肉を瞬時に口に突っ込んで他にいらない事を言わせないように黙らせたけど。
後から来たシドも似たようなことを言い出したから顔面に一発入れておいた。
シャドウガーデンのみんなは聞き訳がいいから一回の説明で分かって、積極的に協力してくれた。
でも流石にシャドウガーデンでは子育ては出来なかったので俺の家で拾い子として育てる事にした。
その時に俺の友人で同じ猫の獣人が居て困った時はこの子に聞いてくれ、という事で両親にもゼータの事は紹介したから好きなタイミングで会っていいって言ってるんだが。
「いや、余り頻繁に会うとあの子にも危険が迫るかもしれない。だから余り会わない」
「……そうか。でもたまには会ってあげてくれ、寂しそうだ」
「……考えとく」
ゼータはこういう態度を一貫している。一応俺の家までは来て姿は見ているみたいだが。
一応ゼータと弟君の間には血の繋がりは無いという事で話は進めている、俺の両親も気づいていないはず。
だけど弟君は何やらゼータの事を見ると嬉しそうに手を伸ばしていた。
……何となくあの年でも血の繋がりを感じているのだろうか。
そもそも俺がもっと早く駆けつければこうはならなかったのだろうか。シドなら間に合ってたのか? アイツなら被害を出さずに何食わぬ顔で解決してそうだ。
お互いの間に微妙な空気が流れ始めた頃。目的地に到着した。
「ここが『クラウン財団』か」
鉱山事業に農業事業など生産系事業を営んでいる財団だ。
例えその内上層部がすり替わっても特に問題ないだろう。
だがそれよりもここは教団との繋がりが少しある所なのだ。情報源としても利用させて貰おう。
「まだ力が残っている所だったから候補には入れていなかったけど」
「どの道ガンマだけにこういう事を任せるのは申し訳なかったし、頑張って乗っ取りますか」
「本当にやるの? ジョーカー?」
「時間はかかるけど必要な事だからな」
「何か手伝える事ってある?」
「話してる時は邪魔されたくないから見張っていて欲しいけど、余裕があるなら別に他の事しててもいいぞ」
「分かった、じゃあジョーカーの事を見とくね」
「何でそうなるんだ」
そう俺とゼータは話しながら事務所と思われる所に二人で突撃していった。別にカチコミに行く訳じゃ無いけど。
これは持論だけど交渉事において何より優先すべき事は場を支配する事だ。
これによって相手の出方を限定したりする事が出来、結果こちらが有利な状態に持って行けたりする。
でもこれは口が達者で、頭もいい奴じゃないと出来ないやり方だ。
つまりこういう事に慣れていない上に、そこまで頭もいいとは言えない俺では取れない手段となる。
ガンマはその辺り上手い事やってるみたいだけど、俺には真似できない。
ならばどうするか。
今回は単純な心理戦に見せかけた洗脳の様な催眠の様なそんな事をする。
俺の魔力制御を極限まで活用する事により、疑似的に心理状態を支配するのだ。
どの様な事をするのかと言うと、相手に気づかれない様に熱を与えて発汗させ、少し身体を震えさせたり、胃や大腸を緩くしてお腹を痛くさせたり、心臓の鼓動を早めたりなど。
因みに先ほどの動作は脳を自分は焦っているとか、恐怖しているとか、緊張しているといった感じに錯覚させる為の物だ。
この動作で脳を錯覚させている時に悪く捉えて欲しい情報を話す。
そしてそれを繰り返しその言葉を聞いただけで、自然と悪い感情が働く様になるまでやる。
脳とか神経に干渉するのは出来ないから、身体の方に干渉する。
神経の方に干渉出来たなら、交感神経と副交感神経を利用してわざわざ部位を指定して色々頑張ってリアルタイムで干渉しながら、会話というか交渉をしなくて済んだけど。
正直、現代医学で分かっていない分野に下手に干渉して失敗するのはヤバい。
そんな事をして廃人製造人間になるつもりは無い。
理論としては魔力で身体を強化できるという事は、魔力で肉体に干渉できるという事、後はそれを自分では無く他人に出来るようになればこの手法は取れるのだ。多分。
でも実際に出来るし間違ってはいないと思うんだよな。
逆にいい感情を持って欲しい話をする時は先ほどとは違い、深く呼吸をさせたり、心臓の動きを少し遅くしたり、要はリラックス状態に持っていくのだ。
つまり緊張状態の時に教団の話をして、リラックス状態の時に自分の話をする。
流石に相手のオッサン共にシャドウガーデンの話は出来ないから、俺はシュウ・ヤークとしてこの場に来ている。
交渉が終わって引き継ぐ前に何か偽名とか何やらを考えないとな。
そうやってクラウン財団の乗っ取りを始めて二週間経った。
そうして漸く俺は資金源というか金蔓というかを手に入れたのだ。やったね。
めっちゃ疲れたわ。ここ二週間の間ずっと通い続けていたからな。
話している間はずっと魔力操作に集中しながら、頭を何とか捻って交渉をしていくのはキツかった。
二度とこんな作業したくないわ。というか交渉事は他のメンバーに押し付けたい。
皆誤解してるようだけど俺はそこまで出来る人間じゃないからな、頼ってくれるのはいいけど、得意不得意はある訳で、最終的に何故か綺麗に物事を片づけるシドと似た様な扱いは普通の人間には重いと感じる訳でね。
馬鹿正直にそういう事を皆に言えたらどれだけ楽な事か。
あとよく考えたら一週間しかないのか、どう考えても間に合わないから今月だけは盗賊狩りをするか。
この事をアルファ達にも報告しとかないとな。
そんな事を考えていたら隣を歩いていたゼータが思い出したかのように言って来た。
「そうだ。私シャドウガーデンの新しい拠点を探してるんだった。ジョーカーの事手伝ってたから全然進んでないな」
「……何が言いたいんだ」
どう考えても埋め合わせをしろという事だろう。
「手伝うのはいいから今度一緒に出かけない? 皆には秘密で」
「それで済むならいいよ」
「じゃあ、約束だからね」
そう言ってゼータは先に何処かへ行ってしまった。
「まあ、出かけるくらいならいいか」
俺はそう言いながら拠点に帰っていった。
そしてそのまま報告をアルファとたまたま拠点に帰ってきていたガンマにした。
最初は普通に大変そうだなみたいな表情をしていたけど、最後の方には二人共何だか憐れむような視線で見てきていた。
俺は目から汗が出そうになった。
ついでにガンマにこうやって魔力で相手の心理状態を頑張って操作すると、交渉が楽になるぜ的な事を言ったら真似できないってバッサリ言われた。
全部報告が終わった後にアルファから暫く休む様に言われて、ガンマからも長い休みを取った方がいいと言われた。
二人の優しさが身に染みる。でも俺はアホの為に不足分の金額を稼がないといけないのだ。
そんな悲しい事があって数週間が経った。約束の支払いの日だ。
夕方、俺はシドと橋の上で会っていた。今日は快晴だ。河に映る夕日が美しい。
「何か凄い疲れた表情をしているけど、大丈夫なのシュウ?」
「ああ、何も問題ない」
「そ、そうならいいんだけど」
「はい、これ」
俺はシドに500万ゼニー分の金貨がぎっちり詰まった袋を差し出す。
「ええ! これ本当に500万ゼニーあるの⁉」
「ある」
「いやー、凄いねシュウ! やれば出来るじゃん!」
シドの目は¥マークになっている。そしてそのままシドは袋を持つが、俺は手を離さない。
「あれ? どうしたのシュウ? 何で手を頑なに離さないの?」
「……お前はこの一ヶ月の間何をしていた?」
「えっ? 僕? 僕は陰の実力者として鍛錬をしつつモブを極めていたよ」
「なるほど、なるほど。つまりお前は何もしていないと?」
「えーっと、シュウに比べるとそうかもねー。あはは、は。――もしかして怒ってる?」
「そうだなかなりキレてる」
「うーん、ごめん!」
シドのその謝罪擬きを聞いた途端、俺の中で何かがキレた。
俺はその場で思いっきり袋を引っ張る。当然シドもそれなりの力で持っている為、袋の方が持たなかった。
破れる袋、中から出てくる金貨達。
そしてそのまま重力に従って落ちていく金貨達。
俺はそれを躊躇いなく夕日に向かって蹴り飛ばした。
夕日に照らされて美しく輝く金貨達。そしてそのまま河に降り注いでいく。美しい光景だ。
おまけにシドが見たこともない表情で驚いている。うむ、スッキリした。
俺は河に飛び込んで金貨を必死に集めるアホを横目に帰っていく。
後日シドに呼び出された。向かうと土下座して謝ってきた。
何の用か聞いてみると、友人に月500万ゼニーを稼いできてと言うのは流石におかしかったと反省したと頭を下げるシド。
ようやく分かったようだ。自分がおかしかったと気づいたみたいだ。
俺はシドにも人の心が残っていたと感動した。
そしてシドは次からは月50万ゼニーでいいよと言ってきた。
今回もここまで読んで頂き本当にありがとうございます!
この作品にも評価を付けて下さった方がいらっしゃいました。本当にありがとうございます!凄くモチベーションの維持に繋がります!
これからも頑張って続けていきたいと思いますので応援してくださるとありがたいです。
次回も楽しみにして頂けると幸いです。