陰の立役者と呼ばれて   作:一般構成員

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第八話 陰の立役者は本格的に活動する準備をしたい

 

 

 

 シドが騎士団に捕まって連行されてしまった。多分何をされても大丈夫だろうけど、もしかしたら学園に在籍するモブAのシド・カゲノーはここで終わってしまうかもしれない。そうなるとアイツの陰の実力者としての活動に影響が出る。

 つまり俺の今までの苦労も水の泡となるわけだ。

 

 取り合えず落ち着いて情報を集めるか……いや、この機会だベータに報告を先にして人員を集めてもらおう。コソコソと嫌がらせを続けていたがそろそろ教団と全面対決といこうじゃないか。

 どうせこの一件教団が絡んでるに違いないしな。まだ証拠は無いけど。

 そうと決まれば即行動した方がいい。

 

「ちょっと二人共、俺は用事が出来たからこのまま帰るわ」

「えっ⁉ もしかしてシュウお前騎士団に盾付く気か⁉ やめとけよ」

「そうですよ。いくらシュウ君でも勝ち目はありませんよ」

「どうかな、人間案外頑張れば何とかなる事もある」

 

 そう言う訳でと言って学園から立ち去っていく。

 後ろでヒョロとジャガの二人が何か言ってたがどうでもいい。

 都合がよさそうだからってうちのボスになめた真似をしてくれたツケを払ってもらおう。教団とか関係なくそこはキッチリとさせてもらう。

 だが本格的に調査するのは後にしてまずはベータと合流する。シャドウガーデンのメンバーを集めてもらう必要があるからな。そう言う訳で今彼女が使用しているセーフハウスに向かう。

 

 ベータが使ってるセーフハウスの近くに来た。いちいち人目を撒いて行儀よくノックして入る時間も惜しい。だから今回は窓からダイナミックエントリーさせてもらおう。

 路地に入り遠隔で窓を先に開けて、音も無く瞬間的に部屋に入る。

 するとベータの情けない叫び声と共に分厚い本が飛んできた。声に驚いて避け損ねて顔面で受ける事になった。……本って鈍器だったんだな。

 

 

 

前にも言いましたよね⁉ 急に入って来ないで下さいって!

 

 俺は正座させられてベータに説教をされていた。おかしい俺の方が立場は上のはずなのに。

 最近は七陰の皆がアルファやゼータとイータみたいに俺に対して遠慮が無くなってきた。……あれ? よく考えたら元々半数近くが遠慮なかったわ。

 昔は余り立場とか気にしてなかったけど、今はかなりシャドウガーデンのメンバーも増えたから、上に立つ者としてそれ相応のものを求められる訳だ。

 心当たりは無い事も無いけど、それにしてもこんな情けない組織のNo.2って見たことあるか? 俺は無いな。

 今回も一応反論はさせてもらおう。時間は余り使えないけどこの不平等条約みたいな決まりを取っ払おう。その方が今後の連絡で時短が出来るはずだ。

 

「言ってたな。でも皆はやってくるじゃん」

「私たちはいいんです」

「俺は?」

「ダメです」

 

 即答でダメだって言われた。しかも当たり前だと言わんばかりの顔で。

 

「おかしくない?」

「おかしくないです」

「今までだって理由とか聞いてないし納得する訳ないだろ」

「そういえばそうでしたね、いいですかジョーカー様。簡単な話ですが女の子には知られたくない秘密がいっぱいあるんですよ」

「それだけ?」

「それだけで十分ですよ。ではもう一度言っておきますね。何の合図も無しに、急に入って来ないで下さい。――分かりましたか?」

 

 割とマジのトーンで言ってくるベータ。でもそれだけの理由でいちいち面倒な手順を踏んでセーフハウスに入るのは時間の無駄だ。俺なら誰に見つかる事も無く出入りするとか造作もないのに。

 

「分かった。……でも理解と納得はべつ――痛ッ。やめろペンで突いてくるな」

 

 最後の抵抗を試みたらペンで太ももを刺してきた。一応俺は組織の副リーダー何だけど。

 おかしい何故ベータにというか立場が下の者にここまでいいようにされているんだ。その内にナンバーズの皆までこんな対応してくるのか? 今から既に怖くなってきた。

 

「もう一度言った方がいいですか? デルタに言う時と同じ様に

「……いや、いい」

 

 流石にデルタと同じ扱いは嫌すぎる。大人しく引き下がろう。

 

「んんッ! そう言えば何か用事があるから来たんですよね?」

 

 そう言えばやっと本題に入れるのか、説教されてたから時間がかかってしまった。

 

「そう、言わなきゃいけない事があってな」

「シャドウ様の事ですよね」

「情報が速いな、もう聞いてたのか」

 

 流石はベータだ。情報が何よりも重要だと分かってるみたいだな。

 

「ええ聞いていますよ…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 そう言いながら持っていたペンを握りつぶすベータ。よっぽど悔しいのか羨ましいのかもう涙目になっている。

 ……ヤバい、その事じゃないってめっちゃ言いにくい。

 

「ニューから既に報告を受けています。何でも告白の練習に付き合ったそうですね、ジョーカー様?」

「あれは向こうから勝手に来ただけであって――」

私だって、私だってシャドウ様とデートとか食べ物の分け合いとか腕を組んで歩いたりとかしたかったのに……それなのにあの女ッ!

「聞いちゃいねぇな」

 

 随分とアレクシア王女にヘイトが向いている様だ。妙に今日は説教が理不尽だと思ったら、これが原因だったか。間が悪かったな。でも今は俺にヘイトが向いていないからまだマシだな。

 

「大体ジョーカー様も悪いんですよッ!」

「えっ何で」

 

 急にこっちにヘイトが向いてきた。えっ怖ッ。

 

「シャドウ様が戯れとしてあの様な事をしていたのでしょうけど、私達のシャドウ様に対する気持ちを知ってるなら止めるのが上に立つ者の責任というやつじゃないですか」

「いや、それは絶対に違う」

 

 なんだこのそう言う時だけ上の立場としての責任を求めてくるのは。卑怯じゃないか?

 

「違わないです。それに何ですか報告にあったアレ⁉ まるで犬みたいな扱いだったそうじゃないですか」

「ああ、流石に俺も引いたわ」

「引いてる暇があったなら止めて下さい!」

「無茶言うな」

 

 今日のベータは随分と荒れている様子だ。ここに来たのが間違いだったかも知れない。これなら調査を先にした方がよかったか?

 

「はぁ、どうせジョーカー様はシャドウ様が戯れに興じた事情は聞いていたのでしょうけど……」

「いや、何も聞いていないぞ」

「えっ」

「えっ?」

 

 聞いたのは告白して振られたいというとても話せない事情しかないからな、もう何も聞いていないという事でいいだろう。

 

「ほ、本当にな、何も聞いていないのですか?」

「聞いてない聞いてない」

 

 俺が聞いていないという事を伝えるとベータは唸りながら考え始めた。

 

「ジョーカー様にも何も伝えていないという事は何かもっと重要な理由があったはず……」

 

 ごめんベータ。あのアホは特に何も考えていないだろうから唸っても何も分からないだろうし変わらないぞ。

 

「あったに違いないはず……なのに……全く分からない…………うぅ分からない」

 

 何か本格的に泣き始めた。可哀想に思えてきたな、憧れの好きな人が金で犬扱いされてるとか。

 

「そういえばニューからは途中でジョーカー様は見るのを辞めて立ち去って行きましたと報告を受けたのですが……何故途中で辞めたんですか?」

 

 ……ニューよそんな余計な事まで報告しなくてよかったんだぞ。

 

「いや、普通に自分達のボスがあんな事してたら見たくなくなるだろ」

「ニューは最後まで見ていたそうですよ?」

「えっ? ニュー最後まで見てたの? アレを?」

「任務ですから」

「よくやるわ」

 

 本当によくやるわ。自分の組織のボスが人扱いされていない光景とか。普通は見るのをやめるか止めに入るかすると思うんだけど。

 

「まぁジョーカー様は途中で放棄されたようですけどね」

「何かさっきからトゲのある言い方が多くないか? 一応俺の方が立場が上のはずだけど? 他の七陰の皆も最近俺に対してどんどん遠慮が無くなってきてないか?」

「そう思うのでしたら最近の所業を思い返して下さい。まずシャドウ様とアレクシア王女の交際を止めなかった事、イータと共謀して非人道的な行為で資金の無駄使いをした事、シャドウ様とあの女の交際を止めなかった事、デルタの下剋上を受けて王都周辺を荒らしまくった事、シャドウ様があの女に告白するのを止めなかった事、イータと光の速さで移動する実験とか言って王都近郊の森林地帯を更地にした事とか色々ですよ」

「今言ったやつの半分はただの私怨じゃねぇか」

「取り敢えずジョーカー様が悪いんですよ」

「酷くない?」

「そんな事は無いです。もういいですか? この件は余り思い返したくないのですが」

「初めからシャドウの交際の件で来た訳じゃないんだけど」

 

 やっと本題に入れる。凄い時間が掛かったわ。

 

「えっ、では何の件で来たのですか?」

「まずアレクシア王女が何者かに誘拐されて、そしてシドがアレクシア王女の誘拐犯の容疑者として騎士団に捕まった」

「シャドウ様が騎士団に捕まったと――えっ!? 捕まったんですか!?」

「ああ、目の前で連れてかれた」

「何でその様な重要な事を先に言わないんですか⁉ 余計な時間を使ってしまったじゃないですか」

「殆どベータのせいだけどな」

 

 急に真面目になりだすベータ。さっきまでの緩い空気感ではなく、真面目なシャドウガーデンの第二席としての顔になった。

 

「取り合えず何が起こってその様な事態になったのか調べないといけませんね」

 

 そう言いながら調査をする為か外に出る準備を始めるベータ。

 こうなると皆俺に対して今までと同じ様に上の者として接してくれる。どういう切り替え何だろうか。

 

「待ってくれベータ、調べるのは俺がやるよ。代わりに直ぐに動ける七陰とシャドウガーデンのメンバーを集めておいてくれ。元々はこれを頼みにここに来たんだ」

「何故その様な事を?」

「まだ確定はしていないけど、この一件には教団が関わってると思われる、まだ憶測の域を出てないけどな」

「なるほど、でしたら何か作戦があるのですね」

「ある、今までは裏でコソコソ破壊工作や保護を重点的にやっていたけど、そろそろ派手に動き始めようか」

「あぁ遂にこの時が来たのですね」

「もう十分に我々シャドウガーデンは力を付けた。これからは攻勢に転じるとしよう」

 

 まだ確定はしていないが現時点で推測出来る情報は揃っている。後はそれが合ってるか確かめるだけだ。

 

「メンバーを集めるのは頼むぞベータ。俺はその間に騎士団と教団の関わりを調べて、シドの奴を仮釈放でも何でも釈放させておく」

 

そう言いながら俺は窓から少し身を乗り出して部屋から出る準備をする。

 

「メンバーが集まったら連絡してくれ」

「分かりました、ではジョーカー様もお気をつけて」

「誰に言ってんだ、大丈夫に決まってるだろ」

 

 俺はそう言いながら飛び出す。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ベータの説教が長引いたから夜になったという訳ではないが、潜入するなら単純にスライムスーツで活動する方が動きやすい。

 ならば戦術的優位性(タクティカルアドバンテージ)を求めて夜とか暗くなったタイミングがいい。

 

 因みに昼間はアリバイを作る為シュウ・ヤークとして普通に聞き込みをしたり、アレクシア王女が誘拐された当日のシドの足取りを追ってみたり、必要な物の回収をしていた。

 最近シド達が使っていた電車の乗組員とかにもオハナシを聞いてきたのだが。

 どうやらシドがアレクシア王女と最後に会った日は、普通に二人は電車で分かれていたみたいだ。話を聞かせてもらった駅員が言うには何やら口論の末にアレクシア王女が先に電車を降りたそうだ。そしてそのまま街に入っていったそうだ。

 そしてそのままシドは電車を利用して寮に寄り道すること無く帰ってる。

 何故か顔を青くしながら教えてくれた。

 別に聞くときに足を踏みながら聞いただけなのにな。

 

 聞いた内容で分かったが……騎士団たちよ、これで最後に接触したのがシドってのは無理があるだろ。

 二人は途中で分かれてるし、アレクシア王女は道で多くの人とすれ違っていてもおかしくないし。

 普通に言えばアリバイを証明出来そうだな。これなら簡単にアリバイが作れる。

 だが手は抜かない。キッチリ証拠を揃えよう。

 

 そういえば昼間にシドの姉のクレアさんが騎士団に殴り込みに行ったそうで、そのまま拘束されたそうだ。弟思いのお姉さんだな、弟は微塵も姉の事案じた事無いのにな。

 クレアさんはあまり考えないで突っ込む気質があるからな、だから拘束されたんだな。

 シュウ・ヤークとして活動したのは昼間までだ。これでも十分にアリバイを持っていけそうだ。明日の朝に直談判させてもらおうか。

 でももう少し詰める要素が欲しいからジョーカーとしても調査を続ける。

 

 日が完全に沈んだな、本格的に調査に入る前にシドの様子を一回確認しておこう。多分まだ初日だし思っていたよりも穴のある調査だ、多分どっかの部屋に放り込まれて暇してるだろ。

 

 ……何か見に行ったらシドが拷問されてるんだけど、何だこれ?

 棒読みで面倒くさそうに情けない叫び声をあげている。ぎゃあってまた典型的な叫びだな。

 見ていて気分がいい物じゃない。騎士団の奴らはどこか楽しみながら拷問している様だ。

 俺の記憶が正しいなら騎士団は調査するから協力してくれって言ってなかったか?これじゃあシドを犯人に仕立て上げる気しかなさそうだ。

 ……これはしっかり騎士団も調査するべきか。

 

 

 

 調べていくと出るわ出るわ、巣穴を壊したときに出てくるアリみたいに情報が出てくる。

 騎士団は普通にろくでなしの集まりだし、騎士団員の一部は教団との関りもあるようだ。

 おまけにあのゼノン・グリフィってカスは次期ラウンズの候補の一人らしい。教団の主力レベルじゃないか。

 どうやら今回の一件で第十二席を狙うつもりのようだな。

 それにしても次期ラウンズの候補って聞くだけで未だに悪寒がする。

 ゼノンもそうとう強いのだろうか、学園で見ていた限りオルバ子爵よりも上だとは思うが、あの時の奴みたいにヤバい雰囲気は感じなかったけどな。

 ついでに目的も大体掴んだ。どうやらゼノンはアレクシア王女に流れる濃度の高い英雄の血が目当てで婚約者候補になったり、誘拐を指示したようだ。

 結構時間をかけて回りくどい事もしていたんだな、計画を破綻させるのが楽しみになってきた。

 

 それと個人的に気になる情報も手に入れた。

 どうやらオルバ子爵はゼノンと同じ派閥に属していたそうだ、つまりそういう事だ。

 オルバ子爵の娘のミリアがこの付近で捕まっている可能性が極めて高い。

 今までは何故か霧に包まれたように行方が分からなくなっていたが、今回こそは混乱に乗じて助けられそうだ。

 そしてアレクシア王女が捕らえられている場所は王都の地下下水道を利用した施設か、ミリアもそこに居るだろうな。

 

 シドには悪いが今日一日は拷問に耐えてもらおう。明日に備えてアリバイや資料を纏めておかないとな。

 

 

 

 次の日俺はアポを取ってから騎士団に直談判しに来ていた。

 本当は学生は全員外出禁止なのだが、実家のコネとか色々手札を使って何とかアポを取ったのだ。

 本当はこんな形でアイリス王女と会いたくなかったが、友人の将来がかかってるからそんな事気にしてる場合じゃない。

 

 俺はできる限り丁寧にノックする。

 こういう場合は印象というのは重要な要素だ。

 それにこういう事もあろうかと日頃から周りの印象操作をしておいた。

 アイツはやる時はやる奴だって感じの印象と、友人思いの生徒って印象とかだな。

 今回使うのはこのあたりのイメージか。

 勿論シドに優秀な主人公像を求められたってのもあるけど、裏で暗躍するなら表の顔はいい印象を持たせていた方が動きやすいってのがある。

 実際に今回も結構役に立ってるしな、お陰でここまで割とスムーズに事を運べた。

 そしてここからが本番だ、気お引き締めていこう。

 

 「失礼します、シュウ・ヤークです」

 

 扉の向こう側から凛とした声で入室を促す声が聞こえてくる。

 その声を聞いてからドアを開け入室する。

 扉の先には席に座っている赤色の髪の女性と付近で立っているゼノンが居た。

 

「お初にお目にかかりますアイリス・ミドガル第一王女様、シュウ・ヤークです。ゼノン先生もよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしますシュウ・ヤーク君」

「よろしく頼むよ」

 

 挨拶の段階ではまだゼノンは邪魔はしてこないみたいだな。

 余裕そうな表情だな、アレクシア王女とシドの交際を見せつけられた時もこんな表情をしていたに違いない。まだ学生の身分で出来る事は知れてるとか思ってるんだろうな。

 そのムカつく自信、今からへし折ってやるよ。

 

「今回お時間を頂いたのは自分の友人であるシド・カゲノーのアリバイがある事を証明する為です」

「なるほど、昨日訪れたクレア・カゲノーさんとは違いしっかりと根拠があるのかね?」

 

 ゼノンが自信満々にそう聞いてくる。ムカつく奴だな。

 

「はい。昨日一日の聞き込みで分かった事なのですが、どうやらシドは電車内でアレクシア王女と別れているそうなのです」

「なるほど」

「シュウ君、嘘は困る。我々騎士団が駅員に聞いた時は彼らは共に駅を降りていると聞いている」

 

 アイリス王女は冷静に話の続きを聞いて下さるような態度だが、ゼノンは何やら邪魔をしてきた。……様な気がする。

 確かに今の状態じゃ学生が勝手に言ってるだけとしか受け取られないだろう。

 だからゼノンの言い分もまだ通ると思う、社会的立場もコイツの方が上だしな。

 だが奴は知らないだろうけど、鉄道網とかを発展させたのはミツゴシやクラウンだ。駅のシステムは前世の日本に酷似している。

 紙媒体だが駅の出入りの記録は残っているのだ。

 それとは別に全てのデータは何時でも手に入れられる状況なんだけどな。

 今回は怪しまれるかもしれないけど、そのあたりの情報も持ってきたのだ。

 

「証拠はありますよゼノン先生。自分は人は間違える生き物だと思っています。ですので自分は記憶では無く記録を集めました。これが集めたものになります」

 

 そう言って資料の束を提出する。わざわざ口頭で説明していくのは面倒だ。

 資料として現物にしておくことで、無かった事にされる可能性を少しでも下げておこうというのもある。

 正直シュウ・ヤークとして集めるのは大変だった。

 列車の切符とかそれに合わせた時刻表とか他の乗客の出入りの情報とか色々と集めたからな。

 人生で初めて人前でゴミ箱とか漁る事になったわ。

 後は帳簿も調べさせてもらった。金の出入りも重要な情報になりそうだったし。

 俺は直ぐにに改ざん何かさせない為に早めに動いた。こういう事は速度が大事だからな。

 ただ買収して口裏合わせをしても、記録を完全に処分される前に回収すれば問題ない。

 シドの嫌いな力業だけどこういう時はこっちの方が効き目がいい。

 

「なるほど、記憶では無く記録ですか。拝見させてもらいます」

 

 アイリス王女がじっくりと見てくれている、正直もうここで勝ちを確信しているがまだ油断は出来ない。

 

「アイリス王女、私としては集めたその資料は些か信憑性に欠けると思います」

「何故ですかゼノン侯爵」

「そちらの記録は改ざんされている可能性がありますよ」

「その点は心配ありません」

「どういう事だ?」

 

 ゼノンが疑問を口にする。奴からすれば偽物をつかんでいるはずとか思ってるんだろうけど甘いな。

 ミツゴシやクラウンの伝手をフル活用出来るシャドウガーデンのNo.2の立場を舐めてもらっては困る。

 それに俺はクラウン財団のトップだ。それを忘れてもらっては困る。

 

「何故かゴミ箱や焼かれていた物などが多くありましたが、頑張って修復して情報を揃えました。恐らくこちらが原本でしょう」

 

 ……本当は伝手で手に入れた情報なんだけど、どうせ気づかんだろ。

 

「バカな、そんな事出来るはずが無いだろう。出鱈目を言うのは止めたまえ」

「ゼノン侯爵。それ以上友人の為に動き、情報をたった一人で集めた彼を侮辱するのは止めなさい」

「侮辱⁉ 私はただ――」

――二度は言いませんよ

 

 おお怖っ。妹が誘拐されたからか気が立っているのかな?

 威圧感が半端ないな。

 

「……まだ全て読み終えた訳ではありませんが、確かにこの資料を見ている限りシド・カゲノー君のアリバイはありますね」

「待って下さいアイリス王女。ただの学生が集めた情報を鵜呑みにするのですか?」

「ただの学生? ゼノン侯爵彼はあのクラウン財団の代表ですよ。事鉄道網に関しては我々より情報を掴んでいてもおかしくないでしょう」

 

 ゼノンはそう言えばって顔をしている。てっきり知った上で行動をしていたとばかり思っていたんだけど。

 それはそれとして思ったよりあっさりとアイリス王女は信じてくれた。元々学生が容疑者なのを疑問に思っていたとかかな?

 ゼノンは既に少し顔色が悪い、どうやら喧嘩を売る相手を間違えたと気が付いたようだな。だがもう遅い、しかも俺の攻撃のターンは終わっていない。

 

「現状シドだけが拘束されている事にも疑問に思ってるんですよ」

「何?」

 

 食いついてきたなゼノン。何かボロが出る事を期待してるのか?

 

「そこの用意した資料を見て頂ければ分かって頂けるとは思いますが、アレクシア王女は駅を降りた後大通りを一度通っています。正直もうここだけでシドだけが疑われるのはおかしいと思います」

「そうですね。大通りには多くの人がい居ます。それに争った形跡のある場所も駅から少し離れている」

「それに誘拐したにしては身代金の要求など、おおよそ想定される誘拐事件とは系統が違うかと思います」

「今の所そう言った情報は入ってきていませんね」

「まるでシドをピンポイントで狙って捕まえたようではありませんか」

 

 途中であったアイリス王女の援護がありがたい。

 

「これらの状況から推測するに騎士団に誘拐犯と繋がりがある人物が居ると思います」

「何をバカな! そんな事は有り得ない!」

「ゼノン先生、恐らく貴方も踊らされているのですよ」

 

 一応この後の行動を縛るために庇っておくことも忘れない。

 

「……もしそうなら一刻も早く改めて調査をし、騎士団内部の調査も行わなくては。……それに一旦彼の開放をするべきかも知れませんね」

「そうですね、もう彼を拘束する必要性は無いでしょう。ゼノン侯爵、彼を解放して来てあげて下さい」

「分かりました。私は先に失礼します」

 

 そう言ってゼノンの奴は出ていった。この後の行動は俺を消す準備だろうな。多分。

 シドを餌に俺も巻き込む方向性に変更したかな?

 恐らくひと悶着があるだろうけど、次にやる事はシドを迎えに行くことだ。

 

「ではシドを迎えに行ってきます、貴重な時間を頂きましてありがとうございました」

「いえ、こちらこそ申し訳ない。早く彼を迎えに行ってあげて下さい」

 

 アイリス王女は意外といい人だったな。

 そんな事を考えながら退出しシドを迎えに行く。

 

 

 

 夕方色々手続きが終わったシドは解放された。

 しかしその格好は下着だけの姿で投げ出されるというものだった。最低だな騎士団は。

 

「大丈夫かシド?」

「ちょっと指の爪を全部剥がれたから着替えにくいかな。それに正直もっと長い間拷問されるかと思ってたよ、流石はシュウだね。対応が早くてこういう時は頼りになるね」

「こういう時はってのが余計だな、取り敢えず怪我を治してやるよ」

「いや、モブらしさが無くなるから……って思ったけどシュウがやるならいいのか、じゃあよろしく」

「分かった」

 

 そう言いながらシドに魔力を流して怪我を代わりに治してやる。

 早送りの様に爪が生えてくるの何か変だな。普通にキモい。

 

「それで? 拷問された気分はどうだ?」

「そうだね流石は中世、危うく処刑されそうだったね。拷問を担当した騎士達も実にモブっぽい働きをしてくれたよ」

「……本音は?」

顔も思い出したくないね

 

 シドにしては珍しく自分を冷静にしようとしていたから疑問に思ったけど、一応シドにもそういう感情が残っていたようで安心した。

 

「……追われているな」

「そうだね、四人ぐらいかな? 一人につき二人って感じで」

「一応シドのアリバイは作って出してきたけどな」

「アリバイなんて作るの大変だったんじゃない?」

「元々やって無い奴のアリバイ作りなんて簡単だったわ」

 

 そんな事を小声で話していると。

 

「後でね……」

 

 懐かしい声と香水の匂いがした。

 

「アルファかな」

「アルファだな」

 

 もう来ていたのかアルファは。一体何処に居たのか知らないけど随分と早い到着だな。

 

「シド、俺はまだ準備する事があるからここで別れよう。動くなら一回は連絡をくれ」

「何の準備か知らないけど分かった、七陰の誰かを向かわせる感じでいい?」

「それでいいけど……出来ればベータ以外で頼む」

「何かあったんだ」

「詮索はしないでくれ」

 

 俺も一旦自分の部屋に帰る。シドと違い安アパートでは無い。こういう時だけは特待生でよかったって思うな。

 部屋に入ると懐かしい匂いと気配がした。

 

「ジョーカー、久しぶり」

「久しぶりだなゼータ」

 

 いつの間にかゼータが俺の部屋に上がり込んでいた。遠くの任務に赴いてるって聞いていたのに、ゼータも一旦こっちに帰って来てるのか。珍しいな。

 そう思いながらベットに座る。椅子にはゼータが座ってるからな。

 

「何でこっちに帰って来てるんだ? 結構遠くの任務に行ってたんじゃなかったっけ?」

「ベータが報告してくれたから、他のメンバーに全部任せて一回帰って来た」

「仕事は自分でする主義じゃなかったのか?」

「今回は特別」

 

 そう言いながらゼータは隣に座ってくる。

 

「そう言えば学園に入学してからどう? 何か変わった事はあった?」

「初めは何処から出てきたか分からない二股の最低野郎の噂でちょっと大変だったけど、今は問題ない」

「え? 二股?」

「そう。二股」

 

 あんまりゼータにこういう話とかしたくないんだけど聞かれたら答えるしかない。

 

「ふーん、まぁ考える事は同じか」

「何のことだよ」

「気にしなくていいよ。それよりもその後は?」

「その後? 噂の効果が無くなった影響か普通に接されるか、ちょっかいを掛けられる事が増えたぐらいで、特に変わった事は無いぞ」

「ちょっかいの部分をもう少し詳しく教えてくれない?」

「……え」

 

 俺が言いたくなくて誤魔化す手段を考えていると、ゼータが顔を寄せてくる。綺麗なアイスパープル色の瞳が視界いっぱいに広がる。

 耳のいいゼータに心臓の鼓動の音が聞こえない様に必死に魔力制御を駆使して抑える。

 

「えっと、あの、その、ね?」

「何も分からないけど」

「男から女子を賭けて決闘を申し込まれたり、女子から告白を受けたりなど」

「……はぁ」

 

 何故かため息をつくゼータ。何か不味い事言ったか? ただあった事を正直に話したけど。

 

「ま、こうなるか」

「何が?」

「別にジョーカーは気にしなくて大丈夫だよ」

 

 そう言いながらゼータは俺を尻尾で叩いてくる。全身を満遍なく叩いてくる。

 モフモフの尻尾が何か気持ちいい。でもこれに何の意味が?

 

「じゃあ、私はこれで。次に会う時は決行の日かな?」

「ああ、そう。じゃあ」

 

 そう言ってゼータは部屋から音も無く出ていった。

 結局何がしたかったのか分からなかった。ただ変わったのは部屋にゼータの気配の様なものが広がっただけだった。

 

 俺はちょっと上がった体温を下げながら、どれくらいのメンバーが集まるか考えていた。

 

 

 

 二日後、先にベータから連絡が来た。……そう言えばベータにメンバーが集まったら連絡をしてくれって言ってたな。忘れてた。

 

「ジョーカー様、メンバーが集まりました。七陰で集まったのはイータ以外の六人です」

「やっぱりイータは来なかったか」

「まあ、イータですし」

 

 別にこういうのはイータの仕事じゃないからいいけど。

 

「それにナンバーズも含めて集まった人数は114人です。この期間ではこの人数が限度でした」

「いや、十分だ」

 

 気が付いたらシャドウガーデンのメンバーは600人を超えているからなその六分の一の人数を動員するんだ。十分だろう。

 でもクラウンの方に居てくれてる人数も合わせると800人近くまでいくけどな。もっともクラウンの方に居てる子達は、能力的にも精神的にも戦闘向きじゃないからこういう事には参加させないけど。

 

「作戦はまずデルタに陽動を任せる、ただし建物の破壊は無しだ。それが出来たらまた下剋上を受けてやると伝えてくれ」

「分かりました」

「アルファは全体の指揮を、ベータは遊撃に回ってくれ。ガンマには俺が地下に潜った後の指揮を任せ、イプシロンは後方支援だな。ゼータは好きにさせてやってくれ」

「分かりました、ではその様に」

 

 そう言ってベータは立ち去って行く。

 それと入れ替わるようにアルファがやって来た。

 

「シャドウが手伝って欲しいそうよ」

「分かった、直ぐに出る」

「ええ、それじゃあまた今夜」

「ああ」

 

 俺たちはそれだけの会話で各々行くべき場所に行く。

 いよいよ今夜が本格始動の時だな。




 今回もここまで読んで頂き本当にありがとうございます!

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 投稿期間が安定していませんがこれからも頑張っていきます。

 次回も楽しみにして頂けると幸いです。
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