チート転生してもダイヤちゃんには勝てない……   作:成田 きよつぐ

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 初めまして、成田きよつぐと申します。
 この拙作に訪れて下さって本当にありがとうございます!


 ウマ娘アニメ3期などに影響されて、自分も“サトノダイヤモンド”ちゃんの話を書きたいなと思い書きなぐり始めました。


 ウマ娘も競馬も、あらゆる事がにわかの極みな筆者の作品ですが少しでも楽しんで頂けたら嬉しく思います。





二人の出会い

 

 

 

 

 

 

 

 異変を感じたのは俺が5歳だったある日の日曜日…いや、こちらの世界で5歳だったある日の日曜日というのが正しいのか…

 

 

 朝目覚めると突然鈍い頭痛が俺のことを襲い、それと同時に自分の頭の中に入ってくる情報の波。

 それは【自分が転生したのだ】という事や【今居る世界がウマ娘の世界】だという事【この世界の一般常識】や【この世界での家族の事・約5年間分の記憶】そして…【自分が授かったであろうチート能力】についてなどの情報であった。

 

 

 前世の自分に関する情報は思い出す事が出来なかったが、まあ流れ込んできた情報を割りかし理解できているあたり前世の俺は少なくとも多少は歳を重ねた人間だったのだと思う。

 

 

 それにしてもまさか自分が転生者、それもチートなんて能力を授けて頂いての形とは…

 何だろう? もし神様が居るのならチートを授ける相手を間違ってしまわれたのだろうか? そうだとしたら今すぐにお返ししたいのですが? だって貰える理由が分からない強大な力って怖くない? 怖いよね? 俺はものすっっっごく怖い…

 

 

 ほら! もう早速なんか視えちゃってるもん! 何これ? 俺の手だよね? 自分の筋肉とか神経が全部透けて視えてるんだけど!? なんか嫌じゃない!? 人によっては気分を害するよこれ!? え、なに? これまさかオンオフとか出来ない感じ!? だとしたら凄い迷惑なんですけど!? オフって! オフって! お願い! 厨二病だと言われてもいい! 頼むから鎮まれ俺の能力よ!

 

 

 ……あ、普通の視界になった。良かった、なんか疲れた……何ですか? オフはオフでもこのチートをクーリングオフは出来ないってか!?

 ……なんにも上手くないな。少なくとも俺の前世が芸人さんでは無いことは確定した。だから何だよって話なんだけど。

 

 

 なんかもう顔洗ってスッキリしたいと思い、俺はベットから出て洗面所へと向かう。この世界の情報をインプットしている影響からか自宅の配置なども頭に入っている。

 この世界で俺は一人っ子の様だし両親ともに既に起きて朝食の準備を進めている雰囲気があるので、今から俺が洗面所を使っても朝特有の洗面所争奪戦になる事もないだろう。そう思いながら洗面所に向かう途中──

 

 

「──あら? おはよう。もう起きるの? 日曜日だからもう少しゆっくり寝てても良いのよ?」

 

「──ん? お〜、おはよう。どうした? 母さんの言う通りまだ寝てて良いんだぞ?」

 

 

 こちらに気付き、優しい微笑みを浮かべて朝の挨拶をしてくれるお二人の正体は──まぁこの世界での両親なんですけどもね。専業主婦の母さんに会社勤めの父さん。幸せな事に二人とも俺に愛情をもって接してくれる素敵な両親である。

 

 

「くぁ〜っ…母さん、父さんおはよう。大丈夫、目が覚めちゃっただけだから」

 

 

 欠伸をかましながら二人に挨拶を返し、洗面所で顔を洗い歯を磨きながら俺は自分のこれからについて軽く思考する。

 ……まず5歳の子供が自分の人生に悩むってどういう状況なんだろうね? いやまぁチート転生なんて事が起きた正にこの状況の事か。

 

 

 取り敢えずチート使ってこの世界を我が物に! なんてルートは無しだよね。そんな野望は持ってないし。うーんどうするか…この力を封印するというのは授かった意味が無い…けど使い方を誤れば大変な事に……やっぱりこういう力は誰かの助けになれる様に使うのが一番なのかな…結果的にそれは自分の為なんだけども……

 

 

 結局俺が至った結論は『誰かの助けになれる様に力を使おう! 自分の為に! どう助けになれるのかは…その時に考えます』というその場しのぎにも程がある結論だったのだが、

 ま、まあ5歳の子供が至った結論なんだし大目に見て下さいませ。後でしっかり考えますとも!

 

 

 それからというもの俺は日常を謳歌しつつも自分自身の今後について考えたり、よく寝たり、両親をチートマッサージなどで癒したり、よく寝たり、頭脳面・身体面共に授かったチート能力がどれ程のモノなのか確認しまくったり、よく寝たり、ウマ娘レースに大興奮したり、よく寝たりしていたら……

 その場しのぎ結論も対して修正出来ないまま、気がつくと俺は15歳の青少年になってしまっていたとさ⭐︎

 

 

 いやごめんなさい。本当ごめんなさい。『お前10年間も何やってたんだよ?』というお声があるかもしれませんが俺も出来る事はやってたんですよ?

 

 

 チートアイで誰かを視るとその人の身体の状態が一発で分かる上に、不調などがあればすぐに治す事が出来るので医者泣かせだし、一度学んだ事や見たものは忘れないチート記憶力もあったし、自分の身体をゲームの様に操れるチート身体能力もあったしで……とにかくこれらの確認作業が大変だったんですとも。

 

 

 え? レースを楽しんだりよく寝たりしてたんだろって? い、いや…いくらチート野郎でも娯楽や睡眠は大事って言いますか何と言いますか…まあ別に寝なくても大丈夫ではあr──いやいや何でも無いです! 娯楽と8時間以上の睡眠! アレ大事なんですよ皆さん!

 トゥインクル・シリーズでは“メジロマックイーン”さんや“トウカイテイオー”さんが盛り上げてくれた時期だったから観ていて本当に楽しかったし…

 

 

 とまあ15歳になっても特に考えを昇華させられなかったポンコツ野郎だったのだが、

 ある日そんな俺に転機というのか…父さんに連れられた会社繋がりのパーティーで一人のウマ娘と出逢えたあの日が、俺の第二の人生が本当の意味で始まった様な気がしたあの日が訪れたのだった。

 

 

 

 

───

──

 

 

 

 

 俺が進学先も決まり中学卒業を控えた春頃、その日俺は父さんに連れられ家族三人で都内のホテル会場で開催されている豪華なパーティーに参加しているところであった。

 

 

 後になって知ったのだが俺の父さんはこの世界では有名なあの〈サトノグループ〉が経営する会社に勤めているらしく、本日はそのサトノグループの上層部の方々から我が家族にも参加のお呼びが掛かったらしい。

 しかも噂によればその〈サトノグループ〉をまとめておられる社長さんまでもが、所用で到着が遅れるみたいだがこの会場に来られるとの事だ…

 

 

 父さんは別に上層部の方々と特別親交が深い訳でも無い一般社員の立場であり、今回何故そんな大層なパーティーのお呼びが掛かったのか? という話なのだがこの理由は明白で、何を隠そう俺がウマ娘トレーナー養成学校に合格した事が参加の決め手となった様である。

 こうなったらいっその事開き直ってこうした縁を活かし将来トレーナーになれた暁には〈サトノ家〉のウマ娘さんを預けて頂ける様なトレーナーになりたいものだ。お抱えのトレーナーさんが居らっしゃると思うから厳しいだろうけど。

 

 

 メジロマックイーンさんやトウカイテイオーさん、“ミホノブルボン”さんや“ライスシャワー”さんに“ナイスネイチャ”さん、“イクノディクタス”さんに“マチカネタンホイザ”さんに“ツインターボ”さん──

 うん、これ以上挙げ出したらキリがないので止めるけど、とにかく色んなウマ娘さんの走りを観て見事に脳を焼かれた俺がトレーナーになりたいと思うのは自然な事だったと思う。チートもあって試験も突破できそうだったし…(ぼそっ)

 

 

 だ、だって超難しいだもん……しかもまだ養成学校の入試だよ? ここから更にトレーナーになれる人が絞られるんだよ? この世界のトレーナーさん方はこんな試練を突破してきてるの? って尊敬を通り越して怖かったよね……このまま無事にトレーナーになれたら先輩方には最大限の敬意をもって接しようと心に決めたものである。

 

 

 ……今現在パーティー会場にいるくせに、こんな感じで俺の脳内はやかましい事この上無い絶賛チート持ち野郎一人語りの真っ只中なのだが、お察しの通りで俺今ヒマなんだよね……

 お偉いさま方とのご挨拶も終わり、父さんは上層部の方々に話かけられて緊張しながらも頑張って交友を深めているし、母さんは他の奥さま方と楽しそうに交友を深めているしでさ。

 

 

 ん? 俺? 俺は既に気配を消して会場の隅っこでチビチビとジュースを飲んでますよ? だって会場に居られる方々って殆ど父さんの会社繋がりの方々、しかも上層部の方々だからさ……

 下手な事して父さんに迷惑掛けられないし、何話して良いかも分からないし、俺と同世代の人なんて見掛けないしで…情けないが俺がとれる行動は一つで鉄壁の我関せず! であった。

 

 

「──それにしても、我がサトノグループのウマ娘レース界への注力具合は年々増しているというのに…中々結果が伴わないのが歯痒いですな」

 

「そうですな。特にGⅠレースの戴冠が遠い…あの“サトノロイバー”と“キングレオハート”もGⅠレースに出走こそしてくれたものの、結果は掲示板にすら入れませんでしたからな…」

 

「最新鋭の設備を完備し、優れた人材の確保、そしてあの〈メジロ家〉との交友で得られたトレーニング理論なども揃っているというのに……やはり【サトノのジンクス】は根深いのかもしれませんな…」

 

 

 会場の隅っこでぼーっとしていると会場の真ん中辺りから、ふとそんな会話をしているのが俺の耳に入ってきた。この世界での〈サトノ家〉・〈サトノグループ〉は国内どころか世界規模でみても有数の一大企業グループであり名門家系。ウマ娘レース文化の発展や慈善活動など多大な貢献も行なっている。

 

 

 そんな非の打ち所がない様な一族であるサトノ家でも未だに成し得ていない事が、先程の会話でも嘆かれていた【一族の中からGⅠウマ娘の輩出】をする事である。

 

 

 まあ先程の会話でチラッと名前が挙がっていた名門〈メジロ家〉と比べると、サトノ家はまだ新興の家系なので俺なんかは『いや、GⅠレースに出走できてる時点で十分凄くね?』と思ってしまうのだが……

 名門には名門の誇りや覚悟そして期待があるのか、現状の戦績を嘆く声が身内内だけでなくファンの方々の間でも存在している。

 

 

 中には『サトノのウマ娘はGⅠを勝てない』なんて声もあり、それが【サトノのジンクス】と言われたり、挙句【サトノの呪い】なんて呼称する事もあったりと……正直サトノ家にとっても、そしてその家系のウマ娘さんらにとってもあまり明るい話題では無い。

 

 

 その証拠にとも言えるのか俺が今居る反対側の会場隅っこで休憩していたのだろう、初等部だと思われるウマ娘さんが耳をピトッと後ろに倒して少し泣きそうな表情を浮かべると……少し早足でスッと会場から出て行くのが見えた。

 

 

 会場の隅っこに居ながら先の会話を聞き取れる聴力をはじめ、ウマ娘さんは人間に比べるとあらゆる面で優れているとは言っても、あんな少女が一人で会場の外に……いやまあ外とはいってもホテル内だから危険は無いとは思うが、それでも少し心配だよな。それにさっきの歩き方は……

 

 

 一緒に来ておられるであろう親御さんは…各々が交友を深めているこの状況では気付くのは難しいか。ホテルのスタッフさん達も配膳などのお仕事があるだろうし、お節介になるかもしれないけど彼女の様子だけ見に行くか。大丈夫そうならすぐに戻れば良いだけだし。

 

 

 先ほど会場から抜け出したウマ娘の少女の事がどうしても気になった俺は、手に持っていたグラス内のジュースをグッと飲み干し、空いたグラスを近くのスタッフさんにお渡しすると携帯から両親に『少し会場の外に出ています』と一報を入れて、俺も少女の様子を確認するため会場を抜け出した。

 

 

 

 

───

──

 

 

 

 

 さて俺も宴会場から通路に出たは良いが、あの子の姿が見えず何処に向かったのかが見当も付かない。此処はサトノ家が貸し切る程のホテルのため広さが半端ないからな……

 あの子がエレベーターやエスカレーターで階を移動している可能性もある。この階だけでも広いってのに…って嘆いても仕方ないよな。取り敢えず階を移動していない事を祈ってこの階を探してみるか。

 

 

 そうして百貨店などのレストラン階で『何を食べようか?』と悩みながらグルグルと歩く様に、俺は少女を探すため今居る階を注意を凝らして歩き始めた。

 

 

 ……暫く歩き回って少女を探したものの見つからず、こりゃ別の階に移動したか? と、この階を探す事にそろそろ見切りを付けようと思った矢先、案内に【共用バルコニー】と書かれた扉が目にはいる。

 

 

『最後に此処だけ確認して行くか』と期待半分、諦め半分の気持ちで扉を開け都心のビル街を一望できるバルコニーへと足を踏み入れた俺は、そこで探していた少女の姿を──ベンチに腰掛け目の端に涙を溜めながらコチラに目を向ける少女の姿を確認する事ができた。

 

 

「──ぁ…〜〜っ! ぐすっ…〜〜っ!」

 

 

 少女は俺の姿を見るや否や一瞬『しまった!』という様な表情を浮かべ、慌てて服の袖で目をグシグシと擦り自身の涙を見せまいと努める。

 

 

「あっ、目に傷を付けちゃうよ? ……お嬢ちゃん、ちょっとそこで待っててね?」

 

 

 チート持ちのくせに何とも情けないが泣いてる女の子に気の利いたセリフなど俺には言えず、だからといって放っておく訳にもいかず、

 俺は一先ず彼女に声を掛け、彼女が擦ってしまった目元を冷やすべく急いで近くの自動販売機で小さめの水を購入し、手持ちのハンカチに軽く水を染み込ませる。

 

 

「──はい、取り敢えずコレで目元を冷やして。ちょっと腫れちゃってるから」

 

「…は、はい……あ、ありがとう…ございます…」

 

 

 彼女にとっては既に俺は十分怪しい奴だと思うので、出来るだけ怖がらせない様に膝を折り彼女の目線の高さに合わせて濡らしたハンカチを差し出す。

 そんな俺の様子に警戒心というよりは少し戸惑いの念を大きくしつつ、彼女は俺が差し出したハンカチを受け取るとソッと自身の目元に当てはじめた。

 

 

 危害を加えるつもりは無いという事を示すため、俺はそんな彼女の様子を黙って見守る事に徹する。そのまま暫くお互いが無言の状態で、時折り彼女が『スンッ』と鼻を鳴らす声だけが聞こえてくる時間を過ごす。

 

 

 それからどれぐらいの時間が経ったのか……体感的には随分長く感じたその沈黙を破ったのは俺ではなく目の前の彼女──落ち着いた故なのか少女とは思えない程の凛とした雰囲気を醸し出している彼女であった。

 

 

「…すみません、お見苦しい所をお見せしました」

 

「いやいや、とんでもない。君が落ち着いたみたいで良かったよ」

 

「ありがとうございます。あの、こちらのハンカチは…」

 

「あー、気にしないで。それ学校の授業で作ったやつだから。そのまま持ってても良いし、後で捨ててくれても大丈夫だから」

 

「そ、そんな捨てるだなんてっ! …あっ、す、すみません大きな声を出して……お言葉に甘えて大切に使わせて頂きますね」

 

 

 俺の言葉をやや前のめりになりながら制し、彼女は綺麗な所作でハンカチを畳むとこちらにお礼を言って大切そうに自身のポケットへと仕舞った。

 振る舞いや雰囲気、そして頂き物に慣れている感じを見るに彼女はとても育ちのいいお嬢様なのだろうと思う。まあサトノ家系のウマ娘さんという時点でそれは当たり前の事か。

 

 

 だけどお偉いさん方とご挨拶をしていた時にこの娘を連れている方は居らっしゃらなかったんだよな。つまりご挨拶をしたお偉いさん方の娘さんでは無いという事になる。

 となるとこの娘はどういったご関係でこの会場に来られたんだろうか? 間違いなくサトノ家系のウマ娘さんだとは思うんだけど…まさか俺と同じくこの娘も何かのお呼ばれだったり?

 

 

「あの、間違っていたら申し訳ありません。貴方は本日パーティー会場に居らっしゃった未来のトレーナーさん…ですよね?」

 

「ん? ああ、そうだよ。と言ってもまだトレーナーになれるかは分からないんだけどね」

 

 

 YOUは何しにパーティーに? とアホな事を考えていた俺に彼女から確認の言葉が投げかけられる。

 未来のトレーナーさんって何だか気恥ずかしいな。まだ養成学校に合格しただけだから、ある意味ようやくスタートラインに立てたって状態だからね。

 

 

 しかし俺の言葉を聞いた瞬間、彼女はベンチから立ち上がりグッと拳を握り締めて、綺麗な瞳でこちらを射抜きながら俺に詰め寄ってくる。

 

 

「で、でしたらッ! 少しで構いませんッ! 私の事を鍛えてはもらえませんかッ!? 私に出来る事でしたらお礼はさせて頂きます! 私…私っ! 少しでも強くなりたいんですっ!」

 

「お、落ち着いて落ち着いて。ゆっくりで良いから話だけでも聞かせてほしいな。まず鍛えるって言っても、君はサトノ家のウマ娘さん…だよね? 専属のトレーナーさんとか既に居らっしゃるんじゃないかい?」

 

「はい。ですが…私はまだトレーナーさんがついたり、本格的なトレーニングを受けたりする事は出来ていません。まだ身体が出来上がっていない状態で無理はさせられないと言われていまして…」

 

「そうか、けど強くなる為には今のままじゃいけないと君は考えている…のかな?」

 

 

 俺の問いかけに彼女は耳をへたらせつつも頷く。

 

 

「トレーナーさんを目指される程の方でしたら【サトノのジンクス】というモノはご存知ですか?」

 

「ああ、知ってるよ。さっきの会場でも話されていたね」

 

「…私は必ずサトノ家にGⅠ勝利を──希望の光を届けたいんです。サトノのお姉さま達の無念を…願いをッ! 晴らしてあげたいんですッ。サトノのウマ娘はッ! ジンクスなんて…そんなモノに負けないんだってッ! 私は証明したいんですッ!」

 

 

 やや下を向き、唇を噛んで、再び溢れ出そうになった涙を堪えて、スカートの裾をギュッと掴みながら、最後はまるで地面に向かって言葉をぶつけるかの様に目の前の少女は自分の想いを吐き出した。

 

 

 まだ年端も行かぬ少女の筈なのに、この娘は一体どれほど強い想いを抱いているのだろう…どれほど重い覚悟を背負っているのだろう……

 チートという力を授けてもらった癖に、俺は目の前の少女が背負うと決めた覚悟の重さに只々圧倒されてしまう。

 

 

 ……この娘に掛けてあげられる言葉なんて思い付かない。これは俺なんかが中途半端に首を突っ込んでいい事じゃない。情けないがそれは分かってる。

 

 

 だからせめて、この娘の覚悟を聞いた者としての責任だけは果たす。この娘の将来に一切の支障が出ない様に、この娘が本当に心から信頼を寄せられるトレーナーさんと出会い、自身の覚悟や夢に悔いなく立ち向かえる様に……

 

 

 俺はこの娘が会場から抜け出す姿を見かけた時からずっと気になっていた、ある問題を治してあげられないかと思い口を開いた。

 

 

「…そうか、それが君が背負う覚悟であり夢なんだね……なら先ずは本格的なトレーニングに打ち込んだりするよりも、その左脚を治す事から始めないとね」

 

「──へ? ひ、左脚…ですか?」

 

「うん、そうだよ。君、ここ最近で左足首を軽く捻挫しなかった? それも足首を内側に曲げてしまう様な形で。加えて足首だけじゃなくて腿の裏側と股関節の辺りも損傷している具合を見るに、何かを左脚で踏み付けた時に滑って転びそうになったのを無理矢理堪えた…とかかな?」

 

「──ッ!? は、はいっ! 確かに5日前に学校で果物の皮を踏んでしまった時に怪我をしてしまいました…で、でもどうして!? どうしてそんなに細かく分かったんですか!?」

 

「ま、まあ…君が会場から抜け出すところを偶々見ていてね。その時の歩き方が、少し左脚を庇っている様なバランスだったから」

 

「そんな、たった…たったそれだけの事で…?」

 

 

 う、う〜ん…流石に『チートアイで観察したら分かっちゃったぴぃ⭐︎』なんて事は言えず、名家のお嬢様とはいってもまだ小さい娘だし適当に言っときゃ誤魔化せるっしょ? なんてたかを括って適当に答えたら…

 

 

 目の前の少女は『信じられない…』といった表情を浮かべたや否や、今度は徐々にその綺麗な瞳にキラキラとした…何だか尊敬の様な念が込められた視線を向けられ始めた為、

 俺はパパッと先の怪我により歪んでしまっている彼女の身体バランスを治して『後は夢に向かって頑張れ! さよならバイビー⭐︎』を決めるべく自身のチートスイッチをオンにする。

 

 

「怪我をしてしまった左脚からきているその身体バランスの歪み…それほど酷くは無いから放っておいても影響は少ないとは思うけど、やっぱりトレーニングを積む前に俺は治しておいたほうが良いと思う。身体が大きくなってからだと歪みを治すのは大変になっちゃうからね」

 

「は、はい! で、でも治す為にはどうしたら…」

 

「──もし君が許してくれるのなら、俺自身の為に…今ここで君の事を治療させて貰えないかな? 何の証拠もだしてあげられないけど、俺は君のその歪みを治してあげる事が出来るから」

 

 

 我ながら何て酷い売り込みだろうと思う……昨今のいい加減な振り込み詐欺メールでさえもう少しマシな文言が並んでいる事だろう。

 

 

「自分の為に? わ、私を治療する事が…と、どうして貴方の為になるんですか?」

 

「簡単な事だよ。俺は君の事を応援したくなったんだ。君の力になりたいって思ったんだ。さっき教えてくれた覚悟を背負う君の事を、俺は素敵だと思ったんだ。俺は──君に一目惚れしちゃったんだよ」

 

 

 今はとにかく素直な俺の気持ちを伝えることしか出来ないため、俺は真っ直ぐに彼女の目を見ながら言葉を掛けた。

 そんな俺の言葉を聞いた目の前の少女はポカーンとした表情を浮かべ──

 

 

「…プフッ、ふふふっ…あはははっ!」

 

 

 堪えきれないという感じで吹き出したかと思うと、そのまま無邪気な声でケラケラと笑いだす。

 

 

「──お、お兄さん…くふっ…は、側から見ると、小さい女の子にプロポーズをするっ…す、凄く危ない人に見えちゃいますよ?」

 

「ははっ、確かに。今ここで君に大声でも上げられたら大変だ。一目惚れした娘にフラれるだけならまだしも、そのまま一生牢屋に入れられるなんて事になったら俺は泣いちゃうよ」

 

「ふふっ、それは困りますね……私も今から治療をお願いさせて頂きたい方がいきなり牢屋に入っちゃうのは嫌ですし」

 

 

 少女は笑った事で目の端に溜まった雫をソッと拭いながら、そう口にした。

 

 

「…良いのかい? 自分で言っておいて何だけど、出会って間も無い怪しい男の言葉を信じたりして。ただ嘘を付いてるだけかもしれないよ?」

 

「大丈夫です。まだまだ子供ですけれどサトノ家の令嬢として、ある程度人を見る目はあると思っていますから。貴方は決して私やサトノ家に危害を加える様な方ではありません」

 

 

 その言葉と同時に真っ直ぐな意志の力を宿した綺麗な瞳が俺の事を射抜く。この娘が俺を信じてくれた気持ちを無下にする訳にはいかないな。

 

 

「──さあ、では早速治療をお願い致します。と言っても…どの様に治療されるんでしょうか?」

 

「すぐに終わらせるから心配しないで。君はここのベンチに座っているだけで大丈夫だから」

 

「あ、はい! 分かりました」

 

 

 俺がそう言うと少女はちょこんとベンチに腰掛ける。さて、パパッと終わらせますか。

 

 

「──少しだけ左脚に触れても良いかな? ほんの10秒ぐらい触れるだけだから」

 

「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」

 

 

 少女がスッとこちらに伸ばしてくれた左脚を俺は優しく支える様に掴み、まるでプラモデルを弄るかの様に少女の左脚をクキッと捻る。よし、上手く歪みを取る事が出来たな。

 

 

 ……え? もう終わりなのかって? 終わりですよ終わり。ウチの治療は速い・速い・痛くないが信条ですからね!

 

 

「はい、終わり。これでもう大丈夫だよ」

 

「──へ? も、もう終わりですか!?」

 

「ああ、一瞬だったでしょ? さあ立ってみて。そうすれば効果を実感できる筈だから」

 

 

 少女は俺が促すとめちゃくちゃ戸惑いつつもゆっくりとベンチから立ち上がる。そして──

 

 

「──ッ! 残っていた痛みが…左脚の重たい感じが…消えてる…」

 

「そっか、上手くいったみたいで良かった良かった」

 

「……す、凄い…」

 

 

 少女はそのまま感触を確かめる様に周辺を少しグルグルと歩き回る。

 うん、歩いている様子も見るにもう大丈夫だろう。

 

 

「さ、そろそろ会場に戻ろう。あんまり姿が見えないと心配をかけちゃうからね」

 

 

 万が一俺と同じ様に少女を心配した人が捜索活動を開始し、今のこの状況を見られると変な騒動を引き起こすかもしれないと思った俺は、少女に声をかけ会場に戻るべく歩みを進めた。

 

 

「──見つけた…見つけましたッ……私の…私のッ…“トレーナーさん”を!」

 

 

 ん? なんか後ろに居る少女が騒がしいけど……まあ、脚が軽くなった事でテンションが上がっているのだろう。そんなに喜んでくれたのならこちらとしても本当に良かった。

 

 

 将来、彼女が自身の夢を叶えサトノ家に希望の光を届ける事が出来たら嬉しい限りである。

 

 

 あ、そういえば彼女の名前聞いてないな……まあ良っか。別に俺が彼女のトレーナーになる訳でも無いんだし。サトノ家のウマ娘さんなら将来組むトレーナーさんも大方は決まってるんだろうから、

 彼女もサトノ家のトップが決めた事には流石に逆らえないだろうからね。俺が選ばれるなんて先ず有り得ないし、ハッハッハッ。

 

 

 ──今思えばそんなフラグを立てまくって呑気なもんだと自分を叱ってやりたい。

 

 

 

 

 そうして能天気に少女を連れて会場に戻った俺はそこで衝撃の事実と出来事に襲われる事となる……

 

 

 先ず会場に遅れて到着されたサトノグループの社長が居らっしゃった事。

 

 そして俺が連れてきた少女は何とその社長のご息女だったと言う事。

 

 少女の名前が“サトノダイヤモンド”なんだと言う事。

 

 

 そして──少女が社長である父親に俺の事を紹介する際に…『この人は私の“トレーナーさん”です!』なんて事を言い放った事。

 

 

 

 その日、この世界に生まれて15年……俺の人生の外堀が万里の長城で埋め尽くされてしまったとさ⭐︎

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 二人の出会いを書こうと思ったら全然上手くいきませんでした⭐︎
 ……ごめんなさい、お許し下さい。


 メ、メインはここから二人でトゥインクル・シリーズを駆け抜ける事ですので……た、楽しみながら書いて参りま〜す。


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