チート転生してもダイヤちゃんには勝てない…… 作:成田 きよつぐ
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本話でキタちゃんを登場させたかったのですが……長々と書き過ぎてしまってサトノ邸に出向くお話だけで終わってしまいました。
物語の進行が遅くて申し訳ございません。
『──お客様にお願い致します。車内では携帯電話をマナーモードに設定の上、通話はお控えください。皆様のご協力をお願い致します。次は──』
未だ春休み真っ只中の4月あたま、朝晩の冷え込みも大分穏やかになり過ごしやすい季節となった今日この頃……
俺は現在電車に揺られながら車窓から目に入る河川敷などに咲き誇る満開の桜の木々たちを、全く晴れやかでは無いどんよりとした気持ちで流し見ていた。
そんな俺の気持ちとは関係なく電車は一駅一駅確実に、現在向かっている目的地の最寄り駅へと近づいて行く。
手前の駅で停車する度に緊張感が増す事この上なし……一層の事ノンストップで送り届けては頂けないものだろうか? 車内で通話するよりもよっぽど他のお客様にご迷惑だから絶対に駄目だけど。
桜満開のこの季節、なぜ花粉症持ちでも無いのに俺の心がこんなに暗いのかと言うと、何を隠そう今から向かう場所がサトノ邸…要はサトノグループ代表取締役を務めておられる社長さまのご自宅だからである。
先日のパーティーでの一件、心配で声を掛けて流れのまま軽く治療まで行ってしまった少女がまさか社長さまの娘さんだとは思いもよらず…
そんな娘さんが──大切な愛娘である“サトノダイヤモンド”さんが、何処のウマの骨かも分からん男の手を引きながら自分の前に連れてきて『この人は私の“トレーナーさん”です!』なんて事を言い放ったら、社長さまがその男を後日呼びつける事に何ら不思議は無いのでは無かろうか。
さて、ここで一つ問題を失礼します。《上記の流れで呼びつけられた男は〜? その後果たしてどうなるでしょ〜か?》 答え→《東京湾に沈められるで〜す⭐︎》
……あっ! 確かに《山に埋められる》もありますね! 流石皆さん博識でいらっしゃるぅ! 正解された方には〜? 特に何の役にも立たない100ポイント差し上げま〜す! フゥ〜↑↑ あはははっ、笑えねぇ……
サトノダイヤモンドさんを治療した手前『行きません』なんて選択肢は俺には無く、まあそんな事したら父さんと母さんにも多大な迷惑が掛かるだろうからハナから無いんだけどもさ。俺と一緒に父さんの首も物理的に飛ぶかもしれないし……(ぼそっ)
両親と一緒に選んだ『命だけはお助けを』という意を込めまくった手土産の菓子折りを持ってサトノ邸へと出向く以外の選択肢は存在しなかった。
しかもあの時はサトノダイヤモンドさんに『君に一目惚れしたんだ』なんてとんでもない事も口走っちゃってるし……
いや当然ながらアレは彼女に異性として一目惚れした。という意味で言ったんじゃありませんよ? 彼女が持つ覚悟の重さに一人の人間として、ただただ感服したという意味で『一目惚れ』という言葉がすんなりと口から出てしまっただけで。…変な誤解を招いてないと良いんだけどな……
そうして今の自分が置かれている現状を嘆いていると、プシューという音と共に何度目かの停車から扉が開かれる。あれ? 今何処の駅だ? ……あ、やっべ降りるの次の駅じゃねぇか……さあ、そろそろ覚悟決めないとな。
自分で招いてしまった事のためこれ以上嘆いていても仕方がないと、俺は気合を入れなおすべく菓子折りの入った紙袋を抱えた状態から手でぶら下げる様に持ち替えて席を立ち、まだ最寄り駅に向かって走る車内で一足早くドアの前へと陣取った。
そのままドアの車窓に映る自分の身だしなみが恐らく問題ない事を確認して、俺は『まもなく駅に到着します』というアナウンスを聞き流しながら、見える景色が駅のホーム風景に変わったあたりで軽く深呼吸を行って、開かれた扉からやや重い足取りで駅の改札へと向かった。
───
──
─
駅の改札から出た俺は先日のパーティー会場で頂いた、最寄り駅からサトノ邸への道筋が丁寧に書かれた地図を頼りにキビキビと──ごめんなさい話盛りました。トボトボとした足取りでサトノ邸へと足を進める。
覚悟決めたとか抜かしてたけど、やっぱ気は進まないよね〜……『今登ったら確実に遭難するぞ!』って言われてる山に登りに行って自ら遭難しに行く愚か者が何処に居るんだよ……ここに居るよ! 全くよぉ!
本当にすみません、でもアホな事を考えて無いとやってらんないんだ俺も。てか何なの? 今俺が歩いてるこの場所は?
周りに建ってる建物が全部豪邸・豪邸・豪邸ばっかり……え、豪邸ってこんな筍が生えるみたいにポンポン建ってて良いものなの? まだサトノ邸に到着してないのに帰りたくなって来たんだけど……
まあ勿論そのまま帰るわけにもいかず立派な豪邸を右に左にと眺めながら暫く歩いて行くと──
何だろう、今まで眺めて来た豪邸たちが可愛く見えてくる様な建物が……『豪邸どころか最早宮殿だろ』とツッコミを入れたくなる様な建物が視界へと入ってくる。うん、残念ながら何度確認しても手持ちの地図はその建物の場所を指してるな……
流石は天下のサトノグループ代表取締役社長さまが住まわれておられるご自宅。よりにもよって此処かよ〜……と涙を呑みながら俺は水族館の大水槽ぐらい大きいサトノ邸の門扉の前で立ち往生をかます。
大丈夫かな? 俺今どこからかスナイパーとかに狙われたりしていないだろうか? まあそんな気配は一切感じないけども。ただその代わりに──
「──あっ! お兄さぁぁ〜ん! お待ちしておりました!」
門の向こうに見えている色とりどりの花が咲き誇る広大な庭園から声を響かせる少女──此度の一件に大きく関わっている“サトノダイヤモンド”さんが、辺りの花々に負けない程の可憐な笑顔でコチラに手を振りながら向かって来られる姿が目に入る。
いや〜可愛らしいですな〜本当に……彼女の後方にSPっぽい優し気な雰囲気を纏う男性と、コチラも朗らかに微笑まれながらも身のこなしに全く隙がないお世話係のメイドさんっぽい女性が見えて無ければの話だけど……
「サトノ家へようこそ! お兄さん! お父さまとお母さまが中でお待ちですよ。さあ! 私がご案内致しますから、どうぞコチラへ!」
「「──お待ちしておりました。どうぞ御入り下さい」」
お付きの御二方が門扉を開けてくれたのと同時に、彼女はそう言いながら少々気圧されている俺の右手を自身の左手でソッと握りながら、『どうぞコチラへ!』の意を示す様に空いた自身の右手を開いて、奥にそびえ立つサトノ邸に向かって腕を伸ばす。
先ずこのお嬢様が今仰った『サトノ家へようこそ!』って『サトノ邸へようこそ!』という意味で仰ったんだよね? 大丈夫だよね? 俺これから地下でよく分からない歯車を永遠に回し続ける強制労働とか強いられないよね?
『これでお前もサトノ家の歯車だ』とか言われて脱出不可能な地下牢にぶち込まれる事なんて……流石にあり得ないか。
まあ俺がサトノダイヤモンドさんやサトノ家に危害を加える存在だと認定された場合はそういった可能性もあるとは思うのが怖いけど……
て、いつまでも現実逃避で妄想を広げてる場合じゃないな。自分の為にサトノダイヤモンドさんを治療した時から、ちっぽけながら自分が行った事に対する覚悟は決まってたじゃないか。
彼女のご両親に対してちゃんとご挨拶やご説明はしないといけない。ここまで来たんだからシャキッとしないと。
「こんにちは、サトノダイヤモンドさん。御付きのお二人方も初めまして。お出迎えして下さって感謝のお言葉もありません。本日はお邪魔させていただきます。…あ、こちら心ばかりの品ですがよければお納め下さい」
出迎えて下さった御三方にご挨拶を返し、俺はSPの男性に持参した菓子折りが入った紙袋をお渡しする。
別に危ない物などは入っていないけど、ご当主に直接お渡しするよりは当家の方々に安全確認をしてもらってから手に届くほうが良いのかな? と思いご自宅に上がらせていただく前にここでお渡ししておく。
「これはご丁寧にありがとうございます。大切にお預かりさせて頂きます」
「ふふっ、お兄さん、そんなに畏まらないで下さい。先日の様なお言葉遣いで大丈夫ですから。あっ、そうだ! この際、私の事も『ダイヤ』と名前でお呼び下さい! そうすれば自然と話し易くなる筈ですから!」
「え? い、いや、それは…」
菓子折りをお渡しした流れのまま、サトノダイヤモンドさんに手を引かれながら庭園からサトノ邸の玄関に向かって歩いていると、彼女からそんな提案を受けてしまい答えに詰まる俺……
こ、このお嬢様ったら…たった一言でチート持ちを完封してくるわ!? 恐ろしい娘ッ!
「…ダイヤお嬢様? お客人を困らせる様な事を言ってはいけませんよ?」
「むっ、別に先日はお互い普通に話していたのですから困らせる様な事では無いはずですっ」
メイドさんからの注意に、俺の手を握りつつ顔だけメイドさんに向けてぷくっと頬を膨らませながら抗議を行うサトノダイヤモンドさん。
そんな彼女の様子にメイドさんは苦笑を浮かべて、俺に対して申し訳無さそうな表情を向けられた。
「もう…すみません。ダイヤお嬢様はご兄弟にお姉様方や弟様はいらっしゃるのですが、歳が比較的近めのお兄様と呼べる方は周りにはいらっしゃらなかった為、貴方に出会えた事がとても嬉しかったご様子で」
「それだけはありません。私の脚を一瞬で治して下さった技術、その怪我の理由を少し見ただけで見抜いた観察力、私を社長の娘としてでは無く一人のウマ娘として接してくれた事…この方とのご縁を、私は大切にしたいのです」
可愛らしい膨れっ面から一転、彼女は前を向き直し先日と同じく初等部の少女とは思えない凛とした表情になると、俺の手を更に強くギュッと握りながらそう宣言する。
自分が尊敬という形で一目惚れした娘にそんな事を言って貰えるのは素直に嬉しい事この上ない。
俺も大切にしたい、このご縁。だからこの後お会いするこの娘のご両親に『ウチの娘に二度と近づくでない!』とか言われない様に注意しないと。あとお願いだから命だけはお助けを。
「…サトノダイヤモンドさんの言う通り、自分は口調を崩せる方が緊張が解けて寧ろ有り難いのでお気になさらないで下さい。……ごめんね? 君の言う通り畏まった口調だと疲れちゃうから、こんな風に話せるほうが俺も嬉しいよ。名前呼びに関しては、そうだなぁ……もし俺が本当に…将来君のトレーナーとして認めてもらえたら、その時に初めて呼ばせてもらおうかな」
「本当ですかっ!? 私のトレーナーさんとして認められたらですね! 約束ですよ? 約束ですからねっ?」
「ああ、約束するよ」
俺の言葉にサトノダイヤモンドさんは耳をピーンと立てたかと思いきや握っていた手を放し、一瞬で俺の前に来ると拳を握った両の手を自分の胸元あたりに添えながら、ややコチラを見上げて身を乗り出す様な格好で俺の目を見つめて念を押す様に声を弾ませる。
まだこれからようやくトレーナー養成学校の一年生になるひよっ子の為、認めて貰えたとしても当分先の事になるだろうが……
まあ将来選ばれるにせよ選ばれないにせよ、自分なりに今日の事も踏まえて色々頑張らないとな。と決意を新たにする事が出来た。
そんな会話を交わしているとあっという間に庭園から玄関、そしてサトノダイヤモンドさんのご両親が待つお部屋へと辿り着き、お付きのメイドさんが入室許可の確認を取ってくれ、
中からお呼びの声が掛かった事を確認した俺は軽く深呼吸をして心を整え、ノックの後に『失礼致します』と挨拶を行って、ダイヤちゃん・SPの男性と一緒に部屋へと入室した。
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──
─
サトノダイヤモンドさんのご両親との面会は我が家のリビングよりも広い応接間で行われ、現在俺はアンティーク感のあるテーブルを挟んでご両親と向かい合う格好でソファに腰掛けお話をしている最中である。
先ず最初のご挨拶を交わした際に思った事が、今や世界有数の一大コンツェルンであるサトノグループをまとめておられる方の筈なのに、
お二人とも全く威圧感を感じず、かといってオーラがないわけでは無い、対面した時にはコチラを包み込んでしまう様な…ウチの両親と同じ確かな温かみを感じる素敵なお二人だなという印象を受けた。
そして結果良い方向に治ったとはいっても、俺が愛娘であるサトノダイヤモンドさんに対して勝手に治療行為を行った事もお咎めなし。という寛大な措置をして下さり、
寧ろサトノダイヤモンドさんの精密検査を行った結果、主治医さんからも『信じられない』と驚かれた程の施術をしてくれて本当にありがとうございます。という感謝のお言葉まで頂いてしまった。俺のほうこそ寛大な措置を本当にありがとうございます。
俺の『一目惚れ』発言に関してはご存知だった様でその部分の確認は当然されたけど、そこはしっかりと俺があの日サトノダイヤモンドさんに感じた一目惚れした意味をお二人に説明させて頂いた。
まあこれに関してはサトノダイヤモンドさん自身も俺が異性として意識しているという意味で言ったのでは無いと認識していたし、ご両親もあくまで事実確認として聞かれたみたいなので変な空気にならなくて本当に助かった。ただ──
「──お父さま、お母さま。ダイヤはやっぱりこの方は私にとっても、サトノ家にとっても必要な方だと思うのです」
「気持ちは分かるが、それでいきなりダイヤのトレーナーとして認めるというのは……」
「貴方、慎重になる気持ちは分かりますけど……一度この娘の直感を信じてあげてみませんか? 勿論、彼の気持ちも聞いた上でのお話にはなりますけれど」
「…確かに名士たるべしと思い過ぎるのは良くない。娘が何かを感じたのなら信じてあげたい気持ちは私にもある。だが、今回の事に関しては……」
先程から気になっていた点が2つほどありましてですね……1つ目は何でサトノダイヤモンドさんが俺の隣に座ってるの? ご両親と一緒の席に座らないの? という事と、
2つ目は……何だろう、何だか現段階で俺をサトノダイヤモンドさんの──サトノ家所属のトレーナーに迎える事をこんなに真剣に吟味していらっしゃるのはどうしてですか?
俺まだ養成学校の一年生ですよ? トレーナーになれるかどうかすら分からない青二才ですよ?
やっぱり最初は『この人トレーナーにして良いざます?』→『駄目ざます⭐︎』→『そりゃそうざます⭐︎』って感じで即刻ダメ、絶対! ってなると思ってたんですが……
「……申し訳ない。ここまで君を置き去りにしてしまっているが、一つだけ…君に質問をしても良いだろうか?」
今の状況にやや困惑していると、暫く考え込んでおられたサトノダイヤモンドさんのお父上から真剣な声色でそんな言葉が飛んできた。
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとう。これは我がサトノ家のトレーナートライアルを受けてくれた方に必ず聞いている質問なのだが、もし君がサトノ家の──ダイヤのトレーナーとして共に歩んでくれるのなら、君はサトノ家に、私達に、そしてダイヤ自身に…どんな成果を“約束”してくれるのかな?」
「どんな成果…ですか……」
「そうだ。君がダイヤと共に歩む際の覚悟と言っても良い。君の言葉で良いから、それをここで聞かせて欲しいんだ」
俺がトレーナーとして、自分の愛バと…今回の場合はサトノダイヤモンドさんと歩む為の覚悟…今ここで俺が示せるモノ…約束できる事……それは……一つしかない。
「……私がトレーナーとして共に歩むのならば、サトノ家にとって、御二方にとって大切な宝物である最愛の娘さんを──サトノダイヤモンドさんを、如何なる事態が起きようとも、“最後は必ず無事に御二方の元へお帰しします”。それが、私に出来る唯一の約束であり覚悟です」
それは、トレーナーであるならば必ず守らなくてはならない至極当たり前の約束……サトノ家のトレーナートライアルを受けられる様な優秀なトレーナーさんならば、口に出すまでも無いであろう当たり前の事。
そんな当たり前の事をまるで不退転の覚悟の様に語る俺に呆れてしまったのか……質問を行った当人も、その奥様も、俺の横に座るサトノダイヤモンドさんも、この場に居る全員が俺の方に顔を向けて呆気にとられていた。
暫し沈黙が流れ、部屋には壁に掛かっている古時計の針が進む音のみが耳に届く。
その気まずい沈黙をゆっくり破る様に、サトノダイヤモンドさんのお父上がやや戸惑いながらも口を開かれた。
「…必ず…無事に…ダイヤを帰す…?」
「はい。どんなウマ娘さんでも、ターフを去ると決断されてから過ごす時間のほうが長い筈です。なら私がトレーナーとして最も大切だと思っている事は、その娘が『自分は全てをやり尽くしたんだ』と清々しい気持ちでターフを去り、何の支障も無くその後の時間を歩む事が出来る様に尽力する事だと思っています」
「………」
「必ずGⅠレースで勝利させてみせる。サトノ家に輝かしい栄光を届けてみせる。その様な格好の良い約束を何の実績も持たない私にはどうしても出来ません。私が示せるのは貴方の娘さんを治療したという事を盾に、自分の信条というには滑稽な…そんな当たり前の事を約束するという事だけです」
「…勝利という結果を約束する事は出来ないと?」
「もちろん共に勝利を目指さないという訳ではありませんが……敗北の悔し涙を流させてしまう事は一度や二度では済まないかもしれません。結果が伴わないもどかしさを長く味わわせてしまうかもしれません。ですが『怪我をして全てを棒に振ってしまった』・『挑戦する事すら出来なかった』という…無念の涙だけは絶対に流させません。本人の口から一抹の後悔もなく『ターフを去ります』という言葉を聞くまで、その娘が何度でも挑戦できるよう支え続けて、最後は無事にお帰しする。私はそんなトレーナーで有りたいんです」
まだトレーナーになれるかすらも分からないのに、自分の理想とするトレーナー像を語る若造……側から見れば自分でも滑稽だと思う。
でもこれが俺の嘘偽りない気持ちである。愛バの身に万が一があったら……俺はその娘に、その娘のご家族に償う術が分からない。大切な娘さんをお預かりする以上、一番責任を持たなくてはいけないのは結果では無くその娘の人生だと思っている。
「そんな理想を持っているからこそ、私は貴方の娘さんに対して勝手に施術をするなんて事まで行いました…あ、そうでした。渡しそびれていたのですが、こちらも出来ればご確認をお願い致します」
俺はそう言って胸ポケットに入れていたメモ帳を、皆さんに見える様にテーブルに開げた。そこに書かれていたのは──
「…? お兄さん、これは? …手描きのイラストと…メモ…?」
「サトノダイヤモンドさんの現状での筋肉の付き方、将来怪我をしやすい恐れのある部位の予想、骨の成長具合、どの程度のトレーニング負荷なら耐えられるか等…私が感じた事を出来るだけ書き出したモノになります」
「──なっ!? こ、これを全て…君自身が書いたというのか!?」
サトノダイヤモンドさんのお父上は目を見開きながらそのメモ帳を1ページずつめくっていく。
これもこれも……と書いていたら殆どメモ帳一冊を丸々使ってしまうぐらい書いてしまったからな…
「はい。そこに書いてある事柄の正確性に関しては自信を持っておりますので、後で信頼のおける有識者の方にご確認を取って頂いても構いません。勝手に施術を行なってしまった代わりという訳では有りませんが、お役立て頂けたら幸いです」
「…ダイヤをメジロ家の主治医に診てもらった際と同じ程の──いや、下手をすればそれ以上に細かいところまで書かれている…」
チートアイで確認した事を書き写したモノなので正確だと思う。俺がチートを持て余してさえいなければの話だけど…自分の身体は勿論、幼少期から色んな人やウマ娘さん達を観察して鍛え上げたこのチートアイに死角はない筈!
おっと、そこの貴方? 警察への通報は何卒お待ち頂きたい。別にこの能力は誰かの裸を透けて見ている訳では無く、人体模型の様に各部位の筋肉や骨が見えるだけだから何も疾しい事はしておりません事よ! だからその手に持った携帯をしまって下さいお願いします!
俺はそのまま、メモ帳の隅々までに目を通しておられるお父上をはじめ皆さんに向けて言葉を発する。
「私は、勝利という結果を確約出来ない様な未熟者です。己を磨き信用に値するトレーナーになれた際には兎も角として、サトノダイヤモンドさんはこれからが大切な時期…娘さんのお気持ちは嬉しいのですが、ここはもう一つご慎重に娘さんのトレーナー選びを──」
「「「──採用だ((です))」」」
「……え?」
突然サトノダイヤモンドさんファミリー全員からそんな一言が聞こえてきて、何とも間抜けな声を発してしまう俺……
えっと…? 俺の聞き間違いかな? 皆さん今、何て仰いました?
「ダイヤが君に感じたモノを、私もたった今ようやく分かった気がしたよ。君になら…君にならッ! 私は安心して娘を預ける事が出来る」
「わたくしも今の主人と同じ気持ちです。ご自身の愛バの身を心から案じ、その上でどこまでも共に歩んで行くという覚悟を持って下さるトレーナーさん。自分の大切な娘を預ける上でこれ以上の人材はいらっしゃらないと思います」
「お父さまっ、お母さまっ、ダイヤは…ダイヤはとても嬉しく思います! 二人も同じ気持ちになって下さったのですね! やっぱり私の直感は間違っていなかった……私のトレーナーさんは貴方! お兄さんしか居ませんッ!」
いやっ、いやいやいやいやいやいやッ!? 何を仰ってらっしゃるのぉぉ〜ッ!? このご家族は〜ッ!?
サトノダイヤモンドさんも眼をキラキラさせながら俺の手を握ってブンブンしてる場合じゃ無いし、ご両親もそれを見て『うんうん』頷いてる場合じゃないですよぉぉ〜ッ!?
「ちょっ!? ちょっと待って下さい!? 私まだトレーナーになれるかすら分からない身なんですよ!? そんな奴に大切な娘さんを任せるなんて…い、一度冷静になられた方が──」
「何を言っているんだ! ここに書き出されている事柄…これだけの情報を見抜く慧眼、的確に施術まで行える技術、既にこれ程の技量を持っている君がトレーナーに合格出来ないなど私は考えられないさ!」
しまったっ、サトノダイヤモンドさんの為にと気合を入れて書きなぐった事が墓穴を掘ったっ!?
い、いや! まだだ! まだ終わらんよ! チート持ちの対応力舐めてもらっては困るぜ! サトノ様よ!
「そ、そうだとしてもですよ!? トレーニング理論などは拙い恐れもありますし…そ、そうだ! わ、私まだ学生ですから? 仮に娘さんの担当トレーナーに就ける事になったとしても時間の兼ね合いが──」
「あら? ここに書いて下さっている負荷を掛けにくいトレーニング方法の数々…ウマ娘であるわたくしから見ても非常に考え抜かれた愛を感じるモノばかりで感服しておりましたのよ。時間の兼ね合いに関しても、我が家に住み込みという形を取って下さればサトノ家一同で全面的にサポート致しますし、貴方のご両親とは先日交友を深める事が出来ましたから、わたくしからご両親に掛け合う事も大丈夫ですよ♪」
そういえば先日のパーティーで何やら交友を深めておられましたねぇぇ〜ッ!! 誰だよ!? チート持ちの対応力舐めるな! とか言ったアホんだらは!?
その時は半ば冗談で外堀が万里の長城で埋め尽くされた⭐︎ とか思ってたけど、今はその城壁の上からひたすらガトリング乱射を撃ち込まれてる気分……難攻不落すぎる何だそのクソゲー……
「……お兄さん、もしかして…だ、ダイヤのトレーナーにはなりたく…ありませんか? も、もしそうなら遠慮なく仰って下さい。お兄さんのお気持ちを蔑ろにしてまで、私はトレーナーになって欲しいとは思っていませんので……しゅん…」
おまけにトドメの追撃。俺の手を包みながらサトノダイヤモンドさんがそう言うと、最後は捨てられた子犬の様な表情をしながら耳までシュンと萎れさせ、おまけに口でも言うという凶悪すぎるコンボ……
お嬢様…そのコンボはズル過ぎませんかねぇぇ〜ッ!? 反則だってそれはぁぁ〜ッ!? こんな事されて断れる訳無いじゃん…もう降参だよ……
「そんな事ある訳無いさ。先日、君に一目惚れしたと言ったあの言葉に嘘はないよ。だから…君のトレーナーとして一緒に歩む事が出来るのなら、俺にとっては嬉しいなんて言葉じゃ足りないぐらいだよ」
「本当ですかっ!? ではダイヤのトレーナーになって下さるんですね? ね? ねっ!?」
「ああ、もちろんだよ。君のトレーナーになれるのなら喜んで」
「──やったぁ〜!!」
さっきまでの表情から一変、サトノダイヤモンドさんはソファから立ち上がると眩しいほどの笑顔を浮かべて、まるで『せっせっせーのよいよいよいっ』と手遊びをする様に両手を合わせながら身体を何度も弾ませる。
完全に言質取られちゃったな〜これは……まあ、この娘のトレーナーになれて心から嬉しいという気持ちは本当だから良いことなんだけどね。
「──では、お兄さん? こうして正式に私のトレーナーとなって下さった事ですし、先程のお約束を…今ここで果たしては下さいませんか?」
「え? や、約束?」
「むぅっ? まさかお兄さん、もう先程のお約束を忘れてしまったんですかっ?」
耳を後ろに倒して拗ねた様にこちらを非難するように見るサトノダイヤモンドさん……
や、約束って──あっ、そうだ。そう言えばさっきそんな約束をしたんだっけな。ここで言うのはちょっと恥ずかしいけど…約束は守らないとね。
「ごめんなさい。えー、改めて…これから宜しくね──“ダイヤちゃん”」
「──はいっ! こちらこそ、これからよろしくお願い致します! お兄さん!」
俺が名前で呼んだ事に心から嬉しそうにしながら返事を返してくれるダイヤちゃん。そんな俺たちの様子を彼女のご両親と御付きのお二人に微笑ましそうモノを見る感じで見守られながら、
俺がダイヤちゃんのトレーナーとして──彼女と共に歩んで日々がここから始まっていくのだった。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
ダラダラと長ったらしく書いてしまいましたが……こうしてまた一人サトノにされてしまったとさ⭐︎
次回は本話で書きたかったキタちゃんとの初会合とトレセン学園入学まで書けたら良いな……という『行けたら行く』の発言ぐらい信用ならない決意と共に、相も変わらず楽しみながら書きなぐって参りたいと思います。