TS転生ウマ娘が曇りながら曇らせる話 作:空色
〇月×日
今日から日記を付けようと思い、まずは自分の過去を書き記す。
「あなたには可能性が残っているの」
幼少期から、よく聞かされた言葉である。
「私たちの無念を あなたが晴らすの!」
聞き飽きて、今でも夢に見る。
「だからこんなところで負けるのは許されないの」
そんな言葉と共によく殴られていた。彼女は、昔はそれなりに優秀なウマ娘だったらしい。今で言うG3のレースにて勝利したこともあるらしい。
しかし、そこから上に手が届くことはなく、その無念を自分の娘へと託したようだ。
よほど悔しかったのだろう、よほど受け入れたくなかったのだろう。よほど 諦めたくなかったのだ。才能がなかったわけではない。
おそらく、必死にやり続け時間と体のリソースが無限にあればたどり着けた。
中途半端に才能があったのだ。だから、諦めきれなかった。結果的に、体を壊した。行き場のないエネルギーは全て自分の娘へと行き、狂気的な英才教育が施され俺は10歳の頃に家出をしたのだ。
前世の記憶というものが、俺にはあり生まれた時からなんとなく、自分が違う生き物なんだということは自覚していた。
目を凝らせば人の能力が数字で見える。前世があり、人間の感性を理解できる。歪な生き物として生まれた。だから、彼女の狂気を加速した。
スターになるほどの才能を持ってこなかった人間が、作った子供もまたそのレベルで収まる可能性の方が大きいのだ。
もちろん親を超えることは可能なはずだ。
しかし、天井に指が届くのかと言われれば、可能性が高いとは言えない。
そんなことは彼女が一番分かっていたはずだが、何せ生まれてしまったのが俺である。
原点にして頂点の間違いは同情してしまったことなのだろう。
7歳の頃に、同世代だけでなく年上のウマ娘をぶち抜いたことが始まりだった。
あの瞬間に自分の野望を託すに足ると予感させたのだろう。
完全な善意によるやらかしだった。
長々と話したが、結論何が言いたいかというとまあだいたい俺が悪かったということである。
そして、こちらが最も言いたいことであるが俺はその上で別に気にしてない。
俺は好きに生きて、好きに終わる。
誰かに野望なんて預けない。俺だけで完結する。
手始めに、将来大成するであろう天才たちをボッコボコにして心をへし折ることから始めよう。
誰が何と言おうと 俺は好きに生きるのだ。
「思い上がりだな。この程度でG1を目指しているのか?頭の中を丸洗いして出直してきた方が良いぞ」
才能あるウマ娘を見つけるたびにホワイトノイズはちょっかいを出していた。ホワイトノイズは、幼少期から受けた虐待にも見える教育によって他ウマ娘よりも遥かにレースで勝てるウマ娘だった。持って生まれた中途半端な才能と教育に加え、能力を数字で見れる異能が少女を強くした。
しかし、それでも残酷なことに本物の天才には勝てないと少女は知っていた。経験するまでもなく能力が数値で見れるのだから当然だ。訓練で上がっていくステータスは同じではない。休息を取って回復できる体力は同じじゃない。行きつく先の上限は残酷で、初めのスタートラインですら格差がある。故に、ホワイトノイズは天才には勝てないことを知っていた。しかし、それは未来の話。未熟な今は違う。
「走るのなんかやめちまえよ!お前じゃ、俺には勝てねえんだからさ!!!!!」
本格的な特訓を行う以前であれば、自分のステータスの方が上だった。狂気的な英才教育と数値が見えるからできる最適なトレーニングのおかげであった。
トレセン学園に入ってからもしばらくは天才たちをボコボコにできていた。『本物』と『化け物』に会うまでは。
「滑稽だな!フリードリヒ伯爵を探してるんじゃなかったのか?自分が主役にでもなった気でいたのかこのナルシストがッ!これが事実だ、テイエムオペラオー。いい加減諦めろよッ!!!!!」
ホワイトノイズの怒声が響き渡る。しかし、怒鳴られている本人の顔は非常に晴れやかだった。
「ボクは何れ至高の頂へ指が届くテイエムオペラオーさ。すぐにでもエチュードを乗り越え、王冠を手にする!そんなボクに拮抗しうる敵である君も最高さ」
「話聞けよッ」
テイエムオペラオーというポジティブの怪物は、ノイズの苦手なタイプ。自分が一番だと信じて疑わないが、かと言って余程のことがない限り他者を貶したり見下したりすることはない。むしろ他者の美点や長所を見つけ出して褒めるのが非常に上手く、自らの超ポジティブ思考と即興芝居に巻き込んで上書きして引っ張り暴れる。
ホワイトノイズは少女を怪物だと認識している。
そして、もう一人。
「マジで勘弁してくれませんか、マヤノ先輩」
模擬レースを終えたマヤノトップガンにホワイトノイズは捕まっていた。ノイズに向かって抱き着いたマヤノは興奮気味に捲し立てた。
「何を勘弁するの?それよりね、ほんとにほんとに楽しかった……!久しぶりなんだよ?レース中に新しいことがわかっちゃったの!なのに中々ノイズちゃんとの差が変わらないの。わかんないことがもっと増えて……。そのぶん、もっともっとワクワクした!こんなにワクワクしたの久しぶり!!!」
死んだ目をしたホワイトノイズは、溜息を吐く。
「それはよかったですね。………最終的に俺はボロ負けしたわけですが」
ステータスではいい勝負だった。すでにデビューしているマヤノと比較してもノイズは負けてはいない。むしろ他のウマ娘を使って削ってから、レースを挑んだので本来は勝てるはずだった。ウマ娘の摩訶不思議能力まで使ったのに。
打ちのめされているノイズ。対してマヤノトップガンは、感じるままの表情と言葉を吐き出す。
「んー……強かったんだけどね?ノイズちゃんって閉じてるのに中身を見てないから、ぐわんぐわんしてるんだよ」
ホワイトノイズは、その先を聞きたくなかった。
「今のマヤ以上に、たくさんできることあるけどプカプカなの!」
少女は顔が引きつるのを感じた。
「だからね、あのね……ちゃんと見つけてきてね?マヤ、絶対キラキラな大人のウマ娘になってノイズちゃんともう一度走りたいから。ユー・コピー?」
自信満々で天真爛漫な少女は、ノイズの心に宣戦布告した。彼女は理解していない。どうしてこうも情緒を搔き乱されているのか。
「………アイ・コピーです」
そう答えるしかなかった。
ノイズはマヤノを本物だと規定し、関わりたくないと思った。
少女にとって、怪物と本物は忌避する対象となった。