TS転生ウマ娘が曇りながら曇らせる話   作:空色

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第2話

模擬レースはウマ娘にとってもトレーナーにとっても重要だ。ここから数年は付き合っていくため、相性も大事だしそのウマ娘を勝てるウマ娘に成長させられるかも重要だ。

 

メイクデビューの時期を考えるとこのくらいの時期から、担当を見つけておきたいと考えるトレーナーは多い。だからこそ、会場には様々なトレーナーがいた。

 

大御所トレーナーや新人トレーナー、勉強と娯楽目的で観戦するトレーナーとウマ娘達。

 

藍色星空という男もまた、ここトレセン学園に勤務するトレーナーであった。ビシッと着込んだジャケット、丁寧にまとめられた長髪が近寄りがたい雰囲気を感じさせる。

 

様々な思惑が交錯する場所に彼女は現れた。

 

スラリと伸びた手足。身長は高くもなく低くもなく。陽光を反射する美しい葦毛と紅蓮の瞳。端正な顔立ち、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。

 

美しいウマ娘だと思い、そして同時にその雰囲気に圧倒される。

 

目元のひどい隈と濁り切った瞳が彼女の美しさを相殺していた。

 

「あれが、ホワイトノイズ」

「とんでもない癖ウマだと言われているな」

「強さは折紙付きだ」

 

レースを娯楽として見ている観客達だけでなく真剣に担当を探していたトレーナーもその存在に視線を持っていかれる。だが、男は少女の刺々しさではなく周囲のウマ娘との距離感が気になった。

 

少女を恐れるように、嫌うように、憎む様に距離が開いているのだ。

 

一人のウマ娘が彼女の元に歩み寄る。

 

「あんた、知ってるよ。ホワイトノイズだろ?半年前に委員長に吐いた暴言を謝ってくれない?」

 

怒気を隠さない少女に向かって、ホワイトノイズは哂った。

 

「嫌だね。どうしてもって言うならレースで勝って屈服させるんだな」

 

ニヒルに笑うノイズに眉にしわを寄せる少女達。

 

「予言してやるよ。ここにいるお前たちはよくでG3止まりだ」

 

空気が凍った。ウマ娘は温厚だが限度や個人差がある。食って掛かろうとしたウマ娘に、ノイズは人睨みをして黙らせる。

 

「鹿毛のお前!スティンガーだったか?お前が2着。シラユキヒメが4着。黒毛が3着。お前は5着、お前は7着。お前は………」

 

ノイズは競い合うウマ娘たちの順位を予想し始めた。辺りが騒然とする中、反論しようとする黒毛に言葉で殴りつける。

 

「文句があるなら結果で黙らせてみろ」

 

そう言い放ってノイズは歩き出す。

 

「ゲートインを確認。スタートッ」

 

模擬レースに実況はない。だから簡素な合図だけがスタートを知らせる。

 

いいスタートをほぼすべてのウマ娘が切る。レース終盤までは順調に進んだ。多少掛かり気味だったウマ娘も終盤には、持ち直している。

 

「馬鹿だなぁ?上には上がいるんだぜ?」

 

ぞわりと肌が粟立つのを少女たちは感じた。そして体が重くなっていくのも。一瞬だった。誰もがノイズを強烈に意識し、感知していたはずなのに気が付けば前にいる。

 

トレーナーとスティンガーだけが気が付いていた。彼女は序盤から中盤にかけ前方のウマ娘を動かしたり、揺さぶったりして削り倒してペースを握っていた。気が付いた時には、少女たちは消耗しきっている。

 

序盤は少し駆け引きをして、後半はステータスで押しつぶす。抜きん出た葦毛の少女に追いすがろうとして、無駄に体力を吐き出したウマ娘はずるずると下がっていく。

 

最終的に、スパートをかける最終コーナーのあたりで完全に大差がついていた。

 

結果は葦毛のウマ娘、ホワイトノイズの勝ち。それも大差での勝利だ。

 

しかし、驚くべきはそこではない。一同が沈黙し、驚愕を露にしているのは着順が予想通りだったからである。ホワイトノイズが予想したものと全く同じ着順。

 

少女達も黙り込むしかなかった。

 

「これが結果だ。断言してやるよ!今すぐレースから足を洗うべきだ。お前らの行く末が予想できる」

 

「ッ」

 

膝をつき肩で息をする彼女達。ノイズは瞳に激情の炎を宿し笑みと共に彼女たちを見下ろし、逆らうことを許さない絶対的な威圧を向ける。ドクンと抑えきれない音を上げて彼女たちの胸が震える。

 

「俺程度に勝てない時点でお察しだ」

 

誰も否定の言葉を吐きだせない。一位を取ったノイズの断言、着順を予想したことに加え、有り余る激情がトレーナーにすら反論を許さない。

 

レースの後、多くのトレーナーが彼女に声を掛けようとして、諦めていく。唯一、藍色だけは彼女に接触しようと主思わなかった。自分は非凡なウマ娘を育てる器ではないと知っているから。

 

この一件は、トレセン内でも有名となりノイズの問題児さを象徴する出来事だった。

 

 

 

 

 

 

「やりすぎだ」

 

講義室より少し狭い生徒会室。その部屋には現在2人の人間がいた。一人はホワイトノイズ。その向かいに腰かけ真剣な表情をしているのは、焦げ茶色の鹿毛に、三日月のような白い一房のメッシュを垂らしているウマ娘、シンボリルドルフだ。

 

「………君は何故他の子を傷つける言動を取るんだ?」

 

「俺は事実を言っているだけですよ。トゥインクルシリーズ、中央の魔界に呑まれて壊れる人間が減るようにね」

 

「………ホワイトノイズ。君の生き方はあまりにも生き急ぎ過ぎだ。既往不咎。これからもこのやり方を続ける気か?」

 

「ああ、俺は自由に生きる。俺は好きに生きて、好きに終わる。それだけだ」

 

譲らない。ノイズの意志にルドルフは顔を顰めた。きっと、彼女は晴れやかな表情をしているつもりなのだろう。しかし、感情をごちゃ混ぜにし過ぎて泣き方がわからない子供が、自分に言い聞かせているようにしか見えない。理事長を含め、ルドルフや一部のウマ娘は彼女の過去を知っている。だからこそ、気軽に深く切り込めない。

 

過去の言葉が呪いになっている。ホワイトノイズは一人部屋なのだが、時折アグネスデジタルや寮長が様子を見に行くと魘されているそうだ。保険医からも不眠症の傾向があると言われている。

 

事情を知れば知るほど、ノイズの振る舞いが痛々しい。

 

「その目はやめろ」

 

「ッ!」

 

「お前は俺の過去を知ってるんだよな?流石だぜ、シンボリ家。名家様は何でも知ってるな。だけど、俺を可哀そうな目で見るのはやめろ。それは強者の驕りからくる憐憫だ」

 

「………」

 

とっさに何も言い返せず、ルドルフは奥歯を噛み締めた。相手のそれは偏見でもなく、率直な印象を零しただけだと理解しているから。

 

「………別にあんたを責める意図はないぜ?ただ訂正させてほしい。あの人は何も悪くない。中途半端に夢を見せた俺が始めたことだ。無念を知っていながら、勝手に同情して勝手に夢を見せて、勝手に追い詰めた………俺が悪い」

 

それは違うと、否定することは簡単だった。だが、ルドルフにはできなかった。同時に、彼女は見て取る。ノイズの母への情を。おそらく、始まりは母を喜ばせたい娘の健気な頑張りだったのだろう。しかし、いつしかそれは激情を呼び起こすことになった。ホワイトノイズは保護された時点でひどい怪我を負っていたと記録されている。それでも、彼女は母を庇ったのだそうだ。

 

夢を見せたのは自分だから。彼女の苦悩を理解できるから。責めないで欲しいと。

 

何て皮肉な強さだろう。当時僅か10歳の幼女であった少女に尊敬の念すら覚える。

 

どうにかしてやりたい。だが、自分から助けてくれと言わない少女を助ける術をルドルフは持たなかった。

 

「皐月賞」

 

「ッ!」

 

「天才を組み伏せて必ず、俺が勝つんだ」

 

ホワイトノイズは、無表情で機械のようにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

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