TS転生ウマ娘が曇りながら曇らせる話   作:空色

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感想、評価、ありがとうございます。


第3話

〇月×日

メイクデビューまで一月を切った。今の自分のステータスを残していこうと思う。

 

スピード 300

スタミナ 200

パワー 270

根性 400

賢さ 300

 

ここのトレーニング器具を使えれば、さらに強くなれるとは思っていたが想像以上だ。幼少期からの分を加味しても割と強くなった。ただ、数値の上がり方は平均並み。いつか、天才たちが俺を追い抜いて行ってしまうだろう。クラシックの序盤が勝てる限界ラインだろうなと思う。

 

〇月×日

俺の交友関係は広くない。普段の行いで排除してしまっているのもあるが、普通に俺が怖いらしい。

 

そんな俺と会話をするウマ娘は6人。アグネスデジタル、マヤノ先輩、テイエムオペラオー、メイショウドトウ、生徒会長、シラユキヒメだ。俺が歓迎しているのはアグネスデジタルとシラユキヒメだけなので他は勘弁してほしい。特にマヤノ先輩とオペラオーは半径一メートル以内に来ないでくれ。怖い。ちなみに、もう一人交友関係が増えた。怪しげな男のトレーナーだけど。最悪これでいいかな。

 

〇月×日

メイクデビュー戦は突破して、次のレースの予定は芙蓉ステークス。ここで慣らしを行ってから、G3である京成杯に出る。そして、来年の皐月賞で勝利する。ここからはスピードに焦点を当てて訓練する。でも、決して本気は出さない。油断を誘って戦う。勝つのは俺だ。

 

 

 

 

 

「これどうなってるんだ?」

 

「おはよう、トレーナーカッコ仮」

 

京成杯の当日。控室で転がっているデジタルを見て、トレーナー契約をしている藍色は困惑の声を上げた。

 

「名義を貸してるだけだから間違ってないが、ややこしいから周りには言うなよ」

 

「それでなんだっけ?ここにデジタルがいる理由?」

 

「気絶している理由だ」

 

「早めに控室に着いたから寝ようと思って、デジタルを呼んだ。デジタルをしばらく抱き枕代わりに仮眠。デジタルはいつもの発作だと思う」

 

ノイズは癖ウマとして有名だが、アグネスデジタルはそれを凌ぐ知名度をトレーナー界隈では持っている。ウマ娘たちの萌えと尊みに溢れるトレセン学園での生活を、悶え、気絶し、時には奇声を上げながらエンジョイしているデジタルは、トレーナーの中でやべーのがいると知れ渡っている。

 

「これがアグネスデジタルか」

 

競技者としての素養と持ち前の観察眼から、他者のパフォーマンスの変化には敏感で、良くも悪くも正直者であるがゆえに、相手の不調をおっかなびっくり言い当てトレーナー界隈をざわつかせた少女でもある。

 

「…いや、待て。アグネスデジタルを抱き枕にしていた理由がわからない」

 

「デジタルを抱き枕にすると寝れるんだ。睡眠薬を使えない日はこれが一番いい………そろそろ、レースの時間だ。走ってくる」

 

出ていく少女を見て、変態と取り残された藍色は溜息を吐いた。

 

「自由で不自由な子だな」

 

 

 

 

中山レース場を選んだ理由は、皐月賞に備えてだがもう一つ理由がある。

 

「ここがあの人が最初に走った場所か」

 

小雨が降り止まず、地面は濡れている。

 

ノイズの口調はのんびりとしていたが、自分の頭をぐしゃぐしゃと片手でかきまわすその仕草はイラついているようにも笑っているようにも見える。

 

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

しんと静まり返る一瞬。

 

高まっていく緊張。ぐぐっと自身の集中力が撓み、一段階上に昇華されゲートの中、少し先の解き放たれる刻に指が触れ、肌が逆立つ感覚。

 

『一気にスタートを切りました』

 

ホープフルステークスにて、勝利したアドマイヤベガのステータスと今のノイズのステータスは多少ノイズが上なだけ。

 

しかし、それで十分。アドマイヤベガはおらず、このレースに得ているのはノイズに勝てないステータスのウマ娘ばかり。

 

『いぜん先頭は四番―――――』

 

ステータスの強さがすべてではない。コーナーが得意。直線で加速できる技量。位置取り。勝利に貢献する条件は色々だ。しかし、その点についても問題はない。様々なスキルを身に着けるには、彼女たちはまだ未熟。クラシック初期では相手にならない。

 

(コーナーで上手く曲がれなくて怒られたな。レース運びを身に着けるために何度もレース場に通った。直線で末脚を発揮できずに、よく殴られていた。あれは痛かったあ)

 

『ホワイトノイズ!ここで抜け出した!最終コーナーを曲がり加速!加速!加速』

 

数多くのスキルを幼少期から叩き込まれた。身体に限界が来るまで。

 

『中山の直線は短いぞ――――――』

 

「ホワイトノイズゥゥゥ!」

 

後ろから雄叫びと共に追い上げてきたウマ娘が一人。誰だか知らないが、加速し始めるのが遅すぎる。まあ、それでも速さ勝負になればノイズには勝てないが。

 

『ここで抜け出した十三番スティンガーと三番ホワイトノイズ、最後は二人の鍔迫り合いか!しかしスティンガー追いつけない!徐々に徐々に距離を詰めるが、間に合わないか?』

 

「くだらない」

 

無感動にゴール板を横切る。

 

『ゴール!!!勝ったのは三番ホワイトノイズ!』

 

心臓の音と流れる汗を不快に思いながら、少女は観客席を漠然と眺める。それは誰かを探しているようだった。

 

「ざっけんな!」

 

そんな大声で、ノイズの意識は引き戻される。

 

「そんなに私は力不足かよ?弱い奴に勝っても退屈なままですってか!そんな目で勝ってんじゃねえよ!!!!!」

 

スティンガーがノイズに向かってあらん限りの声で叫ぶ。

 

「別に喜んでるよ。ただ、お前の感性と俺の感性は違う。被害妄想で俺を語るな。気に食わないなら強くなれよ。下地はあるんだから」

 

本音だった。嫌がらせではなくただの本音。ステータスを見ればわかる。少女は、自分よりも強くなると思った。だから、それを忠告した。

 

それが相手に受け入れられるかとか、そもそも意図を理解してもらえるかとかは別の話だが。

 

「今回たまたま勝ったからって調子に乗んなよ!次だ、次こそ私が勝つ。首洗って怯えとけッ」

 

「俺に拘ると足元をすくわれるよ」

 

どうせ俺はシニアになれば、天才に追いつけなくなるから。ノイズはそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………寝れなかった」

 

ホワイトノイズはため息を吐いて、布団から出て食堂に顔を出した。

 

まだ朝早い時間だけあって人は、片手で収まる人数しかいない。ノイズはうどんを頼み中央の席に座った。

 

しばらくしてとある少女が話しかけてくる。

 

「座っていいかな?ノイズさん」

 

四人がけのテーブルを一人で使っているノイズに正面から近づいて声をかけたテイエムオペラオー。うどんを口に入れたままノイズは顔を上げた。そして、じゅるりと吸い込んでもぐもぐ口を動かしていた。最後にゴックンと飲み込むと

 

「嫌だが?」

 

「ハハハ、照れなくてもいいんだ!では失礼」

 

オペラオーはその返答を真に受けず正面に座った。

 

「無敵か?」

 

「よしてくれ、照れる」

 

「…もういいや」

 

早く食べて帰ろうと箸を進めるノイズにテイエムオペラオーは待ったをかける。

 

「いよいよクラシックの幕開けたるG1が始まる。ボクの伝説の始まり。序章となるレースさ。君も出走するのだろう?」

 

「皐月賞か………そうだな」

 

「どうかな?君の眼はトレーナーたちが自信を無くすレベルだと聞く。勝つのはボクに変わりはないが、注目している子はいるかい?」

 

ノイズは僅かに考え溜息を吐きながら、あらかじめ購入し持ち込んでいたペットボトルを開けて口に運ぶ。

 

「アドマイヤベガ、ナリタトップロード、テイエムオペラオー、俺が口を出しても折れなかった馬鹿だ。アドマイヤベガには何も言っていないがあれは強敵だな」

 

ノイズの視界には、自分と強敵のステータスが見えている。

 

ホワイトノイズ

スピード 590

スタミナ 370

パワー 400

根性 480

賢さ 320

 

テイエムオペラオー

スピード 520

スタミナ 480

パワー 460

根性 400

賢さ 380

 

奥歯を噛み締める。想定よりも成長が早い。疲労が色濃く見えるとはいえ、ここまでとは思っていなかった。

 

「ボクの観察眼に狂いはないようだ。同じ意見だよ」

 

「そうか。話は終わりか?それじゃ俺は部屋に帰る」

 

立ち上がって去ろうとした彼女を止めずに一言だけ問いを投げかけた。

 

「最後に一つだけ聞いてもいいかい?そのプレリュード真っ赤だけれども、辛いのが好きなのかい?」

 

「………まあな。昔は嫌いだったんだけどな」

 

ノイズは辛いものを好む。刺激がないと食べている感じがしないのだ。しかしそれを深く語らずその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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