スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
サイト2『あんしんライフファクトリー』の頂上。サイト内で一番高い貯蔵タンクの上。
そこからアタリメ老人の発信機に近い波長が検出された。
「普通のヤカンと違って強固な防備だし、いかにもって感じ、おじいちゃんかも!」
1号がそう言ってはいるが、なんとなく違う感覚がするとやつは言っていた。
いわく、『ヒトじゃなくて、イイモノの匂いがする』らしい。
こいつの鼻が確かな利きなのは、この9ヶ月で十分すぎるほど証明されている。俺個人としてどちらの言葉を信用すべきかは明白だった。
「……すりみ連合の言っていた『オタカラ』という可能性も有ります。その場合、戦闘になることは避けられません」
「あの人達の戦うのかぁ……」
1号はため息をつく。さすが本心からかっこいいと感服しただけあるといおうか。
「ワタシもそう思う。今のインナーだけじゃ心もとないかも知れないから、とりあえずワタシのスーツ使って」
そういって渡されたのは司令がいつも羽織っている白いジャケットスーツ。とても強いこだわりをもって作り込まれたことが一目でわかるスーツで、高い機能性に柔軟性、防御防寒性能はもちろんのこと、装飾の階級証に至るまで精密に作られている。
少し場違いな柔らかい匂いが無かったら、それがコスプレのためのものだと気付くことはできないだろう。
「いいんですか? これは司令の……」
「いいの、今新しくスーツ作ってるけどそのためにミッションを待たせる訳には行かないから」
「それくらいなら待ちますけど」
「オタカラかもしれないけど、元司令かもしれないでしょ?」
司令の目は人を心配する目で、俺のことなど全く見えていないように見える。
自分勝手だなと思いつつ、俺も同じ立場ならそこまで配慮が回るはずもないとも考えた。
だからそれ以上の反論はせず、スーツを受け取ってヤカンへ向かうことにした。
「……壊さないようにしますね」
『この先は関係者以外立ち入り禁止です』
イルカはそう告げて俺を無菌室に閉じ込めた。 早急に立ち去れということだろうが、ああやって押し出された以上は退路などなく、オタカラだろうとアタリメ老人であろうとこの先を調査しなければいけないのだから、止まる道理はない。
俺はイルカの制止を振り切って、ロックのかかったゲートに拳を振った。
ゲートは老朽化していたのか簡単に砕け、代わりにその破片が周りに飛び散って手に軽い怪我をする。
この程度は前なら日常茶飯事の事だったから、さほど気にせずゲートの先を通り広間へスーパージャンプした。
広間に降り立つと奥手には、確かに周波数の近い反応を出すモノがあった。
「あれは何かのフレームか?
「きゅお……!?」
フラッシュバック覚悟でやつにつけられた名前を呼べば、相手は激しく動揺し理由を求めてきた。
「……名前をつけられているのに『やつ』って本人に対して呼ぶのはさすがに失礼だし、しっくりこない」
「くくおう……くおりかうりか?」
「15万くらい……業務用機械のパーツとしては悪くはない、か」
上から降る高い声のほうへ顔を向けると、黄色の髪に特徴的な開かれた目、アラビアン風の衣装に木製の仮面。
見間違えはしない、すりみ連合のウツホだ。
彼女は空中で宙返りを2,3回披露しながら姿勢を低く構え着地した。
「予想通り出やがりましたね」
「相変わらず反応が薄いのぅ、最近の若者はつまらんわ」
「あなたも若いでしょう?」
痛いところを突かれたのか、一瞬硬直した後ウホンと咳払いをし話を切り直す。
「ところでお前さんら、ワシらの手下にならんか? ウデもたつようであるし、ただ追っ払うのはもったいないのでの。もしなってくれるようならオタカラを半分分けてやってもよい」
「オタカラを、ですか」
「どうじゃ?」
確かにウツホの提案は悪いものではない。
反応全てがオタカラだと仮定し、それぞれの相場が同じようなものなら45万。それの半数で22.5万なのだから。
しかし、今現在の寝床・食事保証で30万の状況から考えるとすべてが劣っていた。少し前の俺なら飛びついただろうが。
返答は沈黙してシューターを向けることだった。
「……流石はバンカラもんじゃな。そうじゃ、余計なゴタクはいらん! コブシで語ろうかの!」
ウツホは後ろへ飛び退くと、衝撃とともに身長の3倍はあろうかと言う立方体が現れる。
その上に乗ってウツホが笛を吹き「カモン、イエローウツボ!」と号令すれば、箱から多数の黄色いウツボが顔を出して吠えた。
「あれはタコツボックスのぬけがら!? しかもそれをピエロの球乗りみたいに……! 気をつけて3号!」
司令は驚愕の声を出し、俺に警戒を促した。
確かにあれだけデカい立方体で大道芸じみたことをやられれば警戒する。それで突っ込んで来るならなおさらだ。
「ふ、まずは小手調べじゃ! 三の舞、ウツボ百景!」
箱から黄色いウツボ達が呼び出されると、それらは俺を狙いインクの塊を吐いてくる。
弾の密度はさほど高くはないが、避ければ自分の陣地が追い込まれるから取れる行動に制限がかかる。なるべく早急に撃退したいところだ。
ウツホがあのアンバランスを乗りこなすのは相当だが、それはコマのように回転力があるから。
ならばタコツボキングのパンチみたく、ウツボを打ち返して回転力を失わせるか、あの大道芸人のバランスを崩せば勝機はある。
俺は複数あるウツボの1つにインクをかけるが、それは次の瞬間に煙を吹き跡形もなくなる。
「ニセモノ!?」
「あの大量なウツボからホンモノを探し出すなんてどうすればいいんね……」
「みんな、敵を冷静に観察してみて。何か弱点がないか探すの。『戦場の鉄則』だよ!」
その言葉に動かされてよく観察をする。
背中にいるやつは何か気づいたようで、俺の肩にのって何か叫ぶ。
「『ニセモノは模様がないし、おいしそうじゃない』……? なるほど、そういうことか!」
改めて俺も観察してみれば、目のあたりに黒縁があるものと無いものが存在する。
黒縁が無いものは煙を吹いて消えるから偽物と分かる。
「なら本物のみを狙うのも容易い!」
俺はその宣言どおりに狙撃し、ウツボ達は耐えられず親元へ吹っ飛んで行く。
「コ、コラー! やられたからってぶっ飛んで────ぐわっ!」
ウツボ達の突撃を食らったのか大道芸人はよろめいて、その拍子に回転を保てなくなったタコツボックスは地震のような衝撃を放ちながら、面を下について回転を止めた。
あれだけ激しく箱が揺れて放り出されても、ウツホ自身が投げ出されないのはさすがと言おうか。
回転が止まった箱の側面を塗って登り、三半規管がイカれたウツホにシューターの雨を叩き込んでダウンを奪った。
彼女のタマシイ────俺たちインクリングやオクトリングの肉体が滅んだ際、思考や記憶を保持した発光物体を便宜上そう呼んでいるが、競技用
「ニヒヒ、やりおるな……! ワシらの本気、みせてやろうかの!」
笛を吹けば、先ほどの倍はあろうかというウツボが顔を覗かせた。
舞はさらに激しさを増す。
「 一の舞、
高速回転する立方体から黄色のウツボ達が出現すると、それは退路を塞ぎつつ俺を狙い降ってくる。確実に俺の手札を減らす算段か。
「そらそらぁ!避けて見せぇい!」
ウツボの雨を何とか回避し、ウツボが地面に刺さるが、反撃の暇なくウツボは帰還し次の構えに入る。
「二の舞、ウツボ大渦!」
彼女はそう叫びながら器用に足を使いこなしタコツボックスの回転数を上げる。
その勢いに乗って吐き出されるウツボは箱の周りを高速で塗りながら回転していく。
「このまますりつぶれるがよいわ!」
「……後ろは海、前は大渦。だがウツボが帰還しないとなればダメージは入れられるはずだ」
シューターで確実に前面のウツボを対処していく。幸いにも偽物はすぐに消え去るし本物も与えたダメージは蓄積される。時間をかければ確実に戦えるのだ。
しかし状況がよろしくないのは確かで、補給が効かない状況でシューターを撃ち続ければもちろんインク切れを起こす。
「堪忍せい、もう逃げられんじゃろう?」
「ぐ、この手は使いたくなかったが……!」
力を入れ飛び上がり、スーパーチャクチを行う。いくつかのウツボを吹き飛ばすと同時に、力を入れたときの余力で全身にインクが満ちる。
それで残りをなぎ払って見せれば、ウツホは予想外と言いたげに体制を崩し、俺に爆散させられた。
再び身体を取り戻したウツホはついに逆上したようで、プッと青いインクを口から吐いて叫ぶ。
「気をつけて、追いつめられたヒトは何をしでかすか分からないよ!」
「正気の沙汰で無いのは見れば分かります!」
司令に口答えしてしまったと気づいて謝罪を口にしようとしたが、俺がそれをする暇はなかった。
「終の舞ッ! ウツボ大転身!!」
目の前からおぞましい量のウツボが眼前に迫って来ていたから、謝罪よりもそちらの対処が優先された。
「この大波、乗りこなして見せよッ!」
「……ぐっ」
しかし、こちらは破損しているシューターで弾の発射間隔が遅くなっている。
1秒2発程度の遅さでは捌ききれないのは明白だった。
目の前が黄色に染まる、これはダウンをとられたか?
俺は目を閉じた。
俺の意識が飛ぶことはなくしっかり足を踏み込んでいる。
普通ならあれだけのインクを受けてしまうと、身体が水ポテンシャル差に耐えきれず爆散する。
それでタマシイにならず踏みしめているのは、どこかが普通でない事を表していた。
「なっ……何故じゃ!? 確かにワシらが押し流したはずじゃが……!」
「生きている……?」
スーツに取り付けられた通信機からは司令の得意げな声が聞こえる。セリフだけで勝ち誇ったような顔を想像するのすら容易い。
「そのスーツは特別でね、ただのリバーシブルジャケットに見えても薄い特殊プロテクターが何重にも重ねてあるの。その程度の攻撃くらいならあと3発は耐えられるよ」
「なっ……なんじゃとぉ!?」
改めて俺は司令の技量に驚かされる。
インナーの時点で特殊金属を埋め込む高度な技術により、運動性や耐久性などが飛躍的に向上したのもそうだが、ここまで頑丈なプロテクターが目立たないように仕込まれているなんて誰が予想できようか。
「ダメだと思ったら下がって深呼吸。1回で全部倒そうなんてしないで大丈夫だから、無理そうならよけて。3号」
「了解しました、すみません」
「謝らないで、後ろから来る!」
その号令で俺は後ろを向く。2度目の大波が迫ってきていたから構えて横にずれた。
先程は対処に追われて全く気付かなかったが、ウツボの群れ自体はさほど速くなく方向転換も効かないらしい。
前面からでは難しくとも横から対処するのは可能だろうと見えた。
次の波を避けて、横から確実に数を減らす。
そうすれば本物をあぶり出して撃ち返すことだってできた。
「ほぎゃ!?」
これは憶測に過ぎないが、1度ウツボを帰還させれば偽物は復活するのだと思われる。
しかしそれを彼女がしないのは、頭に血が上りもうすでにそれが選択肢からはずれているからだろう。
司令の声で冷静さを取り戻した状態ならば、ここまで視野が広がる。
「……いや、まずはウツホの対処が先だ」
「ぐわーっ! バランスが!」
彼女の体制を崩して立方体の回転を止める。
回転を止めたタコツボックスの口にやつを投げ入れて、箱の上に登る。
「勝負あったのぅ……ここはワシらの負けじゃ、撃つがよい」
スパークの走る箱の上で、潔く負けを認めた彼女をロックオンしシューターで撃つ。
しかし箱の限界の方が彼女を爆発させるより先に来て、俺たちもろとも吹き飛んだ。
オタカラの前に着地し、それを