スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
パイプを抜けると見えるのは、剛毛に覆われた居住エリアと見える場所。
かすかに見える地面は凍結した地面────鏡面ガラスで造られた偽物の氷がある。
インフォメーションシステムは、サイト3のこの場所を『ながいきヤングニュータウン』と称して、後は黙りこくった。
「……つくづく変な名前の場所だな」
その呟きが司令には聞こえていたらしく、問答に答えるように持論を展開した。
「3号、これはワタシのカンなんだけど……ヒトの祈りみたいなものなんだと思う」
「祈り?」
「オルタナログとかみるとそう思う。ここは逃げ延びたヒトにとって残された最後の場所、ならそうあって欲しいって願いとか祈りとかが名前になる気がするよ」
「願いに祈り、ですか」
──かつて、重ねくる災厄に民は恐れおののいた。
しかしその災厄は慈悲を見せた神竜によって退けられ、神竜は光とともに空へ去った。
以来、その神竜への感謝と祈りを一番近い場所で捧げられるように民は熱心になり、雲を突き抜け空をみるような塔を築いた。
名を『空の柱』と言う────
そういえば俺が好きな小説にも、そんな願掛けじみた名前の場所があった。
オルタナログが信用に値するかどうかは別にして、今ある事実から仮説を立てることは可能だ。
それに、この場所に名前として願った人類を笑うことは、今の俺の想いを否定することになるだろう。
偶然決まったやつの『ブラスト』という名前に嫌悪感を感じたり、呼ばないことを失礼だと思ったりするのは、その名前に少なからず俺の想いが染み込んでいるからだ。それを笑うのか?
「悪くない、と思います」
「でしょ?」
自問自答をして結論が出たから、司令にそう伝えてヤカンを開けた。
ゲートをくぐって前へ飛ぶと、視界がなかなか騒がしかった。
複雑な建物に多数のタコトルーパーがおり、それが一斉に俺に向かって敵意を示す。
「わわっ、タコさんいっぱいいるよ!」
「1体ずつ倒していけば平気じゃね?」
1号2号の会話通り、まずは一旦退いて深呼吸。そのあと倒す順番を見極めて、引き金を引きながら前進する。
多数とは言ったが密度が高い訳ではなく、適切な距離を保ちながら各個撃破していけば難はない。
頂点へのルートを確保して、そこからスーパージャンプで向こう岸へ。
向こう岸には1つ谷を挟んで同じような組み上がっている構造物に柱。そして多数のタコが確認できる。
密度が高いので各個撃破が難しい事だけが先程との違いだ。しかしそのささいな違いは心理的なものに大きな影響をもたらす。
個人的に過密からなる圧迫感は好きではない。
それに押しつぶされて圧死してしまった例を知っているし、俺もその感覚に殺されてしまいそうになるからだ。
「くおう! くおう!」
フラッシュバックと音声を中断して割り込んできたのはやつの、ブラストの声だ。
近くにあった木箱を食い荒らし、中から強化アーマーとスペシャルカンヅメを見つけたようだった。
「あ、それは『アメフラシ』じゃないかな? インクの雨を降らせてタコたちをなんとかできるかも!」
「……なるほど、ではそれで一掃を図ります」
俺はカンヅメのままシューターに組み込む。スペシャルウェポンが換装され、アメフラシの装置が使えるようになったからすぐに取り出して投げた。
すると投げた装置は上空に飛んで飛散し、黄色の雲を形成する。
雲はゆっくりと前へ進みながら小さなインクの矢をいくつも降らし、前にあった威圧感の塊を溶かしていった。
そしてそれらがタコトルーパーの大群であったことを今更認識し直して、正気を取り戻した俺は殲滅しきらなかった残りをシューターで撃ち抜いて次へ向かった。
最終のチェックポイントを切り目の前に現れた細い上り坂を上る。
上は薄い板のようなコンクリートに坂の出口を設置したような構造で、上りきった途端に後ろから敵弾が集束したから軸足をかけて反転すれば、こちらに迫ってくるタコトルーパーが視界を埋め尽くした。
その光景に反応して苦いものが口から出そうになるのを耐えつつ距離をとる。
後ろにあるマルチミサイルカンヅメに気づけたのは、ブラストの鼻の良さだろう。ともかく助かった事には違いない。
俺はそれを開けて中から現れた5連装バズーカとも言うべきものを2つ、両手に構えて肩で支えながら引き金に指を置く。
「これで終わってくれよ……!」
ロックオンサイトに入れられるだけの敵を捕捉して、力の限り引き金を引く。
前から迫った茶色は轟音と共に極彩色に変わり、道が黄色に染まりながら開けた。
俺はこの場からさっさと逃げるべくスーパージャンプポイントからゴールへ向かい、気絶するように帰還した。
「……う~ん、やっぱりナニかありそうなんだよね~」
テントで休憩をしてくる、と3号が言ってシオカラキャンプへ戻っていくのを見届けた後、1号がつぶやいた。
「4号に似て基本ドライよね。なんか抱えてそうだけど」
2号も2号でなにかの違和感に気付いているようで、それをまぎらわすためにカサをくるくると回す。
3号、カトレア君の様子が変だ。
変というより、最初からそうだったって方が正しいかもしれない。
「2号は4号に似ていると言ったけど、それは多分違うよ」
「なんね?」
「4号は慌てても騒いでも仕方ないからって、ワタシとは反対にいつも冷静だよ。でも、3号は違う。あれは冷静じゃなくて、何かあって諦めているんだ、と思う、多分だけど」
「司令、さすがにそれは失礼じゃね?」
「でもでも、司令の言いたいことはアタシわかるよ! 前、3号を『欲がない』ってからかったらマジメに返されちゃったし、なんだか必要以上にいらないっていうか……」
「『足るを知る』とは言うけど、言われると4号は普通くらいにあったな、欲」
「うん、つまりそういうこと」
例えば無理難題をかけられたときに、4号なら呆れ顔しながらでも「何か方法があるはず」って解決策を探すけど、3号は「どうしようもない」って言うんだ。
もちろん、最初から諦めちゃう訳じゃないと思う。元司令がどこかに連れ去られて捕らわれてるってわかったら、身体に限界が来てて倒れても何とかしなくちゃって気持ちがあって、でもなにもできないで焦っていたから。
────きっと、なにかあるんだ。
ワタシにとっては『伝説のライブ』のような、見える世界をぐるっと変えてしまうようなものが。
「ワタシがダウニーさんに、なれるかな……」
1つの不安をつぶやいて、首をふった。