スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
どこから話せばいいかな。とりあえず最初から?
……わかった、じゃあワタシがNew! カラストンビ部隊になった場所、『ハイカラシティ』に来た頃から話そうか。
そっか、あれももう7年前になるんだね。
「おかあさん、ワタシね、大きくなったらおかあさんみたいにおようふくいっぱいつくるの!」
ワタシには小さい頃からそんな決意があった。
「今ね、最先端のトレンドが『ハイカラシティ』ってところに集まってるみたいなの。うちのキャンピングカー借りて一人暮らししていい? も、もちろんギアの勉強のために!」
そのために1年間、いろいろ準備して15歳の時キャンピングカーでハイカラシティに向かった。
今思えばワタシの性格も合わせて、もうこの時点でヒーローになることはほとんど決まっていたんだと思う。
眩しい青空、輝くイカスツリー、イカというイカでいっぱいな街。
「わあ……! ここがハイカラシティ!? すごい、すごいすごい!」
ワタシにはそんなハイカラシティが最先端の街として輝いて見えた。
実際にハイカラシティは、まだこのときは新興スポーツだったナワバリバトルを推し進めて地域や世界全体に浸透させていったし、それに連動したおしゃれ着がどんどん発展した。
ギアという言葉を「おしゃれ着」から「競技のための装備」に変えたのは、この街だといって過言じゃない。
その街からいろんな好きを、いろんなイカす!を吸収して自分の引き出しを増やそうと駆け回った。
ワタシにとってはナワバリバトルすらそういう勉強の場で、勝敗は二の次だった。
そして街に来てから2週間のある日、イカスツリーの横にあるマンホールからおじいさんが顔をのぞかせていることに気付いてなんとなく入っていったんだ。
「タ、タコが来よる!」
「タコ!? ホントにいるの!?」
ハイカラシティのマンホールから入り込んだ場所はタコツボバレーという地下世界だった。(後々この場所はハイカラシティの真下じゃなく、離れた湖の空洞の中だって知ったけど)
そこでワタシは、ハイカラシティから街の電力源オオデンチナマズが消えたのが、にっくきタコ軍団『オクタリアン』のせいだって事を知る。
「な、なんかよく分かんないけど、みんなの電気を独り占めするのは良くないよ!」
「ィヨシ! 今からおヌシを『New! カラストンビ部隊』3号として任命する! オクタリアンからオオデンチナマズを取り返すのじゃ!」
そんなこんなで、ワタシの興味本位と正義感から3号になったんだ。
「でも、ワタシだって実際にタコを見るまでは信じられなくてさ。初めてあったとき本当に衝撃で、写真まで撮っちゃった」
ワタシはスマホを操作してその写真を出す。
そしてみんなに見えるように画面を置いた。
「……毛が、生えていない……?」
3号が疑問そうにつぶやいた。
写真に写ったオクタリアンのタコトルーパーは、赤いタコ足に白いつるつる肌、それに緑の目と紫のくちびるがくっついている。
ワタシ達にとってタコトルーパーといえばコレだけど、3号は今までケバケバなタコトルーパーしか見たことなかっただろうから疑問に思ってもおかしくない。
「そう、多分オルタナにいるタコ達はケバインクにやられてああなってるけど……もともとタコはこんな感じなの」
「ケバインクに汚染されているのは予想できましたけど、元がこんな感じとは思いませんでした」
そんな感じのタコを倒しながらタコ達に奪われたデンチナマズを回収していった。
途中でアタリメ元司令がタコの親玉に連れ去られて、1号と2号がサポートをする事になった。
イメージ的には今の3号が通信機で聞いてるのとほとんど一緒。2人はワタシと違って芯がブレるなんて事はなかったと思ってる。
いつでも緩いながら的確なアドバイスをしてくれたり、意気込みすぎて凝り固まったワタシをほぐしてくれたりした。
そして、全部のデンチナマズを集めて、タコツボックスとかの『戦略タコツボ兵器』もなぎはらって、最後のオオデンチナマズを親玉から取り返すだけだった。
オオデンチナマズを吸い込んで溢れるエネルギーを持つ黒光りの戦略タコツボ兵器、『タコツボキング』。
そのコックピットに乗り込んでいるオクタリアンの長、『DJタコワサ将軍』!
「オオデンチナマズはみんなの電気! アタリメ司令はワタシたちの仲間! 返してタコワサ将軍!」
「ギギ……ソウイウワケニハイカナイ。コチラハナガイアイダチカデノセイカツヲシイラレ、デンリョクブソクデクルシンデイルノダ」
「なら、New!カラストンビ部隊のワタシたちがアナタを倒して取り戻す!」
ワタシは、覚悟を決めてタコツボキングに駆け出した。
ハイカラシティを困らせるやつはワタシが許さない、そんな考えを抱えもって。
でも、勢いと想いだけで勝てるほどタコツボキングも、タコワサも弱くない。
パンチは堅くて着弾したら打ち返せないし、パンチの速度も速い。
時々襲ってくるインクの重低音『メガホンレーザー』は、当たれば重ね着してるアーマーを一瞬で吹き飛ばしてくるのだから当たるわけにはいかない。
「コレデ、イカソーメンニスル……!」
そして何より巨大なタコ型のラリーボールは、タコツボキングの半分はあるんじゃないかって大きさの爆弾だから、当たったら一撃だ。
それでも負けられないから、息を切らしながらタコワサを追い詰めた。
その時だった。
ワタシの見える世界ががらりと変わったのは。
「ウラミ、ハラサデ……ギ?」
戦場を支配していた重い音楽が突然切り替わって、明るく激しい音楽になる。
本能的に血が騒ぐような音をこれでもかと入れ込んで、聴くもの全てを問答無用で盛り上げる。
「ナ、ナンダコノウタハ!?」
「?るてえこ聞、歌の達シタア、!号3」
「受話器が、逆っ!」
「あっ、ホントだ!」
「ヌヌッ……これは! 聞けば天国、歌えば極楽! 皆さんご存知『シオカラ節』じゃ!」
そういってアタリメ元司令が無理やりナワを弾かせるくらいには力があった。
これならいける、押し切れる。そう思って前を向いたら、その気持ちは一瞬にしてもやにまみれた。
タコツボキングの上でタコワサが、本当に楽しそうに踊っていた。
エネミーボールから呼び出されたオクタリアン達も、どことなく楽しそうで。
言葉は通じない種族同士だけれど、この歌で盛り上がって楽しめるのはワタシ達と同じだった。
タコは絶対に倒すべき敵なのか?
言葉が通じなくてもわかり合えるんじゃない?
種族が違うだけで、根本はワタシ達と同じなんじゃない?
そう思ったら、トリガーが途端に重くなった。
シオカラ節にされるがまま、身体だけが前に進んで問答無用でタコワサを追い詰める。
最後のラリーボールを跳ね返して、タコワサが正面に飛んでくる。
タコ達の長を倒してオオデンチナマズを取り返せば、それでハッピーエンドなの?
もっと違う方法が、もっと違う道があるんじゃないの?
ワタシのやってること、正しいの?
撃ち返すまでの3秒がひどくゆっくりに感じた。
撃ち返したタコワサがタコツボキングに叩きつけられる。
「……タレラヤ、タマ」
「……イ……ナ……ツ……セ」
絞り出すようにタコワサがつぶやいたら、タコツボキングは膨らんで大爆発を起こす。
それに吹き飛ばされて夜の地上に戻ると、誰もいないハイカラシティにオオデンチナマズが帰ってきたニュースが流れて、そのお祝いに静かな曲が流れ出した、
その夜聞いた『マリタイム・メモリー』を、ワタシは一生忘れない。