スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
1年前よりも増えた完成済みの建物が、不規則に並ぶ街に目をやった。
やはり印象的なのは、スパイラルの意匠が組み込まれた黒いタワーの総合スポーツ施設だろう。
1年前は完成しておらず、話に聞けば1階部分だけしかなかったというその施設は、今では国民的スポーツ『ナワバリバトル』が盛んに行われている。
『ステージの確保したナワバリ面積で競う』という単純明快なルールに、奥深い駆け引きのスポーツがここまで人気なのは、ただ競技の完成度というわけではない。
このスポーツにあらゆる企業が参入し、宣伝と次世代人材の発掘を目的に奨励金が選手に出る事実は、今では5歳の子供でも知っていることだ。
しかし、俺にそんな立派な金を受け取る資格はないから、いかに非効率的でもジャンク拾いをしているのだった。
なら、そのスポーツ施設の横にある建物の組織『クマサン商会』の
こちらの問題点は仕事の危険度に見合わぬ報酬と、信頼の不明瞭さにある。
シャケの体内にあるイクラを、シャケのサーモンランという習性を利用し採集する。採取したイクラはエネルギー源にする。といった内容なのだが、まずシャケが好戦的な種族のため狩猟するのは命がけになるのに対し、報酬は人材発掘奨励金の3,4倍。数値にして3千から4千ゲソ程度だ。
これならばバトルを5戦した方が安全でもとも取れるし、そもそも俺の場合は調子が悪くともジャンク収拾で3千以上はいくのだから効率が悪い。
そして何より、採取したイクラとその数倍のパワーを持つ金イクラはどこに行き、どう利用されるのかは詳しく説明されない。
誰も事業者である「クマサン」の顔を見たことがなく、無線機で指示を出すしかしないから、巷ではアングラな所に流れているのではないかとまで言われている。
そういうわけで俺はハイカラ地方に来たときに1回やって、その噂を聞いてそれっきりだ。
「しかし……地下で人を探してるだなんて、いったいどこに……」
先述したとおり、この再開発街は建物が規則無く乱立し、案内表示もなく、おまけにゴミが散乱しているような街だ。区画整理などされているはずもない。
正直に言えば迷子になってしまったのである。
ポケットに入れていた携帯端末が音を発したのはそんなときだ。
「……ラジオ番組? この端末、ラジオが聞けるのか?」
まあ、情報収集は大事だと思ったから少し耳を傾ける事にした。
『────街のエネルギー源、オオデンチナマズが行方不明……? あんなデカいナマズ、すぐに見つかるじゃろ!』
『最近工事ばっかりで、ただでさえ電力不足やのに……大変やねぇ』
『よっしゃ! バンカラ街のみんな、気合いで節電じゃ!』
『エイエイ!』
「街のエネルギー源が消滅……いや、あの言い方だと失踪が近しいか……?」
俺は困惑した。どうもただ事ではない事は分かるが……まさか、その件で人を探しているということなのか?
強く、鋭く、俺の嫌いな気配が。
あいつもそれに気付いたようで、その気配の方向に走り出した。
そいつは下にあったマンホールの上に停止しようとしたが、その図体の小ささから金網をくぐって落ちてしまった。
どうやら気配の出所はここらしい。
「……マンホール、か」
小説とかならばここでクツを脱いで、マンホールに入り込む。その行動を取ると人物は8割方死んでいる……というのがお約束だがそうはいかないのだろう。
俺は死にたがりを自負してはいるが、死にたいとは思っていないはずだし、ここで
お決まりの行動をとるのはやめにして、マンホールに普通に入り込んだ。