スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
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そして始まったオクタリアンの残党調査は、ワタシにとって辛いというほか無かった。
オクタリアンにだって苦しみはある。あの日感じた可能性は間違いじゃない。
なのに一方的に倒すしかなくて、進むしかなかった。
怯えて逃げ出すオクタリアンもいた。
必死に訴えかけてくるオクタリアンだっていた。
それらにインクをかけて手応えを感じるたび、ヒーローシューターのトリガーが重くなっていく。
ヒーローのやる事じゃないって自己嫌悪して、加害者側なのに被害者ぶってることに気がついて嫌になる。
自分に自信がもてなくなって徐々に身体が凍てついていく……
そんな生活が1年半続いた。
「ワタシ達は、なんでタコ達と戦っているの?」
ついにその日、抑えていた疑問は口からこぼれ出た。
「急にどうしたかの、3号?」
「ワタシ、思うんだ、あの時……今は『伝説のライブ』って呼ばれているあの夜は、敵も味方もなく楽しんでいるように見えて」
「シオカラ節が好きな者に、悪い奴はおらんからの」
「なら、なおさらどうして戦うの? そうやってわかり合えそうな気がするのに」
その返答はなかった。
目の前にボーイのタコゾネスが現れたからだ。
襲いかかってきているから、撃たなくてはやられることは理解していた。
「3号、何をしているんじゃ!」
でも、その時指が完全に凍てついてトリガーを引くことができなかった。
だから、その直後現れた何者かに元司令とタコゾネスがさらわれても、逃げ出す事しかできなかった。
New! カラストンビ部隊にとって、司令の不在は指揮系統の乱れにつながる。だから救出しなければ今後の行動に支障が出る。
間に合わせのそんな義務感で司令の位置を突き止める行動に出た。
見当をつけなくちゃならないからって頼ったのは、ダウニーさんの情報網。このバンカラ街だと見かけてないけど、紫のトゲトゲアタマで見た目は少し怖そうなお兄さんって言えばイメージしやすいかも。
そのヒトに元司令の居場所を聞くために、ハイカラスクエアの一角にあるネットカフェで情報を交換した。
そこでワタシはまた、ある事実を知る。
タコ達の軍が統制をとれなくなって崩壊し始めたこと。
軍を抜けた脱走兵が地上へ出始め、この街でタコを見かけるのもそうそう珍しい事ではなくなったこと。
この一連の流れは2年前の『伝説のライブ』による、カルチャーショックが原因だってことを。
端的に言えば、ワタシがタコ達の生活を一方的に壊したんだ。
ワタシの「正義」は、そこで完全に崩れた。
「……もし、ダウニーさんがタコゾネスだったら、ワタシのことなんて見るんだろう。『ヒーロー』じゃないよね……」
「面白いナ」
「へ?」
「『オレがタコだったら』か……もしオレがタコだったら、オマエを『ダークヒーロー』として見るかもナ」
「ダークヒーロー?」
「アァ」
ダークヒーロー、正義の反対は悪だと考えていたワタシには、全く対局にたつ言語が同時に並ぶことに理解ができず、ダウニーさんに強く聞き返す。
「それは、悪なんですか? 正義なんですか?」
「勧善懲悪だけがヒーローじゃねぇと思うナ」
「かん、ぜん……」
「絶対的な正義が絶対的な悪を討つ……そんなところダ」
「もし、オマエがやってる事が『悪』だったとして……それでも戦おうとしているのは何故ダ?」
フッ、と全てが解ったような意地悪い笑みをこぼしてダウニーさんが放ったその質問は、ワタシがものごとを善と悪だけで一方的に見る極端さに、結論づけてカウンターするには十分すぎた。
ワタシは、タコから見たら恐怖の対象で悲願を阻止した諸悪の根元。
それに目を背けていたかったワタシは、改めて突きつけられて直視しなくちゃいけないことに耐えられず、全身が凍てついた。
それを見かねたのか、ダウニーさんは具体例で噛み砕いて『正義』ってなにかを説明してくれた。
少し話が逸れるけれど、ワタシは『スターフェンリル』っていうSFアニメが大好きなんだ。
こことは違う世界、こことは違う宇宙で圧倒的な科学力をもって銀河系を支配しようとする天才科学者。それをさせまいと立ち向かう傭兵達の戦いを描いた作品だ。
この時、ワタシ達視聴者の視点から見ると、宇宙を支配しようとする天才科学者は『悪』で傭兵達は『正義』。
天才科学者は傭兵達に対抗するため別の傭兵部隊を雇う。
だけど、天才科学者に雇われた傭兵にとっては銀河系の支配なんてどうでもよくて、主人公達を倒すために利害が一致している天才科学者に雇われているだけだった。
戦うことは目的を達成するための手段。
『正義』や『悪』なんて、やった結果を第三者が見て勝手についてくる結果論でしかない。
だから、そういうものに囚われず持てる力でワタシがやりたいことをやればいい。
ダウニーさんはそう教えてくれたから、1回余計なものを取っ払って、ワタシがやりたいことを整理して考えた。
その答えは『イカとタコのわだかまりを無くして、前に進むこと』だった。
そのためにはタコゾネスも司令も助け出して、その事実で司令と将軍を説得する。
そう決意して、2人が連れ去られた地下鉄施設『深海メトロ』へ向かった。
「深海メトロ……って25年前くらいに廃業した地下鉄じゃなかった?」
「2号の言うとおり深海メトロはそれぐらい前に廃業してる。改造されてタコの軍事施設になってたけどそれも放棄されて、今はそこで働く車掌さんが管理してる」
「それにしても、司令が……あのカエデちゃんがそこまで考えてこんでたなんてびっくりだよ。アタシならそこまで回らないもん」
「ノーテンキなワタシだけど、こういう事に関しては考えなしに動く訳じゃないよ」
「……自分で能天気っていいますか」
そうして乗りこんだ深海メトロ(特にその上層)は『ネル社』という組織によってのっとられていて実験施設になっていた。
真っ青に『消毒』された生きていないタコが襲いかかってきたり、その実験に付き合う被検体をミキサーでミンチかスムージーかにして相手を消毒する『ネリモノ』にしたりと、とにかく危ないモノに溢れていた。
2人がここに連れ去られたってことはどういうことなのか、その事実を知ったときに察しがついたから施設を迷わず走り抜けた。
ネル社管理施設の最下層で非常シグナルを受け取ったワタシは、意を決して跳び蹴りを繰り出す。そうすると今にもミキサーでミンチにされそうな2人が助けを求めていた。
ミキサーの上で悪さをしているデンワこと『タルタル総帥』を蹴り飛ばして助け出した。
そして、タコゾネスのハチ君とテンタクルズ(今だとゼンゲン・テッカイとかサイタン・ケーロとかを歌ってるアイドルユニット)はワタシが蹴り飛ばして開けた天井から、ワタシは司令がスーパージャンプできないからと別経路を探すこととにしたんだけど……
「オ、ノレ、海産物……ガガガッ!」
ワタシが対応するより早く、デンワに詰められていたネリモノインクをかけられ、ワタシは洗脳された。
自分の身体なのにコントロールが効かないって状況は、普通ならとても怖いことだと思う。
だけどその時のワタシは、ヒトを助けられた安心と彼の目的を知ることに必死で、それを思わなかった。
だから洗脳されても意識が保てたのかもしれない。
「────ワタシの身体を使ってアナタがやりたいことは何!?」
『我ノ目標ハ……太古ノ昔ニ滅ンダ、ニンゲンノ復活ニアル』
意識の中で問答をして、タルタル総帥はワタシ達をこの世界から消し去って、大昔に滅んだ「ニンゲン」を復活させるため、各地からタコをさらってはネリモノにしたり消毒したりと準備を進めていた事を知る。
「それで、ワタシはそのための兵士?」
『理解ガ早イナ、光栄ニ思ウガ良イ』
「残念だけど、それはないかな」
『何故ダ?』
「ワタシだって意志がある、やりたいことがあるから人形にはなりたくない」
『貴様ノ理想ダト? 愚カ者ノ理想ナド、クダラヌ事ニ過ギヌ』
「くだらなくていい!」
『ナッ!?』
「ワタシが成し遂げたいことは……イカとタコのわだかまりを無くして、前へ進む事!」
ワタシがそう叫んだとき、ハチ君はワタシを撃ち抜いて洗脳は解けた。
みんなで施設を抜け出してあとは、テンタクルズのヒメさんに送ってもらって終わりというわけにも行かなかった。
「我ガ名ハタルタル、博士ノ遺シタ人口知能……」
「アナタはあの時の声の………!」
逃げ出した施設はタルタル総帥が世界をネリ返す為に用意した巨大兵器、『ネルス像』となってワタシ達に襲いかかる。
「我ハ博士ノ命ニヨリ、12000年ノ間貴様ラノデータヲ収集シテイタ……」
「同ジ過チヲ繰リ返サヌヨウ、カンペキナ世界ヲ作リ上ゲル為ノ新人類ノ種、ソレガ貴様ラ実験体ダッタノダガ……貴様ラニハ心底失望シタ! 」
「サァ、ネルス像ヨ……全テヲネリ直シ、今一度我ガ創造主『ニンゲン』ノ世界ヲ取リ戻スノダ!」
タルタル総帥はこの世界に絶望していた。
12000年の孤独の中、過ちを繰り返さないように未来を望んで動いていた。
違う方法で違う未来を望んだくらいしか違いは無かったんだ。
それでも
「何故貴様ラハ戦エル? ソノ先ニ未来はナイト言ウノニ」
「ワタシは、ワタシ達は……」
ワタシには彼が、思考を止めて鬼神になったもしものワタシに見えたから、ネルス像を止めることは絶望を塗り替えるナワバリバトルだって思ったんだ。
「新世界ノ一部ト……ナルガ良イ!」
『マ゛ーーーーーーーーーーッ!!!!』
『最大出力!
ネルス砲から放たれた絶望の波を、ワタシ達は希望と可能性をこめた波で押し返した。
だけどそれが正しいことだったのか、それで『総帥』は救われたのかは今でもわからない。
だからこそ今のワタシにできるのは、信じた未来を進み続けることだけだと思っているんだ。
それだけは、今も変わらない。