スプラトゥーン3 return to the beginning   作:キール・フェストリー

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一線を越えて

それからはまず、自分のブランド『KⅡ』を作ってそこに身よりのないハチ君を招き入れた。

ワタシはそのとき考えもしなかったけれど、ハイカラ地方で多分初めて、タコをビジネスに招き入れたっていうのは大きな意味を持ってた。

だからその傍らでやってたアタリメ司令とタコワサ将軍の和解も、具体的な事実を示して交渉することができたんだと思う。

 

「────だから時代に囚われてずっといがみ合ってるのはダサいよ!ハイカラスクエアとか脱走したタコ達が出てきてるけどあんまり気にしてないみたいだし」

「ギ……ダガ、チカニオモイイレガアルモノモイルシ、ソモソモチジョウニソレホドノトチガアルノカ?」

「その点は大丈夫。私はお姉ちゃんから話を聞いた程度だけれど考えてみたから」

「何を考えたんじゃ、4号?」

「まず、地上の方は今再開発が進むバンカラ街ってところだったり、私達の家の近くのヒラメが丘団地もサステナブル開発計画が持ち上がったりしているから、土地については問題なし」

「さすてぃなぶる?」

「持続可能な、って意味らしいです。司令」

「デンリョクモンダイハドウナル?」

「地下に残る人への電力はデンチナマズを増幅するコンデンサーを作って対処する。私と協力してもらうイイダさんには件のことを話して承諾貰ってる」

「イイダ=マリネノキョウリョクカ。アリガタイ」

「あ、もしいろいろ困ったらオオデンチナマズ盗ってってもいいよ。ワタシ達があとで回収来るし」

「……いくらなんでもそれはやりすぎじゃ、3号」

これをきっかけに和解とかタコのための整備とかは3年前に進み始めた。1号と2号は知ってると思うけど、ワタシがイカの仲介役、ハチ君がタコの仲介役として動くことになったから、ハチ君がこの部隊を抜けてワタシが司令になったのもこの頃だよ。

実は言うと、このオルタナ調査はもともとタコツボバレーやタコツボキャニオンに代わる地下ドームになれるかの調査だったんだよ。

いざ行ってみるとケバインクで溢れていたからそっちの調査に切り替えたわけだけど、それがネリモノに似た性質を持ってたからワタシは結構警戒してた。

そのことを1号や2号に話さなかったのは謝らなくちゃならないって思ってる。

 

ただ、ワタシがネリモノに侵食されてるからアレがヤバいものだってわかるなんて、話す気にはなれなかった。

コレに関しては嘘をついて貫き通せる気もしなかったんだ。

 

えぇ……!?

し、侵食……!?

「そんな、SFじみたことが本当に……?」

3人は言葉でどう表現するのかわからないくらい驚いた顔でワタシを見る。

簡単に相手を洗脳できて世界を滅ぼせる物質に侵食されているなんて、それは多分3人にとって知人や尊敬するヒトが突然末期ガンを告白したようなものなんだろう。

「驚くな、なんて言わないけど落ちついて。ちゃんとなんでこうなったのかとか、今は大丈夫だってこと話すから」

そういってワタシは、ガンタイを外した。

 

タルタル総帥に洗脳されたそのとき、ネリモノは右目にくっついた。

その影響で、右目にネリモノが入り込んで目の色がネリモノの色、この、マーブル模様の緑色になったんだ。

最初こそ目の色が変わって恥ずかしがるだけで済んだ。だけどネリモノっていうのは、それが消毒として使われるとき相手の命と自我と記憶を奪うんだ。

完全消毒でないにしても、洗脳されたとき右目から消毒されかけたのは事実だから、結果的に右目の視力はがくっと落ちた。

それと、タルタル総帥が直々に乗っ取ったって事もあるからか、残り香的な感じで強くて極端な思考が宿った。

なんだろう、こう、右目で見たものはそれが何であろうと壊したい、壊さなくちゃならないって思考がアタマをぐるぐるしちゃう感じ。

最初はそれに負けて家の物を壊したり、自分を見たせいで自分を傷つけたりした。左目もダメになってたら、誰かを取り返しのつかないことにしていたかもしれない。

それがイヤになって深海メトロにこもった。

ここなら暗くて静かだから心が落ち着くし、ネリモノと関わりがあるから相談もできる。

「車掌さん、消毒されても意思が残ってるヒトって心当たりがありますか?」

「完全該当はいませんが、思い当たる人物はいマス、どうしまシタ?」

「実は、あの後右目からネリモノが侵食しているみたいで、自分の意思と関係無く身体が動くんです。まるで、総帥に操られているような……」

深海メトロを引き継いで管理しているナマコ車掌に耐えられなくなって話を切り出した。

すると、あの事件後いろいろ調査をしてくれていた車掌から出てきたのは、1人のミュージックアーティストだった。

「この施設に流れるほぼすべての楽曲を手がけるアーティスト『Dedf1sh』には、興味深いことがありマス」

「興味深いこと?」

「エエ、彼女は……『ミズタ アハト』はもともとタコ世界で有望視されていたミュージックアーティストデス。その実力はあらゆるジャンルに通用し、シーンに合わせた音楽を完璧に鳴らすことから『擬態』と形容されまシタ」

「擬態……」

「そんな彼女は度を超えたストイックさでも有名で、音楽にかける時間は1日20時間以上、理想の音楽を求めるためならばどこへでも行き、何でもする努力家だったようデス」

「……だから深海メトロに足を踏み入れた?」

「ハイ、彼女も例に漏れず消毒されましたが、ここで不測の事態が発生。戦闘ユニットとして思考をプログラミングしようとしたところ、もうすでにビートで擬態し続けることが書き込まれていたようデス」

「それってもしかして、そのミズタの……」

「研究ログも確認しましたが、どうやらある程度強い思考を持つとネリモノの効果にも変化が現れるようデス。おそらくアナタの考察は正しいでショウ」

「効果が変化……本人の想いで……?」

 

「アナタは恐らく、タルタルに思うところがあったのではないデスカ? だから無意識にタルタルを、洗脳された状態を再現してしまうのではないかと考察シマス」

 

タルタル総帥の再現、言われれば腑に落ちた。

ワタシにとって総帥は、極端になった鬼神のワタシだから、仕方なかったとはいえあんな形で夢を壊したことに罪悪感はあった。

少し変な表現だけど、それは自分が自分のことを想うようなもので、想いで効果が変わるならネリモノの効果が『裏のワタシ』でもおかしくない。

なら答えは単純で、それもワタシだと認めてあげてうまく使い分ければいい。そう思った。

「これは洗脳も破壊も思いのままにできる物質だと思ってた。だけどもし、想いで効果を変えられるものなら……ヒトを喜ばせることも傷つける事もできるハサミのようなものならワタシは────」

 

「だれかを守るために使いたい」

 

それからは右目と右ウデは交換条件であげたけど納得しているし、ワタシはどう転んでもワタシのはずだから全部あげる覚悟もある。

そこから来ているのが、今回カトレア君を助けることになった全てを塗リ返す力────物を壊したり変質させたりする力。

だらだら話したけど、ワタシが何者かって言われたら、そんな理由からちょっと危険な力を得たヒーローやってるインクリングだよ。

 

 

一通り過去を話し終えた後のテントは辛気くさい空気で満たされていた。

当たり前と言えば当たり前だったけど、やっぱりこういう空気は好きじゃない。

「まあ、確かにとっても驚くような話だったと思うけど今まで通り接して欲しいな。こう、離れられると少し寂しいと言うか──」

「俺を治した力のことはともかく……ありがとうございました。おかげで司令についてよく知れました」

「そ、そうだよ! アタシも司令のかっこいいところ、もっと知れたし!」

「まぁ、ワタシはあんまり気にせんよ~。司令が大丈夫ならダイジョブってことだろうし」

動揺は残しつつ、みんなの顔をみるとなんとなく大丈夫そうだったから一安心した。

「そうだ、司令。ケバインクとそのネリモノが似ているってどういうことです?」

3号が質問してきて、重要な事を説明し忘れたと気づいた。

「ワタシ、ドジだな……えっと、自我を奪う事と想いが反映されてることかな?」

「想いが反映?」

「3号のケバを塗リ返した時にわかったことなんだけど、あのインクは『ホニュウ類を復活させたい』って言う誰かの想いが強く込められているみたい。だからふれた相手は強制的にホニュウ類に作り変えられるみたいなんだ」

「さ、さらっと恐ろしいことを言うね……司令」

「目には目を、歯には歯をってやつなのかな?」

1号と2号は震えた声でこっちに答えてくるけれど、ワタシの耳はそれよりも、

 

「なんだか、司令も、それも、俺の呪いみたいだ」

3号の弱々しいつぶやきのほうを強く拾った。

 

ワタシはそれを聞かなかったふりで「少し休んだら反応のあるサイト4を調べてみよう!」とこの空気をとっぱらった。

『呪い』、気になるキーワードだけど、多分あれは軽い気持ちで踏み込んじゃダメなやつだ。

多分、それにはカトレア君がこうなった全てがこめられているんだろう。

右目を通して見た、3号の灰色に染まった目はそれを告げていた。

 

そして、その一線を踏み越える日はそう遠くないだろうってことも。

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