スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
僕が7つになり学校へ通い始めた頃だったと思います。その頃から予兆みたいなのはありました。
「今日のカレー、なんか少なくね?」
ご飯の量が少しずつとはいえ減っていったんです。そして、その異変に真っ先に気がついたのは13になった兄さんでした。
それを問い詰めれば、最近父の稼ぎが減ったのか入ってくるお金が少なくなったこと。それに伴って食費にかけられるおカネが少なくなったことが告げられました。
母の悪癖を知っていた兄さんは当然、ブランドものなどの高級嗜好品にかけるおカネを削減するべきだと問い詰めましたが、結局母がそれをすることはありませんでした。
母にとっては、それらが生きるための物より重要だったからです。
しかし、それとは関係なくどんどんと家に入ってくるおカネは少なくなり、それに比例してご飯の量は少なくなっていきました。
それでもまだ、それだけなら許せました。
兄と共に耐え忍ぼうとも思えました。
でも、父の収入が減ったわけでは有りませんでした。
その真実は────
「ふざけないで!」
「ふざけてはいない。事実だ」
「それは結局、浮気でしょ!? 惚れたんでしょ!? 難しい言葉並べておいて!!」
「──────嘘でしょ…………」
長く感じた5秒間の絶句ののち、最初に声を上げたのは2号だった。
さっきの話からここまでの急展開になったからそれは当然の反応だけれど、所詮はそれまでだ。
今まで信頼していた親の実際がそんな信用も尊敬もないようなもので、裏切られた子供の気持ちなどわかるはずがない。
「嘘ではないです。俺だって、未だに信じたくないですけど」
「ウワキだなんてひどいよ! だって、だって……!」
1号は言語化の難しい複雑な怒りを表現しようとして、薄く地団駄を踏んでいる。
俺もそんな風に感情表明できたらどんなによかっただろうか。
「でも、ここからが地獄なんです」
だけれど、それでも、この先を話さなければならないから暗くなっていく思考にまた潜った。
父の浮気が発覚してから本格的に家が壊れていきました。
「おなかすいたよ……」
「うっさい! アイツの収入が無くなって金が少ないんだから仕方ないでしょ!?」
「だからブランド物は控えろって言ってるだろ、それはさ」
「はあぁ!? お前らまで私を否定するのか!」
父はバレることに注意を払わなくてよくなったのか、バレる前よりあからさまにおカネを入れなくなり母の精神は目に見えてすり減って行きました。
そして、その精神を安定させたのは過度な散財と増えていく
そしてなにより、それの中でも一際ひどかったのが
「私のことを否定する子供はいらないわ!」
精神が限界に達したとき、近くのブランドバッグが飛んでくることでした。
しかし、そのバッグや財布で殴られたことは無かったんです。
直接殴られるよりつらい光景があったのです。
「────ッ……オレを殴るのはいい、だけどそれ以外には手を出すな……!」
ゴッと鈍い音がするときにはすでに兄さんがかばっていたのです。
そして、それは最後までそうでした。
母の精神がここまで荒んだのは父の浮気が原因であったから、母は年齢、容姿、性格や関係性を無視した男性不信に陥りました。
そして、間の悪い事に男性と女性の権利は同じであるべきだとする女性解放論なるものが、ちらほらと出始めた時期でもありました。
別にその思想自体は咎められるものではなく、むしろ個人としては賛同できるものでしたが、心が歪み色眼鏡がかかった母はその思想を曲解し病的なまでに女性優位を主張するようになったのです。
「母さん、そんな宗教じみたことをするなら働いてよ。もうどうあっても父さんはあてにできないんだから」
「……うるさい! 口答えをするな!」
「ぐぁっ!」
「兄さん!」
「男のくせに、男のくせに……! 女に刃向かうなッ!」
「……ッ、わかっ……た。オレが働けば……みんな丸く収まるんだろ……?」
その態度は実の息子である僕たち兄弟にもそうだったので、僕たちに居場所は無くなりました。
現実に居場所が無いので、シェルターとなった────これは認識の歪みですが────兄さんの部屋にある本達が居場所となりました。
空想、虚構の世界なら僕らは何でもできました。
ある時は世界を救うために立ち上がった一国の王子になって戦ったり、ある時は人々のハッピーのために動く小型ロボットになって役に立ってみたり、ある時はレーサーになってライバル達と超音速でコースをかけてみたり。
その中でも僕がお気に入りだったのは、ある少年の旅物語でした。
化け物と人間が当たり前のように共存する世界。
そこで10歳となった少年はある日、家族ごと父親に呼び出され馴染みのない地方に引っ越してきました。
少年にとって父親は憧れの存在だったので、父に会いに行くかたわらその世界で最強の化け物使いになって、世界中の化け物すべてに会いに行くことを志し旅に出ます。
彼は様々な人や化け物に出会い、別れ、絆を深めながら成長し、道中で敵対組織による人為的な天変地異という障害があったにも関わらず、それをなぎはらい、父を超えついに世界一の化け物使いを打ち倒し最強の称号を手に入れるに至りました。
──その世界には僕が、僕たちが求めた理想がありました。
少年を静かに見守り、困ったなら優しく助言をし、帰ったなら確かな愛情で迎えてくれる母。
少年の一歩先を行き、確かな強さと柔軟さを兼ね備え、子が親を超えたなら嫉妬も何もせず「強くなったな」と認めてくれる父。
一番最初に出会い、最後まで少年に着いてきてくれた化け物の相棒。
なにより、すべてに責任が伴うが何事を選んでもかまわない自由。
そのどれも、僕たちにはないものでした。
そして、少年はそれだけで終わらず英雄として世界に立ち向かう事となりました。