スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
「カトレア君は……今ワタシがお兄さんに見える?」
言われた意味が分からず首をかしげる。
司令は司令だ、全てが同じ訳がない。
そのはずだが、兄さんに見えるかと言われたら否定しきれない部分があるのは事実だった。
「いきなり変なこといってごめんね。でも、なんとなくそんな風に思ったんだ」
「どうして、そんなことを?」
「これ、って根拠はないかな。ただカトレア君が安心してるように見えるから、もしかしたらって思って」
司令は顔を柔らかくしてこちらを見る。その表情は確かに何故か兄さんの顔と重なって見えて、それに耐えられず目線を斜め下によけた。
「司令が兄さんに……ダブって見えることはあります。だけど、でも……司令は兄さんじゃ、ない」
「そうだね。ワタシはカトレア君の兄さんにはなれないよ」
司令が少し悲しそうな顔をしているのは、改めて残酷な当たり前の事実を口にしているからだろうか。それともなにか別のことなのだろうか。なんにせよ俺にはそれをわかりかねた。
沈黙が空気を満たす。
その沈黙を気まずいと感じなかったと言えば嘘になるが、俺はそれを主張する気力も無かった。
「ずっと考えてたんだ。どうしてカトレア君が自分の事を人殺しって言ったのか。どうして呪われてるなんて言って、それがネリモノやケバインクと似てるなんて考えたのか……やっと答えが出た気がする」
「答え……?」
「少しイジワルな質問をするけど────」
「誰の……?」
「うん」
俺は今、誰のために生きているのか考えてみる。
それは簡単に出る問題じゃなく思考が凍る。今までそんなことは考えたことがなかったからだ。
俺は自由ではなく、何かに縛られている感覚はある。でも、何に?
「答えは最近、カトレア君が言っていたはずだよ」
「俺が……?」
俺は最近の言動を振り返る。
振り返ると言っても司令の話から予想はつくが、それの答えとなるようなこと俺は言っていたか。思考に潜ろうにも無我夢中で語っていたから、記憶がおぼろげで思い出せない。
「……君は兄さんのことが大好きでずっと近くにいたしずっといたかった。でも家族のせいで兄さんは壊れてしまった。それを自分は見ていることしか……『見殺し』しかできなかった。だからその罪は償わなきゃいけない……」
「……そうか、俺は」
「わかった?」
「君がフラッシュバックを起こす呪いの正体は多分それなんだと思う。ワタシが総帥のことを想いすぎて身体が聞かなくなったみたいにね」
「兄さんのために生きちゃ、ダメなんですか」
まるでそれが悪いことのように言うから俺は疑問をぶつける。
それが悪いことなのだとすれば、俺は俺を否定しなくてはならなくなってしまうからだ。
「そういう事じゃないんだ。カトレア君にとって兄さんは大事な人だから、その人を否定して生きろなんて無理だと思う。ワタシも多分、カンナを否定して生きることなんてできないから」
「……誰でしたっけ」
「あ、名前を出すのは初めてだね。New! カラストンビ部隊4号で、ワタシの妹なんだけど」
「司令の妹さん……」
司令の妹と言えばやたらブキに精通しており、司令の入れ知恵の基となっている人だ。
「でも、ワタシはカンナじゃない。ワタシの心はワタシだもん」
「……なにが言いたいんです?」
「つまり、君の中に兄さんが有りすぎてカトレア君の存在がどこにもない気がするんだ。ひどいけど、君は兄さんじゃないでしょ?」
「……それは」
当たり前だ、とは言えなかった。
司令の言っていることが当たらずとも遠からずであると思ったからだ。
確かに俺から兄さんを無くしたらそれは空っぽの器になってしまう。それが怖くて恐ろしいからその器に『ブラサリア』を注いでなんとか安心を得ていた。存在を保っていた。
しかし、その器に俺はいても僕はいなかったんだ。
「カトレア君、君は今どうしたいの?」
思考にかぶって降りかかる司令の声には答えず沈黙が生まれる。司令はそれを咎めることもせず、
「答えは急がないよ。ただ、今生きているのは君だって事は覚えておいて欲しいな」
そう言ってニコリと笑うと「少しは整理できた?」と聞いてきたからとりあえず頷いてその場を流した。
「もう少し休んでも大丈夫だよ、意外と自分の事に向き合うのって大変だから」
「……いえ、行けます。頭の整理はつきました」
「いける?」
「はい」
確認に了承して、俺はテントの外へ出る。
そして、スーパージャンプでサイト5のヤカンへ向かった。
「僕がどうしたいかなんて、わかるものか」
そうつぶやいたのは目をつぶる事にした。