スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
飛び込んだヤカンは夕焼けの水面にライドレールラインが浮かび、点在する浮島にマトが配置されている。
出撃の時に選んだトライストリンガーで目の前のマトを撃ち抜くと、ラインにライドレールが現れ道を作った。
今回のミッションはそのライドレールを乗り継ぎながらマトを撃ち抜いていくミッションだ。
しかしそんなことは僕にとってどうでもよく、話題は僕が何をしたいかに移る。
今までの旅ややってきたことを振り返ると、それは本当に空虚でどうしようもない。
旅に出たのはあの家から逃げるため、やってきたことだって生きるために必要だったから。そして肝心の生きる意味も兄さんが生きられなかった分の罪滅ぼしだ。
僕がやりたかったことなんてない。やったことも何一つ無かったんだ。
今トライストリンガーを持ってミッションに挑んでいるのも僕じゃない。言うなればカトレアという身体に憑いたブラサリアで『俺』だ。
『君の中に兄さんが有りすぎてカトレア君の存在がどこにもない気がするんだ』
そんな状態で僕のやりたいことなど、わかるはずもなかった。
当然だった。僕は一度として思考をしなかったのだから。
僕はそれを、情けないなんて思った。
ミッションが中腹にさしかかり、正確性と適切なインク管理が求められ始めた。
それを……『俺』は的確な判断でこなしていく。
ここまでこなしたミッションによって確実に練度も判断力も上がっていた。
ただその実力は僕が欲したものではなく、生きるために必要だったから身についた。
(腐っても、契約に基づいて、なんだよな)
いつまでも、どこまでも、このミッションのライドレールみたいに定められた道を歩き続けている。
多分、無理だ。
そして皮肉にも、僕はそういう主人公気質の生き方だった。
およそ12年間、一度も思考せず、尊敬する兄に吊られて生きてきて、それを司令に看破された空っぽだった。
(……はは、ざまあみやがれ、僕)
そう自虐をして、俺の身体はゴールポイントに触れた。
ミッションから帰還して、端末に未読の音声ログが残っていることに気づいた。
日時を確認すれば、ちょうど俺が夢に落ちていた時間。
おそらくその時間にアタリメ老人から連絡でも来たんだろう。
そう思ってログを再生した。
音声はしばらくの雑音の後、老人の叫び声で始まる。
「応答されたしーーっ!」
「あ、じーちゃんからの通信だ! もしもーし!」
「おお、1号じゃな! 通じてよかったわい」
「元司令、そちらは?」
「ウム、この部屋から出る方法を探しとるんじゃが見当たらんくてのゥ!」
「……じーちゃん、物音がするんだけど」
「2号? ム、確かに誰か来よる!」
老人はそういうと、低くこもった男の声がする。
「気がついたようだね、アタリメ元司令」
その声にはなんとなく聞き覚えがあった。記憶の奥底で同じ声が響く。
「むむッ!? イカにもワシはアタリメじゃが……なんじゃ貴様は、名を名乗れィ!」
「元気なおじいさんだ、いいね……」
カリスマと優しさがこもった低い声の出所が、記憶と接続される。
ハイカラ地方で一度だけやった『サーモンラン』という
その独特なしゃべり方には、人を引きつける何かがあったのは間違いない。
「クマサン……と? そん、ク……んて…………じゃ!」
物音がして、口をふさがれたのか老人は言葉を途切れ途切れにする。
次の瞬間にはうるさい雑音が声を遮って、音声ログは再生を止めた。
「……クマサン、か」
僕として、思ったことがたくさんあった。
兄さんの唯一味方だった人物。謎は多く信用性に欠けるが、それはそれとして優しいことは確かであり知識も豊富であった。
そんな人物が、アタリメ老人をさらう理由がわからなかった。
司令から聞いた話が正しければ確かにあの人はとんでもない実力の持ち主では有ろうが、それはおそらく過去の話。今のアタリメ老人をさらっても、さすがにその老いを超えて戦うなんて事はできないだろう。
では知識か? というと失礼だが信憑性がなかった。あの老人は感覚で生きているようなそぶりだからだ。
……結局、クマサンが何を目指しているかわからなければこの謎にはたどり着けないのだった。
「……なら」
僕は知りたい。
兄さんが味方と見たクマサン。彼が非正規雇用で収集した金イクラやさらったアタリメ老人で何をなそうとしているのかを。
問題の答えは、特に興奮を伴わず出た。