スプラトゥーン3 return to the beginning   作:キール・フェストリー

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黄泉路散歩

死後の世界を想像したことはある。

阿頼耶識(アラヤシキ)と邂逅する場所と言うから巨大な蔵書庫だと思ったこともあるし、みんなと会えるというからたくさんの円卓がある舞踏場のようなところと想像したこともある。はたまた虚無の空間かもしれないと思ったことも。

だが、そこに至るまでの黄泉路(ヨミジ)なんて考えたことがなかった。

 

その黄泉路は虹の雨が降っていて、あらゆる建物に見慣れない毛が生えている。

背筋が凍るようにゴロゴロとコロッケのような毛玉が転がっていて、それから聞こえる悲鳴が恐怖を加速させる。

ボクは気がついたらそんな阿鼻叫喚(アビキョウカン)の空間にいた。

恐る恐るボクが前に進んで状況を確認するとそこには一際目立つ毛玉がいて、それがアイボーのものだとすぐに解ってしまった。

なんで……置いてっちゃうのさ? アイボー

アイボーはあの時と全く一緒の姿になっていて、この虹がケバインクだって事を理解する。

あの時はシレイがネリモノとかいう不思議な力でアイボーを治したけれど、ここにシレイはいないし、いたとして治せたとしてもこの雨の中ではまたすぐに毛玉になってしまうだろう。それじゃあ意味がない。

それをすぐに考えて結論を出してしまえたボクは己の出来た頭を恨んだ。それに対して強靭すぎる身体を恨んだ。そして意味もなく泣いた。

泣いているとボクの目の前にシレイが現れる。

シレイは帽子を深くかぶって下を向いているせいで表情はよく見えない。

「よかった、ワタシだけじゃなかった……夢だとしてもひとりぼっちは寂しいから」

でも、シレイは確実に死をみていた。それだけはわかった。

このヒトは、最期に見知っているヒトと逝くつもりだ。

「シレイ、ボクは……」

「君も寂しかったんだ。ワタシとおそろいだね」

「え……」

「だけどもう大丈夫、2人になったんだから」

「……アイボーが足りない」

「大丈夫、大丈夫。ひとりぼっちじゃない、だから、だから……」

会話が通じない。

なぜならここにはケータイもないし、アイボーもいないから。

会話してからその事実に気がついて震える。

確かにひとりぼっちでは無いけれど、独りと独りの集まりだから()()()()()()だ。ちゃんとした意味で孤独が解消されたわけじゃない。

そして、シレイはそれをわからないほどおかしくなってしまったのだ。

ボクは再び泣きながらシレイついていく。

それしか、できなかった。

 

こんな地獄へ続くような黄泉路でも食べるもの自体はたくさんあった。むしろ飽和状態ですらあった。

それでも、ボクの特徴でもありかつてはボクの邪魔をした規格外の食い意地は、この状況でまったく発揮されなかった。

「ブラスト君、見て。空がきれいだよ」

隣のシレイが死んだ目でそんなことを言う。

空は赤紫に染まっていて虹色の雨が降る。何も知らなければ確かに綺麗な景色なのかもしれない。

しかし、その雨がしていることを考えれば綺麗と言う方が恐ろしいのだ。

「……ボクは、そう思えないな」

ボクは素直に感想を述べる。

「そうだね、おまけに雨も降ってるんだから写真撮ってイカッターに上げたら絶対にいっぱいイカすがもらえる……」

返る言葉は会話として成り立ってなくて現実を見せつけられる。

こんな状況で未来を持って世界と対話しようなんて気になれるはずもなく、ボクは生きることを諦めた。

食べるものはあるのに、仲間すら食べた事があるのに、食べていこうと思えなかったんだ。

ボクのお腹がそれ以降、鳴ることはなかった。

 

体は正直に危機を伝えるけれどそれに応える事はせず、ただただボクは衰弱の一途を辿るのみ。もう身体は持たないだろう。

今になって野垂れ死ぬことがいかに情けない事かを知った。死は死でもこんな逃げの為の死なら、それは崇高とされるべきじゃない。

その最期に見たのは、悲しすぎるほどの憐れみと絶望に満ちた優しいシレイの笑顔。

視界が歪んでぼやけ、やがて真っ暗になる。

世界から匂いが消えて無臭になり、続いて感覚も消滅する。

浮いているのか這いつくばっているかも解らなくなり、かすかに聞こえていた雨の音も消える。

ついには思考の糸も切れ────────

 

気がつくと、布団の中でアイボーに抱かれていた。

アイボーはボク抱きかかえたまま、息を上げながら起き上がる。

 

……そこで初めて、悪夢だったと気がついた。

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