スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
────大空洞をぬけた生物たちはオルタナ直上のクレーターにたどり着き、そこから世界各地に広がっていった。
この出来事により、クレーターを有する現在のバンカラ地方がいま地上で暮らしている生物の始まりだとされている。
各地に散った生物たちは独自で多種多様な生活様式や文化を形成。なかでも高い知能を持っていたイカとタコは他の種と一線を画しており、瞬く間に世界中で強い影響力を持つようになった。
出オルタナから約5千年後、バンカラの地で特異な性質を持ったイカの個体が誕生する。
その個体は数々の啓示を授かり、それを同族に伝えた。
イカたちの文化は空前の発展を遂げ、この時代に頭足類文明の基礎が築かれた。
現代を生きるイカの始祖は、この個体とされている────
「これ、は……」
僕はシオカラキャンプにエンジンパーツを運び込んだ後、情報が開示されたオルタナログを閲覧していた。それで、やっとこのオルタナで起きたことが見えてきた。
ここは、始まりの場所だった。
崩壊しかけた地球で人類が希望を持った『オルタナ』の始まり。
そこで構築された液晶の空。それを越える空への執着の始まり。
その執着を受け止め続けたところ、崩落した際に海水と溶け合って始まった魚介類の進化。
そしてそれが空を、地上を魅せて広がりだした軟体世紀の始まりの場所。
すべての人の、始まりの場所だった。
少し拡大解釈をすれば、それは『軟体世紀』と呼ばれる人類の新章とも考えられた。
「どうしたの?」
「オルタナログを読んでて、少し」
「見せてくれる?」
司令がそういったので僕はオルタナログが表示されている端末を渡す。それを一通り確認していく司令の目は少しずつ見開かれていって、それが最後にたどり着くと穏やかな顔に戻った。
「……そっか」
「……司令、一度終わったものがまた始まるってどう思います?」
一通り読み終わって一言で言葉を切った司令に言葉を投げかける。
司令から見てこの顛末がどう思ったか気になったのもあるが、それ以上に答え合わせがしたかった。
この場所に幾多の想いが集まってそれが事を始めたキッカケということなら、その究極形は。
「あり得なくないことだとワタシは思う。想いさえあれば、ね」
「想いさえあれば……」
「これは実体験だよ。今、ワタシの身で実際に起きてるイカとタコの和解がそう」
「107年前の戦争以前は普通に交流があったけど、それ以後分断されているって言ってましたね」
「でも、それはこの7年間で徐々に変わってる。タコ達のもっと歌が聞きたい、地上がみたいって想いと、イカのもっとたくさんのヒトと仲良くなって楽しくなりたいって想いがあってね。イカの方はみんなが気づいてるわけでもないけど……」
司令は遠くを見てそういった後にこちらへ視線を戻して表情に力が入る。
「だからワタシ、このログ読んで妙に納得したんだ。ニンゲンの想いが焼き付いた液晶で進化したワタシ達が、ニンゲンの文化によく似たものを作ったのも。総帥がワタシに宿った理由もなんとなく」
「受け継いだって事ですか?」
「そうだと思いたいなぁ」
司令は右手を眼帯にあてそれを取ると強く続けた。
「だから、ワタシはクマサンを止める。みんなのその想いすら寂しい虹色に塗り潰したら本当に終わっちゃうから」
「想いを、塗り潰す……か」
その時、僕も嫌だと思った。
僕が塗り潰されたら、兄さんの事を忘れてしまう。
当然、兄さんが見せてくれた憧れも、世界も。
兄さんが僕にくれた想いすらも……潰される。
それは、嫌だって。
「……僕は兄さんじゃないけど、僕の大切な人の記憶すら消えるのは、嫌だ」
思考は自然に言葉になって空気を震わす。
「まだ、僕らはクマサンの目論見を憶測でしか考えてない。だけど、寂しさの果てに破滅で塗り潰すのなら、
もしそうなら、もうそれは絶対に嫌だ!
それは、兄さんと同じ結末だから!」
「カトレア君……」
「僕も止めます、クマサンを。もう大切なものを失いたくないので」
自分の気持ちを馬鹿正直に吐き出して、結果それが決意として形を成したそのときだった。
無線機から先程と同じ声量の老人の声が聞こえた。
それに反応して1号2号もこちらに駆け寄る。
「おじいちゃん!?」
「元司令!」
「アタリメ老人!」
『た、助けてくれぃ! ワシをさらったのはクマサンと名乗るもので、きゃつはワシを別のところに移動させよった! 聞こえてくる外の音と空気の薄さからしてかなり高いところにいるようじゃが……」
「えっ、マジで?」
アタリメ老人のその言葉を聞いて場は戦慄で包まれる。
空気が薄くなるほど高い場所はこのオルタナ内で1つしか考えられない。そしてその所在はマンタローの発言とも一致する。
「……もうあのロケットしか考えられないか」
『ロケット、じゃと……?』
『ふむ、よくここが高所だとわかったね。"旧"カラストンビ部隊を率いた歴戦の白きゲソは侮れないな……』
低い声がこもるそれには恐怖心を揺さぶる力があり、それに押しつぶされないようにその名前を叫ぶ。
「クマサンッ……!」
『おや、もう救援が来てしまいそうな勢いだね。予定より少し早いがジャマが入る前に済ませてしまおう』
『なんじゃ、何をする!…… ぬわーーっっ!!』
その断末魔にもにた声が響いて回線は閉じられた。
「みんな、もう時間がないよ! どうしたら……!」
1号が焦った声でそう叫ぶ。
やることはもうすでに結論が出ているが、それをするにしても問題があった。
「真ん中のロケットに向かうしか無いけれどびっしりケバインクがついているし、流石にあの量はブラストくんでも……」
その懸念を2号が言語化する。ロケットのある土地は、雪の白が見えないほど毛が生えていてとても着地はできない。
「くお、くりくおか!」
そんな中、ブラストはなにか手だてが見えたと言わんばかりに跳ねてこちらを呼ぶ。
「どうした、ブラスト」
「くお、くおるえくーか、けけくーるかいくとくお、くおらくくんかいくおおうか?」
「……なるほどな。やってみる価値はあるかもしれない」
「3号、どういうこと?」
「皆さん、こいつらを合体させましょう」
「くお!」
僕たちはオタカラを指差しながら言った。
──もしもし?
珍しいね、ハチ君を仲介せず私に直接なんて。
えっ、戦闘機?
いや、確かにあるけど……いきなりどうしたの?
うん。
うん……?
────まって、それは本当?
……本当なんだ。
でも、あの戦闘機はそっちも知っての通り作りかけだし、そもそもそんなやつを止められるかは……
ナマズコンデンサー? 組んであるけど。
なるほど、ニコイチ改修ね……間に合うの?
────間に合わせる、か。
私、こっちからは手が放せないからフェニルクスだけ送るよ?
大丈夫、あんな巨体を単独飛行させるメカニズムを私が組めなかっただけで、こっちのドローン8機使えば飛ばせる。
それに単独飛行なんて楽勝でしょ? タコワサなら。
バンカラ地方の地下ね。
ん、今から飛ばしちゃうから座標送って。
別にいいよ、ちょうど持て余してたし。
────あ
いや、そんなにヤバい事案でカラストンビ部隊絡みでしょ?
歌、響くんじゃない?
だからさ、みんなの力を借りようと思って。
私がネットだと有名なのは知ってるでしょ?
そう、都市伝説。
5年前に一夜だけあの映像をネットの海に流した張本人。本当はお姉ちゃんだけへの公開のつもりだったけど……設定ミスで。
今の今までハッキングで消してはぐらかしてたけど、もういっそのこと認めてしまって協力を募ろうかなって。
相手、クマサン商会だし。それに……
あの歌には力がある。想いを増幅させる力が。
……確かに私にしては非科学的なことをしゃべってるけどね、実際にそうじゃない?
でしょ? だから正攻法で勝ち目のないバケモノ相手には必要だと思うんだ。
確証なんてないよ。
ただ、負けたら滅ぶって言うなら
方法? それは……
ごめん、おいおい話すね。考えてはあるから。