スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
金属でできた長い一本道が明るい場に出た僕の目に入る。それを駆けて先へ急ぐ。
『世界を救うのに必要なものは3つ、正しき器、正しき魂……それとそれらを正しく導ける頭脳だよ』
『おヌシにそれはあるのか?』
『残念ながらワタシには正しき頭脳が欠如していてね……』
無線からはアタリメ老人とクマサンの対話が入ってくる。その優しい言葉遣いからは恐怖が顔をのぞかせていた。
『しかし、それも問題はなくなった。なぜなら歴戦の白きゲソであるキミがここにいるからね』
『なんじゃ……!? 何をする!』
『経験を積み上げたキミの頭脳……そのエキスであれば申し分ないよ。いただこう』
……いや、顔を出していたのは恐怖だけでない。クマサンの底知れぬ狂気が血のようににじみ出ていた。
『う、う、うぉ……あ……ぬわっ! 力が……抜けよる……!?』
「元司令!? アタリメ元司令! 大丈夫ですか!?」
『あ、れ……』
「……元司令! 応答してください! アタリメ司令!」
必死に叫ぶ司令の声はむなしく空を切る。
その状況に駆られて司令はがむしゃらに走り出した。
当然、僕の身体にも力が入り駆け出す。
まだだ、まだ間に合うはずだ。
兄さんと違って即死ではない。
なら、まだ助かる可能性はある。
兄さんの二の舞だけは、もういやだ。
司令が通った道の後を全速力で泳ぐ
その後ろから1号2号が追いかけてくる形で列を組ながら螺旋を駆け上がる。
『何かを塗れば、何かが消える』
クマサンの声か兄さんの声が勝手に響いているのか、わからない。
『そして何も消さずに新しい色は塗ることができないんだ……』
意識がもうろうとする、心が揺らぐ。
その声に諦めの絶望が含まれていれば、本能的に死を感じて防御で意識が沈もうとする。
だが、意志で本能に逆らわなければならない。こんなところで立ち止まっていられる暇は無いのだ。
意識の薄い中、頂点にたどり着くまでは5分も10分もかけた感覚に陥る。
「あ……!?」
短い悲鳴に聞こえたその声で、僕は一瞬硬直する。僕は、その声にこめられた感情を体験したことがある。
「……このっ!」
固まった身体を振り回して頂上にたどり着くと、そこにいたのは司令と
水分という水分を、
それを目撃した瞬間、僕はあの日のフラッシュバックに襲われる。
実際に見たことなど無いはずの兄さんの亡骸がそのイカに重なる。
けど……僕はその程度で済む。
実際のその姿を、深い関わりがあったと見れる司令が見ている景色など、感情など察するに余りあるが考えたくもない。
「じ、じーちゃん……?」
「おじいちゃん! ウソ……そんな、ことって……」
後ろから来た1号2号も驚愕から司令と同じように立ち尽くすのみで、それはまるであの日の自分を客観的に見ているようだった。
幻覚で歪む視界の中、何とかして僕は前へ踏み出しそれを抱く。
その軽さで兄さんではないことは確信し現実の視界が少し戻る。
それでぬうっと落ちてきた影に気づき、顔を上げれば
そこには茶色の毛に包まれた、10メートルはあろうかという二足歩行の巨大な生物がそこにはいた。
本能的に命の危険と最大の恐怖を感じ、後ろに後ずさる。
「やあやあ、よくここまできたね」
そして驚いた。その化け物の声は今の今まで無線でその名を
「……その声は、そんな馬鹿なことが……!」
「驚くのも無理はないね。ワタシはこの姿をみんなに見せたことはなかったから。そう……」
「ワタシが、クマサン商会の『クマサン』なんだよ。『熊三号』からとってね」
「……なぜこんなことを?」
複雑な感情が混ざった結果、最初に出たのは疑問だった。
「それは、何に対してだい?」
「……この事柄すべてにに対してです」
「問答するには時間が足りないね」
僕の質問があっさりはぐらかされると、後ろから理解不能な声が聞こえ始める。
その意味を真っ先に理解した司令が僕を横に突き飛ばして、眼帯を投げ捨て右腕で化け物に掴みかかる。
「そんなのはどうでもいい。アタリメ司令を返せ」
「そんなに怒らなくてもいいよ。今から全て元通りになるんだから」
「そちらの事情は聞いていない。返せ」
司令の声はたった一度だけ聞いた黒い声で、怒りのままにクマサンの腕にしがみつく。
しかし全く動じていないクマサンはロケットにそのまま掴まると空高く上がってゆく。
「ぐっ……あぁ!」
必死に右腕1本で掴まっていた司令だったが速度に耐えきれず振り落とされる。
どこかの小説で言っていたが、ロケットで打ち上がるのに必要な速度は音速の23から25倍程度らしい。その速度に腕一本でしがみついていたのだ。
当然そこから振り落とされれば上からの速度を受けて叩きつけられる。
ズドンと大きな衝撃とともに鉄板へ叩きつけられた司令の目は、この世のものとは思えない形相でクマサンを睨みつけていた。
「アルバイト、キホンのン、『何事にも終わりは訪れる』……そしてそれは繰り返すものだ。今日の世界にも、ね」
「……貴様、一体何をするつもりだ?」
「なに、天からケバインクを降らせて世界のバランスを正すだけさ。明日の世界のためにね」
その後も何かしらを喋っていたが、もう聞こえることがない高さまでロケットは飛んでいってしまったから聞き取れることはなかった。
僕たちが手を伸ばしても止まることなどなかった。
失意に沈んだ中で最初に行動を起こしたのは司令だった。
特殊装甲がボロボロに砕けスーツが破れ、無残な姿になった司令がゆっくりアタリメ老人だったものに近づいていく。
「……いつもの悪い夢なら、覚めてよ」
そしてそれを抱き上げてそうつぶやいた司令は次々に言葉を紡ぐ。
「もちろん……覚悟ができてなかった訳じゃないけど、今じゃなくたっていいじゃん……せめて布団の上で寝たって贅沢じゃないのに……!」
「……そうだよおじいちゃん、こんなにカラカラにならなくてもええんよ……?」
「そんな、そんなぁ……もうだめなの?」
「目を開けてよ、アタリメ司令。ワタシやだよ……この部隊から欠員が、戦死者がでるなんて……!」
そう声を上げた司令の左目から雫がこぼれた。
そして、それは干からびたその身体に落ちる。
その時、それに色が宿り始めた。
白に抜けていたまぶたは黒く、白かった頭は薄い茶色に染まる。
そしてまぶたは開かれ、ゆっくりとそれは司令の手から浮く。
「え!?」
「アタリメ、司令……!?」
「はぁ……驚いたわい。急に身体を吸われたもんでの」
「おじいちゃん……スルメになっとる…!?」
「ヌ? 確かに身体がちと軽くなったような……」
「それでも、生きて、いるなら……ワタシは……」
「何!? ワシはピンピンしとるぞ! 勝手に殺すでない!」
「よかったぁぁ!」
まるでさっきまでの空気が茶番かとでも言うように老人はいつも通りの受け答えをする。この状況で「空気を読め」とは言いたくなったがなによりの清涼剤ではあった。
「……しかし、アレはどうします? このまま放っておけば全員毛玉になってしまいます」
僕は突き破られた空の液晶を見る。
依然として状況は好ましくない。あのロケットを止めなければクマサンの言うとおり今日でこの世界が終わってしまう。
「でも、今からロケットに追いつくのはさすがにもう無理じゃね?」
「もし追いつけたとしてもワタシみたいに振り落とされるよ。なにか、手は……ない?」
甲高い声が響いてそちらを向けば、いつの間にか後をついてきていたすりみ連合が自信満々にこちらを見ている。
『みんな、困ってるみたいだね!』
「ここは我らすりみ連合に任せておくれやす!」
「なにかあるの!?」
「まあまあ見ておれ……イエローウツボ、カモン!」
1号を抑えてウツホが号令を出すと、ウツボのダミーたちが
「先生~先生~おこしやすぅ~!」
フウカが呼び出せば、そこには
「これは……まるでマスドライバーだ」
「マスドライバーって聞いたことあるかも。物資を打ち上げる大砲だっけ?」
『そうだよ! そして打ち上げるのは……3号だ!』
「……なんだか、あの小説みたいな展開になってきましたね。スーツはあります?」
『タコさんからもらったやつがあるよ、どぞ!』
僕はその特殊スーツを身につける。黒い色を基調としたスーツに生命保持の機能を搭載したヘルメットをかぶりタンクを背負い込む。
「いくぞ、ブラスト」
「……くお!」
そしてサメに乗り込みスロットルを全開にした。
座席が揺れながら上へ、スピードを上げながら向かっていく。そのスピードは底力でさらに加速し28400キロ毎時────音速の23倍を突破する。
ウツボの道が途切れるところで先行してブラストを投げ、続いて僕もサメを踏み台に飛ぶ。
「ほんじゃ~レッツゴー! イカ、よろしく!」
「いっけーー!! 3号!! 地球のウンメイは任せたよ!」
「……行ってきます!」
身体を捻りイカ状態へ、空気を踏んでスーパージャンプする。
オルタナ上部の穴をくぐり、地上を、空を飛び────