スプラトゥーン3 return to the beginning   作:キール・フェストリー

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The other side of salvation

宇宙に出た僕たちは目標のロケットへブーツの重力発生を利用して着地する。どうやら無茶のある作戦でも間に合いはしたらしい。

宇宙にたどり着いた感想としては思ったよりもずっと黒いということ。太陽の白が眩しく、僕の後ろが淡く光っている以外に光は無くて、おそらくこの宙域に転がっているはずのデブリなど全く見えない。

映像が送信できるハイスペック無線機は繋がらないようで、ロケットのエンジン音すら聞こえず静寂が満ちる。

宇宙には空気がないから当然とはわかる。ただ、この虚無の中世界を賭けて戦うのはワケが違った。

目の前に物体が現れて、それがぬうっと動きながら形になってゆく。立ち上がってそれがこちらをみる様には悪寒(おかん)を覚えた。

「キミ達も働き者だね……休むのも仕事のうちだよ」

そして、クマサンが声を放つと身体が震える。

無線に割り込んで話している訳ではないとわかって恐怖を覚えるとともに、優しい言葉選びをするのに狂気を隠せていない。いや隠そうともしていないのか。

 

僕は確信した。

この世のものではない、化け物だと。

何かに取り憑かれた、生物以上のナニカだと。

 

「働きづめでは壊れてしまうよ。ワタシに任せるんだ」

「……それはそうだと思います。でも、僕は戦います。今を肯定したいので」

「ふむ……休めないくらい仕事熱心なんだね」

 

「なら、来なさい……永遠の休みをあげよう」

「遠慮します。兄さんに怒られそうですから」

 

宇宙に殺意が満ちて引き返せない戦いが始まった。

ロケットにこびりつくケバインクが壁のように塞がっているせいでクマサンには接近できない。

それはただ物理的な壁とは別に心理的な距離も感じる。近づいてくるなと拒否しているような感覚だ。

僕はその拒絶理由含めてクマサンに動機を聞かなければならない。しなければ死にきれない。

「くおくりあ!」

「なんだって?」

ブラストが叫んだから前を向くと、取りにいける場所に金イクラが2つほどある。

ロケットに金イクラが転がっているのを見て法則的に対処法がわかった。金イクラをブラストに食わせその力でコアを排除してもらえば進める。

クマサンが用意したのであろう妨害のミサイルを回避し金イクラを回収。それをブラストが大口で取り込んで身体が淡く光る。

「行け!」

「くおぉー!」

ブラストの光は力に変換されて虹色の核をほおばる。根幹を失ったケバインクの壁は砂ぼこりをたてながら消滅する。

ロケットの表面を簡易重力で踏み込んで前へ浮く。地上とは違う感覚で前に転がるように動いて、迫るトリプルトルネードの竜巻を避ける。

ヴァレチスを片手に妨害してきたバイタコトルーパーを貫き、弾丸はそのままクマサンの腹部に当たる。

「ふむ……」

しかしその攻撃はそこまで効いていないようで、あちらは静かに僕を見つめるだけだ。

ヴァレチス・フォトンの威力は今までで十分に理解している。それをまったく気にしないというのは、強大さを理解するのにわかりやすい事実。目の前には結果と事実しかない。

「冷静にものを見て戦況を掴め、『戦場の鉄則』……!」

愚痴の代わりに教えの1つを口に噛んでクマサンに視線を移す。

ケバインクの茶色に包まれ紫の光るインクがこびりつく巨大生物、同じように腹部にもインクが3つのかたまりでこびりついているが、その中の右側だけ白く硬化しひび割れている。

あのひび割れ、撃てば割れるか?」

「……良い観察眼だね。白きゲソの仲間とだけあるかな」

なぜか親切に相手は弱点を自分から自白した。

しかしそれはそれとして抵抗はするようで、鋭いツメを立てると紫のインクだまりを巻き上げて衝撃波が飛ぶ。

左足で地を蹴ってふわりと浮きながらそれを回避し、構え直して再び引き金を引く。

インクのレーザーは白化したひび割れに直撃。血のように紫がひびから垂れ、さらに撃ちこめばケバインクのコアと同じものが滑り出た。

腹に十分な金イクラを蓄えたブラストをそれに投げつけて消滅させる。

「……終わりと始まりは繰り返すものだ。終わりを拒んだら始まりも拒むことになる」

部位の一部が欠損していると言うのに淡々と持論を述べるクマサンは、スライムのように溶けてインクと混ざると、ロケットの奥側へ移動しインクだまりから大きな波を立てながら出現した。

 

『────こっちにくるな』

 

そのとき、クマサンがあげた咆哮に兄さんの空耳が混じって抱えている感情に目星がついた。

「……さっきははくらかされましたけど、答えてもらいますよ。何を思ってこんなことをしたんです?」

「キミは白きゲソとのやりとりを聞いていたかい?」

「聞いていましたよ。その上で、です」

「……そうか」

クマサンは横方向を向くとその方向に腕を動かしロケットが回転を始める。

重量発生ブーツも完璧ではないらしく、だんだんと身体がロケットから離れようとしている。僕を滑り落とす気だ。

妨害のミサイルを回避しつつ回転方向とは反対へ進む。ケバインクは場所を問わずついておりそれをよけながら落ちないように走る。

「キミは哺乳類をを知っているかい?」

「僕たちがこの星に足で立つまで、後ろの星を支配していた種族ですか?」

「ずいぶんな言い回しだね」

他人事(ひとごと)ですから」

ロケットの回転が止まり最初の角度に戻ってくると、無表情に見えたその顔が少し歪んでいる気がした。

「ワタシはその生き残りだよ。この、世界がバランスを失っている中で」

「バランスですか?」

「君から見たら、哺乳類だけがたくさんいる世界はおかしいだろう……そういうことだよ」

なるほど、仮に滅んだ前提がある上でそういう世界があったとしたら確かにおかしい。

ただ、それは次の問答によって大きく変わる。

「では、そのおかしさを改善する為に使うケバインクの本質……それは理解した上で修正しようと?」

「もちろん、わかっているよ」

「……自我消滅を引き起こす、洗脳兵器を超えたものだと?」

「…………そう言われても、仕方がないかもしれないね」

無知の狂気ではなく、計算された狂気だということが今の問答で確定した。

もしも、本当の意味で哺乳類とのバランスを正そうとするのなら、全てを意思のない哺乳類に塗り替えるという短絡的(たんらくてき)な策では解決しない。

もしかすると、その策を選択させた別のなにかが────

そんな思考をよそに、茶色の拒絶をブラストが食い壁を消し去る。

それを確認し、タコトルーパーたちを蹴散らしながら前に進んでクマサンに叫ぶ。

「本当は、哺乳類の復権なんて二の次じゃ無いですか? 今のところの口振りだとそう思えますよ」

「だったら、なんだと思う?」

その叫びは疑問に置き変わり、腕をロケットに叩きつけた衝撃が身体に跳ね返る。

それは小さい子どもが嫌いな料理が出て嫌だと机を叩くような仕草で、それは暗に意思表示をしているかに思える。

「ただの予想ですが、味方とか仲間とかそういうのが欲しかったんじゃないですか? ブラサリア兄さんみたいに」

ブラサリア……あの子かな。どうしてそう思ったんだい? 」

「さっきのたとえ話の状況です。確かに僕から見れば哺乳類だけがたくさんいる世界はおかしいですよ。でも、置きかえればそれはクマサン、あなたの現状がそうじゃないんですか?

「……鋭いね、キミは」

「それは、あまりにも状況が兄さんに似すぎですから」

「彼も、なのかい?」

「僕はバイトをしていた兄さんを詳しくは知りません。だけど兄さんが独りの戦いをしていたんです。だから兄さんはあなたを求めた、頼れる味方として」

「……彼は、確かにワタシに対して並ならぬ感情を持っていたように感じる。だけど、ワタシはそれに応えられなかったよ」

「僕もそう思います。僕もあなたも兄さんが欲しいものはあげられなかった。もしあげられていたら海に沈むなんてことは無かったのかもしれません」

そう言って再び接近し、今度は左側に移ったひび割れを撃って破壊する。そのまま滑り出たコアは再び力を蓄えたブラストが食らった。

「……まるで繰り返す波のようだった。ただただ絶望が行ったり来たりを繰り返す彼の顔は」

「そして今、その顔をあなたがしているかもしれません。何もかも諦めた無表情でしたか?」

「……皮肉なものだね」

確かに僕は、兄さんの死に顔なんて見なかった。だけど、兄さんが強がった時の顔は知っている。

『もう後には退けないんだ』

咆哮に幻聴が混じるのは、たぶんそのせいだ。

 

奥に逃げたクマサンを追いかけつつ問答を続ける。

問答というよりかは一方的な追及になっていたかもしれないが、クマサンの隠れたそれが見えた以上、問わずにはいられなかった。

そう思ったのか、または個人的に思うことがあったのか、僕が口開くよりも早くブラストはクマサンの方を向いて声を上げる。

『ボクはわかるよ。ひとりぼっちって辛いもん』

「シャケは群れで行動するだろう。孤独なんて無縁じゃないのかい」

『ボクはその群れから抜け出して来たんだ。世界と対話するために、自分を知るために』

「己を知ろうとする。珍しいシャケもいるものだね」

『クマサンはさ、自分ってなんだと思う?』

「…………強いて言うなら、最後の哺乳類かな」

そう落ち着いてクマサンは言うが、座り込んで構える眼光は鋭く直感が危険を感じ取る。

とっさにブラストと僕は身体を倒しその方向に移動すると、咆哮と共にインクの渦がクマサンの口から発生した。

「だからワタシは退けないんだ。倒れてしまったら哺乳類という種は絶滅してしまう」

『だからって、使命にしてもただの寂しさにしても……方法が極端だよ! そんなの自分を知るために死にに行くボクらみたいじゃないか』

「ほかに方法があるのかい?」

『……わからない、わからないから探すんだよ。聞くんだよ。考えるんだよ。ボクならそうする』

「……それができるだけの時間がワタシにはもうない。残念だけどね」

その言葉を聞きながらケバインクの壁を壊して前に進む。

クマサンの心はもうすでに限界で、間違っているとわかっていようとも心には逆らえなかったんだろう。

それが正しいかは別にして僕はそう思った。

「……ただ」

 

ただ、寂しさを埋めたいだけだというのに、極端なその手段で意思のない人形を量産するのはそれこそ寂しいだろうと思う。

まだくっきり覚えている。ふたりぼっちの夢で完全に話が通じない方が、旅のひとりより孤毒(こどく)を感じたのを。

 

「おかしな事を聞きますけど、今あなたがやってることは、自分でおかしいと思いますか?」

「……黙秘権、というのは意地が悪いかな」

「沈黙は肯定ですよ。この場合」

「では否定するよ。おかしな点はあるかもしれないがやることに間違いはない」

「……思想は否定しません。僕たちはその無茶な方法を止めるために立ち向かいます」

「ふふ、いいね……」

開けた視界に7つの金イクラが並んでいる。

それを素早く回収しクマサンの胸にあるヒビを撃ち続けてコアを引き出す。

クマサンの腕が振り上げられ、僕らを叩き潰そうとしたタイミングでブラストがコアをえぐり取ってクマサンのバランスを崩した。

 

「う、ふむ……キミたち、なかなかやるね」

低いうめき声が真空を揺らした後、クマサンは僕に向かってそんなことを言う。

その台詞からは感情を読みとることが難しい。

「もう、止まってください。僕はあなたを見ていられない」

「それは……ワタシが彼に見えるからかい」

「それだけじゃない。僕は二の舞にしたくないんです」

「……残念だ。時はもう満ちてしまったから、ワタシはやるほかない。再び地球を哺乳類のものにしなければ」

 

「……すまないね」

 

そういって唸るとクマサンの身体がどんどんと巨大化し、それに耐えられなくなったロケットの外壁が光とともに爆炎を噴く。

僕たちはその一瞬でロケットから吹き飛ばされ、地球に向かって身体が流される。

「ぐ、まだ、まだだ……!」

身体は一方に流されようとしているが、それでも足掻(あが)いた。

慣れない宇宙で準備もなく足掻いてぐるりと回転する。前へ動こうにも身体は宇宙に溺れていく。

様々な思考が、恐怖が、懸念がごちゃごちゃと絡まっていく。

「……クソッ、どうにか……!」

しかし、次の瞬間、息を呑んだ。

 

青く輝く地球が目に映る。

その地球には大陸がある。

海がどれくらい広いか、見当がつかない。

大陸もどれくらい広いか、見当がつかない。

その中からバンカラ地方を、ましてやバンカラ街を探せなどほぼ不可能だろう。

壮大だった、そして僕の世界はちっぽけだった。

そして、そんな壮大な世界の集合体である地球は、今、手を伸ばせば掴めそうだった。

「これが、地球……」

 

今から守ろうとする地球を

今から掴もうとする地球を

僕たちの生きている世界を

 

僕は、何一つ知らなかった。

 

「……だったら」

「くありあ……!」

それがわかったのなら、知りたいと思ってしまった。

いろんなものを見たいと思ってしまった。

いろんなものを聞きたいと思ってしまった。

いろんなものに触れたいと思ってしまった。

いろんなものを嗅ぎたいと思ってしまった。

いろんなものを食べたいと思ってしまった。

 

いろんなものを、感じたいと思った。

 

「……死ねるか! こんなところで、まだ!」

「くおぁー!」

気がつけば、僕は左腕を伸ばしていた。

論理的に考えれば、無駄だの自殺行為だのと言われる奇行かもしれない。

だけど、僕はそれ以上のものを感じていた。

 

そのとき、地球から一つの光が見えた気がした。

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