スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
地球から迫ったその光は、重力に引かれて落ちそうになる僕たちをさっと拾い上げ、外装がはがれ巨大ミサイルと化したロケットに向かっていく。
一定のバスビートを刻み続けるその機体の上部にしがみつき、そのまま下をのぞき込めばタコの将軍が座っていた。
「ギギ……アブナカッタナ、3ゴウ」
「……まさか、本当に助けがくるとは思いませんでした」
「行くよ3号。ワタシ達の世界を守るために!」
「司令まで……そうですね。僕も丁度思ったところでしたから!」
アタシたちの前に4号が用意したドローンが現れて、音をピと立てると赤いライトがつく。
それを合図にみんなに号令をかけた。
「みんな! タコツボキングが宇宙行ったみたい!」
「んじゃ、切り出しはすりみ連合でよろ~」
「はっ! やってやろうかの!」
「さあさあ皆様お立ち会い! 立ち上がりしはイカした
「我らが
「エイエイ!」
そう言ってドローンの前でキメるすりみ連合。
今ここに観客はいないけど、ドローンの先に何人かもわからないくらいには見てる人がいると信じてやっている素振りだ。
「今日は世界のスミからスミまで、ずずずぃ~っと塗ってみせやしょう!」
「よっ、ホホジロ屋ー!!」
「ワシらのセリフをとるでない!」
そうやってウツホちゃんには怒られてしまったけれど、いい機会だからとアタシがそれをやってみる。ポカンとしているすりみ連合はかわいい。
「……じゃ~、いっちょやりますか~」
そのままホタルちゃんがそう言っておじいちゃんを空に掲げる。
「おい、合わせるんじゃぞ!」
『アア!』
宇宙は依然として真空で暗い。
だが、先程と違って心地いい音の集合体が響くし、暖かい感覚で身体が包まれる。
その暖かさは物理的な体温もあるだろうが、それだけではなく曖昧な心の暖かさも今なら伝わる。
僕の心を溶かした司令の優しい陽のような暖かさ。
他人を自分事のように思いやれる1号や2号の風のような優しさ。
加熱のしすぎを止める4号の林のような静けさ。
何かを強く求めるブラストの火のような熱さ。
街全体を思いやるすりみ連合の山のような大きさ。
そして、誰かを守って何かを取り戻す弾丸のような決意。
New! カラストンビ部隊から貰ったもの、僕達の中にあるものたち、他の感情も全部が絆の腕輪に集まってほんのり青みを帯びる。
「……わかった。ここにいる星の想いは僕とおんなじだ」
『これが……答えだったのかも』
「やるぞ、ブラスト」
『うん、ボクの身体をみんなに貸すよ!』
僕がブラストを両手で握り祈りを強く捧げる。
その祈りは伝承になって言葉になる。
「今は昔、バンカラの地に大水あり。天より下りし三つの光、渦を作りて災ひぬぐひ去れり……」
絆の腕輪に込められた想いはブラストに移り、ブラストは青い光を放ちながら宇宙に浮かび白い鎧を
『おお、見よ! 魚介類の想いが集まってきよる!』
そして祈りは次第に憧れと混ざって台詞が口をつく。
「
白い鎧からは赤い光がどんどんと漏れ出し、鎧も次々と砕けていく。
そして中からは元とは似つかない肌が露わになる。
『あ、あの光は……』
銀と青の鱗に光り輝くヒレ、鋭い牙が大口に一つ生えている巨大な姿。
その昔、存在したとされるシャケの原種を模して現れたそれは、僕の前に背を向けると乗るように促した。
その背に僕は飛び乗ってまたがり、目の前にいる悲しい怪物に叫ぶ。
「僕は……僕たちは……あなたを止めます。人間の想いを継いだ、今の世界の人として!」
「ぶ、ブラスト君が……巨大化しちゃった」
『……想いを信じるとは言ったけど、そこまでしろとは言ってない』
『ブラストくん、カワイイーーッ!』
『か、カワイイ……? 正気?』
『それよりも司令、タコツボキングで3号を支援してあげてほしいんよ!』
「うん、地球にたどり着かれる前に何とかしないとね……!」
僕は、ボクは、ワタシ達は後ろを振り返った。
後ろには青い地球が浮かんでいて、オオジャケ様の潮風がそれを包むように吹く。
「タコワサ、Gバランサーシステムは?」
「ギギ、ショウショウズレテイルガモンダイハナイ」
「ナマズコンデンサーはどう?」
「セイジョウカドウシテイル。プラズマブラスターモシヨウデキル」
「よし……キューインキで吸い込んで3号を支援するよ!」
『タコツボビバノン目視で12機確認。ジェットパック装備型タコゾネスも33体いる。飛行速度から阻止限界点までは213秒しかない。ごめん、頼むよ……!』
「やってやりますよ、あんな大口叩いた以上は!」
「わかった!」
僕はしっかりとシューターを握り、宇宙を潮風とともに泳ぎ始めた。
ワタシは重いコントローラーに手をかけてコンデンサーの回転数を上げ、クマサンに加速していった。
タコツボキングが前に進みコアを掃除機のヘッドを模したキューインキで吸おうとするが、その弱点はクマサンも承知しているのだろう。鋭い爪が伸びて距離を離す。
ロケットよりも大きいクマサンの爪は当然大きく、機械の装甲なら容易く切れるだろう威力はある。
「いくぞ。たいあたりして隙を作る!」
その腕の間をくぐり抜けまとわりつくタコゾネスを撃ち落としながら、クマサンのわき腹にたいあたりを仕掛ける。
クマサンはよろけ、タコツボキングがその間に接近。キューインキで右腕のコアを吸い取る。
しかし、コアが消えたところでクマサンを守る護衛はまだいる。機動力の遅い僕らではシャンプーハットを装備した機動兵器、タコツボビバノンのスピナーが脅威だ。
「ギ、3ゴウガキケンダ!」
「ブラスターで撃ち落とせるよ! 弱点は?」
「ビバノンヲササエテイルタコプターダ!」
クルクルと回るガトリング砲で四方から囲まれ戦慄するが、そこから敵弾が発射される事はなく緑の閃光に撃ち落とされていく。
「司令!」
「タコツボビバノンは任せて! クマサンに集中して!」
「了解しました!」
反対の脇部分にあるコアを狙うためその下を狙ってたいあたり。鈍い音が真空に響いた気がしたが、その音とは違ってクマサンはよろけずその腕を叩きつけようとしていた。
「簡単には負けられないね」
「それは、こっちだって同じです」
叩きつけられた衝撃をこらえ、身体をぐっとひねる。
オオジャケ様になったとしても、それがブラストなことに変わりはない。そのひねる動作が何を示すかくんでくれたブラストはぐるりと回転しながら鋼のように硬化した尻尾で打ちつける。
さすがに追いつかなかったのかクマサンはその一撃で後ろに大きくのけぞり、その隙に2つ目のコアをタコツボキングが吸引した。
2つ目のコアを吸い込んだワタシは背後のコアを吸いに回り込む。
カトレア君が体当たりを仕掛けて両腕でそれをクマサンが阻止した。
その気を取られている隙にブラスターでタコツボビバノンを撃ち落としながら進んでいく。
と言っても無傷で行けるわけでもなく、どちらかと言えば厚い装甲でワタシのダメージを肩代わりしてもらっているようなものだ。ワタシのスーツはいくらなんでも宇宙対応じゃないからタコゾネスとかが張り付いたら対処することができない。
「ギギ、テキニカコマレタナ」
「シールドももう持たない。出し惜しみなしだよ!」
タコツボキングの脚に付けられたマイクロミサイルポット切り離して一斉射する。
マイクロミサイルは四方八方に弾けると黄色い爆炎を次々と作り出す。
そして敵の包囲を振り払ったワタシは3つ目のコアに近づいて吸い取る。
「ん、このコア……他のやつよりしぶとい!」
同じ時間はかけたはずなのにそのコアは吸いきれず、マイクロミサイルを受けても倒れないビバノンやゾネスの生き残りでシールドが限界まで削れた。
焦りつつ吸いきったワタシはその場を離れ、残りの敵をキューインキのヘッドで振り払おうとしたけれど、そこを暴走したビバノンが突っ込んできた。
「ぐぅ!」
「マズイ、シールドガモタナイゾ!」
『コントローラーを引っこ抜いてパージして!』
「言われなくたって、まだやることがあるんだから!」
装甲をパージしようとするとそれにタコツボビバノンが追撃して連鎖爆発を起こす。
爆炎に紛れながらタコツボキングの姿を捨てて抜け出した。
白いボディに青い翼、Aの形を取った鋭い戦闘機の姿で。
私の好きなアニメに出てくる戦闘機『フェニルクス』その姿と似た形を取るタコツボキングの中身でワタシは切り抜ける。
かつて妹にねだって匙を投げられたそれは、今宇宙を飛んでいる。
『女将のロボが戦闘機になりよった……』
『大丈夫どすか!?』
「大丈夫、アルフェ・ニクスには傷一つ無いよ!」
匙を投げられた戦闘機のかけらにタコワサの試作ユニットアルファをつけた超高性能汎用戦闘機のレプリカ、『アルフェ・ニクス』は確かにそこにいた。
『阻止限界点まで残り60秒切った! 最後のコアはブラスターを撃ち込んで破裂させて!』
「わかった!」
タコツボキングとは打って変わって軽い身のこなしでコアに接近。取り巻きを振り切りながらひたすらトリガーを連打する。
それに気付いてクマサンがコアを手で押さえようとしたけれど。
「させるか!」
クマサンの首に巻きついたカトレア君達がそれを阻止した。
クマサンは口からメガホンレーザーを発射するけど、オオジャケは吹き飛ばされないようにこらえている。
「今です!」
「全部、持ってけーー!」
普段インクを受け付けないそれでも、たくさんのエネルギーを内包しているものだからこっちからエネルギーをバカみたいに叩き込めばパンパンになってついには爆発する。
『あ、あれ!? コア全部何とかしたのにクマサン止まんないよ!?』
でも、1号が言ったとおりクマサンはまだ止まらない。動く力はほとんどないのに、そうするのはもう執念だと思う。
「コアノエネルギー、マトメテカエスシカナイガ……コア3ツデハヤリキレルカドウカ」
「……僕に任せてください。足りないエネルギーはみんなの想いで補えばいいですから」
僕は司令たちの前に立つ。
クマサンが止まれない独りの執念で立っているなら、僕らは今、この潮風に流れるみんなの想いで立っている。
そして、その暖かさをクマサンに伝えなければいけないと思った。
「僕らに向けて最大出力のビームを撃ってください」
『阻止限界点まであと30秒。悩んでる時間はないよ』
「……ワタシは君たちを信じるよ」
僕が前を向き直ると、立つのが限界のクマサンがこちらを見ている。クマサンは無言だがその感情を読みとるのは容易い。
「いきますよ。クマサン」
機体のビームを背に受けて、宇宙に吹く潮風に包まれて。絆の腕輪の暖かさを響く音に乗せて、あらゆるエネルギーを受け取った。
それを推進力にし僕らはクマサンに向かっていく。クマサンの腹に突っ込みケバインクをかきわけながら貫いていく。
茶色の壁が消滅し再び宇宙の黒が見えたとき、後ろで白い光を出しながら崩れていく音を聞いた。
その崩れた姿を僕が見ることはないが、きっともうそれは原型をとどめていない。
「キミたちには負けたよ……あらゆる面においてね」
「僕たちは、あなたに
「そんなことはない。過去を想うように強く今と未来を見つめるのは……実に難しいことだよ」
「……過去を想えるから今や未来も見れるんだと思います。過去は
「強いね」
「それを僕たちはオルタナの人間たちや司令たちに学びました」
ロケットは進行を止めスパークが走り始めたが、僕たちはなぜかそこから逃げる気にはならなかった。
「……ワタシの仕事もコレでおしまいかな。疲れただろうからゆっくり休むんだよ」
「……あなたも」
「ふふ、ゆっくりお兄さんに怒られてくるよ……」