スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
聞こえてくるやつの声。
モノクロの世界が徐々に色づく視界。
おぼろげに覚醒する思考。
機能を取り戻しフィードバックし始める五感。
痛みが全身を襲い、少しばかり凍える身体から出た感想は素朴なものだった。
目の前には数刻前とは真逆の白銀の世界と溢れ出る危険物質、それとやけに印象的なロケットが見える。
「くおう、くおおう」
「ここは……どこだ?」
「くお……くおーる、うくおあくお」
「『不明、だがあちらに人がいる』……? 行ってみるか」
俺は痛む身体を引きずってやつを追いかける。
やつの行く方向には、なにやら簡易的なキャンプと、女性の声がする。
さらに近づけば目視で3つのシルエットが確認できた。
「おーい! 3号!」
声の主は俺から見て左側の、黒い薄手のワンピースのようなものを着た女性だ。
「よかった、無事だったんだね!」
「無事が生きていると言う意味ならそうですけど……」
先程の記憶と比較すると、現在は装備品支給時にあった特殊インナー1枚。それも腹部の部分は破けて損失し、身体に
さらに手持ちブキは基部のみを残して消失している。おそらく崩落中の岩に当たってバレル部分は無くなってしまったのだろう。
ともかく元の装備から考えれば、これを何事もなかったというのは流石に無茶というものだ。
「君が新しい3号とコジャケ君やね。おじいちゃんから聞いとるよ」
1人挟んで右側には、対照的に白い厚手のコートのような衣装をまとった女性も見える。
先ほどと対照的な気だるい声もそこからだ。
「2人とも、まずは自己紹介からしないと ……ってケガしてる!? 一番最初に手当てしないと!」
そんな高くけたたましい声を出すのは、白いスーツに身を包み古ぼけた軍帽を被る、左目の眼帯が特徴的な女性だ。
その女性に引っ張られ、比較的柔らかい雪の上で応急手当を受けた。
はたして腹を包帯でぐるぐる巻きにされるのが、応急手当といえるのかは考えない事にする。
「ごめんね、取り乱しちゃって」
「いえ、気にしないでください。怪我は擦過傷程度とはいえ、緊急事態だってことには変わり有りませんから」
「じゃあ、改めてワタシから自己紹介させてもらおうかな! ワタシはこのNew!カラストンビ部隊の司令、カエデ。堅苦しいのは苦手だから呼び捨てでいいよ!」
「呼び捨て、ですか……」
本人が了承してても上の立場なのだから俺としては気が引ける。なにしろ立場的にはこの女性がトップなのだろうから。
「で、アタシがNew!カラストンビ部隊の1号で!」
「こんちゃ~、ワタシが2号なんだよね」
と、快活な声と気だるげな声が交互に聞こえた。
二人が本名を明かさないことに疑問に思うと、司令は「職業柄ちょっと明かせない」と補足したから、それ以上の詮索はやめることにした。
「特殊部隊『New!カラストンビ部隊』はこんな感じで、最近この辺に溢れ出してたケバインクについて調査してたんだけど……地上で見張りしてた元司令、アタリメ元司令が行方不明になっちゃって」
「……俺と落ちたとき、何か触手のようなものに巻き取られるのを見ましたよ」
「じゃあ、はぐれたか連れ去られたんだね……」
司令はやれやれとため息をついて、軍帽を深く被りなおした。この反応は同じようなことが何回かあった、と見える。
「ここ『オルタナ』っていうらしいんやけど、すごく広いしケバインクがそこらじゅうでケバリ散らかしてるみたいなんよ」
言われて辺りを見回して見ると、クレーターの時とは比較にならないほどの面積と危険物質の量が見える。
先ほど見えたロケットの付近などは、土地がケバインクだけで構成されているのではないかと思えるほどだ。
「でも、3号たちなら突破できるはず! お願い、おじいちゃんを探すの手伝って────」
「1号、ストップ」
左側から身を乗り出した1号を司令がウデで制止した。
司令が先ほどの明るい声から1つトーンを落とし、静かに、そして涼しくそんなことを言ったのだから、ここにいた全員が司令に視線を向けた。
「単刀直入に聞くけど、カトレア君は納得してる?」
「報酬に、ですか? 内容によりますが……地上で起きたこと程度ならむしろ上等かと」
「そっか」
司令はキッと左目で俺をみる。
その目はキャンプのおやっさんや、今まで金を渡してくれたジャンク屋がジャンクを見定める目に近かった。
「New!カラストンビ部隊は一応秘密部隊。地下で起きるゴタゴタ、裏事情のゴタゴタを解決する特殊部隊なの。だから、この先に進めばカトレア君は、知らなくてよかった事を知ることになる、知らない方が幸せだったかもしれないことも」
「司令……!?」
あまりにも突拍子が無かったのか、2号が驚愕し、1号が司令の肩をつかみに行く。
「……ごめんね、今はカトレア君と大事な話をしてるんだ」
司令はそう諭すように言って優しく手をはらうと、再び俺に鋭い視線が投げかけられた。
相手が物ならともかく、俺はこの見定める鋭い目を向けられるのが嫌いだった。
「それに、いざという時になったら君の大切なもの、もしくはそれ以上のものを賭けてもらうことになるかも知れない」
「それは……命を?」
「事が大きくなれば、それも……いや、みんなの命までかかることも有るかもしれない」
一息おいて司令は、絞り出すように言った。
俺は呆然とした。
もうそこは、俺の想像できる世界を超えていたからだ。
金の桁が大きすぎるのもそうだが、事態の壮大さに全くついていけない。
すべて仮定の話では有るだろうが、紫の左目には「それは現実となる」という説得力があった。
「『黙ってればYES』なんて乱暴なことは言わない。後ろのマンホールはバンカラ街につながっているみたいだから、もし怖いと思ったなら戻って大丈夫」
「バンカラ街、に……」
「きっと、元司令はそうやって説き伏せちゃっただろうけど……ワタシは、君の感覚に従うのが君にとっての正解なんだって思うよ」
俺には想像のつかない世界だし、この仕事には想像のつかないほどの責任が伴ってしまうのだろう。
もうただの旅人には、ただの家出した自分には戻れないのだろう。
だが、それでも
今持てる選択肢の中で、最善なのはそれだった。
「ありがとうございます。でも、俺はやりますよ」
「カトレア君?」
「命の値段については、命がけでフル稼働して6万弱の
「……イカした目をしてるね、君の覚悟は伝わったよ」
そう言って司令は柔らかく笑うと手を差し出してきた。
俺はそれを握ったことにより、このとんでもない契約はお互いの合意が確認された。
「改めてよろしくね、3号!」
「こちらこそ、カエデ司令」
キャラクター紹介
カエデ
New!カラストンビ部隊の先代3号にして、現司令のイカガール。 本職は服飾職人
名前 カエデ 22歳
誕生日 10/25
特技 ギアを作ること
手先が器用でギアの製作・改造はお手の物。
業界ではある程度名の通る存在で、独自ブランド『KⅡ』を立ち上げて完全オーダーメイドギアやコスプレイヤー向けギアを製作している。
アングラでも『New!カラストンビ部隊元3号、現司令のカエデ』として名が知れており、特に『伝説のライブ』は評価が高い。
しかし、海上で可能性を信じて戦い抜きハイカラ地方の街を守ったことまで知る者は少ない。
ある作戦中にガラス片で右目を失明し、眼帯をつけているが、それは嘘なのではないかと言われている。
なお、彼女はアニメ「スターフェンリル」の大ファンである。