スプラトゥーン3 return to the beginning 作:キール・フェストリー
「サイト1、調査完了。オールミッションクリア。オルタナログ、解析完了……」
特殊金属素材『イリコニウム』の最後1つが出土したことによりこのサイト『みらいユートピアランド』の全貌が解明されたといえる。
ここは始めのサイトだったからかそこまで入り組んだ構造はしておらず、イリコニウムやミステリーファイル──オルタナログとは別の情報が記された紙媒体のもの──はさほどひねくれた場所ではないところから出土された。
解析が終わったオルタナログとミステリーファイル達に、俺は目を通している。
想像がつかないほど昔、地球には『人間』という『哺乳類』────つまりは元からの陸上生物が生息し、支配をしていた。
その頃の地球では度重なる海面上昇によって、縮小する領地を奪い合う戦争が起きていた。
これには諸説があり、技術発展の末戦争が起きて、あとから海面上昇が起きた、とも言われるが、それは別の話である。
その時代に
地上は汚染され、人類の10分の9は死に絶えた。
残った1割は地獄絵図の地上から、噴火の際にできた大空洞へ逃げた。
そこでは流れ込んだ海水によって大量繁殖したイカ、タコ、クラゲなどの海産物を栄養源とした。
「……SF小説の冒頭、か?」
機密情報オルタナログに格納されていたのがなにかと構えていれば、なにかのSF小説が開示されたのだから拍子抜けしてしまった。
なぜこんな物々しい施設の機密情報がこんなものなのか。
ミッションの中には武装もなしで1分間ビートを避け続けろとか、スペシャルウェポン『ショクワンダー』で空を飛び続けろとかふざけた条件がつけられたものもあったから、この体たらくには少しばかり怒りを覚えた。
「何を読んでるの?」
「……オルタナログです。ただのSF小説でしたが」
司令に聞かれたから受け答えをした声に、苛立ちが含まれていたことに気付いてさっと口を塞いだ。
が、司令はそのことを全く気にせず、むしろ少し含み笑いまでして「読んでいい?」と聞くものだから口を塞いだ自分が馬鹿らしくなった。
「────SF小説かぁ、そうかもしれないね」
司令はなぜかしみじみとした声でそういった。
何かがあったのかもしれないし、ただ司令の趣味だというだけかもしれないが、どうであろうと俺に関係はない。
次のサイトへのパイプラインに足を向けて、それは響いた。
甲高い女声に誰かと問いかけたのは1号で、甲高い声はそれに答える。
「ほーぅ? ダレかと聞いたな? 耳のモズクかっぽじって聞くんじゃ!」
声の方向へ向き直ると、そこには逆光に照らされた影が3つ。被っている仮面の模様だけがよく見える。
「3度のメシより、オタカラ・ハント! 踊るギャングスター、ウツホ!」
アラビアン風の──ファッションには疎いが司令からそう聞いた──衣装を着た黄色い女性はそう叫び仮面を投げ捨てる。
「一切合切、食い荒らす! サメ使いのフウカ!」
はたしてどんなマジックか、仮面と思っていたものは一瞬にして扇子に変化し、鋭い目つきで睨みつける青い女性。
「エイ! エイ!!」
「……なんて?」
司令がそう聞いたので、前後関係や表情、過去の情報などやつの言葉を読みとる要領で翻訳してみる。声は確かラジオ番組で聞いたか?
「……『一獲千金、千客万来。マンタのマンタロー』ですかね?」
あまりにも特徴的なシルエットから見えるのは優しい風貌の顔つきで、この集団からだと浮いているといわざる得ない。
「バンカラ代表!」
「イカした義賊!」
『ぜいたくざんまい!』
あちらの勢いに押されて沈黙が流れる。
その時間は2秒程度のはずだが、体感は10秒程度あった。
「カッコイい……」
そうつぶやいたのは1号。あまりの沈黙にお世辞を切り出したと思ったが、少し身体が震えるところを見ると本当に感服しているようだった。
「……反応が薄いのぅ、ビビっとらんのか?」
だが、当の本人達はそれを世辞として受け取り、あからさまにつまらないという顔をした。
「……で、そのすりみ連合? さんがこんなとこに何の用ね?」
「そもそも、すりみ連合って最近は『バンカラジオ』のパーソナリティなんじゃなかった?」
2号と司令はその情報を出して遠回しに「本業はどうした」と問う。
「ハッ、それは世を忍ぶ仮の姿! その実態は神出鬼没のと……義賊サマなのじゃ!」
それに連動して後ろは狂ったような高笑いが響き、ひとしきり笑った後キッと蔑む目をして
「あのクレーターにこんな空洞があるんや。オタカラがぎょーさんあるに違い有らへん。狙わんことにゃ義賊の名が廃るってモンや」
「エイ!」
「……『高値で売れるかもしれない』。義賊というのは金持ちから金品を盗み、貧民に恵むものでしょう? 自身の利を追い求めたらただの盗賊では?」
「 お前さんらもオタカラ狙っとるクセに綺麗事を抜かすでないわ!」
俺の反論は決め付けでキッパリ切られた。
こう、自身の都合よく理論を改変する奴はろくでもないやつだ。これは俺の経験則だからこの限りでは無いだろうが。
「とにかく、ここにあるオタカラは全部ウチらのもんやさかい。せやから、せいぜいおきばりやす~」
また高笑いがオルタナに響く。
一面雪景色であるのに落ち着いていれば寒くは無く、生暖かさまで感じる気候が残酷に見えた。
その間の悪さに耐えられなくなったか、各々煙玉をどこからか取り出し、「ほな、カイサン!」と叫んで消えていった。
取り残された俺達は半分呆然としながら、作戦会議をたてる。
「……成り行きであの連合とは戦うことになりそうですね」
「思った、だから今まで集めてくれたイリコニウムを使って装備を修繕しない?」
「そうしましょう」
司令は服飾関係の仕事をしていて、聞くところによるとコスプレや完全オーダーメイドのギアを作製することをするらしい。
だからか、上半身のインナーをイリコニウムと共に修繕する司令の目は真剣で鋭かった。
「すごい集中力……!」
1号が驚愕の言葉をこぼしたが、司令の耳には届かない。
ただひたすら、布の目を針で縫っている。
素人目でも間違い無く、それは職人の目だった。
しかし、その瞳は楽しそうな事には疑問を持った。
「……ふぅ、完成! インナーはこれで修復できたよ」
袖を通すと、見えていた素肌は完全に隠れ、さらにいくらか動作が軽快になった気がする。
「あっ、動きやすい? よかった~、イリコニウムを繊維化して柔軟性をあげるのはどうかなと思ったけど、上手くいったみたいだね!」
「……まさかこのインナー、金属が?」
「うん、イリコニウムは形状記憶金属にできるんだ。もちろん、耐久性も今までとダンチだよ!」
「すごい、ありがとうございます」
「いいよ、これは……」
「ワタシのやりたいことだからね!」
その言葉を聞いて、一瞬身体が凍りついた。
どうしてこうも、司令はピンポイントに俺を揺さぶってくるのか。
それは単なる年齢の、経験の差か。それとも
俺は思考と視界を振り切り、足早にパイプラインをくぐった。
よそう、これ以上は……