透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
「…………」
「…………? おい、大丈夫か?」
「
「保健室、行くか?」
「うん……」
試合が終わっても何も反応がない私を不審に思った心操くんが声をかけてくれた。
観戦中ずっと緊張していたせいで身体が強張ってしまっていて、一人では動けそうになかった。
心操くんに引っ張ってもらってなんとか立ち上がって、
リカバリーガールに「さっきの試合を観て気分が悪くなった」と正直に理由を話すと、隣室にあるベッドで寝る許可を貰うことができた。
おそらく治療を終えた患者・生徒を休ませるための仮眠室なのだろうが、他に利用者は居なかった。ありがたく横になる。
「はー……ふぅ……」
深呼吸をして、少しずつ身体の緊張をほぐしていく。
私の試合は第四試合で、二回戦の最後のはず。
大丈夫、それまでには回復する。
緊張のピークはあの流星群の時で、これはその余韻のようなものだ。
(うん……。大丈夫……)
気を抜き過ぎないように力を抜いて、私は瞼を閉じた。
――――入試の実技試験のことは、たまに夢に見る。
『ハイ、スタート』
なんて簡単な合図で始まった雄英高校ヒーロー科入学試験の実技試験。
10分間、仮想
1点、2点、3点の三種に加えて、妨害ギミックとして0ポイントのロボットが存在した。
私は武器として持ち込んでいた木刀を、納めていた袋から取り出しながら、他の受験生と一緒になって試験会場の模擬市街地を走った。
やがて先行していた受験生たちが溜まっているところに辿り着くと、やはりそこには目標であるロボットの姿があった。
さっそくロボットに攻撃を仕掛けている人や、逆に敵ロボットの恐怖で腰が引けている人がいる。
(ここだと人が多くて稼げないや――)
少し迷ったあと、敵ロボット諸共その集団をスルーすることにした。
模擬市街地の道路を全力で走って突っ切っていく。
先の方ではもっと大きな戦闘音が響いていて、激戦区があるようだった。
爆発音が響くそこを迂回して、模擬市街地のさらに奥の方へ。
途中、数体のロボットに捕捉されそうになるも、服を透明にすると見失ってくれたので、私は安心したのを覚えている。
模擬市街地のかなり奥まで入り込んだ私は、他に受験生がまだ来ていないこともあってウロウロと鈍い動きで索敵らしき行動をしている敵ロボットの群れを見つけることができた。
私は再び服を透明化し、1ポイントのロボットに木刀で斬りかかった。
大きさの割にロボットは意外と脆く、パーツがひしゃげて派手な音を立てた。
破壊音に反応し、周囲のロボットがこちらを向く。そしてキョロキョロと周囲を索敵し始めた。
(やっぱり、私のことが見えてないんだ)
おそらく視覚と音、あとは攻撃を受けたときの衝撃の
そして視覚センサーで捕捉した受験生に攻撃を仕掛けるような、シンプルな挙動をしていた。
で、あれば私は一方的に攻撃を仕掛けられる。
大きなロボットだから破壊するのは大変だけど、確実にポイントは稼げる。
関節部や頭部は装甲も薄いのか壊れやすくできていて、私の力でも充分破壊できた。
(いける……! これならお姉ちゃんも大丈夫だ!)
別会場で自分と同じように奮闘しているであろう姉のことを思う。
近くのロボットに手を出してポイントを稼いでいると、少し離れたところから断続的な爆発音が響いていた。
それに釣られて周辺のヴィランロボットはそっちへ集まって行っていた。
私はこれ幸いと、集団で移動しているロボットたちの背後を襲ってポイントを稼がせて貰おうとした。
試験時間は5分経過したぐらいだったと思う。
その時の私の獲得点は20ポイントから25ポイントぐらい。
物理攻撃力を持たない個性としては順調だと思うし、得点ペースをキープできていれば合格ラインに届いていたと思う。
油断があった。
自分は攻撃を受けない、という油断が。
だから、集団移動しているヴィランロボットを見つけ、まとめて撃破してポイントを稼いでやろう、という受験生の存在なんて想像もしていなかった。
また彼も、他の受験生への露骨な妨害は減点になるかもしれない、という懸念を抱くとしても、そもそも透明で見えない他の受験生がいるとは思いもしなかった。
もう一つ、付け加えるならば――
彼が本気で個性を用いることができる試験で、充分な時間の暖機運転を経たことで、自身の現時点での最大火力を試したくなったとしても、誰もそれを責められはしまい。
彼も目の前のヴィランロボの集団の他に人影がないのはきちんと確認していたのだから。
だから彼に非はない。ただ私が迂闊だった。
――――ズルをしてきた報いを受けただけで。
呑気にロボットの背後を狙っていた私は、不意に――――凄まじい爆発に巻き込まれた。
「…………う……ん……?」
気が付いたら私はビルとビルの隙間に倒れていた。
頭をぶつけたのか頭が痛かったし、バラバラになったロボの破片が身体に積み重なっていて重たかった。
気を失っていたのはこの時はまだ1、2分程度で、試験中ではあったと思う。
けれど、だからこそ――
ビルの隙間から見えた模擬市街地の道路には、お邪魔ギミックである0ポイントの
その巨大なロボットは妨害ギミックに相応しい動きで以って、周囲を威圧するように殴りつけていた。
移動するときにはその脅威を示すべく、狭い道なら強引にビルに手をかけて、砕きながら進んでいた。
当然、ビルを砕けばその破片が――瓦礫が生じる。
「―――――え…………?」
まだ痛みで動けず地面に転がったままの私は、
(…………え? ――――死ぬ?)
頭上から降り注ぎ、視界を暗く染めていく瓦礫を、ただ茫然と見上げることしかできなかった。
夢から目が覚める。
トラウマスイッチを思いっきり押された後だけに、そりゃあ見るよね、と自嘲しつつも、ひと眠りしたおかげで気分は悪くない。
それに、いつもとはちょっと違っていたし。
「心操くん」
「起きたか」
ベッドサイドには心操くんが居た。
心操くんはベッドサイドにパイプ椅子を置いて座って、モニターで試合を観戦していたようだった。
入試の夢を見て目覚めたときは誰かが側に居てくれると安心できるのでありがたかった。
「今、誰の試合をやってる?」
「常闇と尾白のがそろそろ始まる。緑谷と轟の試合のあと、ちょっと時間がかかってた。飯田と芦戸の試合はすぐ終わってた」
「うわ、結構ぎりぎりだ」
控え室に行く暇はなさそうだ。
もうここから直接向かおう。
「心操くん、私、大丈夫そうに見える?」
「見えないから、わからない」
心操くんの返答に満足した私は笑って、ベッドの上で身を起こした。
そのまま軽く柔軟運動。少し眠った身体を起こしていく。
これから爆豪くんと戦うというのに、一回戦の前よりも心持ちは悪くない。
「マイナスにマイナスを掛けるとプラスになる感じかなぁ……」
「?」
「んー、なんでもない」
入試の夢は何度か見てきた。大抵、瓦礫が降ってくるシーンで目が覚める。
実際にはその後にももっと色々あったのだけれど、深く恐怖を刻まれたのがそこなのだろう。
……だったのだけれど、今回の夢はちょっとオチが違っていた。
降ってきた瓦礫で暗転する直前――突然の爆発の後、青空が広がったのだ。
(うーむ、荒療治……?)
むしろトラウマを抉りきって貫通させた、みたいな……。
さっきの試合が良くも悪くも印象深かったのだろう。実際、試合中は本当にしんどかった。
とはいえ私が辛かったのは完全な流れ弾だ。麗日さんの策は凄かったと思う。
作戦とはいえ、あの爆豪くんに幾度も突撃し、あの爆発を何度も喰らっても決して諦めなかった。
勇気と無謀は紙一重とは言うけれど、あれは間違いなく勇気側だった。
(私もあれぐらい爆豪くんに対抗できるだろうか……)
自信はない。
個性無しの殴り合いならまだしも、攻撃力のある個性を向けられた経験は少ない。こればかりはヒーロー科との大きな違いだ。
そこで楽観はできない。とすれば、受けれるのはせいぜい一発二発と考えておくべきか。それ以上はその時の私の頑張りにかかっている。
「……勝ち目……は、ない、なぁ……」
麗日さんのように逆転の手札があるわけでもなく。
伏せ札こそあれ、切り札と呼べるほどではない。
仮に私が会心の一手を打てたとしても、そこから余裕で引っ繰り返せそうなのが爆豪くんだ。
それぐらい私には決定力が欠けているし、爆豪くんが私なんかに負けてくれるイメージは持てない。
――
仮眠室(だと思われるこのベッドルーム)のドアがノックされて、リカバリーガールが入ってきた。
起きてるね、と私を見ると、ちょっと診せて、と言われたので腕を出して脈を取ったりして簡単に診察してもらう。
「試合のほうは大丈夫そうだね?」
「はい。いけます」
「……無理はするんじゃないよ。普通科の生徒がここまできただけでも充分さね」
リカバリーガールとは入試後の治療の際に面識があった。
それもあって私が出張保健室に来てその事情を聞いても、特に詮索することなくベッドを貸してくれたのだ。
心配してくれる気持ちはありがたいのだけれど、私は思い出したことがあった。
「それは……そうなんですけど……。でも、せっかく爆豪くんと当たるから」
選手宣誓のときに、一泡吹かせてやりたい、そう思ったことを思い出していた。
「――八つ当たりに、一発、ぶん殴りたいなって」
だいぶ引っ張りましたが主人公の入試の話をようやく出せました。
次話はVS爆豪くんの予定です。
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