透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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13.私の怪我。私の夢

 

 

 ――勝者、爆豪くん――

 

 

 ぼんやりとミッドナイト先生の声を聞きながら、私は空を見上げていた。

 立ち上がらなければ、とは思うのだけれど、痛いのと気が抜けたのとで億劫だった。

 でもこのままぼーっとしてるわけにもいかない、潔く投了したのだから、試合後の礼までしたい。

 

(うん。爆豪くんにもちゃんと対戦ありがとうございましたって言いたい)

 

 思った通り、怖かったけれど、思った通り、強かった。

 こういう人が、雄英のヒーロー科なんだなぁ、と。

 将来のトップヒーロー候補生、その一端を感じられたように思う。

 

 身体のあちこちがぴしぴし軋むみたいに痛いけれど、なんとかゆっくり立ち上がった。

 うわ、ズボンぼろぼろだ。上着どこだろ……あったあった。先に回収しよ。う、屈むの痛いなぁ。

 上着に仕込んだ石は……砕けてるな。爆豪くんの頭、大丈夫かな……。思いっきり振り回したもんなぁ……。

 

 ただでさえふわふわする思考と、気が抜けてきて徐々に痛み出す身体が熱を持ってきて、ぼーっとしてきた。

 いやいやしっかりしろ。挨拶するんだろ、私。

 爆豪くんはステージの真ん中あたりに立って待っていてくれている。いそいそと正対する立ち位置へ。

 

「…………」

「――――」

 

 目が合う……わけはないけれど、なんとなく気配を察してくれた爆豪くんに合わせて頭を下げる。

 ありがとうございました、と言ったつもりだけど、声の響きがおかしい。

 あれ? 拍手が聞こえ……る? 多分拍手されてるよね? ぞわぞわとした音がするけど、もしかして耳がおかしいか?

 そういえばさっきのミッドナイト先生の宣告もだいぶ小さく聞こえた気がするな?

 爆豪くんに殴ったところは大丈夫か聞きたかったけれど、これだとまた試合前みたいになっちゃいそうだ。

 ていうかダメだ。今の私だと「頭、大丈夫ですか?」って口走るわ。

 いよいよもって頭が回らなくなってきた気がする。ていうか、痛い。

 脚も背中も頭もお腹も、痛くないところどこだろってぐらい痛い。

 

 爆豪くんより一足先に、舞台を降りていく。

 ふらふらと歩きながら出入口まで辿り着いた。

 背中からアナウンスが聞こえてきて、マイク先生たちが試合の振り返りをするみたいだ。

 少し耳の調子戻ってきたかな、ちょっと気になるけど、余裕ないや。

 

「あ、しんそー(心操)くん」

 

 心操くんがお迎えに来てくれた、というより出入口のところで観ていてくれていた。

 心操くんの顔を見て、ほっとしすぎて、その場に崩れ落ちそうになった。危ない。

 

「保健室まで、つれてって……」

 

 我ながらなんという甘え方だと思うのだが、もう甘えさせて欲しかった。

 担架ロボに運んでもらえばよかったと言われても、あの場では格好つけたかったから。

 私は、見栄っ張りなのだ。

 肩を貸してもらって、しな垂れかかる。

 おんぶしてもらおうかと一瞬思ったけど、お腹が痛くて諦めた。

 同じ理由で上着着たくないし、素肌では心操くんに、流石に、その、……失礼だ。

 のそのそとした動きで、通路を引かれつつ歩いていく。横抱きでも脇腹が結構痛かった。

 

 

「…………んん?」

 

 気づいたら、出張保健室の前に居た。

 

「霞。大丈夫――じゃないね?」

「おねえちゃん?」

 

 心操くんがいつのまにかお姉ちゃんになっていた。そんな馬鹿な。

 いやさっきバトンタッチしていたのだ。姉は保健室前で私を待っていた。

 心操くんは新しい体操服を貰いに行ってくれるとかそういう話をしていた。

 少し意識が飛んでいたみたいだ。一応、爆豪くんからトドメを喰らうときに()()()()()()()()()ぐらいの気持ちを入れたから大丈夫だろうけど、気が抜けすぎてるのはちょっと迂闊だ。

 姉がノックした後、保健室に入るとリカバリーガールが迎えてくれた。

 ずいぶん無茶をしたね、なんて呆れたような声を掛けてきて、私の透明なままの身体を眺める。

 

「リカバリーガール。あの、爆豪くんは来ました?」

「まだ来てないね。……ああ、こっちがいいかい。仕切りを立ててあげる」

「ありがとうございます。爆豪くんの頭、結構おっきな石で、おもいっきり殴ったからちゃんと診てもらいたいんですけど……」

「わかってるよ。でも、あんた、人のことよりもまず自分の心配をしな」

「……はい」

 

 間仕切りを動かして、保健室に入ってきても直接は見えないようにしてくれた。

 さて、わかってはいたけれど、こうなると私がすべきことは一つ。

 姉も、見えないのに怖い顔をしているのがわかる。

 

「霞。ちゃんと、見せて」

「…………」

「見せて」

「……うん」

 

 一つ、深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 やるべきことを、頭では理解しているのに、心がそれに追いついてくれない。

 

「霞。――お願い」

 

 姉が懇願するような、心配する声をかけてきた。

 わかってる。わかってるから、ちょっと待って欲しい。

 私は目を瞑って、ぐっと力を入れたあと、

 

 

 ――――個性を解いた。

 

 

 

 全身の透明化を解いて、傍目からは私の髪やら顔やら四肢やらが見えるようになったはずだ。

 五感は別に変わらない。これが昼の屋外とかなら日光の暖かさなんかを感じ始めたりするけれど。

 ちゃんと個性が解けているか確認するために、ちらりと薄目で左腕を見た。

 うん、ちゃんと腕が見えている。思ったより傷だらけだった。

 怪我の見た目が酷いせいか、姉は息をのんでいた。

 

 ふたたび私は目を閉じる。

 透明じゃない自分の身体を直視しないように。

 別に見たからどうというわけじゃない。ただ幼いころからの習慣なだけだ。

 今の私は理性的に自分の身体が見えるということを捉えられる。心が無駄にざわついてしまうだけで。

 

(自分の身体がどうかだなんて、知りたくない)

 

 知りたくないし、身内以外には知られたくもない。

 でも、姉の言うことだから。

 せっかく、私の身体は見せられるのだから。

 家族のように特別な個性を持つ医者や設備のある病院じゃないと掛かれないわけじゃなく、普通に治療を受けられるのならそうするのは合理的だ。

 

「素肌で転がった擦過傷は汚れが酷いからまずは洗わないとだね。痛むだろうけど、我慢するんだよ」

 

 まずは怪我の洗浄からリカバリーガールは始めるようだった。

 救護室の奥で、洗濯機置きのような排水口付きのスペースで、タオルを当てながら水を流して砂埃を落としていく。

 

「~~~~~っ」

 

 とても染みたけど我慢する。ガーゼを当てて水気を取ってから、消毒しつつ、リカバリーガールが治癒(チュー)をしてくれた。背中周りの痛みが消えていく。

 

「腕を挙げてバンザイして」

 

 言われた通りに両手を挙げる。両足から脇腹にかけての火傷がひきつって主張してきた。

 爆豪くんの首を絞めたときの反撃でやられたときの怪我だ。この時の爆発はやばかった。耳をやられたのも多分この時。

 それ以外の爆発はちゃんと対人用の火力調整がされていたと思う。

 爆風による衝撃に重点が置かれてて、何回か喰らった爆発は広範囲を吹っ飛ばすような調整がされていたのもあって、怪我の原因としては自分で転がったりしたほうが大きい気がする。

 雄英の体操服は防御性能が高いから、上着を着たままなら擦り傷もできなかったかも。

 

(麗日さんみたいに何度も爆発を喰らったわけではないし……。やっぱり麗日さんの根性凄かったなぁ)

 

 リカバリーガールの治癒が両脇腹と両脚まで回ると、痛みはほとんどなくなった。

 入試後の時といい、凄い個性だ。雄英が無茶な試験や訓練をやれるのも頷ける。

 ただ、この治癒を受けるとものすごく眠くなる。体力を使うから、下手すると逆に死ぬとは聞いている。

 

「りかばりーがーる、ありがとうございます……。すみません、ねむけやばいです」

 

 怪我で熱を持ってた感じだった身体が、怪我が消えて熱だけ残った感じ。

 子どもの頃、プールで全力で泳いだ後のぽかぽかした疲労感が、全力で眠気を呼んでいた。

 お菓子を渡されたので口に含んで、もぐもぐする。

 

「霞、服着ようねー」

「んん~~~」

 

 姉が服を着せてきた。

 子どもか、とツッコミを入れる気も起きない。むしろぐずりそうな私の心だった。

 耳も念のために治癒してもらう。耳にチューされるのは、かなりぞわっとした。

 そしていよいよ睡魔の攻勢が激しくなった。

 見たい見たくない関係なく、目蓋が開かない。

 この感じ、体育祭中には起きれないなぁ。残りの試合、観れないや。

 

「ばくごーくん、ゆうしょうしてほしいなぁ……」

 

 …………負けた私にも箔がつきそうだし。

 

 

 意識が落ちる。目が覚めるころには体育祭は終わっているだろう。

 私の体育祭は、最終種目二回戦敗退という結果で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霞ー? ……寝たね。お疲れ様」

「ったく、無茶するなと言ってもするねぇ。火傷の跡が残らなくてよかったよ」

「ありがとうございます、リカバリーガール」

「……あんたも気をつけな。この子の怪我は、いずれあんたが受ける怪我だよ」

「――わかってます。コスチュームのほうはまだですけど、一応お願いはしてるので。……また霞のほうが怪我しちゃったな」

「入試の時、この子は「私の方で良かったです」なんて言ってたけどねぇ。いざとなったら見せれるからって」

「…………強がりだなぁ、霞は」

 

 本当は見せたくないのに。

 今日だって、言わなかったら見せないまま治療を受けようとしてただろうに。

 怪我の跡が残らなそうで良かった。

 妹の怪我は、自分の怪我みたいに感じるから。

 脚も腹も背中も、顔まで怪我している姿は、我が身を削られる気持ちになった。

 

 妹は本当に嫌がるからたまにしか見せてくれないけれど、妹の姿を見るのは好きだ。

 自分の姿を想像できるから。双子だから、きっと同じ顔をしてるって信じている。

 妹のかわいい顔に火傷の跡が残らなくてよかった。

 穏やかに眠る顔、久しぶりに見るそれをしばらく眺めた後、退室した。

 

 保健室を出ると、爆豪くんと心操くんが立っていた。

 心操くんはさっき新しい体操服を渡しにきたあとは保健室の外で待っていてくれていた。

 そして心操くんが爆豪くんに治療待ちをしてもらっていたようだ。治療中の姿は見られたくなかっただろうから助かった。

 お待たせさせたのは申し訳ないけれど、霞が中で寝てるから静かにね、とお願いする。舌打ちで返事をするのはどうかと思う。

 

「――霞がね、爆豪くんに優勝して欲しいって」

 

 ドアが閉まる前にさっき聞いた言葉を伝えてみた。

 は? という声が聞こえたけれど、構わず観客席に戻るべく歩き出した。

 A組とC組の分かれ道で心操くんにお礼を言って別れる。いつも妹がお世話になっています。

 こっちこそ、と返されて、にっこり笑って手を振った。

 

「……私も頑張らないとなー!」

 

 通路で独り、つとめて明るい声で自分に発破。

 ヒーローになるのは私の夢だ。

 それに加えての目標もある。

 

 

 

 

 

 

 いつか個性を伸ばして、

 

 ――二人で顔を合わせて笑えたら、

 

 そんな未来を夢見ている。

 

 

 




 第一章、雄英体育祭編 (多分)終。

 ここまでお読みくださりありがとうございます!
 勢い任せで書き始めたため1~3話あたりは読み返すともうちょっとこう…という気持ちになっていますが、何があってもなんとかここまでは書ききる、というところまで書ききれました。

 完結ではないので、このあとは普通にオリ主の生まれ育ちの話をするか、その前に体育祭の後の話(+職場体験の前の話)をするか迷い中です。
 あと章分けの機能とかもそのうち使ったり、あらすじを書き加えたりとかするつもりがあります。
 色々ほっとして後書きを書きたい気持ちもあるのですが、活動報告あたりに書けたらと思います。

 感想、評価、ここすき、お気軽に。お願いいたします。
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