透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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16.入試後のあれこれ

 

 2月26日、国立雄英高等学校入学試験日。

 

 雄英高校入学試験を、ヒーロー科実技試験まで終えて、私――葉隠透は確かな手ごたえと達成感を覚えていた。

 筆記試験もしっかりできたと思うし、不安だった実技試験もなんとかこなせた。

 危なそうな他の受験生の横取りみたいなカタチになりがちだったけれど、攻撃を受けない透明人間の強みを活かしてポイントを稼ぐことができたのだ。

 試験終盤に出てきた0ポイントのヴィランロボットには流石に驚かさせられて、一目散に逃げるしかなかったけれど。

 

「…………霞、遅いなぁ」

 

 双子の妹である葉隠霞は、受験番号が一つ違いで筆記試験は隣の席だったけどそれゆえか実技試験は別会場だった。

 妹が使っていたはずの更衣室のロッカーにはまだ鍵が掛かっていたので、まだ試験会場から戻っていないと思われた。その時は他会場から戻ってくる受験生も多かったので、移動用バスの順番待ちでもしているのだろうと思っていた。

 しかし、かれこれ20分、試験終了からだとゆうに30分は過ぎていた。会場に残っている受験生もどんどん少なくなってきている。

 校内放送のスピーカーからは、まだ残っている受験生はすみやかに退出してください、と定期的にアナウンスもされていた。

 受験会場が同じになってなんとなく話が合った他の受験生女子としばらくお喋りを楽しんでいたけれど、その彼女も帰って行った。

 携帯電話でメッセージを送るも既読はつかないし、通話もつながらない。

 もう一度、更衣室のロッカーを確認しに行くも、やはり妹のロッカーは使用中のまま。念のために通話を試みると、ロッカーの中からマナーモードに設定していたのだろう振動音がかすかに響いていた。

 

(……試験で怪我して保健室、とか?)

 

 しかし試験中に怪我をした受験生はその場でリカバリーガールが治療していっていたはず。

 やっぱり何かがおかしい。

 どうする? 保健室か職員室か、ともかく誰かに話をしないと……、と思っていると、

 

「受験生はそろそろ退出してね? それとも何か落とし物かしら?」

 

 見回りをしていたであろう女性教職員――ヒーロー『ミッドナイト』だ。凄い格好(コスチューム)――がちょうど更衣室にやってきた。

 ちょうど良かった、と少しほっとしつつも、慌てて彼女に話しかけた。

 

「妹が、双子で、受験会場から戻ってきてなくて――」

 

 言葉がうまく出なかった。一度、呼吸して、もう一度伝えた。

 双子の妹がヒーロー科の受験生であること、荷物がロッカーにまだあること、そのことからまだ実技試験会場から戻っていないと思われること。

 私の言葉を聞いたミッドナイトは、すぐに携帯電話を取り出した。

 

 そしてミッドナイトからの連絡を受けて、――雄英高校の教職員が慌ただしく動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 事の顛末は、入試後1週間して、合否の連絡の際に一緒に説明を受けた。

 ヒーロー科入試の実技試験はカメラ映像によって受験生一人一人の動きが採点される。

 カメラ映像から受験生を自動識別して、個々の採点ができるように映像データがタグを付けられ振り分けられる。

 受験会場にはあちこちにカメラが設置されており、死角になりそうなところにはドローンが飛んでカバーしていた。

 通常であれば、特に問題なく全ての受験生の動きを追跡できていたはずだった。

 

 不幸な事故だったという他ない。

 想定していない挙動がシステムに起きていた。

 

 葉隠霞の透明化は、カメラ映像から人物識別をするシステムにエラーを起こしていた。

 正確にはシステムが葉隠霞を見失いかけていた。完全に見失ったわけではなかった。

 映像から「おそらくそこに居る」という判定をしており、採点映像の収録は進行していた。

 しかし、葉隠霞が他の受験生の個性(爆発)に巻き込まれた際、葉隠霞を追跡していたカメラドローンは煙幕もあって完全に葉隠霞を見失った。

 

 そこで予想だにしないバグが発生した。

 葉隠霞を見失ったシステムは、なぜか別会場の葉隠透を葉隠霞と誤認し始めたのだ。

 数多のカメラ映像から葉隠霞を検索するも見失い続けていたシステムが、大量の検索実行の結果、ありえない挙動を起こしていた。

 

 人物識別のシステムは、安全装置としての機能もある。

 受験生に対して、必要以上の危険を与えないよう、ヴィランロボットの動きを制御するのだ。

 派手な動きや台詞で威嚇するし、多少の怪我もやむなしといった攻撃をするが、最低限の安全は配慮されていた。

 だがそれは、受験生がそこにいる、とわかっているからこそのシステムだった。

 

 いるはずのない受験生には、そのシステムの配慮は及ばなかった。

 

 試験後、システムのログを確認して発覚したが、表面上、試験は無事終了したことになっていた。

 瓦礫の下に、葉隠霞を残して。

 

 救出は、試験終了から一時間は経過していた。

 本当であれば、試験の終了後すぐ救出されるべきだった、と根津校長は謝罪していた。

 

 

 瓦礫の下から救出される葉隠霞(いもうと)の姿を、私は見た。

 透明ではなかった。助けを求めるために透明を解除したのだろう。

 両手の爪は割れて血が流れていた。地面を掻いて瓦礫から這い出ようとしていた。

 幸運にも瓦礫で押しつぶされずに済んだが、片足は瓦礫に挟まって折れていた。

 私は妹が感じたであろう恐怖を思って泣いてしまっていた。

 

 

 妹はすぐにリカバリーガールのいる保健室に搬送され、治癒を受けて、怪我は一つも残らず治療されてその日のうちに帰宅できた。

 けれど、その日からしばらく妹は寝るときに電気を消さなくなった。うなされて「助けて!」と叫んで起きることも何度かあった。私はしばらく一緒の部屋で寝ることにした。

 妹は夜に寝るときはそんな様子にも関わらず、昼間はなんてことはない、という顔をしていた。それが余計に痛々しかった。

 

「――天罰があたったんだよ」

 

 なんてことを言って、妹はから笑いをしていた。

 

 

 

 

 入試から一週間後、合否の通知と謝罪のため、根津校長とミッドナイトが葉隠家を訪問した。

 まずは謝罪を受けて、両親も複雑な気持ちであったけれど、妹本人が良しとしたので、受け入れていた。

 今後の対策としてカメラにサーモ映像のシステムを追加するという。私にも関係のある話ではあった。

 そして立体映像の合格通知を形式上のものだからと渡されたけれど、直接、私の合格と妹の不合格が告げられた。

 合否については納得した。妹はどうしてもポイントが足りなかった。

 そして入試の動きから、普通科からのヒーロー科編入を目指してみないか、という話をされていた。

 充分合格を狙える動きをしていたし、その個性の使いこなしっぷりは充分有望株なのさ、と評していた。

 特別編入カリキュラムなる新制度を策定して、ヒーロー科への道をちゃんと用意するので、雄英に来て欲しいという話だった。

 

「――あの、普通科でも、個性を使う練習しても、大丈夫ですか?」

 

 挙手をした妹が、質問をしていた。

 

「個性の訓練無しにはヒーロー科の生徒に追いつけないからね! もちろん便宜を図るさ!」

 

 まあ君は充分個性を使いこなしていると思うけれどね! とネズミ姿の根津校長は答えた。

 けれど、妹の本当に訊きたいところはそこではない。

 普通科でも、自分は個性を使ってても構わないだろうか、という言質を取ったのだ。

 妹は、ありがとうございます、と言って、

 

「……わかりました。普通科からの編入、目指してみたいです」

 

 その妹の言葉に、その場に居た全員がほっとした空気を出していた。

 

 

 

 

 

 

 妹は目標を決めると、それに邁進(まいしん)する気質があった。

 幼い頃は透明であることをひたすら追い求めていたし、私が雄英に行きたいと言うとそのための計画を練りに練ってくれた。

 その妹がヒーロー科に落ちてしまい、小さくない心の傷を負ってしまっていた。

 そんな妹を置いて妹と別の学校に通うなんてことはしたくなかったので、曲がりなりにも雄英に入学してくれるのは嬉しかった。

 実際、その日から妹はさっそくヒーロー科編入のために計画を練り始めたし、一気に気持ちを持ちなおしていたので、私も心がずいぶん軽くなったのだ。

 

 いざ雄英高校に入学してからは「体育祭が終わるまでは秘密」と特別編入カリキュラムで何をやっているのかは教えてくれなかったけれど、楽しそうに学校に通う妹の姿に安心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、かすみー? もういいでしょー? そろそろ教えてよー。体育祭までどんなことやってきたのー?」

「んんんー……」

 

 雄英体育祭を終えた翌日の振替休日。

 居間で昨日の録画を見ながら、妹に話を聞いてみた。

 

 

 




 雄英の入試システムについては作劇の都合の独自設定です。


 びっくりするぐらい難産になってしまって、ある程度書いてた部分をばっさり消したり、ここのところの話と比べるととても短くなってしまいました。

 次話からは入学以降の普通科の話の予定です。
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