透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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第2章 Track to the Start
17.オンユアマークの前に


 

 雄英体育祭の終わりを私は出張保健室で迎えた。

 正確には、すっかり熟睡していた私は表彰式も閉会の挨拶も寝過ごしていた。

 出張保健室を撤収するからとリカバリーガールに起こされた時にはもう帰りのホームルームまで終わっていて、香山先生が私の荷物を預かって持ってきていた。

 さらに姉がお迎えに来るも、寝ぼけ眼でふらふらの私を見かねて、香山先生(ミッドナイト)が車で姉も一緒に自宅まで送ってくれたのだった。

 

「明々後日、できたら朝のホームルームの前に職員室に来てちょうだい。心操くんと一緒に」

 

 先生からの通達に、わかりましたと返答する。

 今日はお疲れ様、と去り際に残して、香山先生は颯爽と車を飛ばして帰っていった。本当にありがとうございました。

 

 その後、夕食とお風呂もそこそこに、ベッドインして再び熟睡。

 すると流石に寝すぎたのか、翌朝はいつもよりもさらに一時間は早い時刻に目が覚めた。

 目が覚めた、のだが、

 

「……動けぬ」

 

 すわ金縛りか、と思ったが、姉が同衾していた。

 姉は寝るときに全裸になることが多々あるのだが今回もそうで、透明な姉が絡みついていて身動きが取れないことに一瞬理解が追い付かなかった。

 実は姉の重さで悪夢を見たけれど、怒る気にはならない。

 なんとか身じろぎをして、片手を伸ばしてごろごろしながら漫画や動画を見る用のタブレットを取り寄せた。

 しばらくネットで掲示板を巡ったり、ニュースをチェックしたりしていると、姉が起きた。おはよう。

 ようやく姉の拘束から解放されて、時刻も良い時間になったので、ちゃんと起床した。

 

「霞、まだ熱っぽいよ。今日はしっかり休んだほうがいいんじゃない?」

 

 と姉に言われてしまったので、今日は自宅で透明になるのもやめておくことにした。

 実際、ちょっと頭も重たかったし、疲労感が抜けていない感じがした。

 手袋と長袖をつけつつ、髪の毛を後ろにまとめて、あとはリラックスできる格好になる。

 部屋着に着替えた姉とソファーに並んで、テレビとレコーダーのリモコンを操作し、昨日の体育祭の録画を再生し始めたところで、

 

「それで、かすみー? もういいでしょー? そろそろ教えてよー。体育祭までどんなことやってきたのー?」

 

 と姉がしな垂れかかってきながら、訊いてきたのだった。

 

「んんんー……」

 

 至近距離からの見えない視線を感じながら、私は考える。

 

(準備という意味なら、合否通知の夜からになるんだよなー……)

 

 入試で他の受験生が色々な物を持ち込んでいるのを見たのを思い出して、サポートグッズメーカーに問い合わせのメールをしたのがその夜だった。

 翌日、丁寧な文面で「よかったら直接打ち合わせをしましょう」といった内容の返信があった。

 早い反応に少し驚きつつも予約を取って、後日、メーカーの営業担当の人と商談用スペースでたくさん話をさせてもらった。

 やはり直接ヒーローに関わる仕事の人は色々と詳しく、雄英体育祭の話を聞かせてもらえたのだった。

 

「お姉ちゃんが被服控除のために、身体測定しに行った日があるじゃん? あの日、私はサポートグッズメーカーの人と会ってたんだよね」

 

 いや、ほんと何のために身体測定したのか……とは言いたくなるのだけれど、それはともかく。

 姉も私も(ついでに両親も)かかりつけの病院で定期的に検査を受けていた。普段は一緒に受けていたそれを姉は前倒しにしてヒーローコスチューム用のデータを取ってもらっていた。

 

「あの日かー。そっか、そんな前から準備してたんだねぇ」

「普通科からの編入を目指すなら、体育祭に焦点を当てなきゃと思ってね」

 

 雄英体育祭では毎年数名、ヒーロー科以外の生徒が第二種目に進出しているのは知っていた。そしてアピールの場でもあることも。

 メーカーの人にも、それは実際にそうだという話も聞けたし、レギュレーションについての考察なんかも聞けた。

 

「サポート科の人を仲間につけて、どうにかアイテム持ち込みできないかなぁって考えたこともあるよ。でもチーム戦でもないと流石に反則みたいで断念した」

「ああー、騎馬戦の時の緑谷くんチームみたいな」

「そうそう」

 

 決勝トーナメントの飯田くんと発目さんのアレは例外中の例外だ。

 

「……んー、とりあえず入学前にやったことで大きなのはそれだけかなぁ」

 

 情報収集のためにネットの掲示板を漁ったこととかは言わなくてもいいだろうし。

 一般教科の予習は姉と一緒になってやったから、こっちも言わなくていいだろう。

 惜しむらくは私たちは入試に備えて中学時代に勉強していたけれど、もっと先を見据えて勉強していたらよかったかもなぁ、というところ。高校の学習範囲に早めに手を付けていれば、もうちょっと授業で楽できてたと思っている。

 姉から聞くヒーロー科の授業進捗が思ったより早いのだ。授業時間数が少ない割に普通科の授業ペースとほとんど同じで、普通科は時間数が多い分、復習や応用問題の時間が設けられている感じ。

 今のところは大丈夫でも、ヒーロー科特有のカリキュラムに時間が取られると一般教科が疎かになる恐れがある。

 

「入学してからはー……、同じクラスに私と同じでヒーロー科への編入希望してる人がいたから、すぐに一緒に編入カリキュラムの申請書を出しに行って」

「あ、それが心操くん」

「うん。それで、申請締め切りまでは特別編入カリキュラム――みんなは『特編』って言ってるんだけど、補習授業とかなくて。ただ自習室を用意してもらえたから、放課後に自習室で色々計画を練ったりしてた」

 

 自習室と言っても、どちらかというとダンススタジオめいた多目的ルームだった。少人数で個性を用いない運動なら余裕でできる程度の広さがあった。

 正式にカリキュラムが開始すると体育館や演習場でのヒーロー基礎学の授業を受けれたりもしたのだが、このひと月で数えるほどしかない。

 

(ヒーロー科との差は広がる一方、なんだよね……)

 

 当然と言えば当然だ。正規の授業が補習に負けては問題がある。

 それでも、嬉しいこともちゃんとあった。リカバリーガールの治癒が受けられたことだ。

 正規の演習扱いとして、訓練中の怪我の治療でリカバリーガールの治癒を受けれること。ヒーロー科の授業なら当たり前かもしれないが、他科の、普通科の生徒には本来与えられていない権利だった。

 

 

 

 録画再生中の体育祭は、いよいよ決勝トーナメントに突入した。

 ちなみに開会式から始まる第一種目の障害競走も、第二種目の騎馬戦も、私たちはほとんどカメラに映っていなかった。

 見切れるようにちらっと映ってはいるのだけれどフォーカスが当たることはなく、しっかり映ったと言えるシーンは、騎馬戦にて轟くんチームの雷撃からの氷結コンボを喰らうシーンだろうか。それも他のチームと一緒くたではあるが。

 

「……うう……」

 

 一回戦第一試合、心操くんが負けるシーンで思い出し泣きしそうになりつつ、心操くんの個性を多少ぼかしながらどういう作戦だったかを姉に説明する。

 

「『洗脳』の個性かー。強いなー、それに霞が好きそう」

「え? そんなイメージある?」

「ヴィランっぽいヒーローランキングとか大好きじゃん」

「そういえばそうでした」

「実際のとこ、どういう仲なの?」

「推し」

「…………推し?」

 

 仲良くさせてもらってると思っているけど、色恋沙汰として語るには彼は眩しすぎる。

 ゆえに『推し』という感情が近いと思う。

 こちらからの愛を語らせてもらうのはやぶさかではないけれど、お返しが欲しいとはとても思えないのだ。

 

「激重感情じゃん……」

「自覚はある」

 

 端的に表現しすぎる私に、姉も引いている。

 体育祭へのモチベーションを高く持ち続けられたのは彼のおかげと言っても過言ではなかった。

 ひとえにストイックに努力し続ける彼の姿が眩しかったのだ。

 

「霞の出番だ。がんばれー!」

「頑張ったなー、私」

 

 青山くん戦が画面に流れる。

 実際に戦ったときは結構長く感じたけれど、こうやって観るとあっという間の戦いだった。

 うーん、ビビり過ぎというか、動きが硬いというか、外から見ると緊張と経験不足がわかるなぁ。

 

「そうそう、青山くんのレーザーなんだけど」

 

 実は最後のレーザーが当たっていたこと、そしてその感覚について姉に伝える。

 姉は「ふむぅ?」と首を傾げていた(と思しき動きを見せた)けれど「機会を作って試してみる」と言った。

 

「……意外と平気だ……。画面越しだからかな……?」

「あー、やっぱりキツかったんだ、アレ」

 

 麗日さん対爆豪くん戦の感想である。

 

「だから二回戦以降はほとんど観れてないんだよね。実は楽しみにしてる」

「おっと、ネタバレしないようにしないと」

 

 と言うことでここからはほぼ初見の観戦なのだが……

 

「――いや、緑谷くん、怖いね?」

 

 緑谷くん対轟くん戦。私が保健室でダウンしてる間にこんな恐ろしい試合が繰り広げられていたのか……。

 轟くんに発破をかけて、本気()を出させたのは凄いけれど、身体がボロボロだ……。

 心操くんが試合の後に時間が掛かってた、と言っていたけれど、さもありなん。

 その後の飯田くんと芦戸さん、常闇くんと尾白くんの試合の平和さたるや。

 

「そしてついに爆豪くん戦。心配したよー」

「開き直るしかなくて……」

 

 と言っても語るべきことは全然なかった。

 試合後の実況解説の先生二人がほぼほぼ全部言ってくれていた。

 

「しいて言うなら、リボンにワイヤー仕込むかどうかは結構ギリギリまで迷いました」

 

 完全に暗器の類になるとレギュレーション違反なので止めたけれど。

 上着に石を仕込むのは最初から狙っていた。一回戦で爆豪くんがステージを壊して瓦礫を作れるのは把握していたので。

 簡易フレイルの扱いは、剣道の先生から簡単に教えてもらっていた鎖分銅の要領で振り回した。うまくいって良かった。

 

「そういう意味では、爆破無しで格闘仕掛けられてたら、逆に危なかったかも」

 

 武器無しでの格闘戦では体格差がもろに出てしまう。

 渾身の前蹴りが全然通じなかったときは、軽く絶望感すら覚えていた。

 なすすべもなくやられて、見せ場もなく負けることは避けられたのは幸いか。

 

 

 轟くん対飯田くん戦。ここまで派手なところが目立っていた轟くんが技を見せていた。むぅ、強い……。

 常闇くん対爆豪くん戦。どちらも強個性、だったのだが爆豪くんの相性勝ち。とはいえ攻略に至るまでの戦いっぷりは中々見応えがあった。

 

 いよいよ決勝の轟くん対爆豪くん戦。

 派手な個性のぶつかり合い。――と思いきや、轟くんが炎を使わない。

 その様子に、爆豪くんが激高していた。

 

『勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!』

 

 ――私はどうだっただろう。

 

 勝つつもりは……なかったのかもしれない。

 勝てっこないと思っていたことは否めない。

 いやでも、全力は出したはず……。

 なんならワンチャン死ぬかもしれない首絞めまでしたのだ。

 

 でもヒーロー科()の前に立つだけの気持ちがあったと、自信を持って言えただろうか。

 

 

「爆豪くん、優勝してくれたんだなぁ……」

 

 とても不服そうだけれど。

 とてもとても不満そうだけれど。

 雁字搦めに拘束された表彰式での姿には苦笑せざるを得なかった。

 

 

「優勝おめでとうの手紙を書きたい」

「うちの妹は恐れ知らずか」

「お姉ちゃん頼んだ」

「渡すの私!?」

「せっかくだからハートのシールとか付けちゃうか」

「あきらかに誤解を狙ってるんだよなー!」

 

 お手紙を書きたいのは本当なので、姉には犠牲になってもらう。

 まあ読まずに燃やされそう。それでもいいけど。

 

 

 

 

 

「さて、体育祭までにやってきたことだけど……」

「お、続き話す気あるんだ」

「ちょっと待ってね、ノート取ってくる」

 

 まあ話せることはそんなに多くはないけれど、姉からはA組の話をたくさんしてもらったのでお返しはしなければならない。

 




(2024/5/25 体育祭後の休みを一日だけと勘違いしていたので、香山先生の台詞を修正しました)
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