透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
雄英体育祭。
国立雄英高校で行われる体育祭にして、かつての五輪に代わる日本の一大スポーツイベント。
テレビ中継も行われ、ここでの活躍がヒーロー候補生としての今後を左右する重要な行事である。
そしてそれは、ヒーロー科の入試に不合格になるも、普通科から編入を目指す生徒にとっても同じだ。
「いよいよ始まるね。心操くん」
「ああ」
待ちに待った、とは言えない。しかし普通科へ入学が決まってから約二か月、入学してからの約一か月、できる限りの訓練と準備をしてきたイベントだ。
どうしても高まる緊張をごまかしたくて、私は隣に立つクラスメイトに話し掛けた。
私からだと見上げるぐらい高い背丈と逆立たせた髪、隈の目立つ目つきの男子、心操人使くん。
我が普通科1年C組からヒーロー科編入を目指す同志は、いつものポーカーフェイスに気だるげな雰囲気をまとわせている。
その様子に少しだけ安心して、ほっと息をつく。まあ、私の表情は透明なので誰にも見えてないんだけど。
『――――――!!』
入場開始を伝えるプレゼント・マイク先生の実況が、トンネル状の通路に反響しながら届く、が、
(いやうん、話題性的にも世間的な扱いにしても、
マイク先生の煽るような(というよりそのものずばり煽っている)実況に、やはり気が滅入るものがある。
エンタメって残酷だなぁ、と内心複雑な気持ちになっていると、周囲のクラスメイトたちは露骨に口に出して愚痴っていた。
とはいえ、それが普通科C組の立ち位置なのだ。
(――ここからだ)
1年A組だけじゃない。B組含めたヒーロー科だけではない。
普通科が、一流ヒーローへの道、雄英高校ヒーロー科という進路を諦めきれなかった生徒がいることを、ここからアピールするのだ。
(……お姉ちゃんは、どこかな)
気を取り直して、普通科、サポート科、経営科までをざっくりひとまとめに紹介されながらの入場行進の最中、ひと際注目を集めているA組の方を見る。
視線を巡らせ、最愛の姉の姿を――いや、空中に浮かぶように在るであろう体操服を探したけれど、同じデザインだらけで中々見つけられない。
見た感じ、A組生徒たちの雰囲気に偉そうとかそういう印象はない。普通に緊張したり、歓声に戸惑ったりしている生徒もいるし、逆に堂々とした姿を見せている人もいて、総じて自然体と表現できるだろう。
そういう意味では確かにA組は特別感があるし、逆に普通科で不満を漏らしている子は凡庸と評価されるかもしれない。
USJ事件と俗に言われるヴィラン襲撃事件、箝口令が敷かれているその内容の一端を、姉から私は聞いていた。正確には、問い詰めて訊き出していた。
……修羅場をくぐった、としか言いようのない彼らは、間違いなくヒーローへの道を大きく進んでいる。
(あ、見つけた)
大きな尻尾が特徴的な尾白くん、その影に浮かぶ体操服。
私と違って、透明をカバーする装飾品を一切身に着けない姉の姿だ。
当たり前だけれど、透明な、その表情はわからない。けれど、なんとなく楽し気にしている、のだろう。
姉はとても明るく、ひたすらポジティブな気質である。少なくともそういう風に自分を表現している。
私はというと、まあ姉に比べるとインドア気質というか。
自身を陰気だとか内気というつもりは全くないけれど、姉には負ける。勝てる気がしない。
まず格好が守りに入っている。
先述の通り姉は装飾品の類をつけない。透明であること、見えないということにアイデンティティを感じていて、ヒーロー装備に至ってはほぼ全裸である。
繰り返す。ほぼ全裸である。
ヒーロー科特典である被服控除を、姉が全裸に手袋と靴だけというコスチュームで申請したと知ったのは入学日直前であった。
……知っていれば止めていた。
私は私で普通科に入学することが決まった後、その翌日には体育祭に照準を合わせるためにサポートアイテムのメーカーに色々と問合せをしていたので、体毛・髪の毛を編み込んだ特殊繊維の存在を知っていたのだ。
個性に追従する特殊繊維で作られたヒーロースーツであれば、姉の個性でも透明化できるかもしれないし、最初から透明な服が作れたかもしれない。流石に入学までには間に合わなかったかもしれないけれど。
案の定ヒーロー科の授業の戦闘訓練やヴィラン襲撃の際に、クラスメイトの轟くんの個性で寒い思いをしたというし。体育祭は体操服着用で良かったねお姉ちゃん。
ひるがえって私の格好は、というと……
伊達眼鏡で顔があることを強調。
大きなリボンで頭の位置を主張。
手袋や長袖を着けて手や腕を明示。
――と、言わば完全防備である。
正直、夏場は暑いので手袋はちょいちょい外しているけれど、外を出歩くときは我慢して装着している。
当然、本日の体育祭でも同じ装備である。頭装備は長いリボンをハチマキっぽく着けている。
手袋は適当な薄手のもの。なにかと破れたり失くしたりしやすいので予備もポケットに突っ込んである。
そして靴は、この日のために学生の身分としては結構高い買い物をして用意した、軽くて消音性の高いサポートアイテムメーカー製のシューズである。
メーカーの人と直接打ち合わせをして用意してもらった一応オーダーメイドでもある。特殊繊維の話はその時に教えてもらった。
流石に下ろし立てではなく、足になじませるために使いこんできたけれど、この体育祭で使いつぶしても構わないつもりだ。
体育祭ではサポート科以外の持ち込みは制限されていて、個性制御に必須でもなければサポートアイテムの持ち込みはNG。ただし、常日頃から使用している眼鏡やシューズはその制限にかかることは少ない。機械的なハイテク機能を搭載するとかでもしない限り、見咎められない。*1
そして念のために持ち込みアイテム申請も出してある。体操服以外の装備品として、眼鏡、リボン、手袋、サポートアイテムメーカー製のシューズ、ついでに予備のシューズも履き替えられるように記載しておいたので、体育祭中にこれらの装備品を使っても何らやましいことはない。
まあ、本当にやましいことはないんだけれど。
ちょっと高級な運動靴を履いているだけなので。
『――選手代表、1―A 爆豪勝己!』
最後の経営科まで入場が終わり、整列というより集合といった具合でフィールド上に生徒が揃うと、1年生の部の主審を務めるミッドナイト先生が開会式を進行した。
A組の集団から一人の男子生徒がステージに歩み出ていく。特徴的なツンツン頭とポケットに手を入れたままの不遜な態度、――爆豪勝己だ。一目でわかる。
「せんせー」
態度に違わぬやる気なさげな声、そして、
「――俺が一位になる」
勝利宣言にフィールドが、スタジアムが沸騰する。
さっきから不平不満を吐き出していた普通科のみならず、同じヒーロー科のB組生徒からも批難轟々だ。
(ははーん……)
流石の私も、これには思うところは出てくるわけで。
なんとしても、あやつに一泡吹かせたい、そう密かに誓ったのだった。
このSSを書きたいと思った動機は「葉隠さんかわいい」「心操くんかっこいい」でできています。