透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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21.彼方と此方のセパレート

 

 雄英高校に入学してから三日目の朝。

 私は昨日の朝と同じ時刻の電車に乗っていた。

 今日も席は空いていて、ゆったりと座席を確保した私は紙とペンを取り出して、心操くんの個性訓練用のカードを作り始めた。

 考えた特訓は簡単に言えばかるた遊びに近いものだ。

 読み札があって、該当する人に素早く呼び掛けて洗脳を仕掛ける。思考と個性の瞬発力を鍛える目的の特訓だ。

 いろはかるたや百人一首を用意してもよかったと思うけれど、これを思いついたのは昨晩の就寝直前だったので、ひとまずお手製のカードでやらせてみよう、と思ってのことだった。

 

「…………」

 

 黙々と作業を行うも、私は少し気分が落ち込んでいるのを自覚していた。

 原因は、昨日のヒーロー科の授業内容だ。

 

 昨日はついに最初のヒーロー科授業、ヒーロー基礎学が行われた。

 あのNo.1ヒーロー『オールマイト』が講師を務めるヒーロー基礎学、その最初の授業は戦闘訓練。

 オールマイト先生曰く「敢えて二歩先を行く内容」ということでヒーローコスチュームを着ての2対2、ヒーロー対ヴィランに分かれて相手・目標物を確保・防衛する屋内タッグ戦。

 内容自体は、基礎訓練をすっ飛ばしていきなりの戦闘という点を除けば、まあまあ意図の分かる真っ当な訓練だ。

 入学日に行われた個性把握を目的にした体力テストといい、「まず今、何ができるか」を把握すること、そうして見えてくるものは確かにある。

 同時にアクセルもブレーキも踏み方を教わってない状態なのだから危ない、という話でもある。

 現に第一試合ではかなり派手な破壊が起きた。当事者の片方である緑谷くんは腕を犠牲にして舞台であるビルを縦に大穴を開け、連日の保健室送りとなっていた。

 もう片方の当事者である爆豪勝己――爆豪くんは()()()()()()()()()()()()でビルの側面に大穴を開けたという。

 

「…………そっかぁ」

 

 独りごちる。呟いた言葉に意味はない。ただ、納得を噛みしめただけだ。

 落ち込んでいる理由はそこではない。

 

(轟焦凍くん。轟……。ヒーロー『エンデヴァー』の子、か。噂だと今年雄英入学って言われてたけど本当っぽいなぁ)

 

 轟くんのビルごとまとめての氷結により、姉とその相方の尾白くんは何もできずに敗北した。

 氷冷系の個性は見たことはあるけれど、彼のそれは規模が違いすぎる。おまけに炎熱系も併せ持っているハイブリッドだ。

 体力テストで総合一位を取った八百万さんと一緒で、推薦入試合格枠四人のうちの一人というのも頷ける話だった。

 

(初日の体力テストも、お姉ちゃんの順位はふるわなかった……)

 

 体力テストで結果が出ないのは仕方ないと割り切れた。

 体力テストの種目的に姉と私の個性は全く寄与しないから、実質無個性なのだ。

 種目を聞いて、最も自信があったのが柔軟性を問われる前屈だったのだが、個性ありだと『上半身から個性の部位を伸ばした記録』になると聞いたときは涙が出るかと思った。

 それでは普通の前屈を行った姉では勝てないし、『創造』の八百万さんはもちろん、『イヤホンジャック』の耳郎さんあたりはこれで点数を稼げたのではなかろうか。

 

(それでも、もうちょっと頑張れると思ってた)

 

 最下位は除籍、とまで言われて(これは発破をかけるための合理的虚偽だったそうだけど)、本気の本気で取り組んだはずの姉の結果は下位グループ。

 個性なりに頑張った、ということもできるけれど、ヒーロー科の水準は想像以上だった。

 私は入試でやらかさなければ合格ライン、と根津校長は言っていたけれど本当なのだろうか。リップサービスだったのでは、なんてことすら思う始末。

 

(……普通の学校でトップでも、エリート校に進むと凡庸になるっていうアレなんだろうけど……)

 

 覚悟はしていたはずだったし、高々まだ二日の出来事で判断するのは早計にも程がある。それはわかっている。

 皆、努力して、優秀だからヒーロー科に入っている。そして私はそこに入れなかった。

 入れた姉は、奮起して頑張ろうとしている。

 

(私も、頑張らないと……)

 

 考えても詮無いことだ。

 けれど、どうしても気分が落ち込んでしまうのを、私は中々切り替えられなかった。

 

 

 

 

 昨日とほとんど同じ時刻に学校に辿り着く、と、何やら校門前が昨日より騒がしかった。

 なんだろうと訝しみながら小走りを止めて、歩いて様子を窺った。

 見ると、大きいカメラやガンマイクを準備している大人たちの姿があって、どうやらマスコミが張り込みの準備をしているようだった。

 オールマイトの雄英教職就任のニュースが話題になってまだ間もない。ニュースバリューが高いうちに雄英に張り付いてネタを探しているわけだ。

 私はただでさえあまり楽しくない気分でいたので、絡まれたら面倒だと思い、服も荷物も透明化して完全ステルスでこっそりと校内に入った。

 

 心操くんは昨日よりかは落ち着いたペースで自主トレをやっていた。

 心操くんが登校したときにはマスコミはまだ居なかったらしい。やっぱり来るの早いな、こやつ。

 

 昨日同様の朝練をこなし、おにぎりを渡す。今日は心操くんもカロリーバーを用意してきていた。そうだろうと思って作ってきたのは2個で、渡すのは1個だけだ。

 食べれるでしょ? と聞けば、心操くんは頷いてぺろりと食べた。カロリー過多には程遠い運動量である。

 色々お喋りしたい気持ちはあったけれど、朝練の時間は短いので、ともかく身体を動かすことに終始した。

 ……無心で身体を動かしたので、なんだかんだ気持ちはリフレッシュできていた。

 

 

 

 

 お昼休み。心操くんと連れ立って、学食メニューから外に持ち出せるメニューを選んで校庭でランチタイム。

 学食だと人目があり過ぎて、色々とお話するには不都合があったのだ。

 

「ということで、昨日のA組は戦闘訓練をやりました」

 

 早速本題を切り出しながら、ノートを見せた。

 姉から聞き取ったA組の情報をまとめたノートだ。姉と私が姉妹だから許される情報共有の結晶である。

 この時点だとまだ二日分のデータしかないし、A組生徒の個性把握なんかもまだまだ穴だらけだったのだけど。

 後日のことだが、緑谷くんの詳細な分析ノートを姉が見せてもらって、だいぶ情報を抜かせてもらったりすることになる。

 そして、姉がA組に於いては下位グループに位置する身体能力である、ということも伝えた。

 心操くんは私の声のトーンで事態の深刻さにすぐに気づいていた。

 

「昨日の戦闘訓練は敢えて実力テストみたいなことをやらせたとして……、ここからヒーロー科は基礎訓練を授業で始めます」

 

 私たち普通科が机に座っている午後、彼らは運動場や体育館で身体を鍛えていく。

 もちろん座学のヒーロー科授業もあるけれど、ヒーロー基礎学は1年次に最も多くの時間が割かれていて、この1年でヒーローとしてしっかりとした下地作りを行うという。

 

「――まあ、やることは変わらない」

「……それはそうだねぇ」

 

 ぱたんとノートを閉じた心操くんは、いつものポーカーフェイスで言った。私もそれに同意した。

 

「むしろ方針ははっきりしたんじゃないか? 基礎訓練をするってなら、『個性伸ばし』はまだ先なんだろ」

「うん。ヒーロー科を出し抜く武器を作るなら、個性の練習が優先だと思う」

 

 心操くんの個性がフィジカルに依らないものでよかった。

 これがフィジカルに関わる個性だと、基礎訓練無しのフライングで個性訓練はできなかっただろうから。

 

 心操くんは目標に対しては前向きだ。

 現実をしっかり見据えていて、そしてヒーローを――それもトップヒーローを目指すという目標に対してブレがない。

 私とは大違いだ。はからずも、いや期待はしていたけれど、彼のしっかりとした態度に私の気分は楽になったのだった。

 

 

 

『――セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

 

 

 そうしてランチタイムを過ごしていた私たちだったが、けたたましい警報が鳴り響き、そんな校内放送が聞こえてきたのだった。

 

「屋外って……私たちはもう屋外だけど……」

「運動場か、広いところに行けばいいのか?」

「生徒手帳だと、そうっぽい? うわ、校舎内の混雑やば。お姉ちゃん大丈夫かな……」

 

 窓から見える校舎内は、一斉に避難しようとする生徒たちで押し合いになっていた。

 姉や私が一番苦手な状況だ。心配になるも、この状況では連絡を取ろうとするのも危ない。

 ひとまず二人して、上級生と思しき生徒たちの流れを辿って移動していった。

 しかしその途中、カメラやガンマイクを掲げる集団――朝に見たマスコミたちだ――を見つけてしまった。

 

「え。侵入者って、マスコミ?」

「不法侵入だな」

「朝にも警報なってたけど、まさか昼にも……」

「……どうやったんだ……?」

「何かしらシステム突破したなら、それはもうヴィランだよねぇ……」

「先生たちも災難だな」

「そうだねぇ……」

 

 なんだかがっかりしたような気持ちになった私がふと校舎の方を振り返ると、先ほどまでの混乱は治まっていて、整然とした避難行動っぷりに雄英生って凄いなー、なんてことを思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 放課後。自習室にて。

 昨日に引き続きC組の協力者たち――昨日とは少し面子が変わるも今日も10人以上集まってくれた――と一緒に心操くんの個性の訓練を行う。

 今回初参加の生徒には『洗脳』の説明と初体験を済ませてもらいつつ、朝の通学時間に作ったカードを配っていく。

 あまり根を詰めすぎても効率は悪くなる。ゲーム感覚で楽しむ訓練もあったほうがいい、というのも漫画知識――と実際の経験則だ。

 やること自体は昨日と同じでひたすら洗脳を色んなパターンで掛けたり解いたりする訓練だ。それをカードに書かれた単語で条件分けをして複雑化させている。

 順番に洗脳をかけていきその2番目と4番目だけ解除したり、出来るだけ早く洗脳を仕掛けて時間を計ったり、何度か複数人に洗脳をかけれないか試したり……、ともかく色々やらせていく。

 間違えた相手に洗脳を掛けたらホワイトボードにバツをつけて数えていた。特に罰ゲームを決めているわけじゃないけれど、何か盛り上がるのである。

 

 ……いや、委員長がなんか罰ゲームさせようとしてるな。

 プレッシャーをかけることは別に悪いことではないので、私はスルーしておいた。

 

 ――しておいたのだが、なんかミスが嵩んだら、カラオケでリクエストに応える、みたいな話になっていた。

 なにそれ。ちょっと気になる。

 

 

 

 

 放課後の時間目いっぱいになり、香山先生――ミッドナイトが終了を告げにくるまで訓練は続いた。

 先生は和気あいあいとしつつも、心操くんの真剣さを大事にしている自習室の空気を美味しそうに吸って行った。

 心操くんは私とクラスメイトたちに容赦なく振り回されながらも、真剣に個性と向き合い続けていて、やはり何かを掴みかけているように見えた。

 

「心操くん的には、どういう方向に『洗脳』が強くなって欲しいとかある?」

 

 特別編入カリキュラム生として自習室の鍵を掛ける役割は私と心操くんにあるので、最後に自習室を後にした私たち。

 そして職員室への道すがら、私は訊ねてみた。

 

「簡単に洗脳が解けないようになればいいな、って思ってるけど」

「なるほど」

 

 洗脳の弱点の一つである、衝撃で解除されてしまう点。

 それが解消されるなら、激しい動き、競技や戦いの中での洗脳に頼りやすくなるだろう。

 

「強く洗脳を掛けるイメージは湧いてきてる。もうちょっと感覚を掴めたら、そこも試していきたいな」

「おお。強弱のイメージが湧いてるのは良いね!」

 

 他には、今は喋らせることや思考力が必要な指示が通らないからそこもどうにかしたいな、などなど。

 自身の個性の手ごたえを語る心操くんの表情は――何か眩しく感じた。

 ……いやぁ、透明で良かった。自分がどんな顔して心操くんを見ているのかわからないから。

 

「あ。でも、私は逆の発想も持ってて――」

「?」

「物凄く弱く洗脳を掛けられたら、意識や思考力を奪わない洗脳ってできるんじゃないかなって」

 

 私が『洗脳』という単語を聞いた時、真っ先に連想したのは洗脳教育という言葉だった。

 偏った教育によって正しさの感覚が歪むような、正しい意味の確信犯を生むような、そういう言葉だと私は思っている。

 実際、心操くんの『洗脳』では思考力を奪って言われるがままに行動を起こさせるのだから、正しく洗脳ではある。

 しかし、洗脳を掛けられた人自身がそうすべきと思って行動を起こす、そんな方向性もあるのではないだろうか、と私は思ったのだ。

 

「洗脳されていると気づかれない洗脳が、一番強いと思わない?」

 

 人は誰しも教育と言う名の洗脳を受けている――とは誰の言葉だったか。小説で読んだのかもしれない。

 軽く笑いながら言ったつもりの台詞だったのだけれど、心操くんは呆気にとられたように「悪役の発想だよ」と呟いていた。失礼な。




 体調を崩してしまって執筆投稿が遅れました、と自分が言う日が来るとは思っていませんでした……。
 気づけば10万文字、UAも少し前に1万を超えていて、こんなに読んでいただけて本当にありがとうございます、こんなに自分が書けるとは驚きです、という気持ちです。

 面白いと思っていただけていたら嬉しいです。ここのところの話はだいぶ「繋ぎ」感がありますが……。
 当初は見切り発車でぼんやりとしていたストーリーも、主人公にアレやらせたいなーというのが段々決まってきたので、頑張りたいところです。

 ありがとうございます。
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