透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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22.ルーザーズリスタート

 

 雄英高校に入学した週の金曜日。

 つまり、特別編入カリキュラムの申請期限の日だ。

 全ての授業を終えて帰りのホームルームの際、香山先生(ミッドナイト)から通達があった。

 

「うちのクラスの皆はもう知っていると思うけど、ヒーロー科への編入を目指す生徒向けの特別編入カリキュラム、その申し込み締め切りが今日までで、この後、自習室でガイダンスを行うわ」

 

 それを聞いてから申し込みをしてもいいので、興味がある程度の人も来ていい、とのこと。

 

「葉隠さん、心操くん。二人は申し込み済みだし、準備をお願いしてもいいかしら。机と椅子を並べて置いて欲しいの」

「はい」「わかりました」

 

 勝手知ったる自習室だ。鍵の保管場所も備品の場所も把握している。

 むしろ先行して使わせてもらっていたのだから、それぐらいしてしかるべきである。

 

「そういうわけで、自習室を使った訓練は今日は遠慮してね」

 

 はーい、と返事をするクラスメイトたち。ノリが良い。

 まあ昨日の時点で、金曜日はガイダンスがあるから多分自習室は使えない、と伝えてはいたので予想通りになったのだった。

 

 

 

 

「椅子の数はどれぐらい要りますか?」

「申請済みなのが10人ね。興味ありそうな子が来るかもしれないから、多くても20人分ぐらいあればいいと思うわ」

「わかりました。足りなくなりそうだったら追加ですね」

 

 職員室まで自習室の鍵を取りに行く道すがら、香山先生に確認しておく。

 一学年のクラス数はヒーロー科2クラスに、普通科、サポート科、経営科が各3クラスで計11クラス。

 ヒーロー科以外のクラスから一人ずつぐらいの人数ではあるけれど、はたしてどんな分布だろう。

 経営科は体育祭には消極的……というか、別ベクトルの熱意で参加することがほとんどで、だいたいは観客席からの経営科的な分析とデータ集め、直接競技に参加する生徒もグラウンドレベルでの体験取材、のような目的だそうである。

 サポート科の方はというと、自作のサポートグッズを持ち込んで自身の技術力をアピールすることが目的になるそうだ。しかし、入学してから約1か月で自作できるグッズというと中々大変そうに思えるが、もしかしたら入学前からモノづくりに携わっているような生徒が多いのかもしれない。

 

「んー、予備の机と椅子もすぐ並べられるように出しとこうか」

「ホワイトボードも要るよな」

「要ると思うー」

 

 心操くんと二人で、自習室のセッティングを手早く済ませた。

 まだ誰も来る気配はない。ガイダンスの開始時刻にはまだ少し時間があった。

 途端に手持ち無沙汰になった私と心操くんは、何をするでもなく並んで椅子に座った。

 すると、心操くんがぽつりと話しかけてきた。

 

「……葉隠は、自分の訓練は大丈夫なのか?」

「んー?」

「今週はずっと俺を鍛えることばっかりになってないかって。葉隠だって自分の訓練は必要だろ」

「んんんー?」

 

 私は首を傾げた。

 いや、言わんとすることはわかるのだ。

 朝練にしても、放課後の個性訓練にしても、心操くんを鍛えることに注力しているのは事実だ。

 一緒に身体を動かしている朝練はともかく、放課後の個性訓練はまるっきり監督役として働いていて、それだと私自身の訓練にはなっていない。心操くんはそのことが気になったのだろう。

 

「でも、私、いつも個性使ってるよ?」

 

 私はちらりと自習室の入り口にまだ人気がないことを確認して、心操くんだけに聞こえるように言った。

 

「そうじゃなくても、授業中とか結構な時間、個性の練習やってるし」

 

 シャープペンの芯やペンのインクを透明にして筆記する、中学時代から続けている練習だ。

 手が離れたものの透明の維持もだいぶ時間が伸びてきたし、心操くんの洗脳を受けたときみたいな透明付与の持続時間も着実に伸びていたりする。

 なので、心操くんに心配されるようなことはない。少なくとも私はそう考えていた。

 

「私はいつでも練習できる。心操くんは相手が必要。だったらどっちを優先するかなんて決まってるじゃん」

「…………」

「それに、善意ってだけじゃないよ? 体育祭で協力プレイが必要になるシーンがどっかにあるはずだもん。そこで心操くんの強い個性がさらに強くなってくれてたら、私はとっても心強いんだ」

 

 まあ心操くんが私と協力してくれるなら、って話ではあるけどね。

 

「逆に私は心操くんが訓練のし過ぎでパンクしないか心配だよ」

「そうか?」

「そうだよ。朝も早いし、夜も自主練やってるでしょ。疲れ、ちゃんと抜けてる?」

「………………大丈夫」

「間があったな?」

「――大丈夫だ」

「日曜あたりはちゃんと休息日にしてね? ホントのホントにね?」

 

 オーバーワークでダウンしてしまったら、せっかくの努力が後退してしまうのだ。

 日曜日は意地でも休むようにしつこく連絡をいれよう、そう心に決めた私だった。

 

 

 

 

 

 ガイダンスが始まる時刻が近づくと、見知らぬ生徒がちらほらと自習室に入ってきた。

 ここでいいのか、どこに座ればいい、と聞かれたので、あってるよー、どこでも大丈夫だよー、と教える。

 D組かE組と思しき普通科生徒たちが八人ほど席につき、サポート科の生徒が一人、そして意外なことに経営科の生徒が一人やってきていた。

 最後にミッドナイト先生とセメントス先生と一緒に自習室に入ってきたのは、C組のクラスメイトから副委員長の男子と、仲良し女子二人組だ。

 これには私も流石にびっくりして、どうしたのかと訊いてしまった。

 すると三人は「カリキュラムに参加した上で、協力できることがあるかもって思って」ということを言ってきた。

 私はさらに驚いてしまった。「先生には許可貰った」とのことで、その確認をしたから先生たちと一緒に入ってきたようだった。

 セメントス先生は脇に控え、ミッドナイト先生はホワイトボードの前に立った。

 ミッドナイト先生は席につく生徒を見渡して、全員が注目していることを確認して、ガイダンスを開始した。

 

 

 

 それじゃあ、特別編入カリキュラムの説明をするわね。

 一言で言えば、ヒーロー科編入の為に学校側で手助けをする新しい仕組みよ。

 今までは編入という制度はあっても、学校として何かすることはなかったの。

 生徒個人の力で学校に対して「私はヒーロー科が相応しい」と証明しなければならなかった。

 ここにいる皆はヒーロー科の入試で悔しい思いをしてきた子がほとんどだから知っていると思うけど、ヒーロー科の実技試験はロボットを相手にした大雑把なモノよ。どんなに良い個性を持っていてもそれが活かせない場合もあるわ。

 今までの雄英なら「それでよし」としていたけれど、今年の雄英は違う。

 もう一度、ヒーロー科への再挑戦の機会を与える、それが特別編入カリキュラムの目的よ。

 いずれは準ヒーロー科とも呼べるクラスを普通科に作るかもしれない――そうなるかどうかは、今年の貴方たちの頑張り次第、かもしれないわね。

 

 

 

 語られたカリキュラムの概要は、概ね私が以前聞いていた通りの内容だった。

 準ヒーロー科、という概念は初耳だったけれど雄英高校から排出するヒーローの幅を広げる、という目的を考えるなら納得はしやすかった。

 とはいえ雄英は国立で国の認可を経る必要がある腰が重くならざるを得ない組織だから、本当に将来的な理想目標なのだろう。

 

 次は具体的なカリキュラムの中身の話に移った。

 まず放課後の補習のように、隔日ではあるが、カリキュラム生向けのヒーロー科授業が行われる。

 将来的にヒーロー科に編入した際、ゼロから授業内容に追いつくことは非現実的、とまでは言わないが過大な努力が求められてしまう。その緩和措置と言える。

 ヒーロー基礎学と言った基礎訓練を体感することで、実際にヒーロー科にはどれぐらいのレベルが求められているかを知れる、そして知った上で努力することができる。

 次に座学系のヒーロー科授業についても授業の他に、レジュメや問題集の配布が行われ、期末には通常の試験に追加してテストを受けられる。受験は希望者のみではあるが、実際にヒーロー科に編入した際には成績に加味されるので無駄にはならない。というかこれを経ずに編入した場合、編入後に補習を受ける必要がある。

 そして各種ヒーロー科向けの施設設備等の利用許可の話もあった。

 補習の中ではもちろん、放課後にカリキュラム生として監督下での訓練であれば学校の運動場や体育館と言った訓練施設を使うことができ、またその訓練中に生じた負傷については、監督役の先生の許可が下りればリカバリーガールの治癒を受けられる。

 監督役の先生は基本的にはミッドナイト先生かセメントス先生のどちらか。他の先生も持ち回りで担当することがあって、またどの先生も都合がつかない場合でもこの自習室やトレーニングルームは利用可能で、何かあった場合は職員室に連絡をすればいいとのことだった。

 

 次にカリキュラムのスケジュールについての話があった。

 差し当たっては、近日告知される雄英体育祭に向けての授業内容が主になる。

 五月中に開催されるであろう雄英体育祭、ここでまず力を示して欲しい、と。

 ここで大きな成果を示したならば、特別編入カリキュラムを一足飛びで卒業し、編入が内定、なんてことまであるらしい。

 もちろん結果が出せなくてもカリキュラムは続き、カリキュラムの中で編入への予備試験を計画しているとのこと。

 いかんせんスケジュールについては流動的なものなので、ともかく体育祭まで頑張って欲しい。

 そして、「週明けの月曜日には、体力テストを行うからそのつもりでね」とミッドナイト先生は締めくくった。

 

 

 

 質疑応答の時間が設けられ、諸々の疑問と返答が一段落すると、保留していたのであろう生徒からの申し込み用紙が提出された。それを受け取り、

 

「それじゃあ、また来週の月曜日は運動場に集合だから」

 

 と言って、先生たちは去って行くと授業が終了した時と同じように、ちょっとした緊張感がほどけて、自習室の空気がざわめき始めた。

 私も軽く伸びをしてから、自習室内の面々を見回した。心操くんも同じようにどんな人がいるのか確認していた。

 そしてまず私は最も気になる生徒に話しかけていた。

 それは経営科の生徒だ。サポート科はまだしも経営科からは来ないと思っていたのだ。

 

「ああ、その予想は間違っていない。実際、僕はヒーロー科編入を目指しているわけではない」

 

 訊ねてみるとあっさりと経営科の彼は答えた。迷いのない発言に、意表を突かれる。

 

「ヒーロー科への編入制度は形骸化していたと言っても過言ではない。だが今年いきなり特別編入カリキュラムが始まるということはきっと期待されている生徒がいるのではないか、と予想をしたんだ。そして、そこに僕はドラマがあると踏んだ」

 

 彼の推理に私は密かにぎくりとした。

 広言するつもりはないけれど、私が原因、少なくとも一因となって始まったものではあるのだ。

 

「ドラマ、物語、まあつまり、そこに経営科でいう金の気配がするわけだ」

 

 それは本当に経営科流のワードなのか……? と誰かが呟いていた。

 言わんとすることはわかるだけに、突っ込みづらかった。

 

「その気配を探るために、僕は特別編入カリキュラムに参加しようと思った。なに。先生にはちゃんと説明して、問題ないと許可も貰っているよ」

 

 なるほどね。私たちみたいなものか、と納得していたのはC組から追加参加をしてきていた女子たち三人だ。

 カリキュラムの授業や訓練自体はきちんと参加するから安心してくれたまえ。文武両道をモットーにする経営科生徒だっているさ、と言って、経営科の彼はよろしくと挨拶をしたのだった。

 

「サポート科からは俺だけか。俺もどうするか迷ったんだけどな、途中抜けもありって聞いたからとりあえず参加しておこうって」

 

 次に話の中心になったのは、これまたサポート科から唯一の参加者の男子生徒だ。

 

「俺は普通にヒーロー科に落ちて、特別編入カリキュラムなんてあるんならワンチャンあるのか? って気になったからだな。元々サポートアイテムを活用するタイプのヒーローになりたいって思って入試を受けたんだ」

 

 入試の時も自作してきたのか、と質問が飛んだ。

 確かに色んな受験生が色んなアイテムを持ち込んでいたし、それを見たから私はサポートアイテムメーカーに問い合わせたりした。

 

「いや、入試はメーカー製のをカスタムした程度だ。だから体育祭だと完全自作しなきゃで、結構大変なんだよな……」

 

 正直、俺程度だとちゃんと間に合わせられるか自信がない、とサポート科の彼はこぼしていた。

 クラスメイトに天才がいて、サポート科としての自信を彼は早くも失いかけているらしい。

 うーん、サポートアイテムが量産できるのなら手を組んでみるのも面白そうだけれど、そこまでの余裕はなさそうである。

 

 

 その後、カリキュラム生たちで個性を他人に漏らさないことを約束した上で、個性を含めた自己紹介を交わした。

 ……悪い人たちではなさそうではあったけれど、ヒーロー科に匹敵すると私が感じるような生徒は居なかった。

 残念でもあり、私は少し、安心もしてしまった。

 




 またこんな遅い時刻に投稿してしまいました。
 季節の変わり目は怖いですね……。


 C組の生徒ぐらいは何人か名前をつけたり設定を詰めたりしてもいいのかなぁ、と思っているのですがキャラが増えても扱いきれないし物語には絡めないので、難しいなぁと思っている今日この頃です。力量不足。

 一応ちょっとだけ思いついている設定とかはあるのですが……。

 C組委員長の女子は原作で目立ってる長髪の女子のつもりで、数多さん(仮)で個性は『多数決』で仕切りたがりだから委員長立候補とか。
 副委員長の体格の良い男子は、これも原作で目立ってる男子のつもりです。個性は『強顎』で、部位を増強できるタイプの個性の家系とか。
 完全オリジナルの仲良し女子二人は個性『乾燥』と個性『保湿』という組み合わせだったりとか。
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