透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
予定通り、体力テストが行われる月曜日の放課後。
C組の帰りのホームルームを終えた後、私は
「運動場に集まらせておいて、準備運動も済ませておいてもらったら助かるわ。やることはA組が入学日にやってたやつと同じだから」
葉隠さんならお姉さんから聞いて知ってるでしょう、と言外に言い含めていた。
姉からヒーロー科のことを聞き出していることは心操くん以外には広言していないはずなんだけどなぁ、と思いつつも、断る理由もないので素直にわかりましたと答える。
もしかしたら、私が思っているよりも私たちは先生たちに見られているのかもしれない。
よくよく考えると雄英バリアーなんてセキュリティもある学校である。先生不在の自習室も、教室をモニターするカメラかなんかでチェックされていても何ら不思議ではない……というか、むしろあって当然だ。
(うーん……まあ、隠し事はそんなに出来てない、と思っておいた方がいいのかなぁ……)
私の個性のことを、知ってる人は知ってそうな気がしてきている。
とはいえ誰からも何も言われてないうちに、こちらから何か言うこともあるまい。
考え事を棚上げすることは、私は得意であった。
ひたすら広い運動場の片隅で準備運動をしていると、徐々にカリキュラム生が集まってきた。
その都度、これから体力テストを行うことと、そのための準備運動を各自しておくことを伝える。
まだ先生は来ていないが計測用のロボや器具の用意はあった。それでも生徒たちの緊張感のない雰囲気に、私は嫌な予感を覚えていた。
A組でどのような体力テスト――個性把握テスト、と相澤先生は言っていたのだったか――が行われたのかを姉に聞いて知っている私と、さらにそれを知らされている心操くんは内心ピリピリだ。
流石に相澤先生みたいに除籍とかはしないだろう、とは思うのだけれど(そもそも除籍は合理的虚偽とも言われている)、なんてことはないと思われる体力テストが文字通り
(気にしたところで私と心操くんの個性じゃ、ジタバタもできやしないんだけどね)
ただシンプルに、見定められることは覚悟しておかねばならない。
なら真面目に、真剣に。今持っているものを全力で。
やがてミッドナイト先生がやってきて、いよいよ体力テストの開始が告げられた。
中学でやったときは個性禁止の体力テストを、今回は個性を用いて記録を伸ばすように言われ、私と心操くん以外は戸惑いを見せている。
「そうね……葉隠さん、手本を見せられる?」
「――――ふぇっ!?」
まさかのミッドナイトの御指名に、思わず声が出てしまった。
大人しく素の身体能力で頑張ろうと思っていたところで、見せろと言われてもどうすればいいのか。
(――いや、アリかナシかわからないけれど、思いついていたことはあるんだ)
ルールの隙間を突くのやぶさかではないけれど、思いついた手段はかなりアウト寄りのもので、だからこそ大人しくしておこうと思っていた。
迷った末に先生に「もしアウトなら普通にやり直させてくださいね?」と確認して、オーケーを貰う。
「じゃあ、ボール投げで……」
項目を選ばせてもらって、計測機器がついたソフトボールを受け取った。
ボール投げ用のサークルと白線のあるエリアはすぐ近くだった。
(ああ、そうか。だから爆豪くんにボール投げをやらせたのか)
でも入試首席だからで選出して、爆破の個性でわかりやすく活用できるのがボール投げだからだったかもしれない。
そんなことを考えながら、サークルの中に立って、広さを確認する。
「いきます」
宣言をして、私は靴以外の服装類を透明化した。
そして体操服の上着を脱いで手に持った。
両袖の部分を握り、計測ボールを上着に引っ掛ける。
少し振ってボールがきちんとはまっていることを確認すると、ぶんぶんと振り回して
振り回した上着から放たれた計測ボールは、中空で透明が解除され、その姿を現しながら飛んでいった。
記録の方は、まあ私が普通に投げるよりかは伸びていた。ぶっつけ本番だし、よしとしたい。
透明なまま上着を着直して、服の透明化を解除した。
ちなみに靴を透明にせず残したのはサークルから出ていないことを示すためだ。
(だいぶ邪道な活用だと思うけど、どうなんだろ)
自身の身体から大砲を創り出す、とかそういう方向性ならともかく、上着をバレないように透明にして利用するというのは果たしてアリなのかどうか。
「はい。葉隠さん、ありがとう」
どうやら実演として及第点を貰えたらしい。ミッドナイト先生の言葉に、ほっと溜め息を吐いた。
その後は、ごくごく普通に体力テストを受けていった。
どの項目にも個性を使えない対人特化の個性の心操くんは度々渋い表情を見せていたし、私もとても同じ気持ちだったのだけど、文句は言わずにテストを消化していく。
(でもやっぱり、ヒーロー科らしい記録なんてない。普通科らしい記録ばっかりだ)
流石に口には出さない。そもそも自分の成績こそ『普通科らしい記録』なのだ。
そして見える範囲で一番成績が良いのは経営科の彼だった。次点がサポート科の彼で、私と心操くんは項目にもよるけれど、彼らに並ぶかその次ぐらいに位置していた。
サポート科の彼が成績がいいのはまあわかるのだが、経営科の彼の文武両道という言葉に偽りはなかったということか。
もちろん項目によっては個性が上手く使える他の生徒が良い記録を出しているのだけれど、その記録というのもA組の記録を知っている私からだと、
(心操くんのフィジカルは、一朝一夕で鍛えられるものでもないし)
鍛えてきてるはずなのになぁ。鍛え方の問題かなぁ。惜しいなぁ。
あと約1か月でどこまで伸ばせるか、難しい問題だった。
体力テストの最終種目の持久走。
「いいねぇ、心操くん! 走り込み足りてるねぇ!!」
「…………っ!」
私は先頭を突っ走りながら、すぐ後ろを追走してくる心操くんを煽っていた。
余裕のある振りをしているが、普通に全力のハイペースである。このペースについてこられる心操くんに感動のあまり思わず声が出ていたのだ。
走り込みは最もシンプルなトレーニングの一つ。心操くんが一人で鍛えてきた中で、最も成果が出ているものだ。
しかし私は私で鍛えてきたプライドがあるので、負けられないと張り合っている。
心操くんの後ろには少し離れて経営科の彼と、そこからさらに離されてサポート科の彼が走っていた。それ以降は周回遅れだ。
(やばーい! 余裕全然なーい! 通学時間でランニングの量減ったもんなー!)
中学時代よりもなまっている気配をひしひしと感じつつ、すぐ後ろの気配からは絶対に逃げ切ってやるという気持ちで走り続けた。
ゴール直後、なんとか先頭をキープした私と、追走しきった心操くんは地面にぶっ倒れて、吐きかけていた。
ギリギリどころか限界突破して最後は根性だけでラストスパートをかけていた。我ながら馬鹿である。
その様子をそれなりに余裕を持ってゴールした経営科の彼が興味深そうに眺めていたのだった。
全ての種目を終えた後、A組のような順位の発表はなかった。
ただ、誰の成績かということは明かさずに今回のトップの成績がヒーロー科40名の成績に混ぜた場合に下から数えたほうが早い、ということだけは伝えられた。
40名ということはB組も先週のどこかでこのテストを行っていたということなのだろう。
(んー、総合成績なら経営科の彼か、私か。まあどっちでもどっこいの成績だし、それじゃあヒーロー科には勝てないよねぇ)
姉と私のフィジカル差は体力テストのような場合なら約2割で、その姉はA組の下位。
B組生徒の情報はないけれどもそう大差ないだろうから、姉より低い成績の私がヒーロー科に割って入れるはずがない。ボール投げで稼いだ分など雀の涙だろうし。
A組で最下位だった緑谷くんの成績は使いどころが難しい個性とそれで怪我した指の影響があるし、その上の成績の峰田くんは体格的に大きな不利を抱えていた。
つまり、純粋なヒーロー科の壁は、もっと高いところにある。
けれど、いつかは越えなければならない壁だ。
(心操くんは、決意新たに、って感じ)
超えるべき壁を見定めて、その高さを感じつつも、決して目を逸らさない。
体育祭までには時間が足りないけれど、いつかきっと彼の努力は届くはず。
日付は飛んで、水曜日。
昼休み後の、現国の授業中のこと。
「すまない。授業は中止、時間までは自習で。追って連絡があると思うから」
何かしらの連絡を受けたセメントス先生は足早に授業を中止し、教室を出て行った。
その慌ただしさは尋常ではなく、また他の教室でも同様に授業を切り上げて
何だろう、と教室内が騒然とするも、ヒーローが出動するのならそれはきっとヴィラン絡みの事件なのだろう、と推察された。
こんなに慌ただしいのならきっと大事件だ、と軽く口に出したクラスメイトに私も内心では頷いていた。
――――それがまさか校内で起きていたとは露知らずに。
現国のあとの授業は中止、学校全体が臨時休校となった。
今日は特別編入カリキュラムがある日で、USJ――嘘の災害や事故ルーム――での救助訓練の講習が予定されていたがこれも中止。
ヴィランの襲撃があったということが通知され、警察の捜査も入るために全校生徒は下校、唯一、事件当時者である1年A組生徒たちだけが学校に残って聴取を受けることになったという。
私は全くもって落ち着かない気持ちで帰宅し、携帯電話を凝視しつつ自宅で筋トレをしながら姉の連絡を待った。
そして日が暮れてきて、夕日の赤い光が家に差し込みはじめた頃、メッセージの通知音が鳴った。
――――私は無事。安心して。
はぁぁぁぁ、と私は心の底から安堵して、脱力のあまり床に寝そべってしまった。
床に転がったまま携帯電話を手にして、怪我はないのか今はどこでもう帰れるのか、とメッセージを飛ばす。
怪我はない、まだ教室でもうちょっとしたら下校できる、と返事がきて、どうやら本当に一段落したらしいことがわかった。
「よかったぁぁぁ……」
できることなら声を聞きたかったけれど、まだ学校だというならそこは我慢だ。
詳しいことは姉が無事に帰ってきてから聞こう。
もしかしたら箝口令が敷かれてるかもしれないけれど……まあ、聞ける範囲でできるだけ聞き出そう。
「本当に怪我してないのかも、確認しなきゃ」
ともかく早く、姉の声を聞いて、その体温を感じたかった。
評価・感想・お気に入り登録ありがとうございます。
本作中の葉隠さんの体力テストの成績は原作よりも良いはずです。順位は変わらず。
振り返りという流れで入学からの話を続けていますが、もうぼちぼち体育祭後に話を進めたいなーと思っています。
……思ってはいるのですが、GW中はちょっと予定があって執筆できない可能性が高いので、次の更新はいよいよ未定になるかと思います。
そこまで文字数が多いわけでもないのですが、投稿・更新するのは大変だなぁ、たくさん書いてる人凄いなぁ……と思っています。頑張ります。