透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
雄英高校ヴィラン襲撃事件、USJ襲撃事件とも呼ばれる出来事、その翌日。
臨時休校となってにわかに木曜の休日となったけれど、事情が事情だけに外出は控えるよう重ねて通達があった。
姉と私はそれに従って、揃って自宅待機と相成った。
「んんー……。ほとんど同じとこやってる」
「でもこの問題やってない。解いてる応用問題がちょっと多い」
「復習問題もやってるんだよね。そこらへんで進み具合を調整してるっぽい」
「なるほどねー」
普通科とヒーロー科で一般教科の進行チェックだ。授業内容の進捗はほぼ変わらず。まだ二週間足らずとはいえ、授業の数で考えると驚きの結果だった。
ヒーロー科は授業時間数こそ多いけれど、一般教科に当たる時間数は普通科の6割程度。だというのに、ほぼ同じということは密度が濃いか、理解を深めるための時間をカットして、どんどん先に進ませているということだろう。
まだ高校一年生が始まって間がない分、ほとんどの生徒は問題なくついてこれているだろうけれど、体育祭やその先に有ると聞いている職場体験なんかに時間を取られると、理解力が追い付かなくなる生徒も出てくるのではないだろうか。
「お姉ちゃんは普通の授業、大丈夫?」
「いまのとこはねー。困ったら霞に訊けるって安心感もあるし」
「私も今のとこは平気だから、まあうん」
ヒーロー科のことや、ヒーロー科授業の内容を教えてもらったりしてる分、一般教科でお返しするのはちょうど良いギブ&テイクだと思う。
姉に教えるかもしれないと思うと私も授業に身が入る。これは私が双子の頭脳担当みたいになった昔からそうであった。
「それでバスから降りてUSJに入ったら、先生の『13号』がいて――」
ヒーロー科の授業内容の話から、先のUSJ事件の話に繋がっていた。
姉が話す内容は、バスの中での雑談から、人命救助訓練にかかる13号先生のお小言まで多岐に渡った。
これは姉と私が目指すヒーロー像として必要だと思っている自主的な情報収集の訓練を兼ねている。
透明人間、ステルスヒーロー。私たちがヒーローをやるなら、まず間違いなく情報を集めて報告する力を求められる。
だから色んな出来事を覚えたり、聞き耳を立てたり、日頃からスパイめいた情報収集に慣れておこうとしているのだ。
私たちは透明なので、聞き耳を立てるのは得意中の得意だ。表情もバレないし、存在感を消すことも普通の人に比べれば容易い。小学生の頃は言われるのを嫌がっていたこともあるが、中学に上がってからはそれが得意技だからと開き直っていた。
「人命の為の個性、かー……」
「私たちには難しいよね。霞なら壁とか瓦礫を透明化させて見たりできるけど」
「耳郎さんみたいに音が聞けるとかと比べると範囲が狭いからなぁ」
13号先生の『お小言』について、少し話した。
簡単に人を殺せる個性にも、人命の為の個性にも、私たちの個性は少し遠く感じる。
簡単に人を殺すこと、それ自体はできるだろう。でもそれは暗殺者向きの能力ではあるということであって、個性そのもので殺せるわけではないし、個性が暴発して危ないと思ったこともない。
そういえば中学の同好会では個性訓練は制御するためのもので、私が心操くんにさせている『個性伸ばし』はさせていなかった。
そもそも『個性伸ばし』は一般には知られていない。
個性の制御については学校教育でも行われるし、ヒーロー科を志望する生徒には使いこなすことまで一応練習させたりするけれど、その先にある『個性伸ばし』については明言されない。
一応、個性を使うと強くなることは知られている。
けれど、公ではボカされている。
これは一般には個性の使用が禁止されていることが大きい。
禁止されているのに使うことによる効果をうたうことは、違法行為を助長するとして抑えられている、と考えられた。
ただ公に広言されていないだけで周知の事実である、という側面もある。
ヒーローが個性を鍛えているのは公言されているし、今のヒーロー飽和時代が来るずっと前、ヴィジランテも治安維持の一端を担っていた昔では考え方が違って、個性の鍛え方は必要な情報として広まっていたらしく、その流れで今でも口伝のように伝わっているものもあるそうだ。
では
病院での定期検査では姉は色々と手間をかけて検査をするのだが、私はそこまで時間を掛けなくても済む。
同じぐらい用意された検査時間の中で、カウンセリングを兼ねた雑談の時間が姉よりもかなり多かった。その中で個性の研究や考察、否定された仮説含めて色々な話を聞けていた。
逆に私にどういうことができるか、こういうことはできないのか、と尋ねられたことも多々あり、私が心操くんにやってることの結構な部分はこの経験が基になっている。
閑話休題。話はいよいよヴィラン襲撃の段階に移る。
個性によるワープという防ぎようのない侵入手段を用いた
USJの各地に散って行くヴィランたちと、一人果敢に立ち向かっていった相澤先生を迎え撃とうとするヴィランたち。
相澤先生は個性『抹消』と捕縛布を使った戦い方で、多くのヴィランを制圧していっていたけれど、『ワープゲート』の黒い霧のような異形系のヴィランによって姉を含むA組生徒のうち14人がUSJの各地に飛ばされてしまっていた。
……もしここで高所にA組生徒たちが放り出されていたらと思うと、ぞっとした。
何人かの生徒は個性を用いてなんとか着地できるだろうけれど、姉はきっと助からない。ワープで目に映るものが大きく変化した中で、よりにもよってヒーローコスのほぼ全裸で透明の姉を誰が助けてくれるだろうか。
実際、姉は轟くんと同じ土砂災害エリアに飛ばされていたが、彼には気づかれていなかったという。
姉は「轟くん、めっちゃ強かったよ」とコメントしたけれど、彼の強い個性の巻き添えを食わなくて本当に良かった。
それから姉は安全な場所に避難して、事態が収拾してから無事に合流したとのことだが、それまでに13号先生、相澤先生、そしてオールマイト先生まで負傷。相澤先生は特に重傷だったそうだ。
このあたりの話は、事件後の教室で姉が聞いた話になる。
相澤先生が対峙したヴィランは、
ファッションなのか手を何本も身体に付けた異様な格好のヴィラン、そいつがリーダー格。黒い霧のワープゲート使いがその補佐。黒い巨躯に脳がむき出しで、さらに複数の個性を持つと思しき異様な存在が最大の戦力。
(複合型の個性ではなく、複数の個性持ち……。調査・研究はされているけど、報告はなかったみたいな話じゃなかったっけ……)
理論上はあり得る。少なくとも不可能だという証拠はない、という科学のお約束のようなレベルの否定的な話を私は聞いていた。
ともあれ、爆豪くん轟くん緑谷くんたちが加勢しようとするも、結局はオールマイト先生の活躍により巨躯のヴィランは殴り飛ばされ、駆け付けたミッドナイト先生たち教師陣により一気に事件は収拾した。
生徒の中からは緑谷くんが怪我を負っていたけれど、彼の個性による自爆ではあるので、いちおう生徒たちに被害はなかったと言えるのは僥倖だろうか。それでもUSJの各地でヴィランと直接戦ったA組生徒も多くいて、人質に取られたり、一人で孤軍奮闘したりと本当に危なかったと思う。
勉強と事件の話を終えてお昼になり、お昼ご飯を食べたあと一休みしていると、
「――あれ、学校からの連絡だ」
「私にも来てるや」
「ヒーロー科はしばらく時間割変更だって。ヒーロー科授業はないみたい」
「普通科も時間割が変更あるみたい。相澤先生たちの怪我もあるし、セキュリティ強化とカリキュラム組み直しとか、色々理由はありそうだねぇ」
「そういうやつかー。――おや、もう一通ある。相澤先生から保護者宛かな、これ」*1
「ふむふむ……?」
「相澤先生、重傷なのにこれ書いたのかな……。偉すぎる」
「文面から、めちゃくちゃ熱意というか、その、愛を感じる」
「そして日曜日に補習っぽい」
「臨時休校分の振替かなぁ。ヒーロー科に時間がないってのガチなんだねー」
その後、特別編入カリキュラムの補習の予定も一旦白紙、という連絡が来ていた。
「ヒーロー科が落ち着くまでは仕方ないんだろうねー。私もUSJ入りたかった……」
「いや、うーん、……倒壊エリアとかあるよ?」
「う……。でも克服しなきゃだから……。演習場とかも結構そういうとこあるし……」
「わかるけど、無理しちゃダメだよ」
「……うん」
午後、久々に姉とじっくり組手をして、身体を動かした。
姉と組手をすると、良くて五分、だいたい勝率3割から2割ぐらいだったのだが、久々に対戦した姉は動きの鋭さが増しており、なんとか10本中に一つ勝ちを拾えるかどうか、という実力差になっていた。
「お姉ちゃん、めっちゃ強くなってない?」
「基礎訓練の時間、結構あったからねー。それと実は授業で褒められました。個性無し、普通体型組の体術だと上位です!」
ぶいっ、と見えないVサインをする姉に、「やったねお姉ちゃん!」と喝采を送る私。
「それでも轟くんや爆豪くんには負けちゃうけどね。鍛え方とセンスが違ったや」
「推薦組と入試トップは流石だ」
「あと透明だからって異形組に混ざったら、こてんぱんにされました」
「Oh……」
「特に尾白くんが強いんだよねー。ずっと武術やってきてたんだって」
「へぇー」
「霞も、きちんとやればもうちょっと私に勝てるのに」
「いやいや!? お姉ちゃんとの組手で、禁じ手の類は使えないよ!?」
古武術から実戦的な技を仕入れているけれど実戦的過ぎて、ほぼ全てが急所狙いなのだ。
組手で、しかも姉相手に使えるような技ではなかった。
「いやだよ。お姉ちゃんの目とか鼻とか骨とか狙うの……」
中学時代、不良を制圧する際にうっかり使ってしまい、相手に骨折させて大ごとになりかけたのだ。
非力な女子の身で、敵を倒すのなら必要な技術だとは思っているけれど、日々の練習で使うには加減が難しい。
「でもいざ使うとなると、私以上に躊躇しないのが霞なのである」
「それはそう」
だって護身術ってそういうものだし。
弱者は戦い方を選べないのだ。
「よし、霞。もう10本いくよー!」
「よろしくおねがいします!」
ここのところ自分が格上として組手をしていたけれど、久々に地面に叩き伏せられる感覚を私は味わい続けたのだった。
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