透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮) 作:峰下抄
私にとって、姉は太陽のようだった。
いつだって明るくて、暖かくて、眩しい存在。
けれど、厳しいかと言われると、そうではなかった。
姉はきっと今でも、あの時、身代わりにしたことを気にしている。
だから私のことを甘やかしてくれるのだと思う。
まあよっぽどの無茶をやったときは流石に怒ったりするけれど、そもそも無茶をやることは姉の方が多いのだ。
双子の姉妹として対等な関係――なのだろうか? 時々疑問に思う。
ずるい
普段はそんなことを気にすることはない。
私は姉のことが大好きだし、姉も私のことを大切にしてくれることを、実感として知っている。
…………でも、
『霞は私のことを気にしなくてもいいんだよ』
お姉ちゃんこそ、私のことなんか気にしなくてもいいのに。
未影くんが用意した取材の場は、別にプレッシャーだとか気負いだとか、そういう雰囲気のあるものではなかった。
少なくとも彼自身はそのつもりはなく、雑談の延長の座談会と言った空気を作っていた。
だと言うのに、私は密かに、少しずつ追い詰められているような気持ちになっていたのだった。彼にそんな意図は一切なかったとしても。
私は嘘を吐くのが得意で、苦手なのだ。
しれっと嘘を吐ける。透明だから表情でばれることもない。それらしいことを喋りながら本当のことを隠したり、大事なところをはぐらかしたり、相手に言質を取らせないように考えながら話すことは得意だと思っている。なにせもっと大きな嘘を常日頃から吐いているのだから、多少の嘘の重ね掛けなんて誤差のようなものだ。
だけれど嘘を吐くたびに、自分の性根は嘘吐きなのだ、と落ち込んだりする。だからこそ嘘は極力吐きたくないし、どちらかと言えばはぐらかしたり隠したりすることが主で、まるっきり本当ではない虚偽を働くことは稀だ、……と思う。
そして、未影くんは私がはぐらかした発言に一つ一つ気づいていたのだ。その個性で、嗅ぎ分けられていた。
ほんの少しの反応で、彼も私に気づかれているとは思わなかっただろう。それほどに小さな反応だった。
私が透明だから、相手の反応を凝視して観察していてもバレないからこそわかる。そしてそういう機微を感じとることは葉隠家では必須技能で、相手が見えるのならその難度は低いといってもいい。あくまで自分の感覚だけれど。
結果、私は自分が見透かされているようで、勝手にどんどん焦っていたのだ。
いや、焦っていたというのも違う。
――みじめになっていた。
トップヒーローになりたいと語る心操くんの隣に、なんで私が座っているのか。
なにを偉そうに、鍛えている、コーチ役をやっているなんて言っているのか。
隣に座る彼は、こんなにも、眩しいのに。
心操くんのことを、最初からそこまで凄いと思っていたわけではない。
最初は単純に一緒に頑張る仲間が居た、と思った。
次に思ったより鍛えてなくてがっかりして、勿体ないと思った。
そして、個性を教えてくれたときに、びっくりしたのだ。本当に詳細を教えてくれるなんて。
ライバルになるかもしれない、それも自分よりも強い同級生に、あっさりと。
今思えば、心操くんは雄英入試に落ちたということを引きずっていて、やや捨て鉢になっていたのだ、とわかるのだけど。
渡された情報の重たさに、私も応えなければならないと感じた。
でも、だって、私はずるいのだから。彼の真面目さ、誠実さに返せるものなんて、無い。
だから、だったらいっそ、
……ああ、そうだ。
私は誰かに、彼に――裁かれたい、と思ったんだ。
だから敢えて、自分を俎上に乗せたのだ。
まあ、心操くんは優しいから、私の罪を黙っててくれるのだけれど。
黙ってて欲しかった。
糾弾して欲しかった。
矛盾した心境は、言語化することなく心の内に溜まっていた。
……私はずるい上に馬鹿である。結果余計に、彼に負い目を感じてしまうことになったのだから。
ヒーロー科に相応しいのは、彼のほうだ。
その思いは、ひたすらに努力する彼の姿を見ていて、日毎に強くなっていった。
その私の心持ちを、ついに心操くんに吐露してしまった。
心操くんの表情は複雑そうだ。不愉快そうに僅かに眉をひそめている。
「…………まず、最初に言いたいんだが」
「はい……」
「俺は、お前が言うような、大層なモノじゃないから」
「…………」
「ただの拗ねたガキだよ。大して努力してなかったくせに大口を叩いてる」
「……えー?」
「逆に、葉隠は自分を卑下し過ぎ。中学三年間、姉と一緒に努力してきて、実績と武勇伝まであるやつがなんでそんなに自信ないんだよ。……いや、その理由の大本はわかったけどさ」
頭痛を堪えるように、額に手を当てる心操くん。言葉を探している。
「葉隠の気持ちもわかる気がするんだよな。俺も誰かに『こう言ってもらいたい』って気持ちがなかったわけじゃない」
「過去形?」
「似たようなことはもう言われたから。――それはいいんだよ。で、葉隠は裁かれたいって言ったけど、」
「うん」
「『許されたい』んじゃないか。もっと言うと『自分が許せない』んだろ」
「……そう、なのかな。でも許されたいとか、甘えじゃないかなぁ……」
「俺だって中学で人に個性使ったことあるよ」
「カツアゲしてる不良を止めたりとかでしょ」
「……そうだけど。結局、悪いことなのは一緒だろ。俺はその時のことをそんなに引きずってないし」
「多少は引きずってるんだね」
「そりゃな。でも、後悔というほどじゃない。ヒーローになりたいからって全部が全部真っ白なんてやつ、居ないだろ。それこそヒーローだって、なる前にやらかしたエピソードは付き物だ」
「…………」
「葉隠が悩んでる、苦しんでる理由はわかるよ。現在進行形だから、なおさら」
「うん……」
「でもそれは、正しくありたいから苦しんでるんだよ。正しさを自分に求めてるから」
「――だから葉隠、お前は自分の中に俺よりも強い正義を持ってる」
ヒーローに、ちゃんと向いてるよ。なれるよ。
「……そんなことないよぉ……」
「頑な」
「……でも、――ありがと」
「恥ずかしい話ついでに、俺も一つ、ぶっちゃけるわ」
「え、なに?」
ふと思いついたように表情を変えた心操くんは、少し恥ずかしそうに頬をかきながら口を開いた。
「入学日の自己紹介。俺、――クラスで孤立するためにああ言った」
「……へ?」
「まず『洗脳』って個性でみんな引くんだよ。怖いからって」
「それはそうだろうけど」
「それでヒーロー科目指してるって宣言すれば、『俺は普通科の連中とはつるみません』って言ってるようなもんだろ」
「あー……そうなる? ……そうなるね。そりゃそうだ」
私もクラスメイトに呼び掛けるとき、反発されたりする覚悟はしていたのだ。
結果は今の通りなんだけど。
「それが二日目にはクラス全体に応援呼び掛けて、手伝ってもらうことになってるんだ。誰のおかげだよ?」
私のせいですね、ハイ。
「編入目指して頑張るってことは、
「それを」
「鼻っ柱をへし折ってくれた、葉隠のおかげだよ。だから俺にとって葉隠は、全然大したことないヤツなんかじゃない」
「……いやぁ、罪な女だな、私」
照れ隠しにふざけてみた。
あ、小突かれた。なんか、嬉しくなってしまう。
「……えへへ。心操くんには甘えっぱなしだ」
「そんなことないだろ。……世話になってるのは俺の方だ」
それから、何か変わったかというと、特に変わらなかったような、変わったような……。
ああ、心操くんが、割と突っ込んでくれるようになった。
今まではちょっと一歩引いてたようなところで、ツッコミをくれるようになったのだ。
正直、嬉しい。
体育祭までの時間は着々と過ぎていき、残るはあと一週間、といった頃。
その日は特別編入カリキュラム――長いのでC組生徒を始めにすっかり『特編』呼びが定着していた――はなく、自習室にC組クラスメイトと経営科の彼を含めた面子で、心操くんの個性特訓をやっていて、私は一人、机を出して書類と向き合っていた。
書類というのは雄英体育祭の持ち込みアイテムの申請書類だ。
ギリギリまでサポートアイテムの開発に取り掛かるサポート科はもうちょっと先に締め切りがあるのだが、普通科とヒーロー科の持ち込みアイテム申請書は審査時間もあって早めに提出するように言われていた。
私は入学前に準備していた靴を念のために、そして透明な身体の保護のためという名目で、そして何かに使えるかもしれないという思惑で、眼鏡やリボンを持ち込みアイテムとして申請するつもりだった。
(ヒーロー科がコスチューム不可なのはともかく、サポート科は自作アイテム持ち込めるなら、普通科にも何かゲタを履かせてもらっても良くない?)
……良くはないか。
体育祭は根本的にヒーロー科生徒のお披露目のようなものであるし、普通科が番狂わせをするぐらいならともかく、体育祭自体がグダグダになりそうな要素は不必要であろう。
細かな注意事項を読み下しながら、「やっぱりワイヤー仕込むのはなしかなー」などと呟いていると、
「葉隠」
「ん? なぁに、心操くん――」
さっきまで個性訓練をしていた心操くんがやってきていた。
なにやらペンを持っていて、メモ紙と一緒に渡してきた。
「ちょっとそれに、試し書きしてくれ」
「――――? うん」
ペンを受け取って、持っていた方のボールペンを置く。
そして言われた通り、試し書きをしようとして、
「……んん? あれ?」
なんだかうまく書けない。なんだろ。インクは出てるけど、なんか変だ。違和感が凄い。
自分の名前……え、きちんと書けない? なにこのペン? 個性でも掛かってるの?
しげしげと左手に持ったペンを私が眺めていると、心操くんがあらためて話しかけてきた。
「葉隠、利き手どっち?」
「え、右だけど……。――あれ?」
なんで私、左手でペンを持ってるんだ?
「――心操くん! もしかして!」
ハッとして私は心操くんの顔を見た。
その顔は、ついにしてやった、と喜色をにじませていた。
「ああ。気づかれない洗脳、できるようになった」
「~~~~っ! やったねぇ!!」
私は喜びを爆発させた。
椅子に座っていなかったら、心操くんに抱き着いていたかもしれない。
ともあれ心操くんの新技が体育祭に間に合った!
その後、詳しく新技について確認していった。
今までの『洗脳』よりも集中力が必要だということだが、ここまでやってきた訓練で今までの洗脳を使う分にはかなり余裕を持てるようになっていて、「元々必要だった分ぐらいの集中でやれる」という感じらしい。
使いこなすと今まで溜めとか集中が必要な個性の行使が、自然と手癖のように使えるようになる。心操くんの洗脳も同じことが起きていた。
そして『洗脳』というより『暗示』と言ったほうがよい性能をしていた。
「これ、恐怖を感じさせない、みたいな使い方もできるね。びっくり系にはあんまり効かないけど、雰囲気系のホラーには鈍感になれるみたい。高所恐怖症とか」
「刺激が強いと洗脳が
「塩を甘く感じさせる、みたいなのは無理か」
「口に運ばせるまでならいけるだろうけど、口に入れたら違和感でバレる」
「左右の認識を入れ替えさせるのはいけた?」
「今の感じだと個人差が強く出たな」
クラスメイトたちを交えて、細かく確認していく。
そんな様子を、経営科の彼は「密着取材」と撮影していた。
体育祭の前に行われた特別編入カリキュラムの最後の授業日。
ヒーロー科で行われているヒーロー基礎学、その基礎訓練が行われた。
D組、E組の生徒は楽しそうに『ヒーロー科っぽい授業』を体験していたが、締めくくりに生徒同士の近接格闘訓練、つまり組手を行う段になると腰が引けていた。
まあ、それはそうだ。戦闘訓練の経験など無いから仕方ない。
仮に大怪我を負ってもリカバリーガールの治療が受けられると聞いていたとして、それなら平気だな、なんて考えられる生徒は居ない。
例外は私と心操くん、経営科とサポート科の彼らの四人ぐらいだった。
おっと、追加でC組の三人もやる気を見せていた。私と心操くんの組手を度々見学して、少なからず組手の経験を積んできていた。
「いつもより防具は少ないけど、真剣勝負だよ。心操くん」
「わかってる」
組手での勝負は、この頃は心操くんも充分動けるようになっていて、私に比べて大きな身体を充分に利用してきて、本気でやっても簡単には勝てなくなっていた。
男子相手の経験値も積めているので、いざ本番の体育祭で戦いになっても、全く戦えないレベルではないはず。
伊達眼鏡を外して、防具はフィストガードグローブだけ。普段なら頭の位置をわかりやすくする意味もあって、ヘッドギアをつけていたけれど今は他の生徒に譲っていて、リボンが揺れているだけだった。
一度、拳を合わせてから、殴り合いを始める。
他の生徒たちのそれとは一線を画す激しさで、監督のミッドナイト先生も注目している。私としてもたった一ヶ月でここまで鍛えられたのは嬉しい誤算だった。
「――この蹴りは、浅い!」
心操くんの迂闊な前蹴りを、私は受け止め掴んで、身体ごと側転をするように回転。足をねじり切らんばかりに捻る力が加わり、片足立ちになった心操くんは堪らずに地面に転がり、そこに私はのしかかって拳を寸止めした。一本だ。
「反省点はわかってるね!? 次!」
「おう!」
心操くんの手を掴んで立ち上がらせて、すぐに組手を再開する。時間は有限だ。折角の授業時間を無駄にしたくない。
もう体育祭は目前で、このタイミングを逃せば怪我をしてもいいレベルの訓練はできない。ここから数日は訓練で削れた体力を回復させるための調整期間に入る予定だった。
必然、組手に熱が入る。
私もいつもよりもさらに心操くんの懐に飛び込んで、遠慮容赦なく打撃を加えた。
「まずいと思ったらすぐに退くのも手だよ! ――かといって、無策で退くな! 距離を取っても油断しない!」
心操くんのバックステップを追いかけ、勢いそのままにタックルで押し倒す。倒したところの丹田に体重を乗せ、抑えつけて一本。次。
「――かふっ。……ナイスパンチ」
「大丈夫か?」
「平気! 次!」
私の顔面に心操くんのカウンターパンチが綺麗に入っていた。
たまに綺麗に心操くんの読みが当たって、クリーンヒットを貰う。この確率もだいぶ増えた。
痛いは痛いのだが、嬉しさが勝つ。少し悔しさもある。
授業時間が終わるころには、私も心操くんもボロボロになっていた。監督していたミッドナイト先生からも「ヒーロー科さながらね」との講評を頂いた。
「葉隠さんと心操くんは、保健室に行ってらっしゃい。申請書を渡すから。特に葉隠さん」
特編の授業が終わるとミッドナイト先生が保健室の利用書類を手に話しかけてきた。
いやぁ、流石にバレるか。心操くんからのパンチで鼻血が出ていたのだ。
これが姉なら出てくる血液も透明なので、服や何かに着いてさらに乾いて変色するまではバレないのだが、私の透明だとどうしても意識から外れて血が見えてしまう。
そうでなくても私たちの組手を先生はよく見ていたから、どれぐらい負傷していたのか把握できていたに違いない。
先生は他の生徒たちに運動場や道具の後片付けを指示し、私たち二人を「早く行ってきなさい」と送り出してくれた。
「おや、珍しい顔だね」
「お久しぶりです」
保健室の主、リカバリーガール。彼女と会うのは入試以来だ。
何度か利用しそうな機会はあったのだが、結局私は入学してからこの時まで保健室を利用することはなかった。
心操くんは何度かお世話になっていて慣れているようで、自分で怪我や身体の汚れを水洗いして、治癒に備えていた。
私もそれに倣って、手や顔を洗った。ついでに鼻血を飲み込んでちょっと気持ち悪かったのでうがいも。
――――チユウウウ!
心操くんが、無の表情で、リカバリーガールの
お、おう……。聞いてはいたけれど、凄い絵面だ。
私が入試の時に治癒を受けたときは意識がなかったので、こうして見るのは初めてだった。
あの唇の動きはなんなんだろう。あれも個性伸ばし的な何かなのか。軽く現実逃避してみる。
「はい、次はあんただよ」
「あ、はい」
お菓子を与えられた心操くんと席を代わる。
「ん? 透明、解除できないのかい?」
「……軽傷だし、そのままじゃだめです?」
「できるならちゃんと目視で診察させてもらいたいね。治癒しておしまい、ってのが私の仕事じゃないからねぇ」
「えー……」
彼女は透明じゃない私をしっかり見たことがある人ではある、というのは知っているのだけど、人前で透明を解くのは中々に覚悟が要る。
理性は見せればいいじゃん、と思っているし、なんだったらかかりつけの病院と馴染みのスタッフの前でなら普通に解けるのだけれど、学校の保健室というシチュエーションに気後れが凄い。
あまり良くない兆候だった。ぐだぐだするのも、精神衛生によろしくない。
どうしたものかと私が悩んでいると、
「葉隠」
「なに、心操く――――」
――――――――――。
「――――…………はっ!?」
やられた!? やったな、心操、お前!?
「はい、お疲れ様」
「あ、どうも、リカバリーガール」
うわあああああ、透明解除されてるぅ!!
内心では絶叫していたが、洗脳状態の間に行われた治癒により軽い疲労感に襲われつつも、お菓子を受け取ってお礼を言った。
振り返ると、そこにはまだ何食わぬ顔で心操くんが立っていた。
「心操くん! 貴様!!」
「貴様て」
「セクハラだよ、セクハラ! ちくしょう、ありがとう!」
「批難するのか感謝してるのか、どっちだよ」
「どっちもだよっ!」
「あとセクハラってなんだよ。顔以外は見てないだろ」
「私の顔はセクシャルなんだよ!」
「お前、凄いこと言ってんな?」
軽いパニックになった私が半泣きで騒ぎ立てて、リカバリーガールに静かにしろと叱られることになり、ほろにが保健室デビューとなったのだった。
ちくしょう。……ありがたいという気持ちもあるから、困る。
雄英体育祭、本番当日。
『一年ステージ、生徒の入場だ!』
実況の声が響き渡り、待機していた私たちC組生徒一同も入場行進の時間だ。
学級委員長である私――
『どうせてめーらアレだろ! こいつらだろ!?』
一年生スタジアムの注目は、すっかりヒーロー科のA組に集まっている。
マイク先生の実況に対する反応も、肯定が過半数どころか大多数を占めていた。
「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」
「たるいよねー……」
傍らの副委員長の言葉に、同意するように愚痴をこぼした。
私の個性『多数決』は感知系個性の一種。
周囲の人間が持つ意見や意思、選択肢と言ったものの数を感じ取れる個性だ。
幸いなことに発動型の個性なのだが、周囲に人が多ければ多いほど力を発揮して、今この場で本気で発動すればスタジアムの観客の数を一瞬で数えられたりする。
しかし発動しなくてもなんとなく多数派の雰囲気を感じ取れてしまうので、この状況は、正直煩わしい。
今はC組生徒たちに意識を向けていたので、特にその意見に引きずられてしまう。
個性の影響で多数派の意見に自分の意識が引っ張られる感覚があるのだ。
多数に流れると楽なのだが、私はそれが自分の意思が弱いように思えて、その感覚に反発してきた。
それで、敢えて自分の意思を周囲に押しとおす、いわゆる仕切り屋としてのポジションに自らを置いてきた。
実質雑用係の普通科の学級委員長に立候補したのもその一環だし、将来は「偉くなって、自分の意見を通す立場になりたい」と思って、専願で雄英の普通科に入ったのだ。
――閑話休題。
(ったく。なめんなっつーの)
スタジアムの観客の注目は確かにA組に向いている。
でも私たち普通科C組の意識は別だ。
――クラスのみんなには、心操くんをサポートして欲しい。
――私はA組の姉にくっついて色々探りを入れるつもりだし、全員参加型の予選ならそのまま抜けれると思う。
控え室での最後の作戦会議。
C組は満場一致で「心操と葉隠を勝ち上がらせる」と決めていた。
ヒーロー科がしのぎを削るべく用意された競技に、まともについていける普通科生徒はほとんどいないだろう。
C組の代表として二人を送り出し、予選突破を目指してもらう。
入場行進が終わり、選手宣誓。
二週間前に心操とにらみ合っていたA組の男子生徒が呼ばれ、壇上に向かっていた。
入試1位通過だったから、という声が聞こえてきた。なるほどとは思う、が、
「――ヒーロー科の入試な?」
私は敢えて大きな声で毒づいてやった。それを聞いたA組の何人かは、びくりと肩を震わせていた。
益体の無い牽制だったが、意外とA組生徒も普通な反応を見せてくれた。
それはそうか。うちの葉隠も半分はヒーロー科みたいなもんで色々と積極的なところもあるが、普通といえば普通の高校一年生だ。
――と思っていたが、
『――俺が一位になる』
いや、この爆豪は普通じゃねーな! なんだよコイツ!
葉隠、心操、コイツにぎゃふんと言わせてやれよ! 絶対だぞ!!
私はこのときばかりは大多数の感情に流されて、思いっきりブーイングをしたのだった。
「――だいぶ端折ったりしたけど、こんな感じかなー?」
「お疲れ様ー」
私は休憩を挟みつつ、体育祭までのことを姉に話し終えた。
もちろん全部が全部を語ったわけではない。心操くんに話したことなんかは、流石に姉にも話せないこともある。
それでも私が心操くんにしたことや、心操くんがやってきたことなんかはついつい長くなってしまった気がする。
「霞、気づいてる? 7割以上、心操くんのこと喋ってたよ」
「う……。仕方ないじゃん。ほんとに心操くん中心だったんだよ、この一か月。――それにほんとにずーっと頑張ってたんだよ、心操くん」
「ふーん、なるほどなるほどー」
「なんだよー」
にやにや、と擬音が聞こえた気がするので透明な姉の頬の目途をつけて、両手で挟み込んだ。うにうに。
「むふふふふ」
姉のにやけ笑いが止まらない。
なんだなんだ。何を考えているお姉ちゃん。
「いやぁ、恋する乙女の顔って、こんななんだなぁって」
「――――は?」
咄嗟に両手で自分の頬を抑えた。
――――あ。
今、私、透明じゃない。
「~~~~~~~っ!!」
「あ、だめだよ! 今日は休息日でしょ!」
ぐっ、姉の言葉には逆らえない。
咄嗟に透明になろうとしたけれど、止められてしまった。
「霞はかわいいねぇー! 大好き!」
「うああああ、私もお姉ちゃん大好きだけどさー! あああああー!」
ソファーの上で暴れようとするも、抑え込まれてしまう。
ああああ、ヒーロー科のフィジカルぅー!
「仕方ないじゃん! かっこいいもん! 心操くん、かっこいいもん!!」
「大好きなんだねー」
「…………うん。たぶん、そう」
「たぶんじゃないでしょー」
推しなんて言葉で誤魔化さなくてもいいじゃん、と姉は言ってきたけれど、いや、でも、だって。
彼のことを眩しく思うのは本当なのだ。
私なんかが彼の隣に立っていてもいいのか。それはやっぱりまだちょっと自信がない。
「告白しないの?」
「――しないよ」
「ありゃ。どうして?」
「心操くんの邪魔したくないもん」
「あー……」
姉は「それはまた、愛が重いねぇ」と小さく笑った。
評価・感想・お気に入り登録、ありがとうございます。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
次話からはようやく体育祭後の話に進みます。
あと、雄英体育祭後の休日について、ずっと振替休日の1日だけと勘違いしていて、17話の台詞を明後日から明々後日に修正しています。
他にも日程がズレてる可能性を感じているのですが、この作品ではこんな感じと押しとおせる……といいなぁ……。
そもそも独自設定だらけではありますが……。
また活動報告のほうで、オリジン章あたりの後書き的なものを書きたいなーと思います。(追記・書きました)
また一つ、お話として区切りがつくところまで書けてほっとしています。
皆様の1アクセスが日々の喜びになっています。あらためて、感謝いたします。