透明少女な双子の妹が普通科からヒーロー科を目指す話(仮)   作:峰下抄

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第3章
29.普通科少女の編入事情


 

 

 雄英体育祭終えて二日後、休日明けの最初の登校日。雨模様。

 私は体育祭前と変わらず早起きをして、ほとんど始発の電車に乗って登校していた。

 いつも通り空いた車両の座席に座って、ふぅ、と一息。

 

(うーん、二日間の休みだったけど、あんまり休んだ気がしない……)

 

 体育祭翌日の一昨日は普通に体力、精神両方の疲労からのんびりしていて、姉とひたすらお喋りをしていた。

 夕方になって携帯電話(スマートフォン)を確認すると、中学時代の友人たちからのメッセージが大量に届いていることに気づいて、夜遅くまでその返事。

 昨日はだいぶ体調も戻って、家族で体育祭のお疲れ様会が開かれたりした。……開かれたのだが、両親から割とガチめに説教というか、心配のお叱りを受けてしまった。

 怪我の様子自体は姉も黙っていてくれたのだが、流石に爆豪くんからの至近距離大爆破を見せられては、怪我してないはずがないだろう、と。

 心配されるのも道理なので私は神妙にしていた。ここで「私なら普通の医療にかかれるから」とは言えないし、両親もそこを分かった上で言及せずにただ心配の意を伝えてきた。

 

(そうは言っても心配性なんだよね。お姉ちゃんのほうはちょいちょい保健室のお世話になってるのに)

 

 入試の件が後を引いているのは私だけじゃない、ということではある。

 元々透明だからと心配性ではあったし、それが爆発したのだ。

 それでいて私も姉に対しては同じように心配してしまうのだから、家訓めいている。

 迷惑に思っているわけではないのだけれど、こうして長い通学時間をかけていると二人暮らしにもっと前向きになって欲しいなぁ、と思わなくもない。

 

「――葉隠霞さん、だよね。テレビで見たよ」

 

 乗客の一人が声を掛けてきた。やっぱり話しかけてきたか、と私は思った。

 車両に入った時から、というより駅を歩いている時ですらチラチラと視線を感じていたのだ。

 ただでさえ早朝、始発電車の時間帯。通勤時間帯に比べれば人の量はかなり少ない。

 この約一か月、同じ電車に乗り続けていると、少ない乗客の顔ぶれはなんとなく把握できていた。

 

 ――なにせ新幹線だ。毎日使う通勤通学の乗客の数はそう多くはない。

 少なくとも在来線に比べれば乗客は少ないだろう。座れないことはなかったし。

 姉と私を自宅から通わせるための新幹線の通学定期券二人分の金額は、家賃はもちろん生活費込みでも二人暮らししたほうが安いのでは、と思っている。

 

「普通科だったんだね。ヒーロー科編入、頑張ってね」

「ありがとうございます」

 

 笑顔で、と言っても大抵の人には通じないので手も振ってジェスチャーしながら返事をする。

 最初の一人の応対をすると、気にはなっていたのであろう他の乗客も代わる代わるやってきた。

 まあどの人も見たことのある顔で、だいたい同じことを言ってきては声援を貰った。

 興味本位であってもそこに悪意はないので、悪い気はしない。

 こういうことも、ヒーローなら必要な技能だと私は知っていた。

 

「特別編入カリキュラム、だっけ? こんな朝早くから出るの?」

「あ、それは違って。これは個人的な朝練習のためですね」

 

 特別編入カリキュラムに言及してきた人もいた。

 テレビで放送された雄英体育祭の中では触れられていないが、実は昨日、ニュース番組の小さな特集枠としてカリキュラムのことが紹介されていたのだ。

 放送されることは事前に聞いていたので葉隠家も確認している。

 特集コーナーでは香山先生(ミッドナイト)がインタビューを受けて話している内容がほとんどで、先生はアイマスクだけはいつものヒーローコスチュームの物だったが、それ以外は私服……というか、体育祭後に私を車で送ってくれた時の格好だった。どうやら私を送った足でそのまま収録取材に向かったらしい。

 未影くんが撮影していた動画や写真も素材として使われていて、使われていたのは特編の授業中のものがほとんどだったが、私と心操くんがC組生徒と一緒に放課後訓練している姿もちらっと流れていた。学校側が使いたいという申し出があり、特編外の映像もあれば欲しいとのことで、私も許可自体は体育祭前に出していた。

 

『ヒーロー科に姉がいて――』

『個性が対人に特化して――』

 

 私と心操くんの台詞はワンフレーズだけ使われていた。

 香山先生は雄英入試の問題点を挙げ、雄英改革の第一歩だと語っていた。

 

「ヒーロー科、入れるといいわね」

「ありがとうございます。がんばります」

 

 当たり障りのない答えを返す。

 見知らぬ大人との優等生然とした応答は、中学時代に覚えていた。

 しばらくすると車両の中はいつもと同じ空気になって、乗客たちは各自の乗車時間を過ごし始めていた。

 私も携帯電話を取り出して眺め始める。昨日までの連絡にチェック漏れがないかや、ニュースを読んだりする。

 

(……ヒーロー『インゲニウム』……。飯田くんのお兄さん……)

 

 雄英体育祭の派手で明るいニュースに、ヒーロー殺しの暗いニュースが添えられていた。

 ヒーロー殺し『ステイン』の話題は以前も見たことはあるけれど、どういったものだったか。

 試しに馴染みのネット掲示板に話題を振ってみると『ステ様は裏で悪いことをしているヒーローを殺して回ってるのです』なんて、ファン目線のレスポンスが来ていた。

 

(ステ様、ね……)

 

 自身に正義があると思っている思想犯、正しく確信犯なのだろうヒーロー殺しには、カリスマを感じるファンがいるらしい。

 けれど、身近な――と言ってもいいものなのか――繋がりを感じる相手が被害者になってしまうと、そんな独善性もただただ気が重くなるのだな、と私は思った。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、心操くん」

「おはよう」

 

 雨が降っているので朝練はどうしたものかと思っていたけれど、心操くんから「トレーニング室の鍵を開けてもらえた」と連絡が来たのでそこで合流した。

 

「あらためて、体育祭お疲れ様。あの後、挨拶もできなくてごめんね。荷物まとめて先生に預けてくれたの心操くんだよね?」

「ああ。任されてたからな。――お疲れ様」

「心操くんは体育祭の後、騒がれたりしなかった? 私は今朝の電車で話し掛けられたよ」

「俺は流石に朝早かったし徒歩だしな……。休みの間、中学のクラスメイトから連絡はあったよ」

「おー」

「葉隠姉妹の片割れとはどんな関係だって訊かれた。特編の特集(アレ)まで見たらしい」

「んんっ! ……ちなみになんて返したの?」

「師匠」

「師匠。……間違ってはいない、か……?」

「割と納得されたし、羨ましがられた」

「なんだろう! なんか釈然としないね!」

 

 一通り盛り上がったところで、私も機器を使ったウエイトトレーニングに取り掛かった。

 それぞれの負荷で、がっちゃんがっちゃんと筋トレに勤しむ。

 

「とりあえず当面の目標であった体育祭は終わったわけだけど、朝練は続けるよね。フィジカル強化はまだ道半ばだし」

「そうだな。……葉隠が朝辛いなら、一人でも大丈夫だけど。筋トレだし」

「いや、私もフィジカル鍛えなきゃだから……。お姉ちゃんが伸びてるから、私も伸びるはず……」

 

 授業で質の良い訓練時間をたくさん確保できるヒーロー科、それについていくにはどうにかこちらも訓練しなければならない。

 体育祭でヒーロー科を出し抜くために、この一か月は個性伸ばしをメインにしていたけれど、ここからは真っ当に鍛える方向に舵を切る。

 放課後の訓練もフィジカルトレーニングにすべきだろうか。

 USJ事件のせいもあって特編の授業内容もごちゃごちゃしてしまっていて、予定されていた授業が後回しになったりしていた。

 その辺りの話も先生に聞かなきゃなぁ、と思いつつ黙々と身体を動かした。

 

 

 

 

 

 香山先生には朝のホームルーム前にと言われていたけれど、聞きたいこともあるので早めに朝練を切り上げる。

 トレーニングルームのシャワーを浴びて汗を流し、備え付けのドライヤーで髪をざっと乾かしたところで8時手前。

 制服に着替え直して、二人で一緒に職員室に入り香山先生のもとへ。男子とほぼ同じ時間で済む透明人間の身嗜み。

 

「おはようございます!」

「おはようございます」

「おはよう、二人とも。体育祭は本当にお疲れ様」

 

 ありがとうございます! と私と心操くんは声を揃えた。

 

「二人とも体調のほうは大丈夫そうね。えっと、どれから話そうかしら……」

 

 私たちの様子を見てそう言った香山先生は、手元のノートパソコンを操作した。

 画面を覗き込むような不作法はしないけれど、透明で見えないと思って私が目線を向けると、何かメールか文書ファイルかを開いていたようだった。

 しばらく先生は画面の中の文字を目で追って、よし、と呟いてからこちらを向いた。

 

「まず伝えることは、二人の特別編入カリキュラムの卒業が内定したわ。ただまだヒーロー科編入が決まったわけではないの」

「……えっと、つまり?」

 

 体育祭のリザルトによっては編入が決まる、という話はあった。

 ここで従来の雄英のヒーロー科編入の流れを整理しよう。

 ヒーロー科への転科・編入届自体は、誰でも出すことができる。ただし、それが受理されるのは提出した生徒が十分な成績や成果を挙げている場合だけで、ただ提出するだけでは突っ返されるだけで終わる。

 なので、雄英体育祭で勝ちぬくという最もわかりやすい実績(リザルト)を示すことが、編入への近道であった。

 編入届の受理に前後して編入試験の事前審査がある。学校側と相談をして編入届が受理されるかどうかを事前に確認し、場合によっては提出前にもっと生徒に成果を求めることもあるそうだ。

 編入届が受理されるといよいよ編入試験を受けられるのだが、これがいつ、どのように行われるかは都度都度教職員による会議で決められるため、決まったカタチがないとのこと。

 そして編入希望者に合わせて決められた編入試験を受け、合格することができれば、無事に編入が決まり、次年度の二年生からヒーロー科に所属することになる。

 ここまでが従来の編入の流れだ。この話は、雑談中に香山先生から直接聞いたので間違っていないはずだった。

 では、特別編入カリキュラムからの卒業が内定した、とはどういうことか。

 

「二人の体育祭での活躍を受けて、従来の規定なら『二人の編入届を受理できる』段階になった。特別編入カリキュラム生は編入届を提出したのと同じ扱いだったのだけど、この段階に至ったのならカリキュラムとしての意義を全うしたと言えるの。だから卒業の内定ね」

 

 特別編入カリキュラムは、編入希望者の編入届を受理できる段階まで導くためのもの。

 そして私と心操くんは、学校側のお眼鏡に適った、ということ。

 

「私個人としては、編入まで決まってもいいんじゃないかと思ったんだけど、今年はA組もB組も粒揃いでね。今の段階で定員の枠を増やすにはいかない、という結論になったわ。それと、あくまで卒業が内定しただけだから、これでもう授業が受けられないとかそういうわけじゃない。これまで通りカリキュラムの恩恵は受けられる」

 

 なるほど。最終種目に進出しても、一回戦敗退、二回戦敗退ではパンチが弱かった、と。

 国立の雄英高校で学級の定員数は国の予算も絡むだろうから、そこで柔軟な対応をするのは難しかったのだろう。入学時点であらかじめ増やすとかならともかく、年度の途中では慎重にもなるか。

 

「編入試験については、まだこれから会議があるから何も決まってないし、仮に決まってもあなたたちには伝えないかもしれない。いつになるかもわからないけれど……――それまで備えを欠かさないでね」

「はい!」

「わかりました」

 

 結論を言えば、私たちは順調にヒーロー科への道を歩んでいる、と言っていいだろう。

 体育祭での目標達成は、確かに雄英というシステムに届いたのだ。

 

 

 

 

「さて、次の話なんだけど」

 

 香山先生は再びパソコンを操作して、別のファイルを開いていた。

 

「体育祭での活躍を受けて、二人にはプロヒーローからのドラフト指名が来ています」

「――――」

「――――」

「若干名、だけどね。それでも普通科のあなたたちに指名が来るのは異例です」

 

 いちおう、流れとしては知っていた。

 体育祭を見たプロヒーローからの指名を受けて、職場体験に行く。

 本格的なスカウトの意味では二年、三年次からだけれど、一年生からでもプロの視点で品定めをされ選別されるのだ。

 

「だけど、あなたたち二人は対外的にはあくまで普通科の生徒。ヒーロー科のように職場体験のカリキュラムは組まれていないわ」

 

 そして仮に職場体験に行ったとしても、普通科の生徒ではプロヒーローに帯同してパトロールやヒーロー見習いとしての活動をすることができない。

 ヒーローコスチュームの用意がないのはともかく、プロヒーローからの個性使用の一時的な許可すらまず出ない、出してはいけない。

 普通科生徒はあくまで一般生徒。ヒーロー科生徒とはそもそもの立ち位置が違うのだ。

 雄英体育祭の舞台が特別で、特別編入カリキュラム生も雄英高校内での特別扱いに過ぎない。

 

「どうしても二人が職場体験に行きたいというなら、普通科生徒の範囲内で行ってもらうことになるわね。その場合、事務所外についていくことはできない。事務所内での業務体験か訓練を受けるぐらいならできるけど」

 

 ヒーロー事務所の業務体験と訓練が受けられる、というと決して悪い話ではない。

 しかしそれは「実際にヴィランと対峙する経験」という職場体験で最も大事なモノを得ることができないということだ。

 ならば、トップヒーローを目指している心操くんにとってのそれは――遠回りの回り道に過ぎない。

 最初に少しだけ驚いただけでその後の心操くんの表情は変わっていなかった。

 ポーカーフェイスが雄弁に彼の気持ちを語っていた。

 

「ん。私、いえ、私たち教師陣もこのタイミングで職場体験に行くことは反対します」

 

 その様子を見た先生は少し嬉しそうに頷いて言った。

 

「その上で提案があるので、放課後にもう一度職員室(ここ)に来てちょうだい。今日のお昼に話し合いをしておくから」

「……? はい」

「わかりました」

 

 なんだろう。香山先生の表情から、悪い話ではなさそうだけど。

 心操くんの表情も、心なし疑問符を浮かべている。

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ、最後。これは気軽な話題よ」

 

 ふわり、とさらに表情を崩して香山先生は言った。パソコンはいじらなかった。

 ……どうでもいいけど、ミッドナイトとしての衣装にもだいぶ慣れちゃったなC組生徒(わたし)たち。普段の先生の顔、割と清楚系な気がするし、いい先生だし。たまにあっち系の顔をするとドキっとするけど。

 

「私、これから朝ホームルームの後、A組のヒーロー情報学の手伝いに行くのよ」

「今日は1時間目からヒーロー科授業なんでしたっけ、そういえば」

「あなたたち二人に指名があったって話をしたでしょ? ヒーロー科生徒にも朝のホームルームで伝えるの」

 

 私たちは一足早く教えてもらえたことになるのか。

 んー。一番人気は轟くんと爆豪くん、どっちかかな? あとで姉に聞こう。

 

「――その後すぐのヒーロー情報学は、ヒーロー名を決める授業なのよ」

 

 おお。それは盛り上がるやつだ。

 ヒーロー名か。姉と私は決めてるけど、他の人たちはどんななんだろうなぁ。

 

「葉隠さんと心操くんは、ヒーロー名、もう考えてあったりする?」

「私はあります」

「俺は、まだです」

 

 

「それじゃあ、葉隠さんには聞いておこうかしら」

 

 

 




 お気に入り登録・ここすき・評価・感想ありがとうございます。

 本作品には独自設定が多数含まれております。
 それと筆者は関東の土地感覚が全然ありません……。

 いちおう今回から新章に入りました。
 どれぐらいのボリュームの章になるかふわっとしていますが、がんばります。
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